石油の内外情報を読み解く

内外の石油・天然ガス関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。(元ジェトロリヤド事務所長 前田高行)

ニュース解説:八方丸く収まった3千万B/D(OPEC12月総会)(4)

2012年02月02日 | 産油国・OPECの動向

(注)本シリーズ(1)〜(4)はHP「マイ・ライブラリー:前田高行論稿集」で一括ご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0213OpecMeetingDec2011.pdf

 

4.残された問題その2:不透明な石油の需給と価格
 一方現在以上の増産が必要となった事態でもそれに対応出来るのはサウジアラビア(及びUAE、クウェイト)だけであることも間違いない。イランなどは現在の生産水準が目一杯であり、欧米の経済制裁のため投資が停滞しており生産量は減少していることを石油省副大臣自ら認めているほどである 。

 さらにイランを巡ってはEUが同国からの石油の輸入禁止に動いており、また米国はイラン中央銀行と取引する金融機関を米国の金融システムから締め出すと決めた。実質的なイラン原油の輸入禁止措置である。これにより日本、韓国などもイラン原油の輸入が不可能になる。日本にとってイラン原油に代わる当面の調達先はサウジアラビア、UAEなどであり、天然ガス供給先としてのカタールと言うことになる。玄葉外相が1月5日からこれら各国を歴訪したのはとりもなおさずエネルギーの安定確保のためである。韓国大統領も今月初めにサウジアラビア、UAE及びカタールの中東産油(ガス)国を訪問し善後策を講じる腹積もりである。

 浮き足立つ日韓などの消費国に対してサウジアラビアのナイミ石油相は、自国が十分な石油生産余力を有しておりいつでも必要な量を市場に供給する、と大見得を切っている 。またリビアやイラクの生産も回復しており、石油の供給不安はなさそうだ、という見方ができる。その一方、イランは対抗措置としてホルムズ海峡封鎖をちらつかせている。もし不幸にしてそのような事態が発生すればイラン原油のみならずGCC各国の原油及び天然ガスもストップし、世界が石油不足と価格暴騰に見舞われることは間違いない。但しホルムズ海峡の封鎖はイラン自身にとっても自らの首を締める瀬戸際政策であり、米国も威信をかけてこれを阻止するものと見られ、現実的ではないと多くの専門家は見ている。

 需要面から眺めると欧州の金融不安が世界景気の後退を招きエネルギー需要が停滞するとの予測がある一方、中国、インドなど新興国の需要は底堅く石油需要の伸びは引き続き堅調であるとの見方も成り立つ。ともかく需給バランスについては楽観説と悲観説が錯綜しており、一寸先が解らない状況である。

 そしてもう一つの問題が価格である。最近の北海Brent原油は110ドル台、北米WTI原油も100ドル前後で推移している。かつて原油が100ドルになれば世界経済が壊滅すると恐れられたが、省エネ技術と価格転嫁がある程度浸透して世界経済は何とか動いている。勿論高価格によって潤っているのは産油国であり、日本など一方的なエネルギー消費国はコスト吸収に血のにじむ努力を強いられている。ここで注意すべきことは、エネルギー消費国とはいえ米国や中国は同時に世界有数の産油国であり、ExxonMobilやSinopecなど両国の石油企業は油価の高騰により大いに潤っている。特に米国の場合は石油開発の採算性が向上したためシェール(頁岩)層からの石油・天然ガスの商業生産が軌道に乗って来た。

 かつてサウジアラビアは石油価格が上昇すれば生産コストの高いマージナル原油の生産者を利し、或いは代替エネルギーの開発が促進されるとして高価格政策に懐疑的であった。しかし今ではサウジアラビア自身が経済開発と社会福祉政策のためより多くの石油収入が必要な体質になっている。同国のナイミ石油相が、現在の原油価格は望ましい水準だ、と言う始末である。原油価格は需要と供給によって変動し、コモディティの宿命として投機の対象にもされる。価格を決めるのは「見えざる神の手」である。

 原油の需給と価格は今後どのように変動するか予断を許さない状況である。今回の総会ではOPECは丸く収まったが、この状態がいつまで続くであろうか?

(完)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

ニュース解説:八方丸く収まった3千万B/D(OPEC12月総会)(3)

2012年01月16日 | 産油国・OPECの動向

(注)本シリーズ(1)〜(4)はHP「マイ・ライブラリー:前田高行論稿集」で一括ご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0213OpecMeetingDec2011.pdf

 

3.残された問題その1:決まらない国別割当量
 現在のところOPEC原油に対する需要が落ち込む兆しはなく昨年12月の生産量は3年ぶりの高い水準である3,074万B/Dを記録した 。12月総会で決定した加盟13カ国による生産枠3千万B/Dが守られたことになる。

 昨年の6月総会以降サウジアラビア(及びクウェイト、UAE)が増産を強行した理由の一つは、リビアで3月に内戦が勃発、市場から消えた160万B/Dをカバーするためであった。しかし10月のカダフィ死亡により内戦は終結しリビアは原油の生産と輸出を再開した。石油施設に対する被害は意外に軽微であり、12月には100万B/Dまで復活しており 、内戦前の生産水準に戻るのも時間の問題と言われる。

 さらにイラクの生産も徐々に増加しており、昨年10月同国石油相は年末までに生産量は3百万B/Dに達し、年明けの輸出量は250万B/Dになると述べている 。イラクは1998年以降OPECの国別生産枠の対象から除外されており、2008年12月に決定された生産枠2,485万B/Dもイラクを除く11カ国が対象である。これに対し昨年12月に決定された生産枠3千万B/Dは加盟全12カ国の現在の生産量である。従って今後のリビア及びイラクの増加量に見合った削減を残り10カ国がどのように負担するかと言う問題がある。

