prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

ビューティ・パーラー(9)

2004年10月03日 | ビューティ・パーラー(シナリオ)
○ ブラウン管
表の戸を開けようとする野村。
      ×     ×
思わず中から押さえる笈出。
もともと鍵がかかっているのだし、もちろん開かない。
その様子はブラウン管には写らない。
      ×     ×
裏口を開けようとする野村。
こっちも同様。
      ×     ×
やがて、ノックの音、ベルの音、大声などなど、さまざまな呼び出しが響いてくる。
しかし中の一同は、貝になったようにそれらを一切無視する。
      ×     ×
やがて、野村はブラウン管の中でレポーター相手に勝手に独演会を始める。
「卯川さんとの噂は本当ですかっ」
「すでに入籍したと言われてますが」
などなど。
鮫島「噂を流したのは、野村さん当人という噂が流れていますが、本当ですかっ」
聞きとがめた野村が反撃に出る。
野村「嘘ですっ、デマですっ」
      ×     ×
卯川「よく言うわ」
      ×     ×
日が落ちて、外は暗くなっているが、外の騒ぎは治まらない。
一同、ブラウン管に見入っていて、表の実景には目もくれない。
外で大勢がうろうろしているのがカーテン越しにわかるが、それをじかに見ようとする者はいない… 小牧が携帯でぼそぼそ話している。
表の情景を直接見ようとしてか、カーンに手をかけた秋月に、 和田「やめろよ…」
弱々しい声をかける。
秋月「あんな勝手なこと喋らせておいていいんですか」
突然、外が明るくなり、群衆がざわめく。

○ 外
マスコミが照明をたいている中、店の中は暗いままでいる。
その店の看板の照明がつけられる。
集まっていた連中が、一斉に注目する。
「なんだ、やっぱりいたんじゃないか」
「何してるんだ」
ざわつく集団が外装のマジックミラーに映っている。

○ 中
畠山「誰が明かりつけたんだ」
卯川「(のっそりと現れ)あたし」
和田「どうした」
卯川「出てく」
和田「無茶言うな。
ハイエナの群れに飛び込んでどうする」
卯川「いつまでもここでじっとしているわけにはいかないでしょう。
これ以上迷惑はかけられないし」
秋月「(横から口を出す)ちょっと、面白いよ」
笈出「何」
秋月、表のカーテンを少し開けてみる。
外でマスコミや野次馬がたむろっているのが見える。
しかし、マジックミラーなので、外からは中は見えない。
特に、外で報道陣がやたらライトを焚いて明るくしているから、なおのことだ。
秋月、それを確認して、カーテンを大きく開ける。
野次馬たちの方が、見る側のつもりで店の中の人間に見られる側にまわっている。
卯川もいったん我を忘れて見物にまわる。
      ×     ×
店の中と外が通底する。
店の中の人間たちにとっては、外のバカ騒ぎは逆に面白い見ものだ。
今までこそこそしていた分、異様に盛り上がって、ガラス一枚隔てた外のマスコミ・一般の野次馬入り乱れてのぐちゃぐちゃの混乱に向かって、ガッツポーズを見せたり、互いに抱き合ったり、Vサインを見せたり、ゴリラのように胸をどかどか叩いたりする。
店内の人間たちの間に、一瞬だが分け隔てのない連帯感が生まれる。
しかし、外の人間たちはそれは見えない。
それをいいことに、中は中で、そして外は外で互いに何の干渉もなく、勝手に盛り上がっている。
その中で野村一人が、せいぜいぴょんぴょん飛び跳ねてまわって注目を集めようとするが、まったくムダ。
蝿が飛んでいる程度の注目しか集まらない。

○ 中
小牧「(携帯で外と話している)…うんうん。
わかった。
(携帯から耳を離して)焦ることないと思うよ。
野村相手じゃ、マスコミも一般大衆も満足できないみたいだから」
笈出「タマが小さいってことか」
和田「じゃ、誰が相手なのを期待してるんだ」
小牧「それはもう…」

○ 外
興奮・羨望・好奇などなど火を吐くような感情に噴き上げられた群衆の目・目・目。
それを映している、“ノア”外装のマジックミラー。
小牧の声「(携帯で話している声)それじゃあ、誰がいいと思う。
いや卯川つばさの相手」

○ 中
畠山「(聞いてびっくり)…俺?」
笈出「でしょうね」
畠山「冗談じゃない」
卯川、笈出をぴったりと見つめている。
笈出「何か」
卯川「いつも助けられてばかりで、一つこちらからも提案があるんですが」
笈出「何です」
卯川「この期待の高まりは使えるかもしれません」
畠山「使う?」
卯川「ちょっと」
と、笈出を少し離れたところに連れていって話し込む。
やや嫉妬の混じった視線で見ている畠山。
笈出「(話を聞き終え)…えーっ? そんなことできるんですか」
卯川「いちかばちか、です。
だめでもともと」
と、和田のところに寄ってくる。
卯川「社長」
和田「何」
卯川「もし、この場を脱出できたら、独立を認めてくれますか」
和田「脱出?」
笈出「どっちにしてもこのままじゃ、彼女の商品価値に傷がつくだけでしょう」
和田「そうだけど…」
笈出「もう独占しておく意味はないんですよ」
和田「(気押され)わかった…何考えてるんだ?」
卯川「ちょっと貸してもらえます?」
と、小牧の持ってきたビデオカメラを手にする。
小牧「どうするの?」
卯川「いいから…(和田に)社長にもやってもらうことがあります」
和田「(思わず)うん」

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