prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

ビューティ・パーラー(6)

2004年10月06日 | ビューティ・パーラー(シナリオ)
○ 鏡の中
きれいにヘアメイクを済ませた卯川の前掛けを外す笈出。
解放されて晴れやかに立ち上がる卯川。
服装まで舞台衣装ばりの華やかなものになっている。
それを傍らでしけた顔で見ている笈出。

○ 店
頭を振って妄想を振り払う卯川。
前掛けを取って解放されたのは、小牧の方だ。
席を離れる小牧。
ふと気づくと、畠山が怒りに満ちて笈出を睨んでいる。
周囲の人間もどこか引いた雰囲気だ。
何か畠山が怒鳴ったらしい。
笈出「…え、今なんて言ったんですか」
畠山「聞いてなかったのかっ、だったらもう一度言う。良く聞けよ。クビだっ」
笈出「クビ?」
畠山「そう、クビだっ」
笈出「クビ?…クビね。(開き直る)いいでしょう。むしろそうしてくれた方が踏ん切りがつく」
卯川「それは、ひどいんじゃないですか」
笈出「いや、いいんです。どうせ出ていくつもりだったから」
じっと卯川を見る。
笈出「あなたもここで踏ん切りをつけた方がいいんじゃないですか」
卯川「え?」
笈出「思いきってここで独立を宣言するんです」
畠山「無責任に煽るなよ。おまえとは立場が違うんだ。ごたごたを起こしたら、プロデューサーもスポンサーも離れる。まして前の事務所の社長が使うなと言えばますます客は離れる」
和田「(煽られたようにうなずき)そう、そうだ。簡単にはいそうですか、これからは一人で頑張っていらっしゃいとは言えない」
笈出「そんなの気にすることない。客はマスコミですか。一般のファンですか。あなたを支えているのは、ここにいるような(と、秋月と小牧を示して)くれるファンたちなんですよ」
卯川、ファンたちを見やる。
笈出「こういう見返りなしに純粋にひいきにしてくれているファンに支えられているんです」
卯川、変な顔をする。
小牧がいない。
卯川「あれ、あのお客さんどこに行ったんです」
笈出、探して更衣室を覗く。

○ 更衣室
小牧が携帯でメールを送っている。
笈出「(思わず叫ぶ)何してるんですかっ」
小牧「これだけ面白い話、一人で聞いているのはもったいない」
和田、小牧、畠山も覗いてくる。
笈出「誰に知らせたんです」
小牧「友だち」
笈出「なんという」
笈出「“友だち”って名乗ってる人で、本名は知らない」
和田「冗談じゃない」
小牧「大丈夫ですよ。他にはもらすなってメール打っておいたから」
和田「それって、他に知らせろっていうのと同じなんだけどな」
卯川「(ぼそっと)ファンはありがたいわ」
笈出、店に出ていく。

○ 店
笈出、表のカーテンを細目に開けて見る。
笈出「すごい、もう来た」
和田、飛んできて見る。

○ 店の向かいの物陰
携帯をのぞき込んでいる鮫島の姿が見える。

○ 店
和田「あの様子だと、戻ってきて、ずっと張り込んでるんだろう。
今のネタを知ったら、有無を言わさず突入してくるさ」
笈出「それも、時間の問題だ」

○ 物陰
携帯のメールを見ている鮫島。
はっとした様子。
飛び出してくる鮫島と犬山。
それを遮るように他のマスコミの車が乗り付けてくる。
ぞろぞろと飛び出てくる記者やカメラマンたち。
負けじと店に駆けつける鮫島・犬山。

○ 店
あわてて戸を押さえようとする笈出・畠山・和田。
しかし殺到するマスコミの勢いには勝てず、軽々と戸が押しあけられ、たちまち店の中はマイクとカメラを振りかざす連中でごった返す。
もみくちゃになる卯川。
笈出はなんとかしようとするが、どうにもならない。
   ×     ×
…という場面は、鏡の中の出来事だった。
悪夢から醒めて、冷や汗を拭う笈出。
卯川「ここから脱出できない?」

○ 更衣室
外を窺っている畠山。
畠山「こっちも張り込まれてる」

○ 裏口から少し離れた物陰
犬山が見張っている。

○ 店
秋月「(突然、ドスを効かせて)マスコミ気取りだな」
と、小牧の胸倉をつかむ。
秋月「おまえなど、ファンじゃない」
突然、地の“男らしさ”をむき出しにする秋月。
小牧、あまりの豹変ぶりに度肝を抜かれてしまう。
秋月「人は秘密だと言われたらもらしたくなるんだ。知らないわけじゃないだろう」
小牧「(へどもどして)いや…その…」
秋月「無責任に人を食い物にして喜んでやがる。おまえみたいな人間がいるから世の中が悪くなるんだ」
畠山「落ちついて」
笈出「暴力はいけない」
畠山と笈出、間に入って二人を分ける。
秋月「(肩で息をしながら)あたしが、これがファンだという見本を見せてやるっ」
一同、不思議そうな顔をする。
秋月「いけない、興奮するとメイクが崩れちゃう」
と、また席につく。
秋月「(笈出に)さ、メイク直して」
笈出「え?」
秋月「あたしがおとりになって、マスコミを引きつける。その間に卯川さんを脱出させて」
小牧「そんな」
畠山「無茶ですよ」
和田「いや、いけるかもしれない」
卯川「さっき、あなたさえ(イヤミ)間違えたもの、ね」
和田「(言い返す)そういうおまえはどうするんだ。ここで独立だなんだってごねて時間を無駄にしてマスコミの餌食になるか、とりあえず脱出して後で話し合うか」
卯川「後でって、いつもそうやって話を先伸ばししてきたじゃない」
和田「そうか、餌食になりたいんだな」
卯川「(やむなく)…わかった。出てく」
和田「よし、(笈出に)礼は後でする。急いでくれ」
畠山「俺に頼まないのか」
笈出「やりたい?」
秋月、思い詰めたように恐い顔をして鏡を睨んでいる。
畠山「…いや」
笈出、秋月のメイクを整えだす。
卯川「(秋月に)ありがとう。なんてお礼を言ったらいいか」
と、頭を下げる。
秋月「そんな…お礼だなんて」
と、すぐ感極まって思わずどっとまた泣き出す。
しゅうっ、という感じで涙が両目から噴き出した。
笈出「(あわてて)ちょっと、メイクが崩れますっ」
卯川「そうだ、あたしも変装しよう。
その方がいい」
畠山「イメージ・チェンジしますか」
卯川「(ちょっと浮き浮きしてきて)時間ないから、大ざっぱでいい」
メイクが始まる。
手持ち無沙汰になる和田。
ふと気づくと、また小牧がいない。
和田、急いで更衣室に飛び込む。

○ 更衣室
小牧、戸棚を開けてまわっている。
和田「(小牧に半ば怒鳴る)何してるんですかっ」
小牧「衣装を選んでるのよ。
変装には服装も大事でしょ」
と、悪びれない。
和田「あなた一体、なに考えてるんですかっ」
小牧「どうやったら、次面白くなるか、考えてるの」
和田、目をむく。

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