石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

石油と中東のニュース(4月29日)

2020-04-29 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(コロナウィルス関連ニュース)

・トルコ:ショッピングモールなど5月11日再開を目指す。イスタンブールは当分閉鎖継続

・イラン:ウィルス汚染地区を赤黄白に3区分。白地区のモスクはラマダン中でも再開

・オマーン:両替、自動車修理など一部業種で業務再開許可

・クウェイト:ガソリンスタンドなど一部で業務再開

(石油関連ニュース)

・原油価格再び下落。WTI $13.33, Brent $20.27

・英BP第一四半期決算発表、利益は3分の1、負債は過去最高水準に

(中東関連ニュース)

・レバノン混乱の極みに。外出禁止令下で金融破綻、食料品値上げ反対デモ、1名死亡

・Sisiエジプト大統領、戒厳令を3か月延長

・UAE、内部通報者、法廷証人保護法制定へ

・UAE:EPMGとOLXが事業統合、1.5億ドルの投資ファンド設立

 

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見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(31)

2020-04-28 | その他

(英語版)

(アラビア語版)

第4章:中東の戦争と平和

3.ポピュリズムが育てる独裁者

 中東の独裁者たちにほぼ共通しているのは貧しい出身でありながら士官学校で優秀な成績を収め軍の幹部にのし上がったと言うことである。当時のアラブ諸国では大学に進学できるのは一部の富裕層に限られており、向学心に燃える貧しい家庭の子弟は士官学校を目指した。こうして士官学校には優秀な若者が集まった。彼らは士官学校で最新の技術と知識を習得し、成績優秀者はソ連に留学した。若くしてソ連に留学した彼らがどのような思想的感化を受けたかは言うまでもないであろう。アラブ民族主義がソビエト流社会主義と結びつき、彼らは欧米資本主義・帝国主義を敵視するようになる。

 ただしソ連留学組は同時に社会主義思想そのものに違和感を覚えた。彼らは物心ついた時すでにイスラームという「心」のアイデンティティにからめとられており、「智」の産物である社会主義イデオロギーにはなじめなかったはずである。さらに共産主義思想が無神論であることを彼ら留学組は生理的に受け付けなかったに違いない。合理的思考の持ち主ではあるが同時に敬虔なムスリム(イスラーム信者)であるアラブ人の若手将校たちはその後次第に社会主義国家ソ連と距離を置くようになる。

 東西冷戦の渦中で中東の指導者たちは西側につくか、東側につくか厳しい判断を迫られていた。1950年代に中国の周恩来、インドのネール、チェコスロバキアのチトーなどが非同盟を呼びかけバンドン会議を開いた時代とは異なり、いずれの側にも属さない中立という立場はあり得なかった。第二次世界大戦直後、それまで西欧帝国主義に蹂躙されていたアラブ諸国はその反動として民族解放運動と結びついた社会主義国家ソ連に傾倒した。しかしイスラームを深く信奉するアラブにとって無神論のソ連共産主義は水と油の関係である。彼らにとってはそれ位ならむしろ同じ一神論の西欧キリスト教国家の方が理解しやすかった。さらに民族は違っても同じイスラーム教徒(ムスリム)である中央アジアの少数民族がモスクワ中央政府によって弾圧されている現実を前にして中東の独裁者たちは次第に西側諸国に傾いていくのであった。

ただし彼らは西欧のように政治的自由を一般市民に与える気は毛頭なかった。国の名前に共和制を冠して国民や国際社会の目をくらます一方、実態は過酷な独裁強権主義国家を築いたのである。リビアの国名がそれを象徴している。カダフィは「大リビア・アラブ社会主義ジャマヒリーヤ(直接民主主義)国」と名付けた。「アラブ」(民族)、「社会主義ジャマヒリーヤ」とこれでもかというほどの飾り文句を並べている。しかし実態は程遠い絶対的独裁国家であった。国名で比較するならこれは北朝鮮の正式国名「朝鮮・民主主義・人民・共和国」と双璧を成すものと言ってよいであろう。独裁者はとかくうわべを飾りたがるものである。

