その8.原油120ドル時代に開催された第11回国際エネルギー・フォーラム
石油の生産国と消費国が一堂に会する会議、いわゆる産消対話の「国際エネルギー・フォーラム(International Energy Forum, IEF)」第11回会合が、4月20-22日にイタリアのローマで開催され、世界60カ国のエネルギー担当大臣、50の国際機関の代表等が参加した。
会議開催中にはWTI原油価格が史上最高の119.9ドルを記録し、原油120ドル時代を予見させた。わずか1年前に60ドルであったWTI原油が今年1月100ドルを突破した時は、誰しもが実需とかけ離れた異常な価格水準であると信じて疑わず、冬場の需要期を過ぎて春になれば暴落するのではないか、と考えた。しかし、実際には4月に入っても価格は下落するどころか120ドル台目前である。
このような中で開かれたIEFに対して、産消対話による価格の沈静化を期待する声も少なくなかった。会議の開催前からIEA(国際エネルギー機関)や消費国側は、産油国特にOPECに増産を求めるシグナルを送り続けた。そして会議に参加した甘利経産相もサウジアラビアのナイミ石油相と会談、同国が増産をコミットすれば市場は沈静化する、と水を向けたが、ナイミ石油相は、石油は十分市場に供給されている、と答えるにとどまった。こうして会議はさしたる成果もないまま閉幕した。
そもそもIEFは石油の価格や生産量を協議する場ではないのである。IEFは1991年の湾岸戦争により石油価格が20ドルから40ドルに暴騰したことを受け、市場の混乱を懸念した仏の呼びかけで始まった。仏は産油国と価格など具体的な問題について話し合うことを目論んだ。しかし米英は石油の価格や生産量などは市場経済に委ねるべきであり、一部の生産国と消費国だけで協議するのは自由経済の原則に反するとして対話への参加に難色を示した。このためIEFはエネルギーの現状について産油国と消費国が共通の認識を持つための対話の場である、と位置づけられたのである。
甘利経産相に対するナイミ・サウジ石油相の発言に限らず、最近の産油国側は、原油の供給は十分であり、価格の高騰は投機によるものである、という見解で統一されている。世界の金融市場がドル安、金利安のためヘッジファンドなどの資金が原油のような商品(Commodity)市場に流れ込み、それが相場を押し上げていることは、金が1オンス900-1,000ドルという最高水準にあることと一脈通ずるのである。
産油国は短期的な石油価格の沈静化についてコミットを避けている。執拗に増産を迫る欧米先進国に対し、ナイミ石油相と並ぶOPECのスポークスマンであるカタルのアッティヤ・エネルギー相は、欧米先進国は90年代後半に原油が暴落して産油国が困窮した時は何の手も差し伸べなかったのに、価格が高騰すればOPECを攻め立てる、と皮肉たっぷりに欧米を批判している。
短期的な増産には否定的なOPECであるが、長期的な安定供給が産油国及び消費国双方の利益につながる、と言うのはOPEC、特にサウジアラビア、UAEなど穏健派の考えである。そのことはナイミ・サウジ石油相が会議直前に石油専門誌Petroleum Argusのインタビューで、少なくとも2020年まで自国の生産能力を1,250万B/Dに維持すると言明、そのための具体的な計画を説明している 。IEF会議においてもエル・バドリOPEC事務総長は同様の趣旨のスピーチを行った。
バドリ事務総長のスピーチ によれば、OPEC加盟国は上流部門で120以上のプロジェクト、総額1,500億ドルの投資を計画しており、精製部門でも600億ドルを投資する予定である。また石油探査技術の進歩により1980年から今日までの間に原油の回収可能量は2倍に増えており、今後数十年の石油資源は十分である、と太鼓判を押した。ただ彼は、将来の石油需要の見通しが必ずしも明確でないため産油国は長期投資に踏み切れない、との懸念を表明している。そしてその懸念を払拭するために、産油国と消費国がデータの共有を図る、Joint Oil Data Initiativeを推進することが必要であると強調している。
(注)第11回IEFローマ宣言の仮訳は経産省ホームページ(下記)参照 http://www.meti.go.jp/topic/data/e80423aj03.html
(第8回完)
(これまでの内容)
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