南斗屋のブログ

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和解事例1691から和解事例1695

2020年12月25日 | 原子力損害

原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)が公開した和解事例1691から和解事例1695までを紹介いたします。

1691=居住制限区域(富岡町)の生命身体損害、日常生活阻害慰謝料に関するもの
1692=旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)の営業損害に関するもの
1693=帰還困難区域(双葉町)の営業損害に関するもの
1694=南相馬市鹿島区の除染費用に関するもの
1695=居住制限区域(飯舘村)の生命身体損害、生活費増加費用等に関するもの

和解事例(1691)
居住制限区域(富岡町)に居住していた申立人ら(夫婦及び夫の母)について、原発事故による避難に伴い悪化した股関節症等の持病につき申立人母の平成27年12月から平成28年5月までの通院慰謝料及び付添費用や、避難後に認知症、肺がん、咽頭がん、脳出血となり要介護状態となった亡父の平成24年9月から平成28年5月までの通院慰謝料、付添費用及び平成28年4月から平成30年3月までの日常生活阻害慰謝料(増額分)が認められたほか、原発事故前はパート就労していた申立人妻が、原発事故後、亡父や申立人母の日常的な介護のために再就職をすることができなかったことによる平成29年8月から平成30年6月までの減収分について、平成29年9月以降は申立人母がデイサービスを利用し始めたことも
考慮して原発事故による影響割合を乗じた上で、生命身体的損害に係る就労不能損害として認められた事例。

和解事例(1692)
旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)において機械部品の加工等を業とする申立人の営業損害(逸失利益)について、直接請求手続では原発事故と相当因果関係が認められない売上減少が含まれているとして、基準年度の売上額を定めるに当たり、取引先1社に係る売上額を差し引いた上で、東京電力の平成27年6月17日付けプレスリリースに基づく賠償金額が算定されたが、上記差引分を控除せず、また、原発事故の影響割合を6割として算定し直したことにより、追加賠償がされた事例。

和解事例(1693)
帰還困難区域(双葉町)において施設経営をしていた申立人の平成29年3月分から平成31年2月分までの営業損害(逸失利益)について、その算定において差し引く減価償却費を、税法上の耐用年数ではなく実質的耐用年数を用いた上で、原発事故の影響割合を平成29年3月分から平成30年2月分までは3割、同年3月分から平成31年2月分までは1割とした金額(これは東京電力が平成27年6月17日付けプレスリリースに基づき算定した自認額を上回る金額である。)が賠償された事例。

和解事例(1694)
地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域(南相馬市鹿島区)に居住する申立人らの住居周辺の屋敷林について平成27年に除染目的で行った伐採及び整地作業について、業者に依頼した部分に係る支出費用、申立人らや近隣住民が実施した部分に係る労賃分等につき、立証の程度を考慮し、いずれについても5割の限度で賠償された事例。

和解事例(1695)
居住制限区域(飯舘村)に居住していた申立人ら(父母及びいずれも成人の子3名)について、避難生活中の生活費増加費用(事故前は自家消費用に栽培していたことにより負担のなかった米及び野菜に係る食費並びに井戸水を利用していたことにより負担のなかった水道費等)、申立人父が所有していた農機具等の財物損害が賠償されたほか、原発事故の被害者であることから職場でいじめを受けたことによりうつ病を患い就労が困難となった申立人子1名の、平成25年1月分から令和元年9月分までの通院慰謝料等の生命身体的損害、平成27年3月分から平成30年3月分までの就労不能損害(原発事故の影響割合を7割から3割へ順次漸減して考慮。)が賠償された事例。


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和解事例1686から和解事例1690

2020年12月10日 | 原子力損害

原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)が公開した和解事例1686から和解事例1690までを紹介いたします。

1686=旧緊急時避難準備区域(広野町)の財物賠償に関するもの
1687=自主的避難等対象区域(福島市)の営業損害に関するもの
1688=自主的避難等対象区域(福島市)の営業損害に関するもの
1689=自主的避難等対象区域(相馬市)の営業損害に関するもの
1690=旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)の日常生活阻害慰謝料に関するもの

和解事例(1686)
旧緊急時避難準備区域(広野町)に居住していた申立人らの財物(家財(主として布製品))について、地震で損壊した自宅屋根を原発事故のために修繕することができず雨漏り等が生じたことにより財物価値を喪失したと認められるとした上で、購入時期や価格等についての提出資料を踏まえ、購入価格の一部が賠償された事例。