 庶民全てがそのような独裁者を冷ややかに見ているかというと実は必ずしもそうではない。それどころか拍手喝さいで独裁者の登場を迎えることも少なくない。アラブの人々は腐敗した王制国家に倦み、或いは第二次世界大戦後も打ち続く戦乱に嫌気がさしていた。そのような旧体制(アンシャンレジューム)を打破しようとする若手軍人たちの「青年将校団」に世直しを期待したのである。「青年将校団」を名乗る組織はエジプトだけではない。シリアやリビアにも生まれている。

貧しいが故に正規の高等教育を受けられなかった優秀な若者が軍隊組織の中で最新の知識と軍事技術を身に着け、同僚や部下を惹きつけるリーダーシップも身に着けた。彼らは大衆の人気を得る手練手管に長じている。もちろん独裁者は登場した時から独裁者だった訳ではなく、トップに上り詰めた後、大衆を煽りつつ知らず知らずのうちに権力を一身に集める。

そして独裁者は一度手にした権力は絶対に手放そうとはしない。彼を助けるのが取り巻きの側近たちである。側近は独裁者の陰で甘い汁を吸うことを覚える。ボスが居てこその特権であるから彼らはボスがいつまでもボスであり続けるように画策する。その反面彼らは独裁者の地位が儚いことを熟知しているだけに自ら独裁者になるだけの勇気はない。ともかくボスにできるだけ地位を保ってもらいたいのである。

いずれの国にも民主主義的な憲法があり大統領の任期と多選禁止が明記されている。しかし独裁者とその側近は意図的に大衆の人気を盛り上げ、憲法を都合よく変更するのである。こうして終身大統領が生まれる。大衆が気がついた時には独裁者はもはや手の付けられない怪物に変身しているのである。

ただいくら終身とはいえ人間の命には限りがある。老いを自覚した独裁者は後継者を物色する。しかしその頃の彼は誰一人信用できなくなっている。側近に寝首を掻かれるのではと恐れ、血のつながった兄弟すら反逆者と疑い次々と粛正する。最後に残るのは血を分けた息子たちだけである。中東の独裁者たちは別々の人生を歩みながらも不思議なことに最期は驚くほど似通っているのである。

それでも独裁者が君臨している間はまがりなりにも平和であり、大衆はそのことに満足する。独裁者はいつの時代も大衆のポピュリズムが生み出す奇形児なのである。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 荒葉一也
 E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp
 Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

 

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石油と中東のニュース(4月27日)

2020-04-27 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(コロナウィルス関連ニュース)

・サウジ、ラマダン中の外出禁止令、9時から5時までに緩和。マッカは引き続き24時間

・サウジ、ウィルス検査900万人分のキット・人材供給を2.7億ドルで中国と契約

(石油関連ニュース)

・投資中断で2030年までの世界の石油供給6%落ち込む:Rystad


(中東関連ニュース)

・イエメン南部移行評議会(STC)が独立宣言。内戦の中の内戦でハディ政権風前の灯火

・サウジ、重犯罪以外の死刑廃止を決定

・サウジビンラーデン、150億ドルの負債処理で米投資銀行をコンサルに起用

 

 

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大恐慌以来最悪の景気後退(The Great Lockdown):IMF世界経済見通し2020年4月版(5完)

2020-04-26 | 今日のニュース

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0500ImfWeoApr2020.pdf 

 

4.世界および主要地域・国のGDP成長率の推移(2017~2021年)
(表http://menadabase.maeda1.jp/1-B-2-11.pdf 参照)
(図http://menadabase.maeda1.jp/2-B-2-05.pdf参照)

(世界のGDP成長率、2017~19年まではプラス3%、今年は▲3%!)
(1)世界および主要経済圏
 世界全体の成長率は2017年から2019年までプラス3%前後台で推移していたが、今年は▲3%に急落、来年は5.8%に回復するとIMFは予測している。

経済圏別で見るとG7の成長率は2019年まで2%前後の成長を続けたのち、今年は▲6.2%と世界平均を大幅に下回るマイナス成長となり、来年はプラス4.5%に回復する見通しである。EUは2017年の成長率が2.9%であったが、その後2.3%(18年)、1.7%(19年)と年々落ち込み、2020年はコロナウィルスの影響で世界平均の2倍以上の▲7.1%の大幅な落ち込みになる見込みである。IMFでは2021年は今年の反動で4.8%のプラス成長に転じると予測している。