 そもそも問題は3千万B/Dの国別内訳が決まっていないことである。OPECはインドネシアが脱退し、アンゴラとエクアドルが加盟した時から国別の生産枠(イラクを除く)を公表しなくなった。と言うより公表できなくなったと言うべきかもしれない。最後の国別生産枠は2005年6月であり、その後2008年までは全体量を増減させたものの個別の生産枠は示していない。2008年秋には11カ国(アンゴラ、エクアドルを含めイラクは除く)の当時の合計生産量を150万B/D引き下げて2,731万B/Dとすることとし、11カ国の削減量を公表した(削減量だけで各国の具体的な生産割当量は示していない)。さらに同年12月の総会で全体の生産枠は2,485万B/Dとなり3年間据え置かれ、今回の総会で加盟12カ国の実生産量3千万B/Dを追認したのである。

 つまり2005年以降のOPECはその時々の各国の生産量を合計した数量を後追いしているだけなのである。OPECをもし生産者カルテルと呼ぶならば、OPECは最早内部統制機能を失いカルテルとしての体を成さなくなっていると言えよう。石油価格が下落せず、しかも需要が伸びるか少なくとも下落しない状況であれば今のままでも問題は起こらない。OPEC各国は自国の都合で増産し、OPEC総会でそれを追認するだけだからである。

 しかし一旦需要が減退し、或いは価格が大幅に下落してOPECとして減産する必要が生じた場合、現在のままでは国別の生産量を各国に示すことができない。仮に2008年秋のようにOPEC全体の削減量を決定し、それに基づいて各国別の削減量を示す場合でも、割当量はその時の各国の実際の生産量がベースになる。その場合各国とも出来るだけ高い生産量であったほうが実害が少ないはずである(生産量に比例するため削減目標値は高くなるもののある程度の生産枠は確保できる)。さらに付言すればこれまでの歴史を見るとたとえ減産モードになっても抜け駆けで生産する加盟国が後を絶たず、需給がだぶつき価格が暴落する可能性は高い。

 これらの問題に対処して需給の均衡を維持し、価格の暴落を防ぐことができるのはサウジアラビアだけというのが、OPEC加盟国のみならず世界の石油生産国と消費国に共通した見方である。実際OPEC総会後カイロで開かれたOAPEC(アラブ石油輸出国機構)でリビアの石油相は、自国の生産量が増加すれば、他の加盟国(即ちサウジアラビア)がそれに見合った量を削減することになっている、と断言している。サウジアラビアが生産の調整役(スウィング・プロデューサー)の役割を担うことが期待されているのである。

 但しサウジアラビア一国が調整役を負わされて単独減産しとしても、価格が下がり続ける可能性は否定できない。その時サウジアラビアは深刻な財政難に陥るであろう。同国はかつて1990年代初頭にスウィング・プロデューサーの役割を負わされ大きな痛手を負ったことがあり、当時のヤマニ石油相が詰め腹を切らされている。勿論外貨準備が豊富な同国がすぐに財政難に直面することはなさそうであるが、ナイミ石油相は次項に述べる欧米のイラン原油輸入禁止措置と合わせ今後しばらくは難しい舵取りを迫られそうである。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

ニュース解説:八方丸く収まった3千万B/D(12月OPEC総会)(2)

2012年01月07日 | 産油国・OPECの動向

(注)本シリーズ(1)〜(4)はHP「マイ・ライブラリー:前田高行論稿集」で一括ご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0213OpecMeetingDec2011.pdf

 

2.満足したサウジアラビア、面子を保ったイラン
 OPECが生産枠を最後に見直したのは2008年12月のことでありイラクを除く11カ国で2,485万B/Dという数値であった。その後2009年以降、世界の石油需要は堅調に推移し、OPEC加盟国はいずれの国も生産割当を大幅に上回る生産を続けてきた。更に増産にもかかわらず価格は2008年末の45ドル(WTI原油)から2年後の今年初めには2倍の90ドルに上昇した。高い生産量と価格上昇によりOPEC各国の石油収入は大幅に増加しいずれの加盟国もオイルブームに沸いたのである。高騰する価格を見かねたIEAはOPECに更なる増産を求めた。

 サウジアラビアは6月OPEC総会で目標生産量を3,030万B/Dとすることを提案した。クウェイト、及びUAEはこれに同調したが、イラン、ベネズエラなど従来から強硬派と呼ばれた国々が反対した。投機マネーが流入していることが高値の一因であり、世界景気の悪化で石油需要は落ち込む恐れがある中で増産すれば石油価格が暴落するというのが彼らの言い分であった。こうして6月総会は決裂したのである。

 サウジアラビアは総会後、増産に踏み切りUAEとクウェイトも呼応した。2010年のサウジアラビアの年間平均生産量は817万B/Dであったが、今年11月には1,000万B/Dに達した 。OPECのレポートによると同月の11カ国の生産量は2,769万B/Dであり、2008年に取り決めた生産枠(2,485万B/D)を284万B/D、11%もオーバーしている。これにイラクを加えたOPEC全体の生産量は3千万B/Dを超えているのである 。その間価格は不安定な動きを示しているものの現在も90ドル台(WTI原油)を維持している。増産しても価格が急落しなかったことでサウジアラビアの方針は間違っていなかったことが証明された形である。6月総会では記者団に憤懣やるかたない表情で語ったサウジアラビアのナイミ石油相も今回の結果には満足したようである。

