prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)」

2023年07月31日 | 映画
顔認証と骨格の変化のデータほかを組み合わせて同じ人間の子供の時と成長した時とを照合するシステムを応用して、もともと大人だった工藤新一とそれが縮んだ姿の江戸川コナン、同じく灰原哀と縮んだ姿の宮野志保(コードネーム シェリー)とが同一人物であることが証明されそうになるという根本の設定を揺るがしかねない相当に踏み込んだ設定と展開を見せる。
もっとも途中から敵役が役立たずアプリ呼ばわりしだすのはやや駆け足。この続きでどうなるかわからないが。

おかげでコナンと毛利蘭との絡みが減ってしまった。

デジタルデータの改竄の描き方もどうも慌ただしい。
どちらにしても続きは作られるのだからという安心感の上に成り立っている。





「渇水」

2023年07月30日 | 映画
原作者の河林満は2008年に57歳で亡くなっていて、この作品で1990年の芥川賞候補にもなったらしい。

水道料金を集金してまわるより口座引き落としなりクレジットカードなりで払えばいいだろうと思ってしまうが、そんな余裕がないような貧困層の話ということになる。延滞金の催促というのは人の裏側を見てまわる職業で、公務員=安定というイメージとは違う。30年ちょっと前には珍しかった貧困が蔓延している今、映画化した意義はあった。

母親はまだ幼い姉妹を育児放棄し、それ以前に父親はいない。
局員が姉妹の留守中に訪れると母親がお菓子を置いて出てきたところで、母親が局員を避けたついでに姉妹と行き違ったままになり、姉は置かれたお菓子を捨ててしまい、それを妹が拾う。
このあたり感情の行き違いが描き込まれている。

水は本来タダ、あるいはタダであるべきなのだが、水道料金をとるかその延長線上でペットボトルの水を売って金をとるという商売にしてしまう。
水という生きていく上で必須のものを囲い込んで価値を付加してしまう資本主義の原点みたいなもの出ている。

生田斗真が水源に近い場所に行き豊富な水を目の当たりにして(ここで音楽が珍しく高まる)それに引きずられるように公園の水を出しっぱなしにして警察の厄介になる。
まんまんと水を湛えたプールに姉妹が飛び込むラストは渇きに耐えさせた末に解放する感じ。





「裸足になって」

2023年07月29日 | 映画
どこの国の話だろう、白い建物の感じからしてギリシャかなと思ったらアルジェリアでした。

冒頭、ヘッドフォンをつけて踊るヒロインの姿が音楽抜きで効果音だけで写される。
後で出てくる喋れない人たちの声(音)の欠落を予告するとともに、ディテールに密着して全体像は必ずしもはっきりさせない描き方。

母親に車を買ってやりたくて相当に治安の悪い場所で行われている闘犬や闘鶏ならぬ闘ヤギの賭けに参加していたバレエダンサーのヒロインが、賭けに負けた男に因縁をつけられて階段から突き落とされる。

この闘ヤギが文字通り角付き合わせるかなり激しいもので、胴元がそれぞれのヤギにプーチンとかトランプとかオバマとかビンラディンとかいった仇名をつけて呼ぶのはおよそシャレにならない。

暴行を働いた男がテロの前歴もありしかも警察もグルで逮捕しても釈放してしまうというのだから呆れる。
署長が女というあたり、腐敗に性別は関係ないということか。

さらに活動家でもあるらしかったこれまた女の弁護士が立派な身なりとは裏腹に(比例してと言うべきか)臆病風に吹かれたりする。

ヒロインは足を折ってリハビリに苦労したりして苦闘の連続なのだが仲間が揃っていて、途中からダンスを教えてくれと頼みに来るの救い以上になる。





「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」

2023年07月28日 | 映画
全体が6つのパートに分かれて1、3、5が片山慎三、2、4、6が内田英治がそれぞれ監督しているのだが、それほどカラーの違いは感じなかった。オムニバスみたいになるのかと思ってた。

テアトル新宿で見たのだが、そこのロビーでロケしているのだね。歌舞伎町からいくらも離れていないから当然ではある。

「E.T.」と「バスケットケース」を足して二で割ったような宇宙人騒動や、それにまつわるFBI?の暗躍やら、そのFBIがニンジャマニアで竹野内豊が手裏剣を投げるのを喜んだり、相当にとっちらかっている。





