南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

家事審判での裁判官の忌避を申立てる

2022年02月07日 | 家事事件関係
(法的根拠)
 家事審判でも裁判官(審判官)の忌避を申立てることはできます。
 法律上の根拠は、家事事件手続法11条になります。
第十一条 裁判官について裁判又は調停の公正を妨げる事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができる。
2 当事者は、裁判官の面前において事件について陳述をしたときは、その裁判官を忌避することができない。ただし、忌避の原因があることを知らなかったとき、又は忌避の原因がその後に生じたときは、この限りでない。

(忌避申立てと手続きの停止)
 忌避を申立てた場合、裁判所の対応は次の二通りがあります。
A 次のような要件を充たす場合は、忌避を申立てられた裁判官自身が却下の判断を行う(簡易却下)
ア 家事事件の手続を遅滞させる目的のみでされたことが明らかなとき。
イ 当事者は、裁判官の面前において事件について陳述をした後で、裁判官を忌避した場合。ただし、忌避の原因があることを知らなかったとき、又は忌避の原因がその後に生じたときは、この限りでない。
ウ 忌避の申立てについての最高裁判所規則所定の手続きに違反するとき。
B 裁判官が合議体で忌避が妥当かを判断する。

 法律上は、Bの方が原則として書いてあります(家事事件手続法12条)。この場合、もともとの手続きは停止します(同条4項)。
 しかし、忌避の申立ての度に、このような強力な効果を与えてしまったら、手続きは進まなくなってしまいます。そこで、忌避を申立てられた裁判官自身が判断できるし、この場合は手続きは停止しない(同条5項、7項)という簡易却下の制度を規定しています。
 簡易却下には、前記ア~ウの要件がありますが、もっとも用いられるのは、「ア 家事事件の手続を遅滞させる目的のみでされたことが明らかなとき。」でしょう。

(忌避を認めない決定についての異議申立手段~即時抗告)
 忌避を認めない決定について異議申立てをしたい場合には、即時抗告ができます(同条9項)。
 家事事件手続法の即時抗告は、「審判」に対するものと、「審判以外の裁判」に対するものをわけていますので、この二つを取り違えてはいけません。
 忌避を認めない決定は、「審判以外の裁判」になりますから、同法99~102条の規定が適用されます。
・即時抗告は1週間以内に行わなければなりません(同法101条1項)。
・即時抗告をしても、執行停止効はありません(同条2項)。

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財産分与とオーバーローン住宅

2021年08月02日 | 家事事件関係
(はじめに)
 離婚に伴って夫婦の財産関係を精算するのが財産分与ですが、不動産があるとややこしくなる場合があります。住宅がオーバーローン状態の場合もその一つです。

(オーバーローン状態の住宅とは)
 住宅ローンを利用して不動産を購入し、ほどなくして離婚ということになると、オーバローンということがほとんどです。
 例えば、不動産を売ると2000万円にしかならないのに、住宅ローンとしては3000万円残っているという場合です。このように、住宅ローンの方が不動産の時価よりも上回る(オーバー)場合をオーバーローン状態といいます。

(オーバーローンの住宅は財産分与の対象にならない)
 オーバーローンの住宅は財産分与の対象にならない、またオーバーしたローン部分は財産分与で考慮しないというのが、今の裁判官の考えです(「財産分与と債務」(松谷判事;判例タイムズ1269号)。
 具体的に考えてみましょう。
 先ほどの例で考えてみます。不動産の時価は2000万円で住宅ローンは3000万円でした。
 離婚の財産分与では、この不動産の価値を次のように考えます。
2000万ー3000万
=ー1000万円
⇒0円
 計算するとマイナスになりますが(だからこそオーバーローンというのですが)、マイナス部分は考慮に入れないということになっています。
 財産分与の対象にならないということは、判決になった場合は、住宅は財産分与でカウントされず、もとの名義のままということになります。