 6月総会でナイミ石油相が不満を漏らしたのは増産の主張が通らなかったことだけではなく、議長国イランの議事運営が稚拙であったこともその一因であった。国内で権力闘争の様相を呈しているイランはアハマドネジャド大統領が今年初め石油相を更迭、自らが石油相を兼務し6月総会には大統領自身が出席するものと見られていた。総会直前に漸くアリバルディ新石油相が任命されたが、彼の前職は国内オリンピック委員会の責任者であり、石油にはずぶの素人である。新石油相の議長のもとでOPEC総会は紛糾し決裂と言う最悪の結果に終わった。同総会では従来の慣例に則り年末の定例総会を議長国(今年の場合はイラン)で開催する手はずであったが、結局今回の12月総会はOPEC事務局のあるウィーンで開催されることになった。もし今回の総会も決裂すれば議長国としてのイランの面目は丸つぶれであり、イランもこの点は十分認識していたと思われる。

 6月総会の二の舞を防ぐべくOPEC事務局は事前に世界の石油需給と価格動向に関する入念な資料を準備し、サウジアラビアが主張した通り加盟12カ国による3千万B/D生産体制が妥当であるとの意見を具申した。失敗を許されない議長国イランは事務局のこの作戦に乗った訳である。こうして今回の総会でサウジアラビアは6月総会で主張し、その後実行した増産が晴れて公認された訳であり、自らの主張の正しさと、短期間で1千万B/Dまで生産アップできる実力を見せつけたことで大いに満足した。そしてイランは議長国として総会を無事乗り切って面子を保った。OPEC穏健派サウジアラビアと強硬派イラン双方の顔が立った訳である。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

ニュース解説:八方丸く収まった3千万B/D(OPEC総会とその前後)

2011年12月26日 | 産油国・OPECの動向

(注)本シリーズ(1)〜(4)はHP「マイ・ライブラリー:前田高行論稿集」で一括ご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0213OpecMeetingDec2011.pdf

1. 新生産枠は3千万B/D

  12月14日、ウィーンで開かれたOPEC総会はイラクを含む加盟12カ国の現在の生産量3,000万B/Dを維持することで合意した。前回の6月総会では増産を主張するサウジアラビアに対してイランが強硬に反対し会議は決裂している 。それ以前にはOPEC加盟国の一つであるリビアが2月から内戦状態に突入し同国の石油生産が停止、一方同じ加盟国のイラクでは石油の生産が徐々に上向くと言う状況で、OPEC全体としての先行きの生産見通しは不透明な状態であった。

 他方、需要についても中国、インドなど新興国の経済発展或いは福島原発事故の影響による石油・天然ガスの需要増加が見込まれる一方で、欧州の金融危機が引き金となって世界恐慌が発生、石油需要が落ち込むとの弱気の見方もあり、需要の面でも先行きが見通しにくい状況であった。

 このように需給予測が困難なため、石油関係者はOPEC12月総会の成り行きに注目した。しかし総会は混乱もなく加盟12カ国の現在の生産量をそのまま追認する形となった。これは今年後半、石油価格が比較的高い水準で推移し、また来年の需要についてもIEA(国際エネルギー機関)が若干伸びると予測したことを踏まえ、OPEC事務局が総会前に周到な根回しを行ったためと考えられる。

 この生産量3千万B/Dと現在の90ドルを超える価格はOPEC穏健派のサウジアラビア及び強硬派のイラン双方にとって満足すべきものであった。それとともにIEAを通じてOPECに増産圧力をかけ続ける消費国にとっても容認できる水準と言える。つまり今回のOPECの決定は八方丸く収まるものだったのである。

 但し今回の決定は現在の生産水準を追認しただけで将来に対する明確なビジョンを欠いたものであることも事実である。以下は今回の決定に至る経緯と今後の見通しに関する私見である。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

西と東に延びるロシアのガスパイプライン

2011年09月11日 | 産油国・OPECの動向

1.開通した二本のパイプライン
 ロシアの東の玄関口ウラジオストクで8日、サハリンからの天然ガスパイプラインの開通式典があった 。そのわずか2日前には西の玄関口サンクトペテルブルグでロシアとドイツを直結するバルト海横断海底パイプライン「Nord Stream」の開通式が行われている 。

  BP統計によればロシアの天然ガス生産量は米国に次いで世界第2位である。輸出量では世界一位であり、全世界の天然ガス貿易(LNGを含む)の17%を占めている(因みに第2位ノルウェー、第3位カタール、第4位カナダ、第5位アルジェリア) 。同国の天然ガスはこれまでウクライナ、ポーランドなどの東欧諸国を経由する陸上パイプラインによって輸出されていが、今回の海底パイプラインにより西欧諸国と直結した輸出ルートを確保したのである。

 ロシアの天然ガス輸出政策の根幹にあるのは西ヨーロッパに対してサプライヤー(供給者)として確固たる地歩を築くことであり、その一方、極東のエネルギー消費大国である中国及び韓国の市場を開拓することである(日本に対しては既にサハリンからのLNG輸出を開始している)。そこには西と東のユーザーを天秤にかけて天然ガスの有利な輸出を目論むロシアの深慮遠望が垣間見える。

