南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

公務員の結婚詐欺と懲戒処分

2021年08月30日 | 地方自治体と法律
(公務員の結婚詐欺)
 公務員が結婚詐欺を行ったことで、懲戒に付されたとも見ることができる事例を見かけましたので、紹介します(神戸地裁平成29年4月26日判決・判例地方自治433号27頁)。
 非違行為とされたのは、「妻子があるのに独身と偽ってAと交際し、これが発覚して損害賠償請求訴訟を提起されたこと」で、信用失墜行為の禁止(地公法33条)に該当するとされています。
 職員はこの非違行為を含め4つの非違行為で、懲戒免職処分とされました。
 職員はこれを不服として、取消訴訟を提訴。

(神戸地裁の判断)
 神戸地裁は、上記非違行為については次のように判示して、懲戒事由に該当するとしました。
「被告の主張は、結婚詐欺ともいいうる原告の行為は、信用失墜行為として地公法33条に違反し、同法29条1項1号・3号の懲戒事由に該当するというものであると解される。
 たしかに原告は、結婚を視野に入れた男女の交際という人の一生にも影響を及ぼしうる重要な問題についてAをだましてその心情を著しく傷つけたのであるから、Aの人格権を侵害する不法行為が成立するといえる。しかしこれは公務外の、しかもまったくの私的なことがらであり、刑罰の対象にもならない。道義的に非難され、民事上の責任を負うべきものであるとしても、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務する公務員としてふさわしくない行為であるとか、公務員関係の秩序を維持するため制裁を科すべき行為であるとはただちにいいがたく、そもそも懲戒処分になじみにくい行為である。ただ、そうはいっても、消防服務規程において特に、「消防職員は、その職の信用を傷つけ、又は職全体の不名誉となる行為のないよう常に心を清潔にし、身辺の潔白に努めなければならない。」(7条)、「消防職員は、常に身体、服装及び態度を清潔かつ端正にし、品位の保持に努めなければならない。」(8条)と規定されていることを考慮すると、非違行為〈3〉が地公法33条に違反し、同法29条1項1号・3号の懲戒事由に該当することを否定することまではできない」

(この裁判所の判断をどうみるか)
 本件で問題とされたのは、相手方の同意のある不貞行為ではありません。
 自治体側の主張では「妻子があるのに独身と偽ってAと交際したこと」であり、これは「結婚詐欺ともいいうる」ものとしています。
 裁判所は、「Aをだましてその心情を著しく傷つけたのであるから、Aの人格権を侵害する不法行為が成立するといえる。」と判断して、Aをだましたことは認めました。
 しかし、「これは公務外の、しかもまったくの私的なことがらであり、刑罰の対象にもならない。道義的に非難され、民事上の責任を負うべきものであるとしても、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務する公務員としてふさわしくない行為であるとか、公務員関係の秩序を維持するため制裁を科すべき行為であるとはただちにいいがたく、そもそも懲戒処分になじみにくい行為である。」とも述べており、懲戒処分と推ることに消極的な意見があったようにも読めます。
 最終的には、消防服務規程に「消防職員は、その職の信用を傷つけ、又は職全体の不名誉となる行為のないよう常に心を清潔にし、身辺の潔白に努めなければならない。」とか、「消防職員は、常に身体、服装及び態度を清潔かつ端正にし、品位の保持に努めなければならない。」と規定されていることから、「妻子があるのに独身と偽ってAと交際し、これが発覚して損害賠償請求訴訟を提起されたこと」が信用失墜行為の禁止に違反し、懲戒事由に該当することは認めています。
 このように、この事案は単なる不貞行為を懲戒事由としたものではなく、しかも裁判所も消防服務規程を持ち出して懲戒処分相当としたことから見ても、一般職員すべてにまでこの判断を適用させることは躊躇しているように思われます。

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書面審議・オンライン会議は「会議」?

2021年08月23日 | 地方自治体と法律
(新型コロナ対策として多用されている書面審議、オンライン会議)
 新型コロナ対策として、多用されている書面審議、オンライン会議ですが、条例等で用いられる「会議」にあたるのかどうか考えてみました。