和解事例(1687)
自主的避難等対象区域(福島市)において農業を営む申立人らのユズに係る平成31年4月から令和2年3月までの営業損害(逸失利益)について、ユズに出荷制限が課せられていることや申立人らが提出した資料による立証の程度等を考慮し、申立人らの主張するユズの個数に基づく請求額の概ね5割の限度で賠償された事例。

和解事例(1688)
自主的避難等対象区域(福島市)で食品の製造販売業を営む申立会社について、東京電力の直接請求手続においては平成23年3月から同年8月までの営業損害(逸失利益)を算定するに当たり、貢献利益率を製造業の平均利益率である32%としたが、申立会社の実績による貢献利益率は上記よりも高いとして、これによる差額が賠償されたほか、平成28年7月から平成30年12月までの食品の製造過程で利用する井戸水の検査費用の約7割が賠償された事例。

和解事例(1689)
自主的避難等対象区域(相馬市)において魚介類の卸売り及び直売業並びに飲食業を営む申立人の平成28年8月分から平成30年7月分までの営業損害(追加的費用)として、仕入先が遠方になったことや観光客の減少による売上減少を補うために営業時間を増加変更したことによって生じた人件費(給料手当等)の一部(原発事故の影響割合を期間及び費目に応じて1割ないし4割とする。)が賠償された事例。

和解事例(1690)
旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)から避難した申立人母子の日常生活阻害慰謝料について、申立人母が、原発事故当時の勤務先工場の一時的閉鎖に伴って、他所で勤務することとなったこと等を考慮し、平成26年3月分まで賠償された事例。


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「原発事故の訴訟実務」升田純著

2020年12月08日 | 原子力損害

「原発事故の訴訟実務」升田純著(学陽書房)

 2011年12月に出版されており、福島第一原発事故以前の原発事故の訴訟実務についての書籍である。
 本書の半分以上は、風評被害に関する考察にあてられており、「風評損害訴訟の法理」との副題が付されている。
 福島第一原発事故以前の原発事故に、JCO臨界事故があり、この事故に伴う下記の風評損害の裁判例の解説がされている。
・水戸地裁平成15年6月24日判決(判例時報1830・103)
・東京地裁平成16年9月27日判決(判例時報1876・34、判例タイムズ1195・263)
・東京高裁平成17年9月21日判決(判例時報1914・95、判例タイムズ1207・251)
・東京地裁平成18年1月26日判決(判例時報1951・95)
・東京地裁平成18年2月27日判決(判例タイムズ1207・116)
・東京地裁平成18年4月19日判決(判例時報1960・64)
 このような原発事故に伴う風評被害のほか、それ以外の原因に伴う風評被害の裁判例をも分析しているのが本書の特徴である。
・公的機関による信用毀損に伴う風評損害の裁判例
・マスメディアによる信用毀損に伴う風評損害の裁判例
・商品等の事故に伴う信用毀損に伴う風評損害の裁判例
・汚染事故に伴う信用毀損に伴う風評損害の裁判例
 筆者は、これまで最も多く風評損害が裁判例上で問題となったのは、事業者による信用毀損による事例であり、マスメディアや国の機関等が加害者となって、事業者に風評被害(営業上の逸失利益等の損害)を加え、深刻な損害を生じさせたことがあるという認識を有しており、この観点からJCO臨界事故関連の裁判例の検討に先立って、これらの風評損害の裁判例を検討しているのである。


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和解事例1681から和解事例1685

2020年11月30日 | 原子力損害

原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)が公開した和解事例1681から和解事例1685までを紹介いたします。

1681=避難指示解除準備区域(浪江町)の財物賠償に関するもの
1682=自主的避難等対象区域(郡山市)の避難費用等に関するもの
1683=自主的避難等対象区域(郡山市)の避難費用、就労不能損害等に関するもの
1684=宮城県の業者の営業損害(逸失利益)に関するもの
1685=旧緊急時避難準備区域(川内村)の建築業者の営業損害に関するもの

和解事例(1681)
申立人夫が所有する避難指示解除準備区域(浪江町)に所在する土地(登記上の地目は畑であるが、現況は空き地)について、同土地が用途地域内に所在し、隣接地(登記上の地目は畑であるが、現況は空き地であり、不動産鑑定士は宅地と評価)と一体として利用されていること及び形状(間口の狭い旗竿地)等を踏まえ、上記隣接地の単価の8割で算定し、既払金を控除した金額が財物損害として賠償されたほか、申立人夫婦が所有する社交ダンス用衣装7着について、提出された資料等から1着当たり10万円と評価し、財物損害として賠償された事例。

