南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき

2021年04月30日 | 地方自治体と法律
(死体の埋葬等を行う者がないときの自治体の責任)
 死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の自治体がこれを行わなければなりません(墓埋法9条1項)。孤独死し、遺体の引取り手がいないときがあたります。
 近年、この数は増えており、”高齢化が進む横須賀市で「無縁遺骨」が急増”(旦木瑞穂・2019年12月東洋経済オンライン)によれば、大阪市がこの法律により火葬を行った件数は、2006年度1860件、2015年には2999件であるそうです。横須賀市では、2002年度までは年10件なかったものが、2005年には約20件、2014年には55件となったとのことです。

(埋葬等の費用の負担者)
 この費用はどのように負担されるるかというと、政令指定都市、中核市はその市が負担し、それ以外の市町村は都道府県が最終的には負担することになります。
 「最終的には」というのは、法令の規定からすると、以下のように複雑だからです。
① 死亡した方に遺留金銭(又は有価証券)があれば、そこから市町村が支払ってよい(墓埋法9条2項、行旅病人及び行旅死亡人取扱法11条)。
② ①で不足なときは、相続人の負担とする(同条)。
③ 相続人から弁償できなかった場合は、扶養義務者に負担させる(同条)。
④ それでも支払いを受けられなかったときは、市町村は、都道府県に費用負担を請求できる(政令指定都市、中核市は自己負担)(行旅病人死亡人等ノ引取及費用弁償ニ関スル件〔明治三十二年六月十七日勅令第二百七十七号〕)。
 いずれにせよ、死体の引取り手がいなければ、件数の増加は、自治体の財政の圧迫要因となることは間違いありません。

(横須賀市の事業)
 横須賀市では、エンディングプランサポートという事業を行っています(前記旦木記事でも紹介)。

なお、埋葬に隣接する問題として、故人の遺品をどのように管理・処理するかという問題があります。
この点について、総務省行政評価局は、令和2年3月「地方公共団体における遺品の管理に関する事例等」(遺品整理のサービスをめぐる現状に関する調査結果報告書別冊)を公表しており、遺品管理に関する問題点の把握には参考になります。


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森長英三郎弁護士と1930年代の弁護士

2021年04月26日 | 歴史を振り返る
森長英三郎(1906年1月10日 - 1983年6月1日)は、日本の弁護士。
 その経歴は
「1936年、弁護士登録。治安維持法違反事件を担当、戦後は自由法曹団に参加、労働事件を担当。三島由紀夫「宴のあと」訴訟でプライバシー権を提起、大逆事件の再審請求も担当。」
と書かれている(ウィキペディア)。
 ウィキペディアによるこの経歴では、戦前、戦後直後の著名事件について触れられていないのであるが、当時の森長の訃報記事では、森長が担当した事件を「戦前は宮本顕治共産党議長のスパイ査問事件の弁護人を務めたほか、戦後はプラカード事件など著名な事件を担当」と紹介されている。

 森長の大逆事件の再審請求をとりあげたのが、田中伸尚著「一粒の麦死してー弁護士森長英三郎の『大逆事件』」(岩波書店)である。田中伸尚は、ノンフィクション作家であり、大逆事件に関する著作が複数ある。本作は、大逆事件に関する連作の第4作とされている。
 
 この本の中に当時の弁護士の状況が、少し書かれている。
 1936年当時、弁護士数は6000人弱であったようである。1912年までは弁護士数は2000人前後で、1923年の弁護士法改正により弁護士が大幅に増員となった。 また、昭和恐慌による不況により弁護士もさらされ、弁護士の経営は楽ではなかた。
 森長は弁護士登録当初、今の言葉で言えばイソ弁ーいや軒弁かもしれないとして事務所に籍を置かせてもらおうと、つてをたどって事務所回りをするのだが、なかなか雇ってもらえない。そこで、これも今の言葉だが、即独、すなわち登録したと同時に独立をして一人で弁護士活動を行っていくのである。
 森長の弁護士登録時は修習がなかった時代である。修習が義務化されたのは、1936年4月からで、当時の修習期間は1年6ヶ月で無給というのも、なかなかに大変だが、修習も受けずに、いきなり即独するのもこれまた大変である。
 