2.Nord Stream(バルト海横断海底パイプライン)が意味するもの
 ロシアのペテルブルグ近郊からバルト海をわたりドイツとの間1,220キロメートルを結ぶ天然ガスパイプラインNord Stream(「北の流れ」)は2005年に当時のプーチン・ロシア大統領とシュローダ・ドイツ首相によって締結された。開通式にはこの両名が出席したが、プーチン首相(現)は挨拶の中で「パイプラインが供給する天然ガスは原発11基分に相当する」と述べている。ドイツは2022年までに原発を廃棄することにしており、今回の天然ガスパイプライン新設はまさに時宜に適ったものと言えよう。

 と同時にこの海底パイプラインはロシアにとってもウクライナ、ハンガリー、ポーランドなどの旧CIS或いは東欧諸国を経由する既設の陸上パイプラインに対する切り札となるのである。(JOGMEC作成図参照)
  

陸上パイプラインは天然ガスの価格或いはパイプラインの通過料をめぐりロシアと通過各国の間でしばしば紛糾の種になる。典型的な例がロシアとウクライナの間でしばしば発生しているトラブルである。旧ソ連時代のままであった天然ガス価格を国際価格に引き上げようとしたロシアに対しウクライナがこれを拒否、ロシア側は西ヨーロッパへの通過分だけの天然ガスを送り込んだ。しかしウクライナがその一部を自国で消費したため西ヨーロッパはガス不足に陥った。ヨーロッパ諸国は天然ガスの多くをロシアに依存しており量と価格の両面でロシアに主導権を握られることを懸念している。このため南欧諸国はアルジェリアなど北アフリカ諸国からの輸入増大を図り、英国はLNG基地を建設してカタールから輸入するなどの対策に走っている。今回のNord Stream開通に対してもロシア産天然ガスに対する依存度があがることに懸念を表明している国もある。

 ドイツは脱原発を目指し風力発電など自然エネルギーの利用に熱心であるが、効率やコスト面で自然エネルギーだけで原発の不足量をカバーできないのは明らかである。CO2排出量が少なく環境に優しいと言われる天然ガスは今後ドイツのみならず多くのヨーロッパ諸国で利用が進むと考えられる。

3.極東パイプラインの意味するもの
 今回の極東パイプラインはサハリンで産出するガスをウラジオストクに運ぶもので総延長は1,800キロメートルに達する。将来は中国、北朝鮮、韓国への輸出を見込んでいる。但しその場合はサハリンのガスのみでは不足するため東シベリアにある未開発のチャヤンダ・ガス田からのパイプラインと合流させるという壮大な計画になる。

 アジアは世界の成長センターとしてエネルギーの需要が急速に伸びている。極東市場への天然ガスの供給はロシアの大きなビジネスチャンスでありシベリア地方開発の引き金にもなる。また極東パイプラインにはこれまでの西欧一辺倒から東西の市場を天秤にかけることで天然ガスの輸出条件を有利に導こうとするロシアの意図がある。

 しかしパイプラインを中国或いは北朝鮮・韓国に伸ばそうとするロシアの計画のハードルは低くない。エネルギーを爆食している中国にとってロシアの天然ガスの魅力が高いのは事実である。しかし長い国境線を接した大国同士の関係は一筋縄ではない。パイプラインの敷設も天然ガスの価格を巡って交渉は難航している。そのような中で中国は建設資金を供与して中央アジアのトルクメニスタンとのパイプラインを建設、昨年は36億立法メートルの天然ガスを輸入した。さらに東シナ海沿岸に数カ所のLNG受入基地も建設して豪州、カタールなどからの輸入を急増させている。中国はこのように輸入ルートを多様化することによりロシアとの天然ガス価格交渉を有利に進めようとしているのである。

 これに対してロシアは北朝鮮から韓国まで朝鮮半島を横断するパイプライン計画をちらつかせる。北朝鮮にとっては燃料不足を解消する耳寄りな話である。しかし北朝鮮には支払うべき外貨がない。彼らは虫の良い無償援助を持ち出すが、かつての連邦国ウクライナに対してすら国際市場価格を押し付けるロシアが無償に同意するはずがない。ロシアは韓国への天然ガス輸出により外貨を稼ぎ、北朝鮮はその通過料でおこぼれに預かる。これこそがロシアと北朝鮮のウィン・ウィンの関係である。8月のロシア大統領・金正日会談の議題の一つがこのプロジェクトであった。

 しかし韓国はこのパイプラインが自国のエネルギー安全保障につながるとは考えていないであろう。通過国の北朝鮮に天然ガス供給の生殺与奪の権を握られるのであるから当然である。結局極東パイプラインは当面ロシアの内需に向けられる。ロシア政府はこれによって極東地域の工業化を促進したいのであろうが、技術も資本も人材も不足しているロシアにとって簡単な話ではない。極東パイプラインは当面宝の持ち腐れであろう。

以上

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

 

リビアの石油はどうなる?そして外国の勝ち組と負け組は?(下)

2011年08月30日 | 産油国・OPECの動向

(注)本レポートは「前田高行論稿集 マイ・ライブラリ」で上下一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0196Libya.pdf

3.外国の勝ち組と負け組
 かつてのイドリス王朝時代はリビアの石油操業はオクシデンタル、シェブロン、イタリアのENIなどの国際石油企業(IOC)が担っていた。しかし1969年にカダフィ大佐が軍事クーデタで権力を握ると、彼は国際石油企業と対決(1971年トリポリ協定)、1973年にはついに石油企業を国有化した。以後、IOCは単なる操業請負企業に甘んじることとなる。この間隙をついてリビアに進出したのが社会主義国のソ連であり、最近では世界中で石油買い付けに走りまわる中国であった。

