prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

ビューティ・パーラー(4)

2004年10月08日 | ビューティ・パーラー(シナリオ)
○ 店
に入ってくる犬山。
卯川に似せた二人が並んでいるので世にも怪訝な顔をしてじいっと見る。
それでも足りずに、雑誌の表紙と比べて見る。
笈出、続いて入ってくる。
笈出「誰が卯川つばさだって?」
犬山「違う…ようですね」
笈出「ようじゃない、実際違うんだ」
犬山「失礼しました」
と、裏口に戻ろうとする。
畠山「(更衣室から出てきて立ち塞がり)戻らなくていい。表から出ていくといい」
笈出「ご苦労さま」
と、二人して追い出す。
興味津々とした感じでこの騒動を眺めている小牧、秋月。
畠山「(振り向いて)すみません、ばたばたして」
小牧「今の人、見たことある。テレビによく出てるでしょ」
畠山「出てるんじゃなくて、芸能人の回りにまとわりついて、ついでに写ってるだけです」
笈出が、カーテンから覗いていると、犬山は道を隔てた物陰に隠れて見張るのをやめない。
笈出「しつこいな」
秋月「(声をかける)ちょっと」
畠山「すみません、ちょっと待って下さい」
秋月「そうじゃなくて、ちょっと」
畠山「(少し面倒くさそうに振り返って)なんでしょう」
秋月「奥で変な音がしますよ」
笈出、畠山、顔を見合わせる。
慌てて店の客たちのそばを横切り、控え室に飛び込む。

○ 更衣室
鮫島がロッカーを端から開け放ち、覗いてまわっている。
笈出「(飛び込んで来て)何してるっ」
鮫島「すぐ終わりますから」
笈出「警察を呼ぶぞ。いくらなんでもやりすぎだ」
鮫島が卯川の隠れているロッカーの取っ手に手をかける。
笈出「(声を励まし)今、すぐ、そこから離れろ」
鮫島、手をかけたポーズで動かなくなる。
扉が少し飛び出ていて、鍵がかかっていないのは一目瞭然だ。
笈出「(畠山を呼ぶ)来て下さいっ、泥棒ですっ」
畠山「(おっとり刀で現われ)何してるっ、俺の店から出て行けっ」
にらみ合う鮫島と、畠山・笈出。
その時、店から暢気な女の声がする。
「ねえ、まだー?」
畠山「すみません」
笈出「すぐすみます」
鮫島「…じゃあ、すぐすませましょう」
えいと扉を開ける。
と、中には誰もいない。
驚いたのは、鮫島よりむしろ笈出と畠山の方だ。
鮫島、焦って他のロッカーもチェックする。
笈出と畠山、どうなっているのかわからず黙って見ている。
鮫島、引っ込みがつかなくなり、かけてある服の陰なども調べる。
しまいには、机の引き出しまで開けて見る。
鮫島「(それ以上調べる場所がなくなり)…失礼しました」
畠山「(せいぜい動揺を隠して)さっさと出ていけ」
そそくさと裏口から出ていく鮫島。
笈出、急いで鍵をかけ、振り向き、畠山と顔を合わせる。
畠山「…どこに行ったんだ?」
笈出、鮫島がもう調べたロッカーをまた開けて見る。
もちろん、中には誰もいない。
畠山「(笈出を詰問するように)どうやって消したんだ」
笈出「知りませんよ。私は手品師じゃありません」
あたりをチェックする笈出。
笈出「あれ?」
メイクを落とすのに使った脱脂綿が散らばっている。
再びロッカーの中を見て、携帯用メイクセットとさっき卯川に渡した手鏡を見つけて引っ張り出す。
畠山「(セットを見て)こんなもの、あったか?」
また、店から甘えたような声。
「ねえーっ」
畠山「注文の多いお客さまだ」
二人、店に出ていく。