和解事例(1682)
自主的避難等対象区域(郡山市)から母子のみ他県に避難した申立人ら(父母及び子1名)の、平成26年1月分から平成27年3月分までの二重生活に伴う生活費増加分、避難雑費及び面会交通費が賠償されたほか、父が面会交通の際に母子の避難先で使用するために契約した駐車場の平成25年9月分から平成27年3月分までの賃貸料金について、使用頻度等を考慮して5割の限度で賠償された事例。

和解事例(1683)
自主的避難等対象区域(郡山市)から中国地方に避難した申立人ら(父子)について、平成27年3月分までの避難費用、生活費増加費用及び避難雑費等が賠償されたほか、パソコンのサポート業務等を行っていた申立人父の就労不能損害として、6か月分の減収相当額が賠償された事例。

和解事例(1684)
宮城県において川魚を養殖し、取引先である地元の観光宿泊施設等に販売する申立人の平成29年1月から同年12月までの風評被害による営業損害(逸失利益)について、宮城県内の天然川魚の一部が出荷制限となっていること、取引先が多く所在する地区の観光客入込数が回復傾向にあることなども踏まえ、原発事故の影響割合を3割として賠償された事例。

和解事例(1685)
旧緊急時避難準備区域(川内村)において建築業を営む申立人らが同区域内にある作業場に保管していた建築用木材について、原発事故により申立人らが避難し、原発事故後しばらくの間は作業場付近へ事実上立ち入ることもできなかったために管理できず、廃棄することを余儀なくされたとして、建築木材の見積相当額及び同木材の廃棄処分費用が全額賠償された事例。


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「地方公共団体における不動産の賠償について」(平成29年9月13日原子力損害賠償紛争審査会)

2020年10月26日 | 原子力損害

 平成29年9月に、原賠審は「地方公共団体における不動産の賠償について」を公表した。ここでの原賠審の考え方は次のとおりである。

 ①公有財産の特徴からすると、民間財産とは賠償における取り扱いを異なるものとすることが適当である。
 ②公有財産の不動産の賠償については、事故による一定期間の利用阻害により、行政的な利用による利益を享受ないし提供することができなかったことを損害とみなして、一律の基準による賠償を行うことが適当である。
 ③ただし、利用が阻害されている不動産について、将来的な利用再開の見通しが当面立たず、現時点において、減少した行政的な利用価値の回復が見込まれない場合は、必要かつ合理的な範囲の損害(ただし、「財物損害」の性質上、「全損」を超えることはない)の適切な賠償について、当事者間で円滑な話し合いと合意形成が図られることを期待する。
 ④不動産の種類や使用目的等に応じた個別の損害により、上記②に基づく一律の基準による賠償が適当ではない損害については、必要かつ合理的な範囲で賠償が認められる。

 この原賠審の考え方は、自治体所有の不動産賠償に大きな影響を与えるものである。
 すなわち、自治体所有の財物が賠償の対象となることは中間指針(平成23年8月)において定められていたが、具体的な賠償基準・算定方法については定められていなかった。「地方公共団体における不動産の賠償について」は、具体的な賠償基準・算定方法まで提示してはいないが、賠償基準・算定方法を定めるにあたっての考え方を示したと位置づけられる。

 出発点は、公有財産は民間所有の財物とは異なる扱いとすべきという認識である(上記①)。その理由としては次のようなものが挙げられている。
 ア 公有財産は、行政財産であれ、普通財産であれ、主として公用・公共用に供する行政的な価値を有し、売却等の譲渡を想定しない財産であり、商業的な価値を有する民間財物とは、本質的に異なる性質を有する。
 イ 公有財産は、利用可能な状態になれば、住民に対する行政サービスの提供など、避難指示以前と同様に公用・公共用に供されることが期待される。
 ウ 地方公共団体には、国の様々な支援がなされていることを踏まえれば、少なくとも利用の再開された公有財産については、民間の被害者と同様の取り扱いとする必要性・合理性があるとまではいえない。

