南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

高次脳機能障害5級で労働能力喪失率100%を認めたケース

2009年12月18日 | 高次脳機能障害
高次脳機能障害の認定は5級であるのに、労働能力喪失率が100%と認定されたケースがありますので、紹介します。

東京地裁平成21年7月3日判決(自保ジャーナル1804号)

通常5級というのは、労働能力喪失率は79%とされています。

しかし、これはあくまでも「基準」なので、実態として労働能力が全くないと裁判所が判断することはできます。

東京地裁は色々な理由をあげていますが
・一般就労は困難又は不可能であるとの医師の診断書が複数ある
・被害者は事故後全く就労していず、外部との対人関係を維持することもできない(妻の看視介護のもとに引きこもりのような生活をしている)
ことから「高次脳機能障害の為に、原告の作業能力は一般人に比較して、著しく制限されており、仮に就労しえたとしても、その維持には職場の理解と援助を欠くことができないものというべき」としています。

また、右足関節の機能障害もあることから
「被害者の将来の就労は現実的には全く不可能」
=労働能力喪失率100%
としています。

高次脳機能障害5級で、労働能力喪失100%を認めることはまれです。(本来3級以上でないと100%が認められません)

このケースも、被害者の症状を判決で読んでいると、3級レベルにあるのではないかとさえ感じられます。

5級といっても、3級に近いものから、7級に近いものまであり、このケースは、3級に限りなく近く、かつ他の後遺障害(右足関節機能障害)が存在したことから労働能力喪失率100%を認めたのではないかと思います。

なお、この判決は介護料も認めており
日額3000円
を認定しています。

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交通事故訴訟での文書提出命令

2009年12月14日 | 交通事故民事
 被害者の医療記録(カルテなど)を加害者側が取り寄せる手段として、文書送付嘱託という手段があることを以前ご説明いたしました
(→過去記事)

裁判所から病院に「文書を送付してください」というお願いがいくのですが、これは、法律上はあくまでも「お願い」ということになるので、病院が拒否した場合は、強制的に文書を提出させる事はできません。

そこで、病院が医療記録の提出を拒否したとき、加害者サイドが、医療記録を取得したいという場合は、裁判所に文書提出命令を出してもらう必要性があります。

文書提出命令がされると強制力が生じます。

もっとも、刑事事件ほどの強制力は無く、医療記録を提出しなかった病院に、20万円以下の過料という制裁が行われるだけですが。

問題は、被害者の医療記録を加害者側の申立てにより強制的に取得してしまうことが認められてしまうのか?ということです。

交通事故関係ではありませんが、参考になる裁判例があります。

千葉川鉄大気汚染公害訴訟といわれた公害訴訟についてのものです。
このケースでは、大気汚染被害にあったという住民が原告、大気汚染の原因となったとされた会社が被告となっています。

被告の会社から住民のカルテを取得したいということで、文書提出命令の申立てがなされました。

裁判所はこの申立てを認めませんでした(東京高裁昭和59年9月17日高民集37巻3号164頁)。

この裁判例を前提とすると、加害者側からの文書提出命令は認められないことになります。

いつもながら裁判所の文章は難しいですが、興味をもたれる方のために決定の主要部分を引用しておきます。

「 およそ医師が診療録を作成する目的は、診療の都度、受診者の病名及び主要症状並びにこれに対する治療方法(処方及び処置)を記載すべきことを義務付けている医師法第二四条及び医師法施行規則第二三条から判断すると、受診者の状態と治療内容の経過を一定期間保存することにより、医師自身の診療における思考活動を補助し、医事行政上の監督の実を挙げさせ、もつて、診療行為の適正を期することにあると考えられるが、副次的には、患者自身又は患者と医師若しくは医療機関との間の権利義務に係る事実の証明をも目的とするものといえよう。これは、本件文書中の診療録以外のものについても、同様と考えられる。診療録がその記載内容の性質上患者、医師等診療行為の当事者以外の者の法律上の紛争において、その者の法的地位の証明に役立つ場合のあることは否定できないが、それは、結果として生ずることにすぎないのである。
 したがつて、診療行為の当事者でない本件相手方にとつて、本件文書が、その法的地位を直接証明し、又はその権利ないし権限を基礎付ける目的で作成されたものといえないことは明らかである。
 以上のとおりであるから、本件文書は民事訴訟法第三一二条第三号前段の文書に該当しない」



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離婚の慰謝料を交通事故の損害賠償として請求できるか?

2009年12月11日 | 未分類
 交通事故に遭い、後遺障害が残ったことで、配偶者との関係が悪化し、離婚せざるを得なくなった。
 配偶者には慰謝料を支払ったが、この慰謝料分を交通事故の加害者に請求できるかが問題となったケースがあります。

 大阪地裁平成20年11月26日判決(自保ジャーナル1806号)
(結論)
 離婚の慰謝料を請求することはできない

 理由としては、
「婚姻の破綻は夫婦間におけ種々の要因によって生ずるものであり、配偶者の一方が交通事故により重い障害を負ったという一事をもって、通常婚姻の破綻を生ずるものとはいえない」
ということがあげられています。

 被害者は、腕神経叢引き抜き損傷で5級認定がされたケースであり、離婚は協議離婚で慰謝料の趣旨も不明のようですので、そういう事実関係を前提とすれば、離婚慰謝料を認めなかったのは妥当であると思います。

 もっとも、被害者が遷延性意識障害にあったようなケースで、かつ、離婚訴訟が行われて慰謝料が認められたような場合には、また違った判断がありうるのかもしれないと思います。


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文書送付嘱託申立書の書式

2009年12月03日 | お知らせ
文書送付嘱託申立てについては、以前にも記事に書いたことがあります(→過去記事)。

文書送付嘱託申立ての書式を載せておきます。
どのようなものかイメージがさらにわくと思います。

以下は、加害者の刑事記録を取得するときの文書送付嘱託申立書の例です。




平成*年(ワ)第*号 損害賠償請求事件
原告 X
被告 Y

文書送付嘱託申立書
                          2009年12月3日
東京地方裁判所 民事27部 御中
                        原告訴訟代理人 金子宰慶  印
1 文書の表示
 Y(被告)を被告人とする自動車運転過失傷害被告事件の刑事記録

2 文書の所持者
 **検察庁
 住所 略
 電話番号 略

3 証すべき事実
  本件交通事故の態様 
                           以上

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