(住宅の問題は先送りされるだけ)
 もとの名義のままということは、住宅については問題が先送りにされるだけです。住宅ローンは誰かが支払っていかなければならないけれども、売るに売れない状態です。オーバーローン状態でも、売却することは法律上は可能ですが、売却金額で支払いきれないローン部分は一括での支払いを求められることになり、マイナス部分が顕在化してしまうからです。
 不動産も住宅ローンもどちらか一方の名義であれば、他方の配偶者はこの問題にタッチしなくて済みますが、共有名義だった場合、住宅ローンの連帯債務者や連帯保証人になっている場合については問題は大きいです。

(ではどうするべきか)
 オーバーローンの住宅の問題が残っても、とにかく離婚を急ぎたいという場合は、問題を切り離すという選択肢もありです。
 しかし、そのような問題を残したくないというのであれば、離婚の話合いの中でオーバーローンの住宅をどのようにするのかということも話合っておいた方がよいです。
 そうでないと、離婚が成立した後も話合いを続けなければならないことになってしまうからです。
 数字的にはマイナスの価値しかないものをどのように決めていくかは、困難を伴うものですが、夫婦で決めたことの後始末としては必要なことと考えるほかありません。


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結婚していない男女の付合いで妊娠・中絶したことへの損害賠償

2021年07月16日 | 家事事件関係
(はじめに)
 結婚していない男女の付合いで、女性が妊娠し、やむなく中絶に至った場合、女性は男性に対して損害賠償できるのかという問題があります。両者でよく話し合って解決すべき問題ですが、話し合いがうまく行かない場合に問題となります。

(男性の損害賠償義務を認めた東京高裁の判決)
 妊娠中絶した場合に女性から男性に対して損害賠償を請求できるかという問題に一つの解決を与えたのが、東京高裁平成21年10月15日判決(判例時報2108号57頁)です。
 この判決は、女性から男性への損害賠償請求が認められる場合があると判断しました。
① 妊娠中絶をしたときから、女性は直接的に具体的及び精神的苦痛にさらされるし、経済的負担をせざるをえない。
 よって、女性は男性からその不利益を軽減し、解消するための法的利益を有する。
 男性が女性の不利益を軽減・解消しない場合は不法行為となって、男性が損害を賠償する義務を有する。

(請求できる額)
 では、何を請求できるかですが、紹介した東京高裁判決のケースでは、治療費と慰謝料が認められています。
 治療費は68万円かかっていたのですが、請求できるのは、その半額34万円としています。また、別途慰謝料(100万円)を認めています。
 慰謝料は個別要素により左右され、別の判決では、慰謝料50万円としたものもあります(東京地裁平成24年5月16日判決)。

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最高裁への異議申立〜特別抗告と許可抗告

2021年07月12日 | 家事事件関係
(はじめに)
 婚姻費用の家事審判について即時抗告を高裁に対して申立て、それについて高裁の決定が出たとき、高裁の決定に対してどのような異議申立の方法があるか考えてみます。例えば、次のような事例になります。
(事例)妻から夫に対して婚姻費用の請求の調停が申し立てられ、調停は成立せず、家裁で審判が出た。夫はこれに不服であり、高裁に即時抗告をした。高裁は夫の主張を一部認め、家裁の審判を一部変更した。

(最高裁への異議申立〜特別抗告と許可抗告)
 事例のような場合、妻側からも夫側からも不満が残る可能性があります。
 不服申立の方法としては、最高裁への特別抗告と許可抗告があります。それぞれについて見ていきましょう。
 なお、いずれの場合も申立てをしただけでは執行停止の効力がありません。つまり、高裁での決定どおりに婚姻費用が支払われない場合は、妻は夫に対して強制執行ができ、夫の給料などの差押えができます。執行停止の効力を得たければ、別途執行停止の裁判を経る必要があります。

(特別抗告)
 特別抗告は、憲法解釈の誤りがあるか、憲法違反があることを理由とすることが申立ての要件です。
 憲法問題にならないと、特別抗告を申立てできないのです。高裁への即時抗告に比べると非常に狭き門です。

