(夫婦同氏の合憲性、6月23日に最高裁大法廷で判決)
夫婦同氏が合憲か違憲かについて、2021年6月23日、最高裁大法廷で判決がなされます。
夫婦別姓を認めるか否かについては、2015(平成27)年にも最高裁大法廷での判決があり、このときは夫婦を同氏とする現在の制度は、憲法24条に違反しない(合憲説)とする裁判官が10名、違憲であるとする裁判官が5名に分かれました。
報道では、2015(平成27)年判決について簡単にしか触れていないので、この判決について少し紹介します。
(夫婦同氏の制度)
問題となっているのは、夫婦は婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定めるという規定です(民法750条)。
この夫婦の同氏の制度について、2015年判決は、「婚姻に伴い夫婦が同一の氏を称する夫婦同氏制は、旧民法(昭和二二年法律第二二二号による改正前の明治三一年法律第九号)の施行された明治三一年に我が国の法制度として採用され、我が国の社会に定着してきたものである。」と述べています。
夫婦同氏が、わが国古来からの制度であるという考え方をとる方もおられるようですが、最高裁が認定したのは明治31年からの制度であるということです。明治31年は、西暦でいえば1898年なので、夫婦同氏制度が法制度として採用されてからは120年強ということになります。
2015(平成27)年判決は、夫婦同氏制度の不利益があることも認定していまして、次のように述べています。
①夫婦同氏制の下においては、婚姻に伴い、夫婦となろうとする者の一方は必ず氏を改めることになるところ、婚姻によって氏を改める者にとって、そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり、婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用、評価、名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合がある。
②氏の選択に関し、夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば、妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じている。
③さらには、夫婦となろうとする者のいずれかがこれらの不利益を受けることを避けるために、あえて婚姻をしないという選択をする者が存在することもうかがわれる。
(憲法24条)
本件では憲法24条が大きな争点となっていますので、どのような条文なのかを見ておきましょう。
24条には1項と2項があります。
1項は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」という規定です。
2項は、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定しています。
条文には、夫婦同氏制度をどうするか直接は規定されていません。
そこで、条文を解釈して、夫婦同氏制度が、憲法24条に違反するのかどうか、これを決めたのが、2015年の最高裁の判決ということになります。
(今回最高裁大法廷に回付された理由)
最高裁には15名の裁判官がおり、15名全員が判断に参加するのを、「大法廷」といいます。通常は、5名の裁判官で判断するのですが(第1小法廷、第2小法廷、第3小法廷の3グループがあります)、特に重要な問題などについては大法廷での判断となります。
最高裁に上告された場合、案件は、まず小法廷にかかります。
小法廷での結論が、合憲であった場合は、前回、2015(平成27)年に、「夫婦同氏制度は憲法24条に違反しない(合憲である)」との結論が最高裁大法廷ででておりますので、大法廷に回すことなく、小法廷で「合憲」という判決がでたはずです。
しかしながら、今回、理由の詳細はわからないのですが、小法廷から大法廷に回されています。
これは、小法廷の中では、違憲であるという結論が多数を占めた可能性があるとみています。
小法廷は裁判官が5名いますので、そのうち3名が違憲説をとった場合、2015(平成27)年最高裁判決の結論と異なりますので、この場合は、小法廷では判決が出せず、大法廷に回さなければならないことになっています。
大法廷に回った理由については、公表はされないので、報道でもこの点は触れられていませんが、このような理由から大法廷に回ったと私はみています。
(2015年判決多数意見が合憲とする理由)
2015年判決多数意見が、夫婦同氏制度を合憲とした理由についてみておきましょう。
①氏は個人の呼称としての意義があり、名とあいまって社会的に個人を他から識別し特定する機能を有するものであって、夫婦及び嫡出子がいずれも氏を同じくする制度は合理性があるということです。
以下、最高裁判決を引用します。
「氏は、家族の呼称としての意義があるところ、現行の民法の下においても、家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。
そして、夫婦が同一の氏を称することは、上記の家族という一つの集団を構成する一員であることを、対外的に公示し、識別する機能を有している。特に、婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ、嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があると考えられる。また、家族を構成する個人が、同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成する一員であることを実感することに意義を見いだす考え方も理解できるところである。さらに、夫婦同氏制の下においては、子の立場として、いずれも親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる。
加えて、本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく、夫婦がいずれの氏を称するかは、夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられている。」
②夫婦同氏制度で不利益を被る者がいること自体は、最高裁も認識しているのですがそのような不利益は、通称使用により緩和されるからよいだろうという判断をしています。
「夫婦同氏制は、婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく、近時、婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ、上記の不利益は、このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。」
(選択的夫婦別氏制度について)
選択的夫婦別氏制度についての関心が高まっているところですが、2015年判決多数意見は、この点は立法論であるとしています。つまり、夫婦同氏制度を採用するか、選択的夫婦別氏制度を採用するかは、国会が論ずべきことで、憲法違反かどうかの問題は生じないというのが、最高裁多数意見の立場です。
「なお、論旨には、夫婦同氏制を規制と捉えた上、これよりも規制の程度の小さい氏に係る制度(例えば、夫婦別氏を希望する者にこれを可能とするいわゆる選択的夫婦別氏制)を採る余地がある点についての指摘をする部分があるところ、上記の判断は、そのような制度に合理性がないと断ずるものではない。上記のとおり、夫婦同氏制の採用については、嫡出子の仕組みなどの婚姻制度や氏の在り方に対する社会の受け止め方に依拠するところが少なくなく、この点の状況に関する判断を含め、この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである。」
(2021年判決の注目ポイント)
以上、2015年判決多数意見の見解を中心に紹介していきました。
今回、新たに最高裁が判断を行うのですが、注目ポイントとしては、次のようなものがあるかと思っています。
①前回合憲説10対違憲説5であった、裁判官の比率がどう変わるのか。一挙に、違憲説が多数を占めるのか。
②合憲説が再び多数となった場合、2015年判決多数意見の見解を多少でも修正・補足するのか、それともそのようなものはないのか。
(追記)6月23日
1 2021年大法廷判決が合憲か否かについて、合憲論が多数意見を占め、違憲論は少数意見にとどまると思います。
(理由)
①2015年判決のときも現在も最高裁判事である者が3名おりますが、この3名はいずれも合憲論をとっていたので、今回も合憲論をとるでしょう。
②裁判官出身、検察官出身者は基本的には現体制維持の思想が強いので、これらの最高裁判事は合憲論を取る可能性が強いと考えられます。
③前回は女性裁判官3名が違憲論を取りましたが、今回女性裁判官は2名です。
④これらを勘案すると、2015年判決と同様の合憲論10対違憲論5もありうるところですが、希望的観測として8対7、又は9対6と予測します。
2 多数意見は、理由も前回の大法廷判決を引用するだけで、詳細な理由は述べないと予測します。
前回の大法廷判決からさほど時間が経過していないこと、また、前回の大法廷判決は詳細な理由を付していましたので、それに付加することは、現時点ではほとんどないのではないかと思われます。
3 個人的には、個別意見に注目していますが、国会は多数意見の見解しか見ないことがほとんどなので、個別意見が立法動向に影響を与えるようなことはないだろうと見ています。