 内戦が終結しまず最初に求められているのが経済再建の鍵となる石油産業の復旧である。国民評議会(TNC)の勝利はNATOの空爆に負うところが大きいことは言うまでも無い。NATO空爆を主導したのは英国とフランスなどの西ヨーロッパ諸国であるが、彼らの意図がカダフィ政権崩壊後のリビアの石油権益にあることは誰も疑わない。

 その先陣を切ったのがかつてリビアを植民地支配していたイタリアである。イタリアは現在も石油・天然ガスの多くをリビアから輸入しており、両国間には地中海を横断するガス・パイプラインがある。イタリア国営石油会社ENIは内戦終結と見るやすぐさま調査団をリビアに派遣した。フランティニ伊外相は、ENIこそ将来のリビア石油産業を担うNo.1企業である、と国営テレビで宣言した。イタリアはまさに火事場泥棒的にリビアの石油産業に食い込もうとしているように見える。フランスはと言えば大国の風を装い平和の使者のごとく振る舞っているが、本音は原発、鉄道、水などの大型インフラプロジェクトと武器輸出と言った大きなビジネスチャンスを狙っているのであろう。

 但しイタリアにとってもバラ色の話ばかりではなさそうだ。今後荒廃したリビアから大量の経済難民が発生することが考えられる。彼ら難民はリビア本土と目と鼻の先の地中海に浮かぶイタリア領ランペドゥーサ島に押し寄せる。この難民問題についてはイタリアのベルルスコーニ首相とカダフィ議長が2009年に結んだベルルスコーニ・カダフィ協定と呼ばれるものがある。これは同島に上陸した難民はイタリアが有無を言わせずリビアに送り返すと言う内容であり、国際人権団体から問題視されている。イタリアは石油と天然ガスは喜んで受け入れても、押し寄せる難民は追い払うつもりなのであろうか。リビア国民に対する人道的支援と言うのが国連安保理におけるNATO空爆の理屈だったことを想起するとイタリアが今後どのような対応をとるのか極めて興味深い。

 そしてもう一つ西欧以外の勝ち組がある。湾岸の産油国カタールである。カタールはアラブ各国がカダフィ政権の帰趨について判断に迷っていた時、いち早くフランスの意向に沿って自国の仏製戦闘機をNATO軍に派遣し、さらには国民評議会(TNC)のために原油の輸出に力を貸し、さらにアラブ諸国の中で最初にTNCを承認したのである。カタールは小国の身軽さとハマド首長の決断でリビア問題の勝ち組となった訳である。

 一方、今回の負け組は中国とロシアである 。紛争解決はカダフィ政権と国民評議会の話し合いにゆだねるべきであるとして両国はNATO空爆に反対し、国連安保理決議は棄権した。カダフィ政権を弱体化させることは自国の利益につながらないと判断したためである。ロシアの関心はリビアへの武器輸出にある。2008年に当時のプーチン大統領がリビアを訪問した際、冷戦時代のリビアの対ソ負債45億ドルを帳消しする見返りとして武器の輸出やベンガジ-シルテ間の鉄道建設等に関する協定を締結している 。同時にロシアはリビアとのエネルギー協力関係を強化することを目論んだが、これはEU諸国がロシアの対抗馬として北アフリカの産油(ガス)国を抱きこもうとする動きをロシアがけん制していると見ることができよう 。

 中国の場合はリビア原油の獲得が目的であることは言うまでも無い。昨年の中国のリビアからの原油輸入量は15万B/D弱で、全輸入量(480万B/D)に占める比率はさほど高くないが 、冒頭に触れた通りリビアの石油埋蔵量は大きく今後の油田開発による増産余力がある。このため中国はカダフィに取り入ってリビアの国内インフラプロジェクトに積極的に食い込んできた。その結果内戦直前の今年初めにはリビア国内で活動する中国企業は75社にのぼり、50のプロジェクトに36,000人の中国人が従事していた 。内戦勃発後、NATO空爆開始と同時にその全てが雲散霧消した。国民評議会(TNC)もカダフィ時代の中国との契約を引き継ぐ意思はなさそうだ。

 ロシアと中国は今回の事件に関する限りは負け組である。しかし国際舞台では勝ち負けのメンバーは刻々変化する。リビアについても勝ち組は植民地・王制時代のイタリア・国際石油企業組から、カダフィ時代にはロシア・中国に変わり、今また西欧諸国・国際石油企業に入れ替わっている。長い歴史で見れば勝ち負けを云々するのは余り意味のないことかもしれない。

 因みに米国政府及び石油企業はリビアにさほど関心はなさそうである。9.11テロ事件以来、米国がイスラム・アラブ諸国に対して理屈抜きで警戒感或いは嫌悪感を持っているためだと考えれば、彼らがリビアに関心を示さない(あるいはあえて無視しようとする)のも納得できるのである。

以上

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

リビアの石油はどうなる?そして外国の勝ち組と負け組は?(上)

2011年08月28日 | 産油国・OPECの動向

(注)本レポートは「前田高行論稿集 マイ・ライブラリ」で上下一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0196Libya.pdf