(許可抗告)
 許可抗告は、判例違反又は法令の解釈に関する重要な事項を含む場合に限られます。特別抗告が憲法問題に限られていることからすると、こちらの方が申立ての要件としては広いとはいえるでしょう。
 〈許可〉抗告といわれる理由は、申立てに一応理由があるかどうかを決定をした高裁が許可する権限があるからです。つまり、高裁が許可しないと最高裁にまで事件が上がらない、そこでおしまいということになります。このような制度にしているのは、最高裁には裁判官が15名しかおらず、処理能力が限られているからです。通常の訴訟に比べて、即時抗告の決定については、最高裁に審理してもらうこと自体が高いハードルがあるのです。
 
(手続き)
 特別抗告又は許可抗告は、高裁の決定を受けとってから5日以内にしなければなりません。高裁への即時抗告は14日以内ですか、これに比べるとかなり忙しいことになります。非常に短期間に行わなければならないので、弁護士を依頼されている場合は、最高裁まで争うか否か、高裁決定が出る前に協議をしておいた方が良いです。


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履行勧告は使える制度か?

2021年06月28日 | 家事事件関係
(履行勧告とは)
「家庭裁判所で決めた調停や審判などの取決めを守らない人に対して,それを守らせるための履行勧告という制度があります。」
履行勧告は、こんな感じに説明されており、家裁での調停等で決めたことを守らせ用とする制度です。

(具体的には)
具体的な手段としては次の様に説明されています。
「相手方が取決めを守らないときには,家庭裁判所に対して履行勧告の申出をすると,家庭裁判所では,相手方に取決めを守るように説得したり,勧告したりします。」
 履行を希望する者が家裁に申出をすると、家裁が説得・勧告をしてくれるというのです。
 もっとも、実際には「履行勧告書」なる書面を家裁が相手方に送付するだけです。
 書式としてはこんな感じです。

*******
 履行勧告書

 当庁平成*年**号事件の和解条項に定められた養育費について、**さん(権利者)からあなたの支払いが遅れているとの申し出がありました。
 申し出によりますと、遅滞額は*万円です。
 すでにご存知のことと思いますが、和解により定められたことは確定判決と同じ効力があり、必ず履行しなければなりません。
 つきましては、*月*日までに未払金*万円を支払われるよう勧告します。
 支払いの困難な事情がある場合等は、*月*日までに当職宛に電話または書面によりその事情を説明してください。
 なお、この勧告は、権利者の申し出にもとづいておりますので、すでに履行している場合、不履行金額に誤りがある場合は、ご面倒ですが、当職宛に支払日と支払金額をご連絡ください。
 連絡は、月曜から金曜日(休日を除く)の午前9時から午後4時までにお願いします。
*******
 
(履行勧告に強制力はない)
 説得や勧告をしてくれるといっても残念ながらこのような程度であるというのが現実です。
 法的な強制力もありません。つまり、相手が無視してしまえば、ほどんど無力です。
「履行勧告の手続に費用はかかりませんが,義務者が勧告に応じない場合は支払を強制することはできません。」
 このように、履行勧告に強制力は無いため、相手の良心に期待する制度であるとは言えます。
 履行勧告を行っても、相手が履行しない場合は、強制執行を行うかどうかを検討することとなります。

 



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嘘をついて結婚したことは離婚原因になるか

2021年06月24日 | 家事事件関係
(問題の所在)
 恋愛をしているときというのは、自分をよく見せようという心理が働くものです。結婚した後に、言ってたことと違ったことがわかったとなると、夫婦間では喧嘩になること間違いなしです。
 夫婦喧嘩をしてもよく話し合って、少々オーバーな表現はあったかもしれないけれど、まあ仕方ないと元の生活を取り戻せればよいですが、それがもとで何か法律上できませんかねということになりますと穏やかではありません。
 婚姻前に話したことが嘘であった、言うべきだったことを言ってなかったではないかということは、時々ご相談でも伺うのですが、法律上はどう考えられるのでしょうか。