ASEAN-5か国は他の経済圏に比べ高い成長率を達成している。同地域は2017年から19年まで5%前後の成長率を維持しており、2020年は他の地域と同様コロナウィルスの影響を免れないものの▲0.6%のマイナス成長にとどまると予測されている。来年についてはV字回復し7.8%の成長が見込まれている。

(5年間を通じてプラス成長を達成すると見られる中国及びインド!)
(2)世界と中東の主要国
日本の成長率は2017年は2.2%であったが、2018、19年はそれぞれ0.3%、0.7%の低い成長率にとどまった。2020年は▲5.2%の大幅なマイナス成長になり、2021年には一転して5年間で最も高い3%の成長が予測されている。3%は世界平均の5.8%、G7の4.5%に比べて決して高くないものの、過去の実績を勘案するとなお高いハードルと言えそうである。

米国の過去3か年の経済は先進国の中でも特に好調であり、2.3%~2.9%の成長を維持してきたが、今年(2020年)は▲5.9%と急落する見込みである。来年は今年の反動で4.7%の成長率を達成すると予測している。

世界最大のGDP大国になった中国は2017年から2019年まで6%台の成長を維持している。今年はコロナウィルスの影響を受けるものの日米のようなマイナス成長にはならず、1.2%のプラス成長を達成すると見込まれている。来年は今年の反動として景気はV字回復し、9.2%の高い成長率を達成するものと予測される。近年中国を上回る成長を続けているインドのGDP成長率は、2017年以降2021年まで7.0%→6.1%→4.2%→1.9%→7.4%と今年を含めて5年間連続してプラス成長を達成する見通しである。

 中東の主要国を見ると、GDPが中東で最大のトルコは2017年には7.5%と世界的にみても高い7.5%の成長率を記録している。その後の2年間は2.8%→0.9%と成長率が鈍化し、今年は▲5%のマイナス成長に陥る見通しである。来年は成長路線に回復すると見込まれる。

トルコに次ぐGDP大国のサウジアラビアは原油価格下落の影響を受けて2017年は▲0.7%のマイナス成長に陥ったが、2018年と2019年はプラス成長を達成している。しかし今年は▲2.3%に転落、来年は回復して2.9%のプラス成長に戻ると予測されている。

 イランのGDP成長率は2017年に3.7%を達成したが、その後米国の広範な経済制裁の影響を受け、18年▲5.4%、19年▲7.6%さらに20年▲6.0%と3年続けてマイナス成長に苦しんでいる。IMFは同国が来年は3.1%のプラス成長に戻ると予測しているが予断を許さない状況である。

 エジプトの成長率の推移は4.1%(17年)→5.3%(18年)→5.6%(19年)→2.0%(20年)→2.8%(21年)とされ、コロナウィルス問題の下でも安定した成長が見込まれている。

(完)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

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石油と中東のニュース(4月25日)

2020-04-25 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(コロナウィルス関連ニュース)

・UAEエミレーツ航空、ロンドン、マニラなど8都市に帰国便運航

(石油関連ニュース)

・原油価格戻す。Brent $22.40, WTI $17.62

・VLCCタンカー洋上備蓄レート、6か月契約で1日12-13万ドル。全世界800隻のうち10%のタンカー

・米ノースダコタのシェール業者苦境に。生産量140万B/Dが30万B/D、Continentalは全掘削作業中止


(中東関連ニュース)

・サウジ、むち打ち刑廃止へ

 

 

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今週の各社プレスリリースから(4/19-4/25)

2020-04-25 | 今週のエネルギー関連新聞発表

4/20 出光興産

米国クリケットバレー天然ガス火力発電所が商業運転を開始 -当社初 米国での高効率ガス火力発電所で低炭素化に貢献-

https://www.idss.co.jp/news/2020/200420.html

 

4/21 出光興産

2020 年3月期 通期連結業績予想の修正に関するお知らせ  

https://www.idss.co.jp/content/100031359.pdf

 

4/21 コスモエネルギーホールディングス

2020年3月期決算発表日の変更について

https://ceh.cosmo-oil.co.jp/press/p_200421/index.html

 