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稲垣總一郎弁護士(千葉県弁護士会物故者)

2021年04月23日 | 千葉県弁護士会
稲垣總一郎 弁護士
1943(昭和18)年2月生
司法修習期 26期
宇都宮での実務修習を経て、1974(昭和49)年4月千葉弁護士会(現:千葉県弁護士会)に登録。
小川彰弁護士のもとで勤務後、独立し、稲垣法律事務所を開業。
千葉県弁護士会では司法修習委長を10年以上にわたって務める。
2020(令和2)年11月17日逝去(享年77歳)。

参考:
井原真吾「稲垣先生を偲んで」(槙48号;2020年度千葉県弁護士会会報)
村上典子「稲垣先生のご逝去を悼んで」(同上)

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不利益な処分への審査請求 (地方公務員)

2021年04月19日 | 地方自治体と法律
(地方公務員法の審査請求の制度)
職員が、自治体からなされた処分に対して審査請求できる場合があります。地方公務員法には、「懲戒その他その意に反すると認める不利益な処分」を受けた職員は、人事委員会又は公平委員会に対して審査請求をすることができると規定されています(同法49条の2)。
審査請求できるのは、ここにいう「不利益な処分」だけで、それ以外の処分については審査請求はできません。
 審査請求は、民間にはない制度で、人事委員会又は公平委員会に対して審査請求できるというのは、地方公務員独特のものです。

(審査請求の利用)
 審査請求ができるのは、「不利益な処分」に対してです。これには、懲戒処分、分限処分が含まれます。懲戒処分や分限処分をされたけれども、どうにも納得が行かないという場合は、審査請求を利用して、不服申立てをすればよいのです。
 高松高裁平成20・9・30(判時2031・44)の事案では、配置転換について審査請求がなされ、人事委員会で認められています。
 事案としては以下のようなものです。
 偽造領収書の作成を手段とした県警察における捜査費等不正支出問題について、同警察警察官が記者会見を行い、県警は同警察官を地域課鉄道警察隊(第2小隊分隊長)から地域課通信指令室(企画主任)に配置換えを行いました。この配置換えに対して、同警察官が県人事委員会に不服申立て、同委員会は、配置転換について、「不利益な処分」に該当し、本件配置換えに至る経緯の不当性、本件配置換えの必要性の不存在等を勘案して、本件配置換えは人事権の濫用であり、配置換えを取消しました。

(水平異動は審査請求利用不可)
 一方、転任処分であっても、不利益を伴わない水平異動の場合は、「不利益な処分」に該当せず、審査請求は認められません。最高裁昭61年10月23日判決(判タ627・94)は、「市立中学校教諭が同一市内の他の中学校教諭に補する旨の転任処分を受けた場合において、当該処分がその身分、俸給等に異動を生ぜしめず、客観的、実際的見地からみて勤務場所、勤務内容等に不利益を伴うものでないときは、他に特段の事情がない限り、当該教諭は転任処分の取消しを求める訴えの利益を有しない」旨判示しています。

(審査請求の件数)
 審査請求の件数は公表されており、千葉県ですと、人事委員会年報に毎年審査請求に関する統計が掲載されています。
 平成29年度〜令和元年度ですと、申立件数は0〜2件という件数で、審査請求の件数ってほとんどないんですねという感じなのですが、年度末の未処理件数が毎年60件くらいあります。これって長期未済案件があるのではないのかと思われるのですね。平成28年度末〜平成30年度末の未処理件数は60件前後で、その間の申立件数が0〜2件なんですから。


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太田金次郎弁護士の経歴と長島毅判事の弁護士観

2021年04月15日 | 歴史を振り返る
以前、阿部定のことを書いて太田金次郎弁護士を取り上げましたが(過去記事)、同弁護士の経歴が書かれた著作を入手できました。
 