(婚姻取消しになるか)
婚姻取消しという制度があります。
「詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる」と民法に規定されています(747条1項)。
ここでの「詐欺」とはどのようなことをいうのでしょうか。この言葉を緩く解釈してしまいますと、婚姻の取消しもしやすくなります。取消しというのは、一旦成立したものの効果をなくしてしまうものです。ましてや婚姻をすれば子どもが生まれることもありますし、いろいろな法律上の関係が積み重なってしまいますから、そうそう簡単に取消しを認めるわけにはいかないように思います。
そんなことを考えてのことなのでしょう。法律家はここでの詐欺は、人の属性について虚偽の事実を告げたり、不利な事実を黙秘するものだが、そういう行為の中でも「一般人について相当重要なものとされる程度の錯誤に陥ったこと」が必要だと言っています。相当強度な違法性が必要だということです。

(婚姻取消しの裁判例)
実際の例を挙げたいのですが、ほとんど裁判例がないようです。昭和13年判決という古い判決がよく引き合いに出されています。
仲人から男性は薬剤師で、月給90円と聞いて結婚したのに、薬剤師の免許もなく、また月給は70円だったというケースです。このような場合には、婚姻の取消しは認められないというのが結論でした(東京地裁昭和13年6月18日判決)。
 私の感覚でいうと、だいぶ酷いケースのような気もするのですが、まあ、そういう裁判例があります。

(婚姻取消しには期限がある)
この婚姻の取消権というもの、詐欺だということがわかってから3ヶ月以内に取消しを請求しなければなりません(民法747条2項)。そういう意味では取消しというのは、はなはだ使いにくい制度で、裁判例がほとんどないのは、この3ヶ月以内に請求をしなければならないということにも理由があるのかもしれません。

(離婚原因にならないか)
 私はこの問題は離婚原因との絡みで問題とすることはできると考えています。
 婚姻生活は全人格的なものです。結婚前の浮気を知ったことで、それまでに夫婦が築いてきたお互いの信頼関係は壊れてしまうのが通常ではないでしょうか。
 嘘を言われた方は信頼関係がなくなったことを相手に伝え、今後の夫婦関係を考え直していくことになるかと思います。そのような話し合いをして信頼関係が回復すれば、婚姻関係は続いていくことでしょう。しかし、不幸なことに、相手が嘘ばかりついて自分を守ろうとしているとか謝罪をしないということであれば、お互いの信頼関係は壊れていき、婚姻関係は破綻へと向かっていくのではないかと思います。
 このように結婚前の嘘といったできごとを今すぐに離婚原因とすることはできませんが、そのことをきっかけに話し合いをしたその結果が悪く作用すれば、離婚原因の一つとなっていく可能性はあるのではないか、そのように考えています。

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夫婦同氏の合憲性についての、2015年最高裁大法廷判決

2021年06月22日 | 家事事件関係
(夫婦同氏の合憲性、6月23日に最高裁大法廷で判決)
 夫婦同氏が合憲か違憲かについて、2021年6月23日、最高裁大法廷で判決がなされます。
 夫婦別姓を認めるか否かについては、2015(平成27)年にも最高裁大法廷での判決があり、このときは夫婦を同氏とする現在の制度は、憲法24条に違反しない(合憲説)とする裁判官が10名、違憲であるとする裁判官が5名に分かれました。
 報道では、2015(平成27)年判決について簡単にしか触れていないので、この判決について少し紹介します。

(夫婦同氏の制度)
 問題となっているのは、夫婦は婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定めるという規定です(民法750条)。
 この夫婦の同氏の制度について、2015年判決は、「婚姻に伴い夫婦が同一の氏を称する夫婦同氏制は、旧民法(昭和二二年法律第二二二号による改正前の明治三一年法律第九号)の施行された明治三一年に我が国の法制度として採用され、我が国の社会に定着してきたものである。」と述べています。
 夫婦同氏が、わが国古来からの制度であるという考え方をとる方もおられるようですが、最高裁が認定したのは明治31年からの制度であるということです。明治31年は、西暦でいえば1898年なので、夫婦同氏制度が法制度として採用されてからは120年強ということになります。
 2015(平成27)年判決は、夫婦同氏制度の不利益があることも認定していまして、次のように述べています。
①夫婦同氏制の下においては、婚姻に伴い、夫婦となろうとする者の一方は必ず氏を改めることになるところ、婚姻によって氏を改める者にとって、そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり、婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用、評価、名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合がある。
②氏の選択に関し、夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば、妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じている。
③さらには、夫婦となろうとする者のいずれかがこれらの不利益を受けることを避けるために、あえて婚姻をしないという選択をする者が存在することもうかがわれる。