1.はじめに
 40年以上にわたって北アフリカの産油国リビアを独裁支配してきたカダフィ政権が崩壊しつつある。昨年末に隣国チュニジアで発生し瞬く間にアラブ諸国を席巻したいわゆる「アラブの春」と呼ばれる一連の政変はリビアにも波及した。今年2月以降は首都トリポリの政権側と東部ベンガジに本拠を置く反政権側の「国民評議会(TNC)」との間で激しい内戦を繰り広げたが、英仏を主力とするNATO軍による空爆に支えられた反政権側が6カ月の戦闘の後ほぼ勝利を手中にした。これによって内戦前の160万B/Dから10万B/Dにまで落ち込んでいた石油生産の回復が期待されている。


 巷間では石油の生産・積出設備は大きな損傷を受けておらず政情が安定すれば生産回復は案外早いのではないかと言われている。但しロイターによる専門家アンケート調査では生産量が100万B/Dを回復するには今後1年かかり、内戦前の水準に達するには2年近くかかると言うのが多数意見のようである 。リビアはこれまでも石油(あるいは天然ガス)の開発・生産技術を外国企業に頼ってきたが、今後石油生産を回復し、或いは更なる増産を目指すためには外国の国際石油企業の協力が不可欠である。


2.リビアの石油資源と経済の現状
 BPの統計資料「Statistical Review of World Energy, 2011」によれば、2010年末の同国の石油確認埋蔵量は464億バレルである 。世界1位のサウジアラビア(2,646億バレル)の6分の1であるが、ロシアに次いで世界第8位でありアフリカではトップの埋蔵量を誇っている。同じ年の生産量は166万B/Dでここでは世界18位である(世界一はロシアの1,027万B/D)。埋蔵量を生産量で割った「可採年数」は世界平均の46年を上回る77年であり、同国は世界有数の産油国であると同時に今後の増産に大きな期待を持てることがわかる。


 リビアは面積が176万平方キロメートルと日本の4.6倍の広さであるが国土の大半は砂漠であり人口もわずか6百万人強にすぎない(外務省ホームページより)。同国のマクロ経済をOPECの資料「OPEC Annual Statistical Bulletin, 2010」で見ると、GDP総額は742億ドル、1人当たりGDPは11,300ドルである。これはUAE、クウェイト、カタールなど人口の少ない湾岸産油国に比べてかなり低いが、サウジアラビア(17,000ドル)と肩を並べる水準である。


 輸出は総額463億ドルのうち9割以上を石油と天然ガスが占めており、典型的な天然資源依存型のモノカルチャー経済である。石油と天然ガスは主として欧州に輸出され、見返りに食料品、消費財など生活物資の大半を輸入に頼っており、国内にはめぼしい産業が殆どない。よく引き合いに出されるのが国内初のチョコレート製造工場の話である。工場の完成式にカダフィから招待された外国人記者団が目にしたのは、スイスから輸入された完成品チョコレートが「Made in Libya」と印刷された包装紙で仕上げられていたというものである 。


 豊かな石油収入に支えられ同国は毎年多額の経常黒字を計上しており、資産として蓄えられた余剰資金は1,500億ドルに達すると推定される 。これら資産の一部はReserve Fund(政府系ファンド, SWF)として運用されている。


(続く)


本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

OPEC統計は大本営発表か?(石油埋蔵量値の怪)(下)

2011年08月02日 | 産油国・OPECの動向

(注)下記HP「マイ・ライブラリー(前田高行論稿集)」で上、下を一括ご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0193OpecOilReserve.pdf

4.不確かな物差し「石油埋蔵量」
 そもそも地下に眠る石油の埋蔵量を正確に把握することは困難というよりむしろ不可能と言った方が正しい。埋蔵量そのものについても原始埋蔵量、確認埋蔵量、可採埋蔵量などいくつかの定義がある。一般的には「既に石油の存在が確認されており、しかも現在の技術により採掘が可能な埋蔵量」と言う意味で確認可採埋蔵量が埋蔵量の評価基準とされている。

 石油は数千メートル或いはそれ以上の地下深くの地層に眠っている。地震探鉱など各種技術を駆使して地層の状態を調査し、石油が存在すると推定される地質構造(代表的なものが褶曲構造である)を探り当てる。しかしその構造に実際に石油があるかどうかは試掘井を掘ってみなければわからない。そして試掘井で油田を掘り当てたとしても油田の広がりを確かめるためにさらに数本の油井を掘らなければならない。それでも油田の本当の大きさは確かめようがない。これは「埋蔵量」の「確認」に派生する問題である。

さらに生産段階にも多くのハードルがある。地層が緻密で堅い場合は期待したほどの石油を生産できない。また北極海或いは数千メートルの深海油田の場合のように開発現場の状況によって技術的に解決困難な問題が発生したり費用がかかりすぎて経済性が見込めずに開発を断念するなどのケースも少なくない。これは「埋蔵量」の「可採」に派生する問題である。

これらの問題は最近の技術の進歩によりかなりの程度解決されてきた。例えばブラジルやメキシコ湾では大深度の海底油田が既に生産を開始している。またカナダのオイル・サンドやベネズエラのタール・サンドのようにこれまで採算が取れないとして手つかずにいた油田についても、低コストで生産できる技術の開発、或いは石油価格が上昇するなどの理由により経済性が生まれた油田もある。これらは従来「非在来型石油」とされ埋蔵量統計から除外されていたが、最近では統計に含まれるようになりつつある。

このように石油埋蔵量は「確認」及び「可採」の両方に不確実な要素をはらんでいる。「埋蔵量」は「不確かな物差し」と言わざるを得ないのである。

5.「埋蔵量」の背後にひそむ政治的意図
埋蔵量それ自身が正しいかどうか断定できないため、BP或いはOPECが公表するデータのいずれが正しいかを判定できる者は誰もいないと言うことになる。逆に言えば油田を所有或いは開発する者は自らの意思だけで埋蔵量を発表できるのである。そして石油資源の所有者は国家である。「埋蔵量」データに政治的意図が介在する可能性がそこに生まれる。