4/21 BP

BP deepens partnership with Chinese PET producer CRC, seeking opportunities for closer cooperation

https://www.bp.com/en/global/corporate/news-and-insights/press-releases/bp-deepens-partnership-with-chinese-pet-producer-crc-seeking-opportunities-for-closer-cooperation.html

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大恐慌以来最悪の景気後退(The Great Lockdown):IMF世界経済見通し2020年4月版(4)

2020-04-24 | その他

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0500ImfWeoApr2020.pdf 
 

(GDPトップに躍り出た中国!)
3.2020年の世界及び主要国のGDP (Current Price)
(表http://menadabase.maeda1.jp/1-B-2-09.pdf 参照)
(表http://menadabase.maeda1.jp/1-B-2-12.pdf参照)
(図http://menadabase.maeda1.jp/2-B-2-03.pdf 参照)

IMFによれば今年の世界のGDP(at Current Price)総額は138兆ドルの見込みである。このうちG7は40兆ドルで全体の29%を占め圧倒的な存在感を示している。EUのGDP総額は18兆ドル(全世界の13%)、ASEAN5か国は8兆ドル(同6%)である。

国別では2020年のGDPの世界ベストテンは中国が世界トップ(28兆ドル)で全世界に占める割合は20%、同国一国だけで世界のGDPの5分の1を生み出している。中国に次ぐGDP大国は米国の20兆ドルであり世界全体の15%を占めている。前回までの統計では米国がトップであったが、今回中国にその座を譲っている。この2か国が世界で突出しており、今後米中間の経済摩擦が一層激しくなることは間違いないであろう。

第3位はインド(11兆ドル)で日本はこれに次ぐ世界第4位5.5兆ドルである。日本のGDPは中国の5分の1あるいは米国の3分の1にとどまっている。第5、6位はロシアとドイツ(ともに4.2兆ドル)であり、7位から10位にはインドネシア(3.8兆ドル)、ブラジル(3.3兆ドル)、英国(3兆ドル)、フランス(2.9兆ドル)の各国である。因みにEUのGDPは18兆ドルであり、世界第3位に相当する。

 11位から20位まではメキシコ、韓国、トルコ、イタリア、サウジアラビア、カナダ、スペイン、エジプト、イラン及び台湾の各国である。中東諸国ではトルコが世界13位、サウジアラビアが世界15位、イランが世界19位にランク付けされている。このほかの中東諸国で世界上位に入っているのはUAE(世界34位)、イラク(同35位)、イスラエル(同53位)の各国である。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

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石油と中東のニュース(4月23日)

2020-04-23 | 今日のニュース

(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(コロナウィルス関連ニュース)

・アブダビ、ショッピングモール再開へ。営業時間正午から午後9時まで等条件付き

(石油関連ニュース)

・Brent原油、記録的安値から回復、$19.72。WTIは$11.66

・米大統領ツィート:国内石油産業保護のためサウジ原油輸入停止を検討中

・タンカー、貨車、岩塩ドームなど血眼で原油貯蔵庫を物色する米国の石油トレーダー

(中東関連ニュース)

・トランプ米大統領:米海軍を攻撃するイラン船舶は撃退破壊する

・イラン、軍事衛星を打ち上げ。米国が強い非難

・エジプト、24日をラマダン初日と正式発表

・カタール、中国国営造船所とLNGタンカー建造枠確保の契約締結

 

 

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三大産油国米露サウジのつばぜり合い Part 2:原油の生産量と価格の推移

2020-04-23 | その他

(注)マイライブラリーでPart1-3をまとめてお読みいただけます。http://mylibrary.maeda1.jp/0501ThreeBigOilProducers.pdf

 

(*Part 1: 970万B/D協調減産に至る道

2020.4.23
前田 高行
Maeda1@jcom.home.ne.jp

1.OPEC+(プラス)協調減産以後の米露サウジ原油生産量
 2016年12月、OPEC産油国とロシアなど非OPEC産油国が減産について協議した結果、翌17年1月から6か月間両者合わせて120万B/Dを減産することとなった 。OPEC+(プラス)と呼ばれたこの体制はその後数度にわたり延長され、昨年12月には減産幅をさらに170万B/Dに拡大した。この時同時にサウジアラビアは40万B/Dを自主減産すると申し出ている 。