明治30年愛知県生まれ。
大正7年京北中学卒業。
大正12年早稲田大学法学部卒業。
同年ベルリン大学に留学。
大正14年9月帰朝。
大正15年度司法科高等試験に合格。
昭和2年弁護士開業。
昭和23年までに東京弁護士会常議員当選4回、東京弁護士会副会長当選1回、日本弁護士協会理事当選2回。
昭和23年当時、東京少年保護司会会長、関東少年保護協会理事四谷防犯協会会長、東京防犯協会連合会常任理事、仏立宗社会事業連盟評議員、日本ロシュ株式会社監査役。
 
(太田金次郎弁護士著「弁護二十年」より)
 
同書には、太田弁護士がまだ若かりし頃、同弁護士の記憶だと17歳ころということだが、長島毅判事(当時横浜地裁判事、後に大審院長)に会ったという話しが載っている。若かりし太田弁護士は、将来弁護士になりたいがどうかと、長島判事に聞いたのだが、判事の発言が興味深い。
「弁護士などになるものではない。 さんざん苦労したところでたかが月収70円止まりがせいぜいだ。 同じ70円稼ぐならもっと楽な他の商売をやった方が良い。」
同書にはこれしか書いてないので、どんな文脈でこの発言があったは分からないですが、弁護士に対してこのような見方をしていた裁判官もあったのだということは、参考になります。
当時の月収70円がどの程度の価値があったのかも分かりませんが、苦労は多いが収入はそれに見合ったほどでもないよ、というニュアンスは読み取ることができます。
 
*******************
2021年4月24日追記
以上の記事は、2021年4月15日にアップしたのですが、その後、太田弁護士がいつ亡くなったかがわかりましたので、追記しておきます。
森長英三郎「日本弁護士列伝」(社会思想社)に「代言人・弁護士伝記書誌ー伝記でみる日本弁護士史」が収められており、この中で太田弁護士の著作(「弁護二十年」及び「法廷やぶにらみ」)について触れられています。
 そして、「太田は東京で刑事弁護を多くしたが、法廷やぶにらみを昭和33年に刊行後まもなく長い病床生活にはいり、昭和44年に死亡した。」との記載がありました。
 
 
 
 
 
 
 

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牛島定弁護士無罪事件

2021年04月12日 | 歴史を振り返る
(概要)
千葉県弁護士会史には、刑事弁護人(千葉弁護士会所属)が事件に関連して名誉毀損罪で起訴された事件が記録されています。
この事件は無罪が確定しており、判例集にも掲載されています(東京地裁昭和34年3月31日判決・判タ93・78)。

(事件の経過)
事案:傷害致死事件の主任弁護人が、新聞記者と共謀して、新聞紙上に、担当裁判長が判決言渡し直前、事件の取調官と会合したうえ、事件の内容を取引した旨の記事を掲載し、これによりその裁判官の名誉を毀損したというもの。
被告人となった弁護士:牛島定弁護士。
名誉毀損罪としての起訴:1957(昭和32)年8月17日
この起訴は、千葉地裁での起訴でしたが、管轄移転の請求があり、東京地裁に移送されています。
*東京高裁昭和32年10月25日決定(東京高裁刑事判決時報8・10・371)。
前記のとおり、同事件は無罪が確定しており、判例集にも掲載されています(東京地裁昭和34年3月31日判決・判タ93・78)。

(本件に関連する訴訟)
・元裁判長(昭和32年に退職)は、1959(昭和34)年、新聞社に対して民事訴訟(名誉回復並損害賠償請求事件)を提起し、1961(昭和36)年に5月17日に元裁判長勝訴の判決がでています(千葉地裁昭和36年5月17日判決・判タ120・95)。
・牛島弁護士は検察官の起訴が違法であるとして、国家賠償訴訟を起こしていますが、検察官が名誉毀損の起訴をしたことについて、故意過失がなかつたとされ、棄却されています(東京地裁昭和38年10月29日判決・訟務月報10・1・61)

