prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

ビューティ・パーラー(10)

2004年10月02日 | ビューティ・パーラー(シナリオ)
○ 表・外
鮫島「(携帯で話している)…ああ、こっちには動きはない」

○ 裏・外
犬山「(相手している)こっちもだ」

○ 中
卯川「(何を聞かされたのか驚いている)えーっ」
和田「冗談じゃないぞ」
笈出「いいから。
迷ってる時間はないんです。
…(卯川に)いいですね」
卯川「(決心してうなずく)やってみます」

○ 裏
鮫島の声「あっ」
犬山「どうした」

○ 表
外にディスプレイされていたテレビの行列に電源が入る。
反射的に一斉にカメラがディスプレイに向けられる。
まず、いつも流している畠山が卯川を世話している宣伝用の映像が流れる。
なんだ、というような外の反応。
と、続いてディスプレイに店の中の情景の中継が映し出される。
「あ、店の中だ」

○ ディスプレイ
ぐらついた、家庭用ビデオで撮った映像が並ぶ。
店の中の光景が生中継されている。
野次馬たち、自分たちが映っているマジックミラーの隣のディスプレイを見ている。
外から少し離れれば、マジックミラーに映っている店の外と、ディスプレイに映っている店の中が一望のもとに見渡せる。
両者の間をせわしなく行き来する眼…肉眼と、カメラの眼とを問わず、さまざまな角度と種類の視線が交錯する。
やがて、ディスプレイの映像が安定して、鮮明になる。
外の一同、息を殺して、何が映るか期待して待つ。
現れたのは、卯川の姿だ。
一瞬、群衆から吐息のようなものが漏れる。
高まる期待。
やがて、卯川の傍らに畠山が姿を現す。
仲睦まじげな二人。
かなりぎこちないしわざとらしいのだが、群衆は食い入るように見ている。

○ 裏
犬山「(連絡を受けて)…なんで、そんなものを放映してるんだ?」
鮫島の声「わからん。
開き直って煽るつもりか?」
浮き足立ちかける犬山。
カメラ、店の外面を覆うマジックミラーに接近する。
そして、そのまま鏡面を突き抜けて、鏡の中の世界…であると同時に、店の中に入り込む。
(ここで、作品世界の幻影・幻想は笈出一人のものにとどまらず、外でたむろしている群衆一般に解放されることになる)。

○ 外装の鏡の中にして、店内
群衆が店の中になだれこんで卯川と畠山を取り囲み踊り出す。
“現実”から飛躍した、時ならぬミュージカル・ナンバーが展開する。

○ 表(現実に戻る)
群衆、水をうったようにディスプレイの映像に見入っている。
突然、店の外の照明が消え、同時にディスプレイも真っ暗になる。
ざわめく群衆。
間…。
店の照明がつく。
マスコミの照明も向けられる。
ライトアップされた店の前。
音楽がかかる。
店の戸が開けられる。
期待は頂点を迎える。
二人の人間が舞台に姿を現した。
笈出と、卯川だ。
しかし、卯川はまったく別人のように扮装を変えている。
肩すかしを食った態で、戸惑う群衆。
「どうなってるの? 違うのが出てきた」
「なんだ、あいつら」
などの、ぼそぼそした会話が交わされる。
鮫島「おかしいな」
犬山の声「それ、おとりじゃないか?」
鮫島「え?」

○ 裏
犬山「さっき、裏口に出たのはおとりだった。
まただますつもりじゃないか」
こっちに少数いた群衆が、表にまわっていく。

○ 表
閉ざされた戸の前で、わざとらしく群衆に手を振る笈出。
同調する卯川。
しかし、群衆は白けている。
「何あれ、そっくりさん?」
「影武者じゃないのか」
しかし、あまりに仰々しい道具建てにつられて、二人に近寄ろうとする者はいない。
      ×     ×
笈出「(小声で卯川と話す)驚いたな。
実物が出てきたのに」
卯川「見たがっていたものと違うのが出てきたんで、認めないんですよ」
笈出「誰だと思ってるんだろう」
卯川「あたしじゃない人」
笈出「なるほど。
では、演技派転向といきますか」
と、わざとらしく手を振る。
引く群衆。
      ×     ×
注視する鮫島。
犬山の声「気をつけろ」
鮫島「違う…みたいだ。いや…違う。本物はあんな手の振り方はしない。もっと慣れてるはずだ」
犬山の声「本当か?」
さらに、和田が現れる。
和田「えーっ、みなさまいらっしゃいませ。いらっしゃいませ。本日は卯川つばさと、こちらのノア美容院の見習い美容師・笈出健夫のロマンス発表会においでいただき、まことにありがとうございます」
はあー?という群衆の反応。
「おい、いくらなんでも嘘だろう」
「人をおちょくってるのか?」
      ×     ×
鮫島、群衆の中に野村がいるのを見かける。
鮫島「(野村に)どう思います」
野村「あれは…彼女じゃない」
鮫島「そうですか?」
野村「間違いない。
彼女があんなバカな真似 するはずない」
卯川と笈出、連れだって歩を進める。
群衆、モーゼを前にした紅海のように割れて、二人を通す。

○ 裏
なおも粘る犬山。
すうっと裏口が細目に開く。
犬山ら、少数者の視線が集中する。
戸が開く。
一斉に、フラッシュが焚かれる。
顔を出したのは、小牧だ。
小牧「(明るく)はーい」
手を振る。
ごそっと上の方から音がする。
犬山「(はっとする)」
誰かが二人、相次いで飛び降り、暗がりにまぎれてそのまま走り去る。
とっさに追いかける犬山、その他。
見送る小牧。

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