(注)マイライブラリーでPart1-3をまとめてお読みいただけます。http://mylibrary.maeda1.jp/0501ThreeBigOilProducers.pdf
(*Part 1: 970万B/D協調減産に至る道)
2020.4.23
前田 高行
Maeda1@jcom.home.ne.jp
1.OPEC+(プラス)協調減産以後の米露サウジ原油生産量
2016年12月、OPEC産油国とロシアなど非OPEC産油国が減産について協議した結果、翌17年1月から6か月間両者合わせて120万B/Dを減産することとなった 。OPEC+(プラス)と呼ばれたこの体制はその後数度にわたり延長され、昨年12月には減産幅をさらに170万B/Dに拡大した。この時同時にサウジアラビアは40万B/Dを自主減産すると申し出ている 。
OPECの盟主サウジアラビアと非OPEC産油国の雄ロシア、そしてOPEC+のカルテルに参加しない米国は共に1千万B/D前後の原油を生産する三大産油国である。これら3か国に次ぐ世界4位の産油国カナダの生産量はこれら3か国の2分の1程度(500万B/D強)にとどまり、米露サウジ3か国は世界全体の生産量の4割を占めている。
これら3か国について2017年1月以降の原油生産量を月別に見たのが図2-D-2-25である。
(http://menadabase.maeda1.jp/2-D-2-25.pdf )
なお、各国の生産量データの出典はサウジアラビアがOPEC Monthly Oil Market Report、米国はEIA(米国エネルギー情報局)、ロシアはエネルギー省統計である。ロシアエネルギー省の生産統計はガスコンデンセートを含む月産トン数であり、本稿ではこれをB/D(一日当たりバレル生産量)に換算して比較した 。
2017年1月の3カ国の生産量はロシアが11,111千B/Dと最も多く、次いでサウジアラビア9,809千B/Dで、米国は3か国のなかでもっとも少ない8,863千B/Dであった。その後ロシアとサウジアラビアが協調減産を続けている間に米国では中小業者が多数を占めるシェール石油企業が増産を重ね、2017年11月には1千万B/Dを超え、サウジアラビアをしのぐ世界第2位に躍り出た。さらに2018年8月には1,136万B/Dに達しついにロシアを超えて世界一の原油生産国になっている。
米国の生産量はその後も増え続け、今年1月は1,274万B/Dである。同じ月のロシア及びサウジアラビアの生産量はそれぞれ1,128万B/D及び974万B/Dであり、米国の生産量はロシアを150万B/D、サウジアラビアを300万B/D上回る状態である。因みに2017年1月の生産量を100とした場合、2019年1月の各国の生産量は、米国=144、ロシア=101、サウジアラビア=99となる。この事実は2017年及び2018年の過去2年間、ロシアとサウジアラビアは原油価格を下支えするため生産を抑制したのに対し、米国のシェール石油企業は一気に増産したことを示している。
2. 2017年1月以降の原油価格の推移
次に国際指標原油とされている北海Brent原油及び米国WTI原油の2017年1月以降の月単位の値動きを示したのが図2-D-2-00である。(出典:EIA、米国エネルギー情報局)
(http://menadabase.maeda1.jp/2-D-2-00.pdf)
2017年1月の原油価格はBrentがバレル当たり54.6ドル、WTIが52.5ドルであった。6月にはBrent 46.4ドル、WTI 45.2ドルに下がったが、同月にOPEC+が減産継続を決定して以降 、価格は上昇に転じた。2018年9月にBrent原油は80ドル目前(78.9ドル)まで上昇、WTIも70ドルの大台を超えている(70.2ドル)。
その後、OPECが増産姿勢を見せたため、年末にかけて価格は急落、12月にはBrent 57.4ドルに、またWTIは 50ドルを切る(49.5ドル)水準に落ち込んだ。この時も年末のOPEC+会合で減産継続を打ち出したことにより、翌2019年Brentは60~70ドル台、WTIも50ドル台後半で推移した。
3. OPEC+の協調減産にただ乗りした米国のシェール石油業者
上述の生産量と原油(Brent)価格の推移を重ね合わせたものが図2-D-2-26である。
(http://menadabase.maeda1.jp/2-D-2-26.pdf)
一見してわかる通り2017年1月から2018年9月までは原油価格の上昇に歩調を合わせるように米国の原油生産量が増加している。一方、この間、ロシアとサウジアラビアの生産量は共にほぼ横ばいの状況である。つまりOPEC+の減産による原油価格の上昇を見て米国シェール業者は金融機関から資金を調達、相次いで増産に走ったと言えよう。
技術革新により生産原価が30ドル台に下がったと言われる米国のシェール業者にとって、市場価格50~60ドルは十分すぎるほどの魅力的な価格である。そのため2018年後半以降もシェール業者はさらなる増産を続け、ついに昨年末には生産量が1,300万B/D近くに達し、ロシア、サウジアラビアをしのぐ世界最大の産油国の地位を確立したのである。
この間、ロシアは毎月の変動はあるものの生産量は1,100万B/D前後である。ところがサウジアラビアは価格を維持するために生産量を抑制するスウィング・プロデューサーの役割を担い、1,250万B/Dの生産能力があると公言しながら1千万B/Dを下回る生産を続けてきた。言い換えれば米露サウジ3カ国の中で、サウジアラビアだけが犠牲を払い、米国はOPEC+の協調減産にただ乗りする構図である。
しかしそのような構図を一変させたのがコロナウィルス問題である。中国に端を発したコロナウィルス汚染は世界の経済成長を引っ張って来た同国経済を直撃、さらにウィルスが世界に蔓延して人の往来、物流、サービス等あらゆる面に地球規模の深刻な打撃を与えており、景気回復のきっかけが見当たらないのが現状である。石油市場はこれまでの供給過剰圧力に加え、急激な需要の減退に直面し、価格が崩落する深刻な事態を招いているのである。
(Part 3に続く)