○ 店
出てきた二人、怪訝な顔。
よく見ると、店の客が二人から三人に増えている。
端から見ていく笈出。
秋月と、小牧と… 小牧が呼んだのかと思うと、目をつぶって半分寝ているみたいだ。
澄ました顔で座っているのは、卯川だ。
汗でメイクがはがれたところに、素早く新しく別人のようなメイクを施し、そのままそ知らぬ顔で店に客のような顔で出てきたのだ。
唖然としている笈出、畠山。
畠山「何をなさってるんですか、卯川…」
笈出「(それにかぶせて)卯川つばさが三人いますねっ」
畠山「?…(怪訝な顔)」
卯川「(にっこり笑って)よく似てるって言われます」
小牧「(対抗意識をくすぐられて目をさまし)…そうですか?」
卯川「目元なんて、そっくりだって」
小牧「お宅さまの方が、もっと柔らかいというか、トロンとしていると思いますけれど」
卯川「あら、お宅さまの方こそよく似ていらっしゃるわ」
小牧「まあ、似てるからいいというものでもないのですけれど」
卯川「そうですね。人それぞれですから」
と、自分が表紙になった雑誌を開く。
秋月、不思議そうにちらちらと卯川をうかがっている。
笈出、さりげなく、しかし急いでタオルを卯川の顔にかける。
畠山、じいっとその様子を見ている。
笈出、卯川のメイクを落とし、さらにパックして誰だかわからないようにする。
秋月「(その様子を見ていて、おもむろに)すみません、あたしもあの方と同じパックをして下さい」
笈出「(どきっとしたのを隠して)初めからやり直しですか」
秋月「お手数ですが」
畠山「(笈出に代わって)承知したしました」
小牧「だったら、あたしも」
畠山「同じようにですか」
小牧「ええ」
畠山と笈出、手分けして三人の女にパックを始める。
ところが秋月はスカーフを外そうとしない。
畠山「失礼します」
と、やりにくいので外そうとするが、拒絶される。
やむなく、無理してスカーフを避けてパックする。

○ 鏡の中
グラビアに載っているような卯川の姿が三つ…では足りず、鏡という鏡にさまざまなポーズをとった卯川の姿が写って絢爛と連なっている。

○ 店
やがて、パックの効果待ちになり、とりあえず笈出と畠山の手が空く。
畠山、さりげなく音楽のヴォリュームを上げて笈出を更衣室に連れていく。

○ 更衣室
畠山「(おもむろに)まだ話してなかったが、今度支店を出すことにした」
笈出「それは…おめでとうございます」
畠山「おめでとうじゃないよ、おまえを支店長にするつもりなんだ」
笈出「(驚く)えっ」
畠山「引き受けてくれるか」
笈出「それは…(答に困る)」
畠山「迷うことないだろう」
と、金色のハサミをちらつかせる。
笈出「…」
畠山「(態度が硬化する)そうかい、ところで卯川さんがここにいるのは、どういうわけだ」
笈出「これは口止めされているのですが…」
畠山「口止めって、俺に言えないってことはないだろうっ、俺のお得意様だぞ」
笈出「(素早く用件だけ話す)事務所から独立する予定なので、あまり外には漏らしたくないとおっしやるので」
畠山「(ちょっと撫然とする)そう…それは聞いてなかった」
笈出「(わずかに優越感を見せる)」
畠山「それで、どうなんだ。支店長になるのか、ならないのか」
笈出「(腹を決める)申し訳ありませんが」
畠山「…卯川さんを引き抜くつもりか」
笈出「そんなつもりはありません。ただお客さまによかれと思ってかくまっただけです」
畠山「それだったら、なんで俺にも秘密にする。俺の留守中に来るように仕組んだんじゃないか?」
笈出「そんな工作ができるくらいだったら、改めて引き抜き工作なんてする必要ないでしょ」
畠山「そうか。根回しはなしか」
笈出「ありませんっ」
畠山「だったら…俺と腕比べして決めるか」
笈出「腕…比べ?」
畠山「どっちが卯川さんを守れるか」
笈出「(受けて立つ)…それと、どっちの仕事を気に入っていただけるか」
畠山「俺の相手になるつもりか」
笈出「いつまでも助手じゃありません」
畠山「なあ、独立したいという気持ちはわかる。いずれは独立するものだと思ってた。俺もそうしてきたんだから。だけど、たま たま売り出せたとして、実力がなかったらぽしゃるだけだ。美容師としてやっていくには美容師としての技術があればいいってもんじゃない。金勘定も、人の使い方も知らなくちゃいけない。いったん支店を仕切ってみて、それからでも遅くはないと思うよ」
笈出「(ちょっとぐらっとくる)いいえ、申し訳ありませんが」
畠山「どうしてもか」
笈出「はい」
畠山「おまえを育てるのには随分手をかかったと思うが(少し気色ばむ)」
笈出「すみません」
畠山「それで看板を外して持っていくような真似をするのか」
笈出「しかし、この店を支えるのにこちらも随分尽くしたつもりです」
畠山「(怒りを抑えて)今ここで喧嘩している余裕はないな」
笈出「…はい」
畠山「よし、行こう」
と、率先して店に出ていく。
追う笈出。

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