 公有財産は、民間財産とは違う考え方で賠償するとして、それではどのように公有財産の不動産の賠償額を算定するのかという点が次に問題となる。
 これに応えたのが上記の②であり、「事故による一定期間の利用阻害により、行政的な利用による利益を享受ないし提供することができなかったことを損害とみなす」という原則を原賠審は採用した。
 この考え方の背景には、民間財物は、貸付けや売払い等が可能であり、取引可能な評価額を設定しやすい交換価値を有する財産と解することができるが、公共財物の多くを占める行政財産は、地方自治法に基づき貸し付けや売払い等の制限があるため、取引可能な評価額の設定が困難である使用価値のみを有する財産と解することができるとの認識がある(45回原賠審における資料1-2)。
 交換価値や使用価値については、45回原賠審における資料1-2でもマルクスを引用して説明している。
 “マルクスの「資本論」によれば、「使用価値とは、商品等を使ってそれが役に立つ場合に有する価値」であり、「交換価値とは、商品等を交換する場合に交換される量(通常は価格)によってあらわすことができる価値」であるとの考え方が示されている。”
 これだけでは、何のことかわかりにくいが、次の中田委員の発言が理解の助けになると思われる。
【中田委員】  公有財産の特殊性ということですが、先ほど会長がおっしゃいましたように、売却するかしないかということと交換価値の賠償額とは必ずしも直結しないというのはおっしゃるとおりだと思います。その上で、ほかにどういう特殊性があるかと考えてみたんですけれども、今回の案の中でもありますけれども、利用阻害についていうと、「行政的な利用による利益を享受ないし提供することができなかった」ということです。ということは誰の損害かというと、公共団体の損害でもあり地域住民の損害でもあると。そこにいろいろなものが入っているので、民間の財産の場合には自分のためのものである、その損害であるというのとちょっと違いがあるということかなと感じております。


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「地方公共団体の税収減について」(平成25年10月原子力損害賠償紛争審査会)

2020年10月22日 | 原子力損害

 平成25年10月原子力損害賠償紛争審査会で、「地方公共団体の税収減について」の考え方が示された。

 地方公共団体の税収減については、中間指針(平成23年8月5日)で考え方が示されているが、その原則(税収減があっても損害とならない)にあてはまる例と、例外的に税収減があっても損害として認められるものを示している。
税収減があっても損害とならないものとして次のものが挙げられている。
①徴収率の低下による税収減(租税債権は有している)
②震災復興特別交付税により財源措置されるもの
③納税義務者が賠償金の支払いを受けることにより、後日税収に結びつくもの
 まず、①は租税債権自体は有しているのであるから、一時的に徴収率が低下しても損害とはならないことを意味している。中間指針では、「地方公共団体等が現に有する租税債権は本件事故により直接消滅することはない」という表現により、この点は明示されていた。
②は、税収減が生じていたとしても、震災復興特別交付税により財源措置されていれば、損害自体が存在しない又は損害の填補がなされたという考え方に基づくものであろう。この点は、中間指針には述べられていなかったので、「地方公共団体の税収減について」で初めて示されたものである。
③は、例えば、住民税のようなものである。原発事故により就労できないことで、所得が減少する。それに伴って、翌年度の住民税は減少するが、個人の就労不能損害について東京電力が賠償すれば、逸失利益分については課税されるので、税についての損害はその時点でなくなるということである。中間指針では、「租税債務者である住民や事業者等が本件事故による損害賠償金を受け取れば原則としてそこに担税力が発生する」という表現によりこのことが示されていた。

 「地方公共団体の税収減について」では、上記①~③の具体例を挙げるほか、次のようなコメントをしている。
「使途を特定しない一般財源となる普通税の減収の多くは普通交付税で実質的には財源措置されること、税収を得て実施する事業の一部は震災又は事故の影響等により支出が減少していること等もあり、一般に税収減を地方公共団体の損害として賠償の対象と認めることは困難である」