(牛島定事件に関する記載)
千葉県弁護士会史には、①「柴田睦夫先生に聞く」から、②「或る冤罪捏造の構図」からの2編が牛島定事件として収められています。
①は弁護団の柴田睦夫弁護士への1991(平成3)年のインタビュー。②は、室山智保弁護士が1984(昭和59)年に千葉県弁護士会会報に掲載したものの転載です。
弁護団:柴田睦夫弁護士、青柳盛雄弁護士、森永英三郎弁護士、石島泰弁護士、室山智保弁護士
 この5名が弁護人であったことは、①②とも一致しております。しかし、①では村井右馬之丞弁護士も挙げられており、「その他千葉・東京など通の弁護士が弁護人となりました」ともあるのですが、後者がどれだけ実質的な関与をしていたかは不明です。


(牛島弁護士の経歴)
1907(明治40)年3月生まれであり、起訴されたときには50歳でした。
柴田弁護士は、牛島弁護士を、「ブルドックと呼ばれ、勇ましく刑事法廷をはじめ活躍しておられた先生」と回顧しています(前記①)。判例を検索すると、次のような刑事裁判例に牛島弁護士が弁護人としてかかわったことがわかります、。
・最高裁昭和25年3月14日判決(最高裁判所刑事判例集4巻3号330頁)。銃砲等所持禁止令違反被告事件。
・東京高裁昭和25年10月17日判決(高等裁判所刑事判決特報15・5)。 窃盗、殺人未遂被告事件。
・千葉地裁昭和26年6月13日判決(最高裁判所刑事判例集11巻2号814頁) 威力業務妨害公務執行妨害傷害被告事件
・東京高裁昭和26年7月27日判決(高等裁判所刑事判例集4巻13号1715頁)。殺人被告事件。
・最高裁昭和27年3月11日(最高裁判所裁判集刑事62号323)。殺人未遂、傷害、脅迫、銃砲等所持禁止令違反
・最高裁昭和27年5月29日判決(最高裁判所裁判集刑事64号757)。窃盗、殺人未遂
・東京高等裁昭和27年10月22日判決(高等裁判所刑事判例集5巻12号2153)。 賍物故買食糧管理法違反被告事件。
・東京高裁昭和28年1月31日判決(最高裁判所刑事判例集11巻1号17頁)。自転車競技法違反被告事件。
・最高裁昭和28年6月19日(最高裁判所刑事判例集7巻6号1342)。 麻薬取締規則違反被告事件。
・東京高裁昭和31年4月24日(高等裁判所刑事判例集9巻4号369)。競馬法違反被告事件。
・最高裁昭和32年1月17日判決(最高裁判所刑事判例集11巻1号1頁)。自転車競技法違反被告事件。
・東京高等裁昭和35年6月14判決(高等裁判所刑事判例集13・5・409)公職選挙法違反被告事件
牛島弁護士の没年は、千葉県弁護士会史には記載がありません。
判例を検索すると、昭和41年の民事事件判決に名前が見えますので(東京高裁昭和41年3月28日判決・判時447・67)、それ以降にお亡くなりになったものと思われます。

(本件事件の位置づけ)
 千葉県弁護士会史では、「刑事裁判官による刑事弁護人に対する弾圧事件」としています。
 しかし、詳しい理由付けはありません。
 元裁判長の新聞社に対する民事訴訟では、謝罪広告まで認められており、新聞報道が不適切であったことは間違いないようです。
 事件の取調官(警察官)と裁判官が会合を持つ等、現代の感覚では信じられないですが、新聞報道の問題や弁護人が取材に対してどう答えるかという問題等様々な問題が含まれているようにも思えます。

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地方公務員の昇格の格差と差別的取扱い

2021年04月08日 | 地方自治体と法律
(昇任・昇格・昇給とは)
 「昇進に差がある」等と俗にいわれたりしますが、地方公務員の場合、裁判例では「昇任・昇格」という言葉が出てきます。
 まず、これらの言葉の違いを見ていきましょう。
 昇任:職員をその職員が現に任命されている職より上位の職制上の段階に属する職員の職に任命すること(地公法15条の2第1項2号)。例;係員が係長になる、課長補佐が課長になる。
 昇格:職員の職務の級を同一の給料表の上位の職務の級に変更すること。
 昇任は任用上の概念ですが、昇格・昇給は給与上の概念です。地方公務員について給与は条例で定められるので(地公法24条5項)、昇格の基準等は条例又は規則で規定されます。
 昇任・昇格と似た言葉に昇給があります。
 昇給:同一の級の中で上位の号棒に変更すること。昇格が職務の級を上位の職務の級に変更することであるのに、昇給は同一の級の中の変更であることが違いです。