<会議についての規定>
 会議に関する条文は、概ね次のようなものです。
(会議)
第〇条 会議は、会長が招集し、会長が議長となる。
2 会議は、委員の過半数が出席しなければ開くことができない。
3 会議の議事は、出席委員の過半数で決し、可否同数のときは、議長が決する。
 2項には、会議は、委員の「出席」がなければ会議を開くことができない、と規定されています。
 「出席」という言葉は、会議を開催する場所に出てくることを意味するので、基本的には、その場に出席しなければ会議が不成立となってしまいます。
 国会議員が国会にリアルに出席し、バーチャルが許容されないのは同じ理屈です。
 憲法では、「両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。」と規定しており(56条1項)、ここでも「出席」という言葉が使用されているのです。実際に身を国会の議場の中に置かなければ議事は開けないと解釈されています。
 これは次のような考え方からです。人が一つの場所に集合して話し合いをもち、討論をすることによって、合議体である会の意見が決定されます。集まって会の中であれこれと話をすることで、ある意見をもっていた人も、別の人の意見がよいなと思うようになることもあるし、その逆もある。話し合いが必要なのであるから、持ち回り決議のように話し合いがその場でできないものについては、会議をもったとはいえないでしょう、という考え方です。


<書面審議は「会議」とはいえない>
 このような考え方からすると、書面審議は会議ではなく、議決は無効となります。
 実際、そのような最高裁判決もあり、持ち回り決議での書面審議は無効であるとの判断がだされています(昭和46年1月11日民集25・1・45)。最高裁は、次のように述べています。
「原判決の確定したところによれば、本件許可処分にあたり、温泉審議会は開かれず、知事による温泉審議会の意見聴取は持廻り決議の方法によりされたものであるというのであり、また、温泉法一九条、島根県温泉審議会条例(昭和二五年同県条例第三一号)六条等の規定に徴すれば、右審議会の意見は適法有効なものということはできず、右処分後に開かれた審議会の意見によつても、右のかしが補正されないことは、原判決の判示判断のとおりである。」
 この理由は割とそっけないものですが、原審の広島高裁松江支部昭和38年12月25日判決が実質的な理由付けをしてます。
「控訴人は、温泉審議会委員一九名中一〇名がいわゆる持廻り決議の方法により意見を表明し、その意見はいずれも許可を相当とするものであつたから、意見聴取の手続に欠けるところはないと主張する。しかし島根県温泉審議会条例によると、審議会は会長が招集し、審議会の委員の過半数が出席しなければ、議事を開き議決することができず、議事は出席委員の過半数で決し、可否同数のときには会長の決するところによることとなつているのであつて、持廻り審議による議事の審理、議決を許す旨の規定を定めていないから、委員が一定場所に集合して開会し、討論議決することにより、合議体たる温泉審議会の意見が決定されるわけであり、委員の過半数がいわゆる持廻り決議の方法によりある事項に賛成の意見を表明したとしても、これによつて、審議会の決議が有効に成立するものではなく、したがつて審議会の意見が決定されるものではないといわなければならない。」


<オンライン会議>
 このように書面審議は、話合いをしない方法でおこなれるため、「会議」とはいえないということになります。
 オンライン会議はどうでしょうか。
 オンライン会議では、話し合いがあり、会議に出席しているようにも思えます。
 しかし、現時点では「出席」とは、リアルに会議場に集まることを意味すると考えられていますので、会議についての条文はそのままにしてオンライン会議を開き、議決するのでは、議決が無効となるリスクがあります。
オンライン会議を適法とするためには、次のような規定を置いている例があります(杉並区教育委員会会議規則)。
第4条の2 委員又は職員は、教育長が必要があると認めるときは、教育長、委員及び職員が映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によつて、会議に出席すること(次項において「オンライン出席」という。)ができる。
2 前項に定めるもののほか、オンライン出席について必要な事項は別に定める。
 この規則では、4条に会議についての規定があり、4条の2でオンライン出席について定めています。このように、会議についての規定とオンライン出席についての規定は、同じレベルの法規(条例であれば条例、規則であれば規則)で規定しておく必要があります。
 また、オンライン出席については、詳細な基準をもうける必要があります。例えば、どのような場合にオンライン出席を可とするのかや、回線が途絶したときはどのように扱うのかです。このような取扱い基準を設けているものとしては、板橋区教育委員会オンライン出席取扱基準があります。
 しかし、オンライン出席についての規定自体を設けているところも少なく、基準を設けているものはさらに少ないので、今後の規定の整備がまたれるところです。