 このように、地方公共団体の税収減については原則認められないとするのが原賠審の立場であるが、「目的税を財源とする事業」については損害と認めるとの考えを打ち出したことが注目に値する。
 「地方公共団体の税収減について」の記載をそのまま挙げておく。
“ただし、少なくとも以下のような本件事故による税収の減については、賠償すべき損害として認めることができるのではないか。
○目的税を財源とする事業のように税収と事業支出の連動性が高い事業であって、交付税による財源措置がされず、事故後も実施が必要な事業に係る税収の減“
 平成25年9月10日の原賠審での田口原子力損害賠償対策室長代理の発言を踏まえると、上記の点は理解がしやすい。
“【田口原子力損害賠償対策室長代理】  例えば、我々、県の方から伺ってございますのは、目的税でございます狩猟税というのがございますが、これについて、猟をされる方が減ったということで、税収が減っているわけでございますが。もちろん、猟をされる方が減ったことによって支出も減る部分もございますが、やはりベースになっている事業、猟場の整備みたいなものがございまして、それは引き続きかかるということで、基本的には、賠償されないとやらなければいけないことができないという状態なわけでございますが、福島県の場合は、一般会計から繰入れをしまして、その必要な事業をやったということになっております。
 そうしますと、基本的には、一般会計の方に余分な支出が生じて、そこに穴が開いたみたいな格好にはなるわけでございますが、基本的なたてつけとしては、その賠償がなければ、本来やらなければいけないことができなかったのだけど、それを何らかの形で、例えば基金を取り崩すとか、あるいは予備費を使うというのもあると思いますが、そういう形でやらなければいけなかったというような事例があると思います。
 ほかにも、市町村ですと、同じようなのが、入湯税のようなものがございます。やはり温泉のお客さんが減ったので、税収が減っているのですが、やらなければいけない事業は、お客さんが減っているほど減っていないというような格好になっているかと思います。“ 


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地方自治体の原子力損害賠償(平成23年8月5日中間指針)

2020年10月21日 | 原子力損害

地方自治体の原子力損害賠償について、平成23年8月5日中間指針は次のような指針を示している。

”地方公共団体等の財産的損害等
(指針)
地方公共団体又は国(以下「地方公共団体等」という。)が所有する財物及び地方公共団体等が民間事業者と同様の立場で行う事業に関する損害については、この中間指針で示された事業者等に関する基準に照らし、本件事故と相当因果関係が認められる限り、賠償の対象となるとともに、地方公共団体等が被害者支援等のために、加害者が負担すべき費用を代わって負担した場合も、賠償の対象となる。”

 この指針は、地方自治体の損害となる代表的なものについて示されている。
 ①所有する財物
 ②地方公共団体等が民間事業者と同様の立場で行う事業に関する損害
 ③地方公共団体等が被害者支援等のために、加害者が負担すべき費用を代わって負担した場合
の3つが示されている。
 ①、②については、中間指針で示された事業者等に関する基準に沿ったものであること、本件事故と損害との間に相当因果関係が認められることが要件とされている。
 中間指針の「備考」で示されているように、これらは私企業が被った損害と別異に解する理由が認められないからである
 「地方公共団体等が民間事業者と同様の立場で行う事業」とは、水道事業、下水道事業、病院事業等の地方公共団体等の経営する企業及び収益事業等をいう。
 ③は加害者(東京電力)に代わっての立替えの場合であるので、東京電力が本来支払うべきものなのか否かということが問われることになる。

 ①~③以外の自治体の損害については、どう考えるべきか。
 この点も、「備考」には一応書いてあるが、「地方公共団体等が被ったそれ以外の損害についても、個別具体的な事情に応じて賠償すべき損害と認められることがあり得る。」という素っ気ないものであって、損害となりうることを認めているという点にしか意味がなく、それ以外には何も述べていない。

 自治体の税収の減少については、どう考えるべきか。
 この点は以下のように「備考」に記載されている。
”他方、本件事故に起因する地方公共団体等の税収の減少については、法律・条例に基づいて権力的に賦課、徴収されるという公法的な特殊性がある上、いわば税収に関する期待権が損なわれたにとどまることから、地方公共団体等が所有する財物及び地方公共団体等が民間事業者と同様の立場で行う事業に関する損害等と同視することはできない。これに加え、地方公共団体等が現に有する租税債権は本件事故により直接消滅することはなく、租税債務者である住民や事業者等が本件事故による損害賠償金を受け取れば原則としてそこに担税力が発生すること等にもかんがみれば、特段の事情がある場合を除き、賠償すべき損害とは認められない。”
 法律的な回りくどい表現になっているが、要は、自治体の税収の減少は、民間事業者の売上が減少するのとは同視できないから、原則は損害にはあたらない、というのが中間指針の考え方です。例外的な場合(=特段の事情がある場合)がありうることは示唆されているが、どのような場合に特段の事情が認められるかは明示されてはいない。

