石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(53)

2020-11-30 | その他
(英語版)
(アラビア語版)

第6章:現代イスラームテロの系譜

荒葉 一也
E-mail: areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

10.シリア情勢:敵の敵は味方か敵か?
シリア内戦は基本的にはアサド政府とその退陣を求める反政府組織の軍事闘争である。国際的な力学関係でみるとアサド政府を支援しているのがイランとロシア。イランはアサド一族がアラウィ派(シーア派の一派)であることが主な理由であり、ロシアはシリアに中東で唯一の軍港を保有している。ロシアにとって冬季に凍結するバルト海に比べ黒海からボスポラス海峡を抜けて地中海に至る航路は軍事的に重要な意味があるためアサド政権側に立っている。これに対して米国など西欧諸国は反政府組織を支援している。独裁政権を打倒し自由な民主主義政権を樹立することが反政府組織支援の大義名分である。またサウジアラビアなどのアラブ諸国とトルコも一致して反政府支援である。こちらはシーア派のアサド政権及びこれをバックアップするイランに対する対抗措置である。

ところがシリアの反政府組織は一枚岩ではない。それどころか思想信条を異にする呉越同舟の集団である。構成メンバーの勢力の消長は激しいが、主なものとしてはクルド人民防衛隊(YPG)と複数のアラブ系反政府勢力から成るシリア民主軍(SDF)並びにヌスラ戦線がある。そして政府組織、反政府組織のいずれとも異なる第三勢力としてIS(イスラム国、別称ISIL、ISIS、ダーイシュ)がある。

SDF内の有力な勢力であるYPGはシリア北東部に住むクルド人による軍事組織である。クルド人はシリア、トルコ、イラン、イラク4か国に分布しており民族独立を掲げてそれぞれの政府と対立している。シリア民主軍はスンニ派の世俗軍事勢力として米国、トルコ、サウジアラビアなどが支援しているが、トルコはクルド人の独立運動を警戒してYPGを排除しようとしている。

ヌスラ戦線(現ファトフ軍)は国際的テロ組織アル・カイダの流れを汲んでおり、イスラム原理主義、サラフィー主義を標榜する宗教的色彩の濃い勢力である。このヌスラ戦線から枝分かれしシリアとイラクにまたがる国家の建国を宣言したのがISである。当初「イラクのイスラム国(ISI)」を名乗ってテロ活動を展開していたが、2013年12月に米国オバマ大統領がイラク戦争の終結と駐留米軍撤退を宣言すると、活動をシリアにも広げ「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」と改称、さらに2014年には「イスラム国(IS)」として独立宣言するまでに強大化したのである。但し国家とはいってもその内情は残虐なテロ集団、夜盗集団であり、ISを国家として認めた国は皆無である。

これら多種多様な勢力に対して外国勢も肩入れの仕方が猫の目のように変わる。米国は反政府勢力の中のリベラル民主勢力であるシリア民主軍を応援するため武器を供給し軍事訓練を行おうとした。しかし西欧的民主主義イデオロギーが希薄な中東では、リベラル勢力はひ弱で武器や資金援助も結局砂漠に水を撒くように雲散霧消している。

サウジアラビアなど湾岸の世俗君主制国家もシリア民主軍に肩入れするが、こちらは消去法での支援選択である。つまりGCC諸国はヌスラ戦線やIS(イスラム国)のようなサラフィー主義(イスラム過激主義)は自分たちの体制を危うくするが、イランの支援を受けるシリア政府はもっと受け入れがたい。本音ではリベラル勢力を警戒しているが、欧米と歩調を合わせておけば絶対君主体制はひとまず安泰であるため、消去法の選択肢としてシリア民主軍に賭けているのである。しかし欧米の武器支援と湾岸諸国の経済支援を受けているにもかかわらずシリア民主軍の実戦能力は他の反政府勢力と比べて格段に劣っており、彼らは自分たちの身を守るだけで精一杯である。