特に独裁国家や隣国と対立関係にある国の場合は埋蔵量データを意図的に操作するケースが多い。動機は独裁者の自己顕示欲であり、或いは隣国に対する対抗心や自国民に対する人気取りであろう。ベネズエラは前者であり、イランとイラクは後者の例である。

ベネズエラのチャベス大統領は1999年に大統領に就任、経済体制をそれまでの資本主義から社会主義に転換した。彼はその後軍部親米派によるクーデター(2002年)をくぐり抜け権力を維持している。同国では石油が産業の根幹をなしており、チャベス大統領は権力を誇示する手段の一つとして石油を利用している。それが石油産業の国有化であり、また今回の埋蔵量世界一宣言にあると考えられる。

イランとイラクの場合は両者のライバル意識が埋蔵量見直しの背景にある。両国はペルシャ対アラブと言う民族的な対立に加え、同じイスラム教でありながらシーア派とスンニ派という対立軸を抱えライバル意識が強い。その一つの発露が石油埋蔵量の問題である。埋蔵量がイランに次いで世界第4位のイラクは、昨年10月突然自国の埋蔵量を大幅にアップしイランを抜き世界第3位になったと発表した。ところがそのわずか一週間後に今度はイランが埋蔵量を従来より9%引き上げ世界第3位は引き続きイランであると宣言した。ここにはイラン、特にポピュリズム(人気取り)政策を乱用するアハマドネジャド大統領の強い意向がうかがわれる 。

「埋蔵量」データには常にこのような政治的意図が見え隠れするのである。OPEC統計資料は基本的に加盟各国が自主申告したデータを集大成したものと言える。従ってそこには必ずデータを提供する各国の思惑が入り込む。輸出のような国際貿易と関連したデータは外部の検証に耐える客観的な数値とせざるを得ないが、埋蔵量は外部から検証する手立てがないだけにその国の一方的な裁量に任され、データがでっち上げられる可能性が高いと言える。

かつて太平洋戦争で日本陸軍大本営は戦果を誇張して発表、このため大本営発表は事実を自己に有利に改竄することの代名詞とされている。OPECの埋蔵量データもその類と言えるかもしれない。石油関係者の多くはベネズエラ、イラン、イラクの埋蔵量データがそのまま鵜呑みにできないと考えているはずである。

以上

(参考)
1.「BPエネルギー統計2011年版」
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/BPstatistics.html 
2.「新たなる半世紀に踏み出したOPEC 3.イラクとイランの埋蔵量争い」
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0166OpecNext50Years.pdf 


本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

OPEC統計は大本営発表か?(石油埋蔵量値の怪)(上)

2011年08月01日 | 産油国・OPECの動向

(注)下記HP「マイ・ライブラリー(前田高行論稿集)」で上、下を一括ご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0193OpecOilReserve.pdf

 

1.はじめに
 OPEC(石油輸出国機構)が7月にエネルギー統計資料2011年版 (Annual Statistical Bulletin 2010/2011 Edition)をホームページに公開した。
(http://www.opec.org/opec_web/static_files_project/media/downloads/publications/ASB2010_2011.pdf参照)

 世界のエネルギーに関する主な統計としてはOPECのほか国際エネルギー機関(IEA)或いは国際石油企業BPのものが有名であり、BPの場合は毎年「Statistical Review of World Energy」を発表している 。統計値は本来客観的なものであり、同種のデータについてはOPEC、IEA、BPの三者間に大きな差異は見られない。

 しかしOPEC、IEA、BPのデータ間に違いがあることも事実である。それは三者がそれぞれ生産者、消費者及び企業を代表する立場にあるためと考えることができる。中でも本稿で取り上げる石油の確認埋蔵量についてはOPECとBPのデータは大きく乖離している。詳しくは後述するが例えばOPECデータではベネズエラの埋蔵量はサウジアラビアをしのぎ世界一である。またベネズエラ、イラン、イラクは過去5年の間に埋蔵量を大幅に上方修正しておりBPのデータとの差異が大きい。

2.埋蔵量世界一はベネズエラ?
(表「2010年末国別石油埋蔵量トップ10(OPEC統計 vs BP統計)http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/1-D-2-91bOilProvedReserveOpecVsBp2010.pdf参照」
 OPEC統計によれば昨年末の石油埋蔵量が世界で最も多いのはベネズエラの2,965億バレルであり、第2位はサウジアラビア(2,645億バレル)となっている。これに対しBPの統計ではトップはサウジアラビアで、その埋蔵量はOPEC統計と同じ2,645億バレルであり、ベネズエラは埋蔵量2,112億バレルとされ、1位と2位が逆転している。ベネズエラの場合両者の差異は853億バレルに達する。OPECはベネズエラが世界一の石油埋蔵国であると認定している訳である。一方世界のエネルギー調査機関のデータの殆どはBPの数値と大同小異である。つまり消費国を含む世界の一般常識ではサウジアラビアが世界一の石油埋蔵国である。

 イランとイラクの埋蔵量のデータもOPEC統計とBP統計で大きく異なっている。イランが世界第3位であることに変わりはないが、同国の埋蔵量はOPECの1,512億バレルに対しBPは1,370億バレルで前者の方が一割強多い。また世界4位のイラクの埋蔵量についてはOPEC1,431億バレル、BP1,150億バレルであり、やはりOPECの方が1.2倍(281億バレル)も多いのである。