(組合員差別)
 地公法56条は、「職員は、職員団体の構成員であること、職員団体を結成しようとしたこと、若しくはこれに加入しようとしたこと又は職員団体のために正当な行為をしたことの故をもつて不利益な取扱を受けることはない。」と不利益取扱いの禁止を規定しています、しかし、労働組合に所属し、活動を行ってきたことを理由として、昇任・昇格に差別的取扱いが行われたとして裁判になったケースはあります。
 在職中に職員組合に所属し、役員として組合活動を積極的に行っていることなどを理由に、昇任等において不当な差別的取扱いを受けたとして、市に対して損害賠償を求め、賠償が認められたものとして静岡地裁浜松支部平成14年2月25日判決(裁判所ウェブサイト)。
 この事例では、原告の昇任が同期採用同学歴職員と比較して著しく遅れていること自体は争いがなく、格差の理由が原告の能力や勤務実績に起因するのか、それとも原告が積極的に組合活動を行っていたことによる差別行為によるものなのかが争点となりました。
 裁判所は、原告の勤務評定書の記載内容から、原告は職務の一般的能力に関し、他の同期採用同学歴職員の平均的な能力を有していたとし、昇任等で格差が生じたのは、原告が組合活動を積極的に行っていたことによるものと認定しました。
 地公法は成績主義・能力主義を採用していますので、当該職員が、他の職員と比べて、能力・適性・勤務実績等に差があれば、昇任等に格差があったとしても違法にはならないことになります。前記判決では、原告が平均的な能力を有しているという認定がなされ、格差は違法であるとされましたが、原告の勤務成績が劣ると認定された場合は、格差は適法であるとの結論となります。
 そのような事案として、全税関横浜支部事件最高裁判決があります(最高裁平成13年10月25日判決・判時1770・153)。この事案は、原告組合員と非原告組合員との処遇を全体的、集団的に見て、昇任等に格差があること、税関当局は原告組合員に対し、全体的、一般的に差別意思を有していたとの認定をしています。しかし、原告の勤務成績は非原告組合員に劣るという認定がさなされたため、原告への格差は適法であるとの結論となっています。

(外国人職員の取扱い)
  自治体は、職員に採用した在留外国人について、国籍を理由として、給与、勤務時間その他の勤務条件につき差別的取扱いをしてはなりません(労基3条、112条、地公法58条3項)。
 しかし、管理職への昇任を前提としない条件の下でのみ就任を認めるという扱いについては、適法とするのが最高裁判例です(最高裁平成17年1月26日判決民集59・1・128)。

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自治体の職員が懲戒処分に不服な場合の方法

2021年04月05日 | 地方自治体と法律
地方公務員が懲戒処分を受けたけれども、納得ができないとき、どうしたらよいでしょうか。

(懲戒処分の指針)
まずは、自治体で懲戒処分の指針とか懲戒処分の基準というものが定められていますので、それを見てください。
それには自治体がどのような事項について、どのような処分を標準としているのかが書かれています。
 例えば、千葉市の懲戒処分の指針の「飲酒運転での交通事故等」という項目では次のようになっています。
ア 飲酒運転で事故を起こした職員は、免職とする。
イ 飲酒運転をした職員は、免職又は停職とする。
ウ(略)
※ 飲酒運転とは、酒酔い運転及び酒気帯び運転をいう。