イスラーム過激派勢力であるヌスラ戦線(現ファトフ軍)とイスラム国(IS)は宗教意識が強く自己犠牲をいとわないため戦闘能力は高い。しかし宗教をバックとする勢力は指導者次第であり簡単に分裂する。ISIL(イラクとシリアのイスラム国)の指導者バグダディはヌスラ戦線と袂を分かち中央政府に対する反政府活動ではなく、外国の支援に頼らない自らの国家「イスラム国」を樹立した。彼らは西欧勢力が植民地時代に線引きをした現在の国境(サイクス・ピコ協定)を認めない。彼らは理想のカリフ制イスラーム宗教国家を目指し、インターネットを利用して外国に住む若者を巧みに誘い、戦闘員に仕立て上げている。

独立自営型の「IS(イスラム国)」、アル・カイダのネットワークに頼るヌスラ戦線、クルド人兵士に支えられ欧米と湾岸諸国の援助に頼るシリア民主軍。これら乱立する反政府組織と対峙するのがロシアやイランに支えられるシリア政府軍。基本的にはアサド政権を支えるロシア・イランと反政府勢力をバックアップする中東及び欧米諸国という対立構造の中で諸勢力が群雄割拠してシリア情勢は混乱を極めている。

しかし最近になって諸外国の共通目標がIS(イスラム国)の壊滅に絞られた。これに対して劣勢に立ったIS(イスラム国)が欧米やロシアに住むムスリム(イスラーム教徒)に自爆テロを呼びかけている。さらにIS戦闘員が自国に戻ってテロ活動を行う恐れも大きい。前者はホームグローン・テロ、即ち「ご当地テロ」であり、後者は「里帰りテロ」ということになる。これら「ご当地テロ」と「里帰りテロ」を防ぐためにもできるだけ早くISを壊滅しなければならない。そのISに今対抗できるのはシリア政府の正規軍とシリア民主軍のクルド人部隊しかない。ただクルド人部隊は米露トルコいずれも支援する立場にない。

結局奇妙なことに米国など欧米諸国は空爆でIS(イスラム国)の拠点を叩くだけで、アサド政権退陣の要求はひとまず棚上げし、シリア政府とロシアの軍事行動を黙認することになる。シーア派のアサド政権が最大の敵であり、消去法で已む無くリベラル反政府勢力のシリア民主軍を応援してきたサウジアラビアなど湾岸諸国は米国からはしごを外された格好である。

敵の敵は味方か、それとも別の敵か? 混迷深まるシリア情勢は先の見えない中東情勢そのものと言えよう。

(続く)

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石油と中東のニュース(11月30日)

2020-11-30 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
(中東関連ニュース)
・イラン、ファフリザデ氏暗殺に報復宣言。イスラエル・ハイファ港攻撃も
・米、空母ニミッツをペルシャ湾に派遣

・イスラエル、UAEとの航空・科学技術協力協定を批准。  *
・OIC(イスラム協力機構)新事務総長にチャド外相。来年11月就任
・UAE、サイバーセキュリティの新組織設立
・世界テロ指数2020年版:サウジ世界32位、UAE、オマーンはリスクゼロ。 **

*レポート「和平合意で急速に深まるイスラエルと UAE の関係」参照。
**「2020 Global Terrorism Index
参考「中東は湾岸の小国以外ほとんど世界 100 位以下:世界平和指数
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メジャーズを凌駕するENEOSと出光興産の利益率:2020年7-9月期業績比較(3)

2020-11-29 | 今日のニュース
(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0519MajorEneosIdemitu2020JulSep.pdf

2.過去1年間の四半期業績の推移
 ここでは2019年7-9月期から2020年7-9月期までの各四半期の業績推移を検証する。なお冒頭にも述べた通りメジャーズは毎年1-3月を第1四半期として四半期毎に業績を開示、1-12月を年間決算としているのに対し、ENEOS及び出光は年度決算(4月-翌年3月)である。

また邦系2社の各四半期決算は期初からの累計で表示され、3か月間の期間数値は示されていない。このためここでは前回と今回の四半期決算の差額を当該四半期3か月間の期間数値としてメジャーズと比較している。

(1) 売上高 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-20.pdf 参照)
 2019年7-9月期の売上高はShellが895億ドルで最も多く、次いでBPおよびExxonMobilが683億ドル及び650億ドルであった。4位以下はTotal(486億ドル)、Chevron(361億ドル)、ENEOS234億ドル)、出光(140億ドル)と続いている。ENEOSはトップShellの4分の1、出光は6分の1の規模である。