「ヴァチカンのエクソシスト」

2023年07月27日 | 映画
原題はThe Pope' s Exocist = 教皇のエクソシスト。教皇役がフランコ・ネロというのがなんだか嬉しい。

実在したガブリエーレ・アモルト神父の役がラッセル・クロウで自家用車ではなくスクーターにでかい図体を乗せてくるところが可笑しい。助手の神父役が「ドント・ブリーズ」の強盗三人組のうちのひとりダニエル・ゾバットでなかなかのイケメン。

実話でかつ「エクソシスト」ものの定番という、リアルと作り物のバランスをとった作り。
元祖「エクソシスト」がすでに実話ネタではあるのだが、あれはリアリズム(というよりドキュメンタリズム)を方法論として採用していて、実話ネタという「お話」のパターンからはむしろ離れていた。

アモルト神父が戦時中に殺されかけた体験や、ふたりの神父がそれぞれ過去に関わった女性たちが悪魔が見せた幻影として現れるあたり悪魔らしく人間を惑わす。
このあたり、ひとりだけで応対したら巻き込まれてしまったかもしれないところを、憑りつかれた少年の家族も含めて危機に陥りながらも全体としては助け合うところがいい。





「テリファー」

2023年07月26日 | 映画
「魔女」「呪呪呪」など劇場公開の順番が一作目と二作目が逆になる例が目立つが、これもそのひとつ。

思い切り肉体を破壊する志向は変わってなくて、逆さ吊りにした女を股から縦に二つに切り分けるシーンなど、よく出来ているなあ、どうやって作ったのかと思った。

助かりそうな相手をメタメタに殺してしまうのも、上映時間はかなり違う(二作目の方がずっと長い)割に基本的には一緒。
キャラクターが不死身で話が同じパターンなのだから、ホラーにシリーズはよく似合う。




「ニューオーダー」

2023年07月25日 | 映画
中盤から始まる陰惨な監禁・拷問・虐殺がもろに中南米を舞台に「現実に」行われてきたそのまんまで、既視感すら覚えた。反体制が暴れると逆にそれを口実に体制側が弾圧してくるのも一緒。

考えてみると、格差を生んだ新自由主義だのシカゴ学派だのが実験場にしたのがアメリカの裏庭の中南米ですからね。

日本も経済的格差はそのままで、「真綿で首を締める」ような手口しか違わないし、それもいつまで続くことやら。





「EUREKA ユリイカ」

2023年07月24日 | 映画
上映時間四時間、となると内容も自ずと、前半はバスジャックにあった役所広司のバス運転手が自分が容疑者になったりする立場の逆転、後半は半ばロードムービー、それも役所以外の登場人物を徐々に切り落としながらのものとなる。後半、宮崎あおいは無言で最後に口をきく、そのタメを生かすためにもこの時間が必要だったということになるだろう。

モノクロ(白黒で撮ってカラーでプリントしたそうで)映像がセピアに染まりながら回顧的にならない。

バスが半ば住居みたいになるとキャンピングカーみたいに見えてくる。
ラスト、カラーになった画面の空撮は今だったらドローンを使っているだろう。

松重豊の刑事が拳銃を振り回すのが、井の頭五郎で見慣れた今ではなんだか可笑しい。




「アイスクリームフィーバー」

2023年07月23日 | 映画
音楽あるいは音、あるいはストップモーションやスローモーションの使い方が成功とも失敗ともつかない。
女優さんたちがまたアンサンブルになっていない。

70年代のニューシネマにこういう映像処理あったなあと思ったけれど、オシャレに新しがってそうなっているのではなく、銭湯が出てきてその番台が片桐はいりという具合に時間がいつの間にか経ってしまった施設とそれにしがみつかないでいつの間にか降りてしまう人という具合の捉え方をした方がよさそう。





「1秒先の彼」

2023年07月22日 | 映画
清原果耶の役名が長曾我部麗華だったり荒川良々の役名が釈迦牟尼仏(「みくるべ」と読む)といった具合にやたらと長くて漢字の画数が多く、自分の名前を書いている間に自然にふつうの人からワンテンポを遅れてしまうというのが、オリジナルの韓国映画「1秒先の彼女」にひと工夫加えたところ。そういえば韓国人の名前はおしなべて短いなと思った。

「彼女」が「彼氏」になったように主人公の性別が変わったけれど、岡田将生がイケメンな割りにぽーっとした感じなのが「ドライブ・マイ・カー」とはまるで違う。

京都の土地勘を生かして天橋立の鄙びているけれど精練された風景とか学生がやたら多いところとか上手く掬い上げている。

人物だけがストップモーションになっているのに背景の木の葉が動いていたりする(そのくせ打ち上げ花火はストップしている)のは気になった。






「探偵マーロウ」

2023年07月21日 | 映画
マーロウの事務所を女が訪ねてきて、時間差でまた別の女が訪ねてくるというハードボイルドのストーリーテリングの典型的なパターン。
一人目がダイアン・クルーガー、二人目が一人目の実の母親という設定でこれがジェシカ・ラング。役の設定だけでなく、顔もよく似ているんだ。