(憲法24条)
 本件では憲法24条が大きな争点となっていますので、どのような条文なのかを見ておきましょう。
 24条には1項と2項があります。
 1項は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」という規定です。
 2項は、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定しています。
 条文には、夫婦同氏制度をどうするか直接は規定されていません。
 そこで、条文を解釈して、夫婦同氏制度が、憲法24条に違反するのかどうか、これを決めたのが、2015年の最高裁の判決ということになります。

(今回最高裁大法廷に回付された理由)
 最高裁には15名の裁判官がおり、15名全員が判断に参加するのを、「大法廷」といいます。通常は、5名の裁判官で判断するのですが(第1小法廷、第2小法廷、第3小法廷の3グループがあります)、特に重要な問題などについては大法廷での判断となります。
 最高裁に上告された場合、案件は、まず小法廷にかかります。
 小法廷での結論が、合憲であった場合は、前回、2015(平成27)年に、「夫婦同氏制度は憲法24条に違反しない(合憲である)」との結論が最高裁大法廷ででておりますので、大法廷に回すことなく、小法廷で「合憲」という判決がでたはずです。
 しかしながら、今回、理由の詳細はわからないのですが、小法廷から大法廷に回されています。
 これは、小法廷の中では、違憲であるという結論が多数を占めた可能性があるとみています。
 小法廷は裁判官が5名いますので、そのうち3名が違憲説をとった場合、2015(平成27)年最高裁判決の結論と異なりますので、この場合は、小法廷では判決が出せず、大法廷に回さなければならないことになっています。
 大法廷に回った理由については、公表はされないので、報道でもこの点は触れられていませんが、このような理由から大法廷に回ったと私はみています。

(2015年判決多数意見が合憲とする理由)
 2015年判決多数意見が、夫婦同氏制度を合憲とした理由についてみておきましょう。
①氏は個人の呼称としての意義があり、名とあいまって社会的に個人を他から識別し特定する機能を有するものであって、夫婦及び嫡出子がいずれも氏を同じくする制度は合理性があるということです。
 以下、最高裁判決を引用します。
「氏は、家族の呼称としての意義があるところ、現行の民法の下においても、家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ、その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。
 そして、夫婦が同一の氏を称することは、上記の家族という一つの集団を構成する一員であることを、対外的に公示し、識別する機能を有している。特に、婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ、嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があると考えられる。また、家族を構成する個人が、同一の氏を称することにより家族という一つの集団を構成する一員であることを実感することに意義を見いだす考え方も理解できるところである。さらに、夫婦同氏制の下においては、子の立場として、いずれも親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる。
 加えて、本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく、夫婦がいずれの氏を称するかは、夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられている。」
②夫婦同氏制度で不利益を被る者がいること自体は、最高裁も認識しているのですがそのような不利益は、通称使用により緩和されるからよいだろうという判断をしています。
「夫婦同氏制は、婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく、近時、婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ、上記の不利益は、このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。」

(選択的夫婦別氏制度について)
 選択的夫婦別氏制度についての関心が高まっているところですが、2015年判決多数意見は、この点は立法論であるとしています。つまり、夫婦同氏制度を採用するか、選択的夫婦別氏制度を採用するかは、国会が論ずべきことで、憲法違反かどうかの問題は生じないというのが、最高裁多数意見の立場です。
「なお、論旨には、夫婦同氏制を規制と捉えた上、これよりも規制の程度の小さい氏に係る制度(例えば、夫婦別氏を希望する者にこれを可能とするいわゆる選択的夫婦別氏制)を採る余地がある点についての指摘をする部分があるところ、上記の判断は、そのような制度に合理性がないと断ずるものではない。上記のとおり、夫婦同氏制の採用については、嫡出子の仕組みなどの婚姻制度や氏の在り方に対する社会の受け止め方に依拠するところが少なくなく、この点の状況に関する判断を含め、この種の制度の在り方は、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである。」