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医療観察法上の保護者とは

2021年08月10日 | 刑事関係の話題
 医療観察法の「保護者」について整理してみました。

(医療観察法での保護者とはどのような者か)
 医療観察法には、「保護者」についての規定があり、次の順番で上位の者が「保護者」となります(同法23条の2)。
一 後見人又は保佐人
二 配偶者
三 親権を行う者
四 前二号に掲げる者以外の扶養義務者のうちから家庭裁判所が選任した者
 この四者が不存在の場合には、規定(23条の3)により市町村長が自動的に保護者となります。
 刑事事件から医療観察法上の入院申立てがされるケースでは、市長を保護者として、対象者○○さんが医療観察法上の入院申立てをされました、つきましては付添人を選任するか否かについて回答くださいというような文書が地方裁判所の刑事部から送られてくるのは、この条文によります。
この裁判所からの通知は、役所の社会福祉担当の方のところに届くことになりましょうが、担当者の方からすると、そのような方について市長が「保護者」になったことなんてないのにと思われるはずです。それもそのはず、保護者という決定などなくても、後見人・保佐人・配偶者又は親権者がいない場合は、市長が保護者になるという規定によって通知が送られてくるからです。
 わかってしまえばなんということもないのですが、裁判所からの通知はこの点について全然説明してくれていないので、医療観察法等にあまり触れたことのない役所の担当者としてはびっくりしてしまうのも無理はありません。
 なお、医療観察法というのは、通称でして、正式名称は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」といいます。裁判所からの通知は、この正式名称しか書いておらず、医療観察法とは書いていませんので、その点も注意が必要です。

(保護者は何ができるのか)
 保護者には、付添人の選任権があります(30条1項)。医療観察法に詳しくない方は、この付添人というのは、刑事事件の弁護人のようなものと認識していただければ十分です。
 保護者は、対象者のために意見陳述をしたり、資料提出をすることができます(25条2項)。
 また、審判期日に出席することも可能です。審判期日には、市長が指定すれば職員も出席可能です(31条6項)。

対象者に入院等の決定がでれば保護者には通知されますし(43条3項等)、対象者のために退院許可の申立てや処遇終了申立てをすることもできます(50、55条)。

(保護者の選任)
 このように保護者には様々な権限が与えられています。
 しかし、先ほど述べたように自動的に保護者となるのは、後見人又は保佐人、配偶者、親権を行う者だけで、それ以外の者(兄弟姉妹や対象者が成人となっている場合の両親)は、自動的には保護者として扱われません。
 そこで、このような方が保護者となることを希望する場合は、裁判所に選任してもらって保護者となります。
 この手続きが、保護者選任の申立てです。
 この選任の申立ては、「家庭裁判所」で行わなければならず、医療観察法の事件が継続する地方裁判所刑事部ではありませんので、注意が必要です。

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財産分与とオーバーローン住宅

2021年08月02日 | 家事事件関係
(はじめに)
 離婚に伴って夫婦の財産関係を精算するのが財産分与ですが、不動産があるとややこしくなる場合があります。住宅がオーバーローン状態の場合もその一つです。

(オーバーローン状態の住宅とは)
 住宅ローンを利用して不動産を購入し、ほどなくして離婚ということになると、オーバローンということがほとんどです。
 例えば、不動産を売ると2000万円にしかならないのに、住宅ローンとしては3000万円残っているという場合です。このように、住宅ローンの方が不動産の時価よりも上回る(オーバー)場合をオーバーローン状態といいます。

(オーバーローンの住宅は財産分与の対象にならない)
 オーバーローンの住宅は財産分与の対象にならない、またオーバーしたローン部分は財産分与で考慮しないというのが、今の裁判官の考えです(「財産分与と債務」(松谷判事;判例タイムズ1269号)。
 具体的に考えてみましょう。
 先ほどの例で考えてみます。不動産の時価は2000万円で住宅ローンは3000万円でした。
 離婚の財産分与では、この不動産の価値を次のように考えます。
2000万ー3000万
=ー1000万円
⇒0円
 計算するとマイナスになりますが(だからこそオーバーローンというのですが)、マイナス部分は考慮に入れないということになっています。
 財産分与の対象にならないということは、判決になった場合は、住宅は財産分与でカウントされず、もとの名義のままということになります。

(住宅の問題は先送りされるだけ)
 もとの名義のままということは、住宅については問題が先送りにされるだけです。住宅ローンは誰かが支払っていかなければならないけれども、売るに売れない状態です。オーバーローン状態でも、売却することは法律上は可能ですが、売却金額で支払いきれないローン部分は一括での支払いを求められることになり、マイナス部分が顕在化してしまうからです。
 不動産も住宅ローンもどちらか一方の名義であれば、他方の配偶者はこの問題にタッチしなくて済みますが、共有名義だった場合、住宅ローンの連帯債務者や連帯保証人になっている場合については問題は大きいです。

(ではどうするべきか)
 オーバーローンの住宅の問題が残っても、とにかく離婚を急ぎたいという場合は、問題を切り離すという選択肢もありです。
 しかし、そのような問題を残したくないというのであれば、離婚の話合いの中でオーバーローンの住宅をどのようにするのかということも話合っておいた方がよいです。
 そうでないと、離婚が成立した後も話合いを続けなければならないことになってしまうからです。
 数字的にはマイナスの価値しかないものをどのように決めていくかは、困難を伴うものですが、夫婦で決めたことの後始末としては必要なことと考えるほかありません。


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