(懲戒処分の指針をどう読むか)
 この記載をざっと読んでしまうと、酒を飲んで運転したら、懲戒処分になってしまうんだと思ってしまうのが普通ではないかと思います。
 もちろんそのように思って懲戒処分にならないように身を戒めてほしいのですが、やってしまったことが懲戒処分となった、懲戒処分となりそうだという場合は、懲戒処分の指針は法律的に読まないといけません。
 まず、「飲酒運転」というのは単に酒を飲んで運転したという意味ではありません。懲戒処分の指針には、「 飲酒運転とは、酒酔い運転及び酒気帯び運転をいう。」と定義されています。「酒酔い運転」も「酒気帯び運転」も法律上の用語です。両方とも道路交通法に規定されています。
 そうすると、自分が懲戒処分になぜ該当したのかは、道交法の知識も踏まえないと分からないということになります。
 このように、まず懲戒処分の指針をきっちりと読まなければなりません。

(酒気帯び運転を例として)
 酒気帯び運転を例として検討してみましょう。
 酒気帯び運転とは、呼気(吐き出す息のこと)1リットル中のアルコール濃度が0.15mg以上検出された状態をいいます。
 警察が検挙する場合は、呼気検査というものをして、上記以上のアルコール濃度があれば酒気帯び運転として事件として処理することとなります。
 この時点で自治体も事実を了知すれば、職員の懲戒処分を検討することになると思われます。
 しかし、警察が得た酒気帯び運転の証拠は自治体には提供されません。自治体が得られる証拠は、検挙段階では職員からの報告に基本的には限られます。
 ではいつ警察が得た証拠を入手できるかというと、刑事事件が確定したときです(有罪の場合のみ)。これは、警察が検察に事件を送致し、検察が事件を起訴して、裁判所の判断が確定したときです。
 酒気帯び運転のみの場合は通常逮捕はされませんので(在宅捜査)、警察が検察に事件を送致するまで半年、検察の捜査が数ヶ月かかる場合もまれではありません。
 自治体としては、職員の供述のみで懲戒処分を行うのか、刑事事件が確定し確実な証拠を得てから懲戒処分を行うのかの選択になりますが、前者を選択し、早い処分をすることもあります。
 この場合、刑事事件の処分が決まっていない段階での懲戒処分となりますので、後で刑事事件としては不起訴だったということもあり得るわけです。
 実際にこういうケースは存在していまして、酒気帯び運転で懲戒免職処分が行われたけれども、刑事事件は不起訴。そのため、酒気帯び運転の故意を自治体側は立証できず、過失の酒気帯び運転であるとして、懲戒免職処分が取り消されています(東京高判平25・5・29判時2205・125)。
 このように懲戒免職処分等の重い処分がなされた場合は取消しとなる可能性もありますので、専門家に検討を依頼してみることも一案です。

(懲戒免職処分だけでなく退職手当支給制限処分も)
 懲戒免職処分となった場合、退職手当支給制限処分もおってなされることが多いように思われます。少なくとも、裁判例を見ている限り、退職手当を全額支給しないという処分がなされています。
 懲戒免職処分が取り消されれば、退職手当支給制限処分も見直しは必至です。退職手当の支給額が大きい場合は法的に争うことは大きなデメリットを回避できます。


 



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酒気帯び運転のみで公務員に懲戒免職処分(名古屋高裁判決から)

2021年04月01日 | 地方自治体と法律
(飲酒運転に対する厳しい目)
 飲酒運転についての市民の眼は非常に厳しくなりました。
 私が社会に出たころは、酒気帯び運転の罰金の上限は5万円で、検挙1回目罰金5万円、検挙2回目も罰金5万円、検挙3回目にしてようやく正式裁判となっていました。懲役刑の上限は3か月でしたから、正式裁判1回目であれば懲役3月執行猶予3年というのが標準的な刑だったように記憶しています。
 しかし、刑事罰として酒気帯び運転は法定刑が2002年以降厳格化し、その後も法定刑の上限が引き上げられて、現在は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金とされています。
 厳罰化の一つのきっかけとなったのが、福岡市職員が飲酒して死亡事故を起こした事件でした(2006年)。
 このようなこともあり、酒気帯び運転をした公務員の懲戒処分も厳罰化しました。
 そこで今回は、酒気帯び運転のみで地方公務員を懲戒免職処分を肯定した裁判例を見ていきます。