(2021年判決の注目ポイント)
 以上、2015年判決多数意見の見解を中心に紹介していきました。
 今回、新たに最高裁が判断を行うのですが、注目ポイントとしては、次のようなものがあるかと思っています。
①前回合憲説10対違憲説5であった、裁判官の比率がどう変わるのか。一挙に、違憲説が多数を占めるのか。
②合憲説が再び多数となった場合、2015年判決多数意見の見解を多少でも修正・補足するのか、それともそのようなものはないのか。

(追記)6月23日
1 2021年大法廷判決が合憲か否かについて、合憲論が多数意見を占め、違憲論は少数意見にとどまると思います。
(理由)
①2015年判決のときも現在も最高裁判事である者が3名おりますが、この3名はいずれも合憲論をとっていたので、今回も合憲論をとるでしょう。
②裁判官出身、検察官出身者は基本的には現体制維持の思想が強いので、これらの最高裁判事は合憲論を取る可能性が強いと考えられます。
③前回は女性裁判官3名が違憲論を取りましたが、今回女性裁判官は2名です。
④これらを勘案すると、2015年判決と同様の合憲論10対違憲論5もありうるところですが、希望的観測として8対7、又は9対6と予測します。
2 多数意見は、理由も前回の大法廷判決を引用するだけで、詳細な理由は述べないと予測します。
 前回の大法廷判決からさほど時間が経過していないこと、また、前回の大法廷判決は詳細な理由を付していましたので、それに付加することは、現時点ではほとんどないのではないかと思われます。
3 個人的には、個別意見に注目していますが、国会は多数意見の見解しか見ないことがほとんどなので、個別意見が立法動向に影響を与えるようなことはないだろうと見ています。




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モラハラは裁判所にわかってもらえるか

2021年06月12日 | 家事事件関係
Q 配偶者からモラハラされていましたが、裁判所で分かってもらえるものでしょうか?

調停と裁判(訴訟)では、裁判所の理解の仕方が違います。

【調停の場合】
調停はあくまでも話し合いの場。調停委員は、証拠をみて事実を認定するという作業をしません。
ですから、モラハラを一方はしたと言っているけれども、一方はしてない、そんなこと言ってないということになれば、調停委員からは、こんな感じの反応になることが多いようです。

「あなたは配偶者からモラハラされたって言ってるけど、相手はそんなことはしてないって言ってるから、私たちとしてはどちらが正しいのか決められません。だから、この点はそれ以上立ち入らないでお互いが合意できるところがあるかを話し合っていきましょう」

モラハラ被害者からすれば、理解されなくてがっかりですが、裁判所は中立であることが建前なので、片方だけの味方にはなってくれません。それが、裁判所の、特に調停での限界です。

ただ、モラハラなどというものを理解していない調停委員もまだまだ多いです。
そんなのモラハラじゃないというようなリアクションをされてしまうこともあるでしょう。何のために調停をしているのか分からなくなってしまうときもあるでしょう。そういうときは、何らかのサポートを得ながら、対策を立てて進めていった方が良いです。

【裁判(訴訟)の場合】 
裁判官は、判決を書くときは、証拠に基づいて、モラハラがあったかなかったかを認定していきます。この〈事実認定〉をしていくことが裁判官の役目です。

ここで注意したいのが、「判決を書くときは」というところです。じゃあ、判決を書くまではどうかというと、裁判官はポーカーフェイスでなかなか考えを明らかにしてくれません。

(裁判官の事実認定の方法)
そこで、裁判官がどんなことを考えて事実を認定していくのかを知っておくことが有益です。
事実認定のルール
「当事者双方に争いがなければ、その事実を認める。そうでない場合(争いがある場合)は、他の証拠の裏付け、特に客観的な証拠が必要。人の供述は慎重に取り扱う。」