 OPECの盟主サウジアラビアと非OPEC産油国の雄ロシア、そしてOPEC+のカルテルに参加しない米国は共に1千万B/D前後の原油を生産する三大産油国である。これら3か国に次ぐ世界4位の産油国カナダの生産量はこれら3か国の2分の1程度(500万B/D強)にとどまり、米露サウジ3か国は世界全体の生産量の4割を占めている。

 これら3か国について2017年1月以降の原油生産量を月別に見たのが図2-D-2-25である。
(http://menadabase.maeda1.jp/2-D-2-25.pdf )
なお、各国の生産量データの出典はサウジアラビアがOPEC Monthly Oil Market Report、米国はEIA(米国エネルギー情報局)、ロシアはエネルギー省統計である。ロシアエネルギー省の生産統計はガスコンデンセートを含む月産トン数であり、本稿ではこれをB/D(一日当たりバレル生産量)に換算して比較した 。

 2017年1月の3カ国の生産量はロシアが11,111千B/Dと最も多く、次いでサウジアラビア9,809千B/Dで、米国は3か国のなかでもっとも少ない8,863千B/Dであった。その後ロシアとサウジアラビアが協調減産を続けている間に米国では中小業者が多数を占めるシェール石油企業が増産を重ね、2017年11月には1千万B/Dを超え、サウジアラビアをしのぐ世界第2位に躍り出た。さらに2018年8月には1,136万B/Dに達しついにロシアを超えて世界一の原油生産国になっている。

米国の生産量はその後も増え続け、今年1月は1,274万B/Dである。同じ月のロシア及びサウジアラビアの生産量はそれぞれ1,128万B/D及び974万B/Dであり、米国の生産量はロシアを150万B/D、サウジアラビアを300万B/D上回る状態である。因みに2017年1月の生産量を100とした場合、2019年1月の各国の生産量は、米国=144、ロシア=101、サウジアラビア=99となる。この事実は2017年及び2018年の過去2年間、ロシアとサウジアラビアは原油価格を下支えするため生産を抑制したのに対し、米国のシェール石油企業は一気に増産したことを示している。

2. 2017年1月以降の原油価格の推移
 次に国際指標原油とされている北海Brent原油及び米国WTI原油の2017年1月以降の月単位の値動きを示したのが図2-D-2-00である。(出典:EIA、米国エネルギー情報局)
(http://menadabase.maeda1.jp/2-D-2-00.pdf)  
 2017年1月の原油価格はBrentがバレル当たり54.6ドル、WTIが52.5ドルであった。6月にはBrent 46.4ドル、WTI 45.2ドルに下がったが、同月にOPEC+が減産継続を決定して以降 、価格は上昇に転じた。2018年9月にBrent原油は80ドル目前(78.9ドル)まで上昇、WTIも70ドルの大台を超えている(70.2ドル)。

 その後、OPECが増産姿勢を見せたため、年末にかけて価格は急落、12月にはBrent 57.4ドルに、またWTIは 50ドルを切る(49.5ドル)水準に落ち込んだ。この時も年末のOPEC+会合で減産継続を打ち出したことにより、翌2019年Brentは60~70ドル台、WTIも50ドル台後半で推移した。

3. OPEC+の協調減産にただ乗りした米国のシェール石油業者
 上述の生産量と原油(Brent)価格の推移を重ね合わせたものが図2-D-2-26である。
(http://menadabase.maeda1.jp/2-D-2-26.pdf
 一見してわかる通り2017年1月から2018年9月までは原油価格の上昇に歩調を合わせるように米国の原油生産量が増加している。一方、この間、ロシアとサウジアラビアの生産量は共にほぼ横ばいの状況である。つまりOPEC+の減産による原油価格の上昇を見て米国シェール業者は金融機関から資金を調達、相次いで増産に走ったと言えよう。

技術革新により生産原価が30ドル台に下がったと言われる米国のシェール業者にとって、市場価格50~60ドルは十分すぎるほどの魅力的な価格である。そのため2018年後半以降もシェール業者はさらなる増産を続け、ついに昨年末には生産量が1,300万B/D近くに達し、ロシア、サウジアラビアをしのぐ世界最大の産油国の地位を確立したのである。