 7社の売上高は昨年末まで大きな変化は無かったが、今年1-3月期以降減少傾向を示し、特に
4-6月期はメジャーズ各社の売り上げは急落した。この結果、2020年4-6月期はExxonMobil 326億ドル、Shell 325億ドル、BP 317億ドルと上位3社が一線に並び、Totalが216億ドル、Chevronは5社中で最も少ない159億ドルにとどまっている。過去一年間でShellの売上高は3分の1近くに、またその他メジャー各社も2分の1に減少している。今期(7-9月期)は売上が上昇、ExxonMobil、Shell及びBPは400億ドル台を回復、5社の中で最も少ないChevronも245億ドルの売上であった。しかしそれでも前年同期比の3割乃至5割にとどまっている。

 ENEOSの売上高も前年7-9月期の234億ドルが、今期は170億ドルと3割近く減少、出光も140億ドルから97億ドルに下がっているが、メジャー5社にくらべ減少の幅は小さい。

(2) 純利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-21.pdf 参照)
 過去1年間、メジャーズ各社の利益は大きく変動した。昨年7-9月期はBPを除く6社が利益を計上していたが、今年4-6月期には全社が欠損となり、特にShell、BPのマイナス額はそれぞれ▲181億ドル、▲168ドルに達している。TotalとChevronも▲80億ドル強の赤字決算であった。今期はShellとTotalがプラス、ExxonMobil、BP及びChevronはマイナスであったが、金額はそれまでに比べかなり少なく5社の収益格差は小さい。

これに対してENEOS及び出光の過去1年間の利益の推移を見ると、ENEOSは5億ドル(‘19 7-9月期)→5億ドル→▲29億ドル→▲4,500万ドル→4億ドル(’20 7-9月期)となっており、2020年1-3月期に大きく落ち込んだもののメジャーズ各社に比べ振幅は小さい。出光の場合は2億ドル(‘19 7-9月期)→1億ドル→▲8億ドル→▲8億ドル→5億ドル(’20 7-9月期)と今年前半は大きな赤字を計上したが、今期は黒字に回復している。日系2社は各期の利益に変動はあるもののメジャーズに比べ比較的平坦に推移している。原油価格の変動をガソリンなどの製品価格に転嫁することが認められ下流部門が安定した収益を確保できる制度に守られているからである。と同時に上流部門(石油・天然ガスの開発生産)がメジャーに比べて極めて小さく、原油価格の変動による巨額の機会利益(あるいは損失)がないためである。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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石油と中東のニュース(11月28日)

2020-11-28 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
・OPEC+、11/30-12/1の総会を前に28日に予備会合。減産緩和か継続かで意見分かれる
・アブダビADNOC、3D震探作業5.2億ドルを中国CNPCに発注

(中東関連ニュース)
・カタール首長、トルコ訪問。イスタンブール証取など大型投資に調印

・サウジ皇太子、菅首相と電話会談
・欧州議会、対トルコ経済制裁を要請、12/10-11のサミットで協議
・イラン核弾頭開発責任者、テヘランで暗殺
・米国経済制裁緩和すれば来年のイラン経済成長率は4.4%に:IIF試算
・イスラエル外相:UAE、バハレーンの次はサウジ。和平締結に楽観視
・サウジ、パキスタン、クウェイトなど5カ国がデジタル協議会結成
・UAEで144階建超高層ビルを爆破解体、ギネス記録に



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今週の各社プレスリリースから(11/22-11/28)

2020-11-28 | 今週のエネルギー関連新聞発表
11/24 経済産業省
ASEAN+3及び東アジアサミットのエネルギー大臣会合が開催されました
https://www.meti.go.jp/press/2020/11/20201124007/20201124007.html

11/24 出光興産
新SSブランド「apollostation」導入に伴い、SS塗装等に新VIデザインを展開
https://www.idss.co.jp/news/2020/201124.html

11/24 三菱商事
エジプト・アラブ共和国 カイロ地下鉄4号線第一期向け鉄道システムの契約を締結
https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2020/html/0000046317.html