 この考え方は、中間指針のQ&A(問146)でより一層明らかにされている。
 問146は、「避難等に伴い住民の県外移住・定着により、被災市町村での人口が減少した場合、住民税の減少は賠償対象になるのか」と問い、その答えとして、中間指針の立場を繰り返した上で、「避難等に伴い住民の県外移住・定着により、被災市町村での人口が減少した場合の住民税の減少分も、特段の事情がある場合を除いては、賠償すべき損害とは認められません」とされているのである。


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和解事例1676から1680

2020年09月30日 | 原子力損害

原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)が公開した和解事例1676から和解事例1680までを紹介いたします。

1676=旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)の精神的損害の延長に関するもの
1677=避難指示解除準備区域(南相馬市小高区)で不動産を使用貸借していた者の住居確保損害に関するもの
1678=福島県内の会社の営業損害に関するもの
1679=会津地方の不動産の売買仲介業者の営業損害に関するもの
1680=自主的避難等対象区域(福島市)の生活費増加費用・営業損害に関するもの

和解事例(1676)
旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)に居住し、その近傍において就労していたが、原発事故により会津若松市において就労することとなった申立人について、会社都合により郡山市に転勤となり同市で住宅を購入した平成25年6月まで、月額10万円の日常生活阻害慰謝料が賠償された事例。

和解事例(1677)
避難指示解除準備区域(南相馬市小高区)内の建物に無償で居住していた申立人について、同居住が使用貸借契約に基づくものであったと認定した上で、避難先住居の8年分の使用料等相当額及び一時金たる保証料の合計額が賠償された事例。

和解事例(1678)
福島県内において下水汚泥処理を含む複数の事業を営む申立会社の平成25年4月分から平成28年3月分までの下水汚泥処理事業に係る営業損害(逸失利益)について、申立会社全体でみれば売上高が回復している時期も上記期間内にあるものの、下水汚泥処理以外の事業の受託量が増加したことによる回復であり、下水汚泥処理事業とそれ以外の事業との工程及び人的・物的資源は別個独立しており、各事業の売上高も両立し得ることから、申立会社全体の売上高の減少ではなく下水汚泥処理事業単体での売上高の減少に基づき原発事故の影響割合(8割)等を考慮して算定した金額が賠償された事例

和解事例(1679)
会津地方において田舎での生活を目的とする不動産の売買仲介等を営み、東京電力の平成27年6月17日付けプレスリリースに基づく請求においては相当因果関係が認められないとして年間逸失利益の1倍相当額の賠償を受けた申立人の平成27年8月分以降の営業損害について、年度ごとに原発事故の影響割合を考慮しながら損害額を算定し、上記1倍相当額とは別に、逸失利益の賠償が認められた事例

和解事例(1680)
自主的避難等対象区域(福島市)から当初は母子のみ、後には父も避難した申立人ら(父母及び子2名)について、平成27年3月までの避難費用(住居費、二重生活の間の面会交通費等)、生活費増加費用(二重生活に伴う生活費増加分、原発事故前は自家消費していた米及び野菜について購入することを余儀なくされたことによる費用等)及び避難雑費等が賠償されたほか、申立人世帯の副業である農業(米)の平成25年4月分から平成27年3月分までの営業損害(逸失利益)について、原発事故前の確定申告は申立外祖父の名義で行っていたものの、実際には申立人らが農業に従事していたものと認め、基準期間の売上高に米の全国平均価格係数を乗じた上で出荷経費を控除して算出した額に原発事故の影響割合として5割を乗
じた額が賠償された事例


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原発事故による葬儀費用増加分等について

2020年09月25日 | 原子力損害

1 原発事故により葬儀費用が増加したことが損害として認められた和解事例があります。

・原発事故による避難中に夫が死亡したため、避難先での葬儀を行わなければならなかったことによる葬儀費用増額分が賠償された事例(増加分として20万円)(295)。
・避難指示解除準備区域(南相馬市原町区)に居住していた申立人らについて(中略)避難によって自宅で葬儀をすることができなくなったことによる近親者の葬儀費用の増加分等が賠償された事例。(増加分として約31万円)(1460)