いわゆる模作(パスティーシュ)で、ホームズものにはそれこそ山ほどあるが、
マーロウものの原作の数が少ないこともあるのだろうが、珍しい。
昔はこんなマーロウものがあるかと言われたエリオット・グールド主演、ロバート・アルトマン監督の「ロング・グッドバイ」がいつの間にか正統派に居座ったように、内容より文体の模倣がモノを言う。
元同僚らしき刑事がやる時はやるのが目立たないがいい感じ。

リーアム・ニーソンの図体のデカさがスーツを着ていると目立つ。
監督二―ル・ジョーダンとしては美術セットになんかコクが乏しい感じ。





「Pearl パール」

2023年07月20日 | 映画
1918年に始まるという時代色に対応して、塗ったようなテクニカラー調だったり、ワイプやアイリスアウトなどの今どきあまりやらないような場面転換のテクニックを使っていたりと、画面の作りは古式ゆかしい(と同時に最新技術を使っている)のだが、描写される内容そのものは作中の白黒サイレント映画に映されるアンダーヘア丸出しのエロ映像のように相当にどぎつい。そのコントラストが印象的。

パールの両親と友人との関係の描き方がおよそ救いがなくてジャンル映画としてのホラーとそれをはみ出た部分がある。
「X」では二役を演じたミア・ゴスが過去に遡ってより閉鎖的で自己完結的な役を演じていて、これ自体独立した一編として見られる。





「交換ウソ日記」

2023年07月19日 | 映画
なんだか回りくどい話。
男子高校生の瀬戸山が、黒田と松本という女子二人のうち黒田を松本と間違える。
この時アトランダムに席替えにあたって自分の席に来る女子を誰が来るのかもわからないのに待ち構えるというのもわからないし、黒田を松本と間違えて思い込むというのも、いつの間にか誤解が解けているらしいというのも、本来本命の筈の松本に対して一向に本気で取り組んでいるように見えないというのもわからない。
結局???と頭の中で並んで終わってしまった。

スマートフォンが普及している中でわざわざ手紙のやりとりするというのも(字はきれいだったが)よくわからない。

瀬戸山が黒田の頭にやたらなれなれしく手をやるのも気になった。





「アシスタント」

2023年07月18日 | 映画
音楽がラスト近くまでかからず、エンドタイトルに器楽曲がかぶさるまではピアノソロという具合に禁欲的な使い方をしている。
静謐で抑制がきいた描写の中で終始ぴりぴり張りつめたような危うさを見せる。

「会長」が姿を現さず、声だけの出演にとどまり、しかも電話で叱責して謝罪を要求してきたかと思うと、メールではヒロインの成長を期待するなど言ってくるのだから混乱する。

ヒロインは一番早く出勤して一番遅く退勤するわけだが、そのヒロインよりもっと遅くまで居残っているのが会長。ある種の”きりのなさ”の象徴のようでもある。

アシスタントのそのまたアシスタントをつとめる女性が早く上がっていいと言われてあっさり言うことを聞く。
微妙にやる気のなさ加減にうんざりしかけながらそう思っていいのかどうか、そう感じてしまう自分を内省しているようでもある。

男たちがスクラムを組んで立ち塞がっているようなホモソーシャルな感じというのは、おそらく自覚していないであろう分タチが悪い。





「リトル・マーメイド」

2023年07月17日 | 映画
ヒロインのアリエルが黒人(印象としては褐色)なことは知っていたが、王子さまの母親が黒人なのはあれ?と思っていたら、血はつながってない設定でした。細かいね。

オリジナルの2Dアニメを見ていないので比較はできないのだが、この時のアリエルの設定はたしかアリッサ・ミラノ(「コマンドー」のシュワルツェネッガーの娘役)がモデルと言われていたはず。
海の一族勢ぞろいの場面では色んな人種と文化代表が勢ぞろいになる。

水中という設定なので髪の毛がふわふわ浮き気味なわりに顔に圧力がかかっていないのは考えてみると不思議。まあ堅いこと言わないでおくけど。

Under The Seaのナンバーは知っていたけれど、海の生き物が幾何学的な形態と素っ頓狂とも思える色彩を割とリアルに再現しているのが自然にちょっとバズビー・バークレイ調になる。