(モラハラの場合の事実認定)
 モラハラの場合を考えてみましょう。
 モラハラをしたことを配偶者も認めている場合(めったにありませんが…)。この場合は裁判官もその事実を認めます。
 しかし、モラハラを一方はしたと言っているけれども、一方はしてない、そんなこと言ってないという場合。
 この場合は客観的な証拠がいとなかなか認めてくれません。
モラハラは言葉の暴力だけに、後に残りません。
「あの人はあのときこんな風に言ってた」ということを法廷で話すことではダメなのか?こういう証拠を「供述証拠」というんですが、残念ながら、裁判官は、この「供述」というものをあんまり信用してくれません。
DVのケースですら、診断書とか写真などの証拠が存在しないと裁判官は一方が殴ったという認定をなかなかしてくれない。つまり、裁判の上では、殴っていないことになってしまうわけです。
 一方の言ってたことを裁判官がなかなか信用しないのは、争いになってからは、双方が言いたいことを言いたい放題にいうという風に裁判官が考えているからです。ですから、争いになる前に書いていたようなものがあればそれはかなり強力な証拠になります。
 例えば、日記です。今はあまり付けている方がいませんが、モラハラで離婚を考えている方は日記は大事です。後で書いたものを、裁判官はなかなか信用してくれないので、日々つける日記、何気ない日常のことも書いてある日記が結構大事な証拠になります。

(裁判では証拠が大事)
このように裁判では証拠がかなり重要です。どのような証拠を出していったら良いのかについて、弁護士とよく協議して進めていく必要があります。


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婚姻費用の審判書や養育費の審判書に執行文付与が不要な理由

2021年06月09日 | 家事事件関係
(審判書での強制執行に執行文は不要)
民事訴訟の判決で強制執行を申し立てる場合、「執行文の付与」という手続きが必要となります。
しかし、婚姻費用の審判書や養育費の審判書での強制執行には、この「執行文の付与」の手続きは不要です。
審判が確定していることの証明書(確定証明書)を添付すれば、強制執行はできます。

(なぜそうなのか)
 以上が結論的なもので、これらは裁判所のホームページを見れば書いてあることです。
しかし、なぜ判決は執行文が必要で、婚姻費用の審判は執行文が不要なのかについてまで、裁判所のホームページでは説明をしてくれていません。
 理屈がわからなくても、書面を揃えれば手続きは進められるのですが、なぜそうなのかが気になってしまうのが、法律家というものでして、私もその法律家の癖がなかなか抜けない一人です。
 以下、理屈に興味がある方だけご覧いただければよいことを書いていきます。

(判決も婚姻費用の審判も、両方とも「債務名義」)
 「執行文の付与」の手続きについては、民事執行法という法律に書いてあります。 
「執行文の付与は、債権者が債務者に対しその債務名義により強制執行をすることができる場合に、その旨を債務名義の正本の末尾に付記する方法により行う。」(民事執行法26条2項)。
 この条文からわかることは、執行文というのは、「債務名義」というものの正本の末尾に付記するものだということです。
 では、「債務名義」とは何か。
 これも民事執行法に規定があります(22条)。
「(債務名義)
強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
(以下略)」
 1号と2号が判決についてです。「確定判決」というものと「仮執行の宣言を付した判決」というものがあることがわかりますね。
 婚姻費用の審判や養育費の審判は、3号の「抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判」にあたります。
 わかりにくいですね!
 婚姻費用の審判や養育費の審判が、なぜ3号にあたるかを説明するには、不服申し立て方法、特に抗告について説明しなければならないのですが、脇道にそれてしまうので、省略します。
 ここでは、結論だけ覚えておいてください。
 以上から、判決も婚姻費用の審判も、両方とも「債務名義」だということがお分かりいただけたかと思います。

(婚姻費用審判に「執行文の付与」が不要なわけ
 ここまでの説明だと、債権者が債務者に対しその債務名義により強制執行をすることができる場合は執行文の付与手続きが必要なんだから、婚姻費用の審判も判決と同じく「執行文の付与」が必要になりそうな気がします。
 しかし、婚姻費用の審判は、「執行文の付与」は不要なのです。
 それは、別の法律にこんな規定があるからです。
家事事件手続法75条
(審判の執行力)
「金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。」
 婚姻費用も養育費も、金○○円を支払えという内容の審判です。
 つまり、「金銭の支払いを命ずる審判」になります。
 ですから、この条文は、婚姻費用の審判は、執行力のある債務名義になります=執行文は不要、という意味になるのです。
 これで婚姻費用審判に執行文が不要であることがわかりました!
 「家事事件手続法に規定があるから」が正解になります。
 しかし、いきなりこの家事事件手続法75条を見ても、おそらくほとんどの方は意味がさっぱりわからないと思います。
 「執行力」だとか「債務名義」だとか、このような言葉を一つずつ覚えていかないと、条文の意味が取れないのです。
 法律を学ぶということは、そういうことで、一つ一つの言葉の概念は個々の積み木みたいなものですが、それを使って、いろんな物を作っていくような感じです。