2 遺体捜索ができなかったことについての慰謝料が認められたものとして次の事例があります。
・自宅付近(南相馬市小高区)が警戒区域に指定されたために津波にさらわれた親族の捜索を継続できなかったことによる精神的損害として、家族3名に各60万円合計180万円が賠償された事例。(各60万円)(955)
 和解契約書の精神的損害の項目には、「①故人に対する敬愛・追慕の情、②自ら又は適切な捜索機関に求める等して迅速に故人らを捜索する権利又は利益及び③適切な時期・方法により故人が発見・収容されることにより尊厳を保つ形で故人を葬ることができるよう求める権利又は利益が侵害されたために生じた精神的苦痛」とある。
・親族(未成年者)が津波にさらわれ、自宅付近(南相馬市小高区)が警戒区域に指定された申立人らについて、警戒区域の指定前に当該親族の遺体が発見されたものの、同じく津波にさらわれた当該親族の両親の捜索が制限されたこと等により葬儀の実施が遅れたことに対する、精神的損害の賠償が認められた事例。(各40万円)(1061)


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和解事例1671から1675

2020年09月17日 | 原子力損害

原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)が公開した和解事例1671から1675までを紹介いたします。

1671=居住制限区域(浪江町)の精神的損害の増額等に関するもの
1672=栃木県の事業者の検査費用・逸失利益に関するもの
1673=居住制限区域(浪江町)所在の不動産の住居確保損害に関するもの
1674=旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)の建物の修繕費用に関するもの
1675=避難指示解除準備区域(浪江町)の就労不能損害・精神的損害の増額等に関するもの

和解事例(1671)
居住制限区域(浪江町)から避難した申立人ら(父母及び子)について、申立人母子の平成23年3月分から申立人子が小学校に入学する前月である平成29年3月分までの日常生活阻害慰謝料(増額分)として、申立人母が当時乳幼児であった申立人子の世話をしながらの避難であったこと等を考慮して223万円(平成23年3月分及び同年4月分は避難所生活のため離乳食の入手が困難であったこと及び泣き声等のため周囲の避難者に気を使うことを余儀なくされたこと等の事情を考慮し月額5万円。同年5月分以降は月額3万円)が、申立人父の平成23年5月分から平成24年3月分までの日常生活阻害慰謝料(増額分)として、避難により申立人母子と別離が生じたことを考慮して27万円(月額3万円とし、原発事故がなく
とも別離が生じていたであろう期間があることを踏まえ9か月分とする。)がそれぞれ賠償された事例。

和解事例(1672)
栃木県内においてきのこ菌床栽培用のおが粉を生産・販売している申立人について、販売先から放射能検査結果の提出を求められていたことや栃木県の放射能対策作業マニュアルにおいてもおが粉の購入時における汚染状況の確認が求められていること等を考慮し、平成31年3月までに実施した製品検査費用(測定費用、送料)及び原木の高圧洗浄作業に要した費用(人件費増加分、水道料増加分、フォークリフトのリース料。ただし、リース料の支払時期は平成23年5月から平成29年5月までのもの。)のほか、平成30年4月から平成31年3月までの逸失利益について原発事故の影響割合を2割として賠償された事例。

和解事例(1673)
申立人祖父と申立人父が共有する居住制限区域(浪江町)所在の不動産に係る住居確保損害について、東京電力の直接請求手続で支払われた不動産の財物賠償及び住居確保に係る費用の一部のほかに、原発事故による避難後に申立人祖父及び亡祖母が入居した老人ホームの平成25年12月分から令和元年10月分までの入居等費用が賠償された事例。

和解事例(1674)
旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)に居住していた申立人の自宅建物について、避難中の管理不能によりねずみの糞尿や雨漏りによる被害が生じるなどしたことから、同建物が特定避難勧奨地点のある行政区に存すること等をも踏まえ、平成27年5月頃及び平成29年9月頃に実施した修繕工事に係る費用の2割(ただし、既払金30万円を除く。)が賠償された事例。

和解事例(1675)
避難指示解除準備区域(浪江町)から避難した申立人ら(母子)について、1.申立人母が高次脳機能障害を有する夫の介護のため再就職をすることができなかったこと等を考慮し、申立人母の平成27年3月分から平成29年2月分までの減収分(原発事故の影響割合として平成27年3月分から平成28年2月分までは5割、同年3月分から平成29年2月分までは3割を乗じた額)が、2.申立人らが、上記夫の介護を行ったこと及び申立人子は乳幼児の世話をしながらの避難でもあったことを考慮し、申立人母については平成23年3月分から平成30年3月分まで既払金(月額1万円)とは別に追加して月額2万円が、申立人子については平成23年3月分から平成27年11月分まで月額3万円が、それぞれ賠償された事例。


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