11/25 ENEOS
「販売部門のバックオフィス機能に関する合弁会社設立」に係る基本合意について
https://www.eneos.co.jp/newsrelease/20201125_01_2006437.pdf

11/25 国際石油開発帝石
役員の異動に関するお知らせ
https://www.inpex.co.jp/news/assets/pdf/20201125_b.pdf

11/25 ExxonMobil
ExxonMobil plans to reduce staffing levels in Canada
https://corporate.exxonmobil.com/News/Newsroom/News-releases/2020/1125_ExxonMobil-plans-to-reduce-staffing-levels-in-Canada
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メジャーズを凌駕するENEOSと出光興産の利益率:2020年7-9月期業績比較(2)

2020-11-27 | 今日のニュース
(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0519MajorEneosIdemitu2020JulSep.pdf

1.2020年7-9月期業績比較(表http://menadabase.maeda1.jp/1-D-4-26.pdf参照)
(ExxonMobilの売上高はENEOSの2.7倍!)
(1) 売上高 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-10.pdf 参照)
2020年7-9月期のENEOSの売上高は1兆8,161億円、出光は1兆329億円であった。これをENEOSは1ドル=107円、出光は1ドル=106.9円で換算すると(換算レートは各社の決算説明資料から引用、以下同様)、ENEOSは170億ドル、出光は97億ドルとなる。
メジャーズを凌駕するENEOSと出光興産の利益率:2020年7-9月期業績比較(2)

これに対してメジャーズ5社の同期間の売上高は最も多いExxonMobilが462億ドル、ついでShell 447億ドル、BP 443億ドル、Total 331億ドル、Chevron 245億ドルである。ENEOSはExxonMobil、Shell或いはBPの4割弱であり、メジャーで最も少ないChevronの7割である。出光は比較した6社の中では唯一100億ドルを下回っており、ExxonMobilなど上位3社の2割強である。

(Shellと肩を並べる出光の利益、メジャー3社が赤字の中でENEOSも利益計上!)
(2) 純利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-11.pdf 参照)
 今期はメジャー5社のうち3社が赤字であったが、これに対して邦系2社はいずれも利益を計上している。即ちExxonMobil、BP及びChevronはそれぞれ▲7億ドル、▲5億ドル及び▲2億ドルの欠損であり、残るShellとTotalはそれぞれ5億ドル及び2億ドルの黒字であった。これに対して出光は5億ドル、ENEOSも4億ドルの利益を計上しており、邦系2社を上回る利益を計上したのはShell1社のみである。

7社はいずれも前期(4-6月期)は赤字であったがENEOS、出光を含む4社は黒字に転換している。前期は油価が大幅に下落し、またコロナ禍の影響で需要が大きく落ち込み、メジャーズ5社は価格と需要の両面で大きな痛手を被った。これに対して今期は油価、需要ともに若干改善している。このような中でENEOS及び出光がメジャー4社を上回る改善を見せたのは、ガソリンなどの製品価格を原油価格に連動させる製品価格決定方式に助けられた面が大きい。上流部門(石油・ガスの開発生産)の売上がメジャーズに比べ極端に少ない邦系2社は下流部門(精製・販売)の収益力が業績を左右するのである。

(7社中利益率が1位と2位の出光とENEOS!)
(3) 売上高利益率 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-12.pdf 参照)
 売上高利益率を比べてみると、最も低いのはExxonMobilの▲1.5%であり、BP▲1.0%、Chevron▲0.8%である。ShellとTotalはそれぞれ1.1%、0.6%のプラスであった。これに対してENEOSは2.2%の利益率であり、出光はこれら6社を大きく上回る4.8%の利益率を達成している。利益率は必ずしも高いとは言えないが、出光とENEOSがメジャーズ5社を上回っているのは特筆すべきことと言えよう。

(4) 上流部門の利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-13.pdf 参照)
上流部門ではBPが9億ドル、Total 8億ドル、Chevron 2億ドルの利益を計上したが、Shell及びExxonMobilはそれぞれ▲11億ドル、▲4億ドルの損失であった。これに対してENEOS及び出光は利益を計上しているものの金額は小さくENEOS は8百万ドル(8.4億円)、出光は4百万ドル(4.1億円 )である。