(法律の理屈を法律家が学ぶ理由)
 以上長々と書いてきたのは、法律の理屈です。
 最初に書きましたが、実際の案件にあたっている方は、理屈の部分まで知っておく必要はありません。
 冒頭の結論部分だけわかれば、手続きは進められます。
 理屈の部分は法律家に任せておけばよいのです。
 法律家が理屈を覚えるのは、他にも応用をきかせるためです。
 算数とか数学で、「応用問題」ってありましたよね。
 計算はできるのに、応用問題はできないな、とか。あれは、問題文からその奥に潜む理屈を読み解かねばならないからです。
 法律家がやっているのは、そんなようなことです。

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家裁の調停に出席して思うこと~調停委員は一種の司会者

2018年04月25日 | 家事事件関係
私が担当する案件の中には、家庭裁判所での調停案件というものがあります。
典型的には離婚調停とか遺産分割調停ですが、調停に依頼者の方と同席して調停委員と対峙していて、調停委員さんというのは司会者の役割だなと思います。

「調停は話し合い」とはよく言われます。しかし、話し合いをしてきたけれども当事者同士では話し合いがつかなかったので、調停を申立てるわけですから、そう簡単に話し合いがつくわけはありません。

双方の主張がかなり対立している案件が裁判所に持ち込まれるのであって、それをほぐして一定の方向性を出していかなければならない。何かの会の司会とはまた違ったところがあり、”司会”という役割の中でもかなりの難しさです。離婚の調停でも遺産分割の調停でも話が拡散しがちなので、ポイントを絞っていかないといけませんし、なぜ対立しているのかの核心を聞き出さなければならないのです。

日本の調停は「別席調停」といって、当事者が同じテーブルに着くということは基本的にはありません。それぞれ別々に調停委員が話しを聞き、「相手はこう話しているよ」という話しをしていきます。そうすると、うまく要約して相手に伝えなければならない。これに失敗すると、当事者同士が話すのであればうまくいく話も、調停委員が入ると対立をあおるようなことにもなりかねません。

ただ単に相手の話を伝えるだけということでは、伝言ゲームになってしまって意味はないですから、難しいです。調停委員が良いと思う方向性を見定めて、説得するというスタンスが必要になってきます。つまりは有能な司会者が務まる人が調停委員となるべきだし、そうでないと調停は混乱していきます。

実際そういう混乱した調停を見て来ているので、そのような調停委員相手だと当事者が対応するのはかなり困難です。

調停委員は、「普通こうだよ」「法律ではこうだよ」という話しをして説得してくるのですが、それが当事者には正しいかどうかがわからない。
弁護士が同席していれば、おかしければツッコミを入れますから、調停委員も確実なところでしか言わなくなりますが、当事者相手だとそんなことまで言っているのかな、言っていいのかなということまで言っている。まあこれは相談でお聞きするだけで、また聞きなので正確ではないかもしれないけれども、そのように当事者が意味をとってしまったという点では調停委員の説得としては成功していないということにはなってきます。

離婚や遺産分割では必ず家裁の調停を通らなければならないので、調停委員への対応というのは一種の関門です。
調停委員がこちらの見方に同意してくれれば良いですが、そうでない場合も多々あるので。
調停委員は個性的で、裁判官よりも人柄の幅も大きく、弁護士としてもどう持っていくか苦慮することもありますので、やりがいという点ではある意味訴訟(裁判)よりもあるかもしれないなと感じております。

(写真は本文と関係ありません)

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