3.ベネズエラの埋蔵量は3年前の3倍、昨年突如埋蔵量を引き上げたイランとイラク
(図「OPEC主要国の確認埋蔵量の推移」参照)
(http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-D-2-91bOilReserveByOpecMajors2006-2010.pdf)
 OPEC統計でこれら3カ国の2006年以降の各年末の埋蔵量の推移を追ってみると興味ある事実が浮かんでくる。世界の石油確認埋蔵量の上位6カ国はサウジアラビア、ベネズエラ、イラン、イラク、クウェイト及びUAEでありいずれもOPECメンバーである。OPEC統計によるこれら6カ国の2006年末の確認埋蔵量は (1)サウジアラビア(2,643億バレル)、(2)イラン(1,384億バレル)、(3)イラク(1,150億バレル)、(4)クウェイト(1,015億バレル)、(5)UAE(978億バレル)、(6)ベネズエラ(873億バレル)であった。トップのサウジアラビアは2位イランの2倍と他を圧倒しており、またベネズエラは6カ国中の最下位であった。

2007年もこの順位は変わらなかったが、2008年になるとベネズエラが突然埋蔵量を2倍に引き上げ、その結果6カ国の順位と埋蔵量は(1)サウジアラビア(2,641億バレル)、(2)ベネズエラ(1,723億バレル)、(3)イラン(1,376億バレル)、(4)イラク(1,150億バレル)、(5)クウェイト(1,015億バレル)、(6)UAE(978億バレル)となった。ベネズエラが一挙に2位に浮上したのである。

2010年にベネズエラは再び埋蔵量を2,965億バレルにアップさせた。この結果同国はサウジアラビアを抜き世界一に躍り出たのである。同じ年にイランとイラクも埋蔵量を大きく上方修正している。その他の3カ国(サウジアラビア、クウェイト、UAE)は前年と同様であった。この結果2010年の6カ国の順位及び埋蔵量は次のとおりとなっている。

(1)ベネズエラ(2,965億バレル)、(2)サウジアラビア(2,645億バレル)、(3)イラン(1,512億バレル)、(4)イラク(1,431億バレル)、(5)クウェイト(1,015億バレル)、(6)UAE(978億バレル)

(続く)

(参考)
1.「BPエネルギー統計2011年版」
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/BPstatistics.html 
2.「新たなる半世紀に踏み出したOPEC 3.イラクとイランの埋蔵量争い」
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0166OpecNext50Years.pdf 


本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

ニュース解説:争奪戦模様のカタール天然ガス(下)

2011年07月30日 | 産油国・OPECの動向

(注)下記HP「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括ご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0192QatarGas.pdf

 

3.対米LNG輸出の蹉跌と福島原発事故の僥倖
 天然ガスは石油に比べCO2の排出量が少なく環境に優しいエネルギーとして脚光を浴びている。カタールはその追い風に乗って設備を増強し輸出先を開拓しており、その戦略は大きな成果を上げている。しかし唯一の誤算が米国である。カタールの米国向けLNG輸出は1999年に始まり、2000年には年間13億㎥を記録したが、一方で米国内ではシェールガスの商業生産が軌道に乗り天然ガスの生産量は2005年以降増加傾向にある。このためカタールの対米LNG輸出は伸び悩んでおり今後も期待薄である 。カタールは次々と完成するLNG設備により余剰生産能力を抱え、ブラジル(2010年7月) 、カナダ(2010年10月) 、バングラデシュ(2011年1月) など精力的に新規顧客を開拓する必要に迫られている。

ところが本年3月の福島原発事故により状況は一変した。東電に限らず日本の電力会社は軒並みLNGの調達に走りだした。浜岡原発の運転再開の目途が立たない中部電力はトップが直ちにカタールに向かいLNGの追加供給交渉を行い36万トンを確保した 。原発事故の余波は日本国内にとどまらず、世界中に広がりつつあり、それまで低迷していたスポット物のLNG価格が上昇、これにつれてLNGタンカーの用船料も急騰する有様である 。原発事故は世界的な悲劇であるが、カタールの天然ガス事業にとって僥倖であったことは間違いない。

4.したたかな中国、予断を許さぬ今後
 LNGが売り手市場に転じたことにより現在のカタールは強気である。しかし買い手は日本のような弱腰の国だけではない。中国の対応に注目が集まる。天然ガスの需要が急激に増加している同国は2007年に純輸入国に転じ、2010年の輸入量は164億㎥に達し今後も急増するものと思われる。
しかしカタールと中国は2年前にLNGの追加供給について基本合意したものの、その後交渉は殆ど進展していない 。カタールが提示する売値に対して中国側が難色を示しているためと伝えられている。天然ガスの輸入確保について中国は日本以上に大きな問題を抱えているにもかかわらず、同国はしたたかである。

 世界の天然ガスの需給関係を見た場合、当面は売り手市場であろう。ただ一方で豪州を含め世界では天然ガスの開発が活発であり、中長期的には需給関係は再び安定し供給不足は解消されるという見方もできる。LNG市場でカタールの天然ガス争奪戦が何時まで続くかは今しばらく状況を注視する必要があろう。

(参考レポート)
1.「BPエネルギー統計レポート2011年版解説シリーズ:天然ガス篇」
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0189BpGas2011.pdf

2.「シェールガス、カタールを走らす」
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0148ShaleGasQatar.pdf


以上

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642