この間、ロシアは毎月の変動はあるものの生産量は1,100万B/D前後である。ところがサウジアラビアは価格を維持するために生産量を抑制するスウィング・プロデューサーの役割を担い、1,250万B/Dの生産能力があると公言しながら1千万B/Dを下回る生産を続けてきた。言い換えれば米露サウジ3カ国の中で、サウジアラビアだけが犠牲を払い、米国はOPEC+の協調減産にただ乗りする構図である。


しかしそのような構図を一変させたのがコロナウィルス問題である。中国に端を発したコロナウィルス汚染は世界の経済成長を引っ張って来た同国経済を直撃、さらにウィルスが世界に蔓延して人の往来、物流、サービス等あらゆる面に地球規模の深刻な打撃を与えており、景気回復のきっかけが見当たらないのが現状である。石油市場はこれまでの供給過剰圧力に加え、急激な需要の減退に直面し、価格が崩落する深刻な事態を招いているのである。

(Part 3に続く)

 

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大恐慌以来最悪の景気後退(The Great Lockdown):IMF世界経済見通し2020年4月版(3)

2020-04-21 | その他

(注)本レポートは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。
http://mylibrary.maeda1.jp/0500ImfWeoApr2020.pdf 
 

(すべての国と地域で今年はマイナス下方修正、来年はプラス上方修正!)
2.前回(2019年10月)と今回(2020年4月)の比較
(表http://menadabase.maeda1.jp/1-B-2-08.pdf

参照)
(1) 世界および主要経済圏の比較
 上述のとおり今回(WEO2020Apr)の全世界の成長率見通しは今年(2020年)が▲3.0%、来年(2021年)は5.8%である。これに対して前回(WEO2019Oct)の見通しでは両年の成長率はそれぞれ3.4%、3.6%であり、本年は6.4%に下方修正、来年は2.2%に上方修正されている。

 2020年の見通しについて主要経済圏を前回と比較すると、G7は前回の1.6%から今回は▲6.2%に下落している。その他の経済圏についてもEU(1.6%→▲7.1%)、ASEAN-5(4.9%→▲0.6%)といずれも大幅に下方修正されている。先進国、開発途上国のいずれもコロナウィルスの影響が顕著に表れている。

 主要経済圏の来年(2021年)のGDP成長率の見通しについて前回と今回を比較すると今年とは逆に全面的に上方修正されている。G7は1.4%→4.5%であり、ASEAN-5は5.2%→7.8%、EUは1.7%→4.8%に見直されている。

(2)主要国の比較
今年の成長率については中国が前回(2019Oct)の5.8%から今回(2020Apr)は1.2%に、またインドは7.0%から1.9%に見直されている。両国とも下方修正されているものの、かろうじてプラス成長を維持している。しかしながらその他の国々は下方修正の結果すべてマイナス成長に転落している。
世界の主要国の今年の成長率は以下のとおりである。
米国(2.1%→▲5.9%)、日本(0.5%→▲5.2%)、ドイツ(1.2%→▲7.0%)、英国(1.4%→▲6.5%)、韓国(2.2%→▲1.2%)、ロシア(1.9%→▲5.5%)、

また中東の主要国の今年の成長率の見直しは以下のとおりである。
サウジアラビア(2.2%→▲2.3%)、トルコ(3.0%→▲5.0%)、UAE(2.5%→▲3.5%)、イラン(0%→▲6.0%)、イスラエル(3.1%→▲6.3%)、イラク(4.7%→▲4.7%)

一方2021年の成長率はいずれも上方修正されており、米国の場合は昨年10月に1.7%と予測していた2021年の成長率が今回は4.7%に大きく見直されている。日本も0.5%(昨年10月予測)→3.0%(今回予測)とされており、その他の国々も中国(5.9%→9.2%)、ドイツ(1.4%→5.2%)、韓国(2.7%→3.4%)、ロシア(2.0%→3.5%)に上方修正されている。

中東諸国についても同様であり、サウジアラビア(2.2%→2.9%)、トルコ(3.0%→5.0%)、イラン(1.0%→3.1%)、イスラエル(3.2%→5.0%)へと見直されている。例外はエジプトであり、同国は前回のIMFレポートでは2021年の成長率を6.0%と予測していたが、今回は2.8%に下方修正されている。

(続く)

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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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