(5) 下流部門の利益 (図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-5-14.pdf 参照)
メジャーズの下流部門損益は厳しく5社中3社が欠損となり、利益を計上したのはShellとBPの2社にとどまっている(Shell 21億ドル、BP 6億ドル)。これに対しENEOS及び出光の上流部門はそれぞれ4億ドル及び7億ドルの利益であった。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(52)

2020-11-26 | その他
(英語版)
(アラビア語版)

第6章:現代イスラームテロの系譜

荒葉 一也
E-mail: areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

9.混迷深まる中東

第二次大戦後の中東はアラブとイスラエルが対立する世界であった。そこでは敵と味方の区別が明らかであり、民族も文化も異なるが宗教(イスラーム)が同じであるアラブ、イラン、トルコの敵はイスラエルのみであり、お互いは味方同士であった。そして米国はイスラエル(敵)の味方であるため、アラブ・イスラ-ム圏は米国を敵とみなした。即ち敵の味方は敵なのである。但し米国は遠く離れているため、シャー体制のイランのように中東一の親米国となる国がある一方、ナセル体制のエジプトはソ連になびいた。

敵、味方の構図を一変させたのが四次にわたる中東戦争におけるイスラエルの圧勝であり、さらにその後のイラン・イスラム革命であった。イスラエルの圧勝によりアラブ諸国内にはエジプト、イラクなどの世俗軍事国家とサウジアラビアなど専制君主国家との間に緊張が生まれた。さらにイラン革命でホメイニ体制のシーア派の政教一致国家が生まれると、スンニ派が実権を掌握するイラク及び湾岸諸国とシーア派のイラン及びシリアとの宗派対立が表面化した。問題を複雑にしたのがイラク及び湾岸王制国家のバハレーンでは少数派のスンニ派が多数を占めるシーア派住民を支配していることであり、他方シリアでは少数派のシーア派アラウィ教徒のアサド(父子)がスンニ派とクルド民族を抑え込んで実権を握るという少数派と多数派の逆転現象が発生したことである。

その結果イラン・イラク戦争はアラブ人対ペルシャ人(イラン)という因縁の民族的対立に加えシーア派対スンニ派という宗派対立の構図が炙り出され、君主制の湾岸諸国が世俗国家イラクを後押しする羽目になった。これに対してイランはシリアを側面支援してレバノンを舞台にシリアとイスラエルの代理戦争を演出、さらにイラク及び湾岸諸国のシーア派住民を使嗾して各国の体制に揺さぶりをかけたのであった。加えてホメイニ憎しの米国は民主主義の理念を棚上げして独裁国家イラクを支援した。

こうして中東地域ではイランとイラクが直接敵対する関係になり、湾岸諸国にとって味方(イラク)の敵(イラン)は敵という訳であり、中東イスラームという一つの地域の中に敵と味方が混在する構図となったのである。かつてのイスラーム諸国対イスラエルという単純な二項対立が宗派を介して複雑化した。逆の立場のイランにとっても同じことがいえる。即ち味方(シリア)の敵(イスラエル)は敵であり、敵(イラク)の味方(サウジアラビアなどの湾岸諸国)は敵である。そして奇妙なことにサウジアラビアにとってイラン、シリアの敵であるイスラエルはこれまで通りやはり敵なのである。

中東戦争まではアラブ・イスラーム対イスラエルの2項対立であったものが、イラン・イラク戦争時代には3項或いは4項対立の様相を呈した。敵の敵が味方か敵か、はたまた敵の味方が敵か味方か、判然としなくなったのである。但し対立は重層化したものの、敵か味方かの区別は国家単位であり、それぞれにとって誰が味方で誰が敵かははっきりしていた。

しかし対立が一つの国家内での政府と反政府組織の軍事的対立となったとき、他国がどちらに肩入れするかで敵と味方の区別がつきにくくなる。まして反政府組織が分裂したり、同床異夢の寄り合い所帯であったりすると問題が複雑になる。IS(イスラム国)が従来の国境を無視して国家樹立を一方的に宣言し、加えて超大国の米露や地域の大国であるイラン、トルコ或いはサウジアラビアがそれぞれの思惑で政府或いは反政府組織に介入すると問題は多項方程式を解くように際限もなく複雑化する。それこそが現在のシリアなのである。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
荒葉一也
E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp
携帯; 090-9157-3642
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石油と中東のニュース(11月26日)