(名古屋高裁平成29年判決の事案)
 今回取り上げるのは、名古屋高判平29・10・20(判例地方自治436・19)です。
 まず、事案の概要です。
 判決をそのまま引用します。
「本件は、名古屋市上下水道局の職員であった1審原告が、酒気帯び運転で検挙されたことを理由として、名古屋市上下水道局長(処分行政庁)から平成27年9月3日付けで受けた懲戒免職処分(以下「本件懲戒免職処分」という。)及び退職手当支給制限処分(以下「本件支給制限処分」といい、本件懲戒免職処分と併せて「本件各処分」ともいう。)はいずれも裁量権を逸脱又は濫用した違法なものであると主張して、1審被告(以下、単に「市」ともいう。)に対し、本件各処分の取消しを求めた事案である。」
 地方公務員に懲戒免職をし、退職手当を支給しないというのは、2つの処分となります。①懲戒免職処分と②退職手当支給制限処分の2つですね。引用したところからは、わかりにくいのですが、②の退職手当支給制限は実質的には退職手当全額について制限されています。つまり、懲戒免職のうえ、退職手当は支払わないという処分を受けたことになります。退職金は計算上2000万円以上となったということですから、この処分が確定すれば、処分を受けた職員は、職も失うし、2000万円も失うことになるわけです。


(免職処分を肯定する事情)
 裁判所が考慮した事情のうち、免職処分を肯定する方向にいくものは次のとおりです。
①本件酒気帯び運転の性質、態様は極めて悪質。その経緯も含めて酌量の余地はない。
・アルコール濃度は呼気1リットル当たり0.29ミリグラムで、道路交通法違反で処罰される基準値の約2倍。
・酒臭は強く顔色は赤く目の状態も充血しており、原告自身も酔いの感覚が多少あったことは自覚していた。
・しかるに、原告は、事務所や車内で仮眠を取るなど飲酒運転を回避するための行動を取ろうともしなかった。
・事務所から原告の自宅までの距離やその当時の天候等からすれば、原告が徒歩やタクシーで帰宅することも容易であったはず。原告が車を運転して帰宅しなければならない必要性も緊急性も全く認められない。
②公務への影響・市政に対する信頼の失墜
・原告は、職務上公用車を使用することが多かったのに、本件酒気帯び運転で検挙されたこと等により、夜間勤務を他の職員と交替せざるを得ない事態を招いた。現に、公務の遂行に支障が生じている。
・近時、飲酒運転の撲滅が強く叫ばれ、市や水道局においても様々な取組を精力的に行っていた。市政や水道事業さらには市の職員に対する市民からの信用を著しく失墜させた。
③勤務状況は良好ではなかった。
・懲戒処分歴はないが、公用車の駐車違反等によって始末書の提出を命じられたり、部長から厳重注意を受けるなどもしており、勤務状況は良好ではない。

(処分を軽くする方向の事情)
①私生活上の非違行為である。
・本件酒気帯び運転は、原告の水道局での勤務の終了後、任意参加の野球部の懇親会(二次会)が終わってから行われたものであるから、私生活上の非違行為にとどまる。職務に連続した行為であると評価することはできない。
②飲酒運転の計画性はなかった。
・被告は、原告が当初から懇親会で飲酒の上で車の運転に及ぶことを意図していたとも主張するのであるが、そこまで推認することのできる証拠はない。
③本件酒気帯び運転は、幸いにも事故を伴うものではなかった。
④原告は、検挙後直ちに、勤務先の上司への報告を試みた。
⑤原告は、昭和52年4月から38年間以上にわたって水道局に勤続してきたものでありながら、本件懲戒免職処分によって地方公務員としての地位を失うこととなるばかりでなく、退職手当の受給権を失う可能性があるなど、生活上も経済的にも多大な不利益を被ることになる。

(処分は妥当との判決)
 以上のような、事情を考慮しつつも、裁判所は免職処分は適法としています。
 また、高裁判決は、退職手当支給制限も適法としています。

(最後に)
この判決は少し厳しい判決かもしれません。
酒気帯び運転のみでの懲戒免職処分を取消した裁判例もありますので。
ただ、こういう厳しい判決が出ることもあることは肝に命じた方が良いかもしれません。

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