2020-11-26 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
・原油価格、3月以来の高値に。Brent $46.51, WTI $43.53
(中東関連ニュース)
・カタール首長、イラン大統領と電話会談
・サウジ、SAMAの名称をSaudi Central Bankに変更、国王直属組織に。略称はSAMAのまま
・UAEのADGMとイスラエル証券局がMoU締結。 *
・イスラエル首相とアブダビ皇太子が来年度のノーベル平和賞候補に選定。 **
・クウェイト、非大卒60歳以上の外国人の滞在認めず


*「和平合意で急速に深まるイスラエルと UAE の関係」参照。
**「ネタニヤフ首相にイスラエル 3 人目のノーベル平和賞?」(2019年5月)参照。
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メジャーズを凌駕するENEOSと出光興産の利益率:2020年7-9月期業績比較(1)

2020-11-25 | 今日のニュース
(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0519MajorEneosIdemitu2020JulSep.pdf

はじめに
 国内1位、2位の石油企業ENEOSホールディングス(以下ENEOS)と出光興産(以下 出光)の2020年中間(4-9月)決算が相次いで発表された。

以下はENEOS及び出光の決算短信の中から売上高、純利益、売上高利益率、上流部門利益及び下流部門利益を取り上げ、国際石油企業メジャー5社(Shell, ExxonMobil, BP, Total及びChevron、以下メジャーズ)と比較したものである。なお2社の決算は4-9月の6か月間であり、メジャーズ4社の7-9月四半期決算と異なるため、2社の4-6月決算と照合し差額を7-9月3か月の数値として比較している。また通貨については日本企業2社の決算は円建てであるため、各社の決算付属資料に示された為替レートで換算したドル建て表示で比較した。

メジャー五社、ENEOS、出光興産の詳細な決算資料は下記の各社ホームページをご覧ください。

ExxonMobil:
https://corporate.exxonmobil.com/News/Newsroom/News-releases/2020/1030_ExxonMobil-reports-results-for-third-quarter-2020
Shell:
https://www.shell.com/media/news-and-media-releases/2020/third-quarter-2020-results-announcement.html
BP:
https://www.bp.com/en/global/corporate/news-and-insights/press-releases/third-quarter-2020-results.html
Total:
https://www.total.com/media/news/communiques-presse/third-quarter-2020-results
Chevron:
https://www.chevron.com/stories/chevron-announces-third-quarter-2020-results
ENEOSホールディングス:
https://www.hd.eneos.co.jp/ir/library/statement/
出光興産:
https://www.idss.co.jp/content/100033062.pdf

*(参考)「メジャーズに比べ傷の浅かった ENEOS と出光興産:2020年4-6月期業績比較」
http://mylibrary.maeda1.jp/0513MajorEneosIdemitu2020AprJun.pdf

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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石油と中東のニュース(11月24日)

2020-11-24 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
・コロナワクチン実用化報道で原油価格アップ。Brent $45.59, WTI $42.91
・UAE、非在来型石油220億バレル発見と発表。在来型も20億バレル追加。 *
*UAE石油埋蔵量「BP エネルギー統計 2020 年版解説シリーズ石油篇」参照。

(中東関連ニュース)
・サウジ主催のG20サミット閉幕。具体的成果なく、アフリカ諸国の債務問題待ったなし

・イスラエル首相、サウジで皇太子、米国務長官会談に同席の報道。サウジは強く否定。 **

・サウジ、ジェッダの石油タンクにイエメンフーシ派のミサイル直撃。死傷者なし

・シリア新外相にベテラン外交官Mekdadを任命
・UAE、外資法改正。外国人投資家の100%出資認める
・サウジ、最低賃金をSR3000/月からSR4000に引き上げ。サウジ人化率算定に影響

**レポート「和平合意で急速に深まるイスラエルと UAE の関係 」参照。
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