南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

原子力損害賠償紛争解決センターでの和解成立時の標準的な流れ

2020年05月21日 | 原子力損害
2019年度(令和元年度)の原子力損害賠償紛争解決センターの活動状況報告書等をもとに、和解成立時の標準的な流れをご紹介します。
①申立書の受付から1カ月~1カ月半ほどで担当者(仲介委員及び調査官)が指名され、申立人等に通知される。
②この通知に前後して東京電力の答弁書が提出される。
③仲介委員による審理・調査等が進められる。
申立人側からは調査官からしか連絡が来ないので、調査官とのやりとりをしているように見える。
④和解案提示が行われ、双方の内諾を得て和解契約が締結される。

*仲介委員等の指名から和解案提示までの期間(平均)
2015年度 4.6カ月
2016年度 6.1カ月
2017年度 7.9カ月
2018年度 10.9カ月
2019年度 11.0カ月

*和解案提示までの期間が長期化している要因
①本件事故からの時の経過に伴い、各種復興施策の進展やそれぞれの被害者が置かれている生活環境の変化等によって事業や生活の具体的な事情が多様に変化しており、その多様な状況ないし事情を個別具体的に捉えて丁寧に審理することが、和解案を提示するために必要となっている
②本件事故発生前後の状況についての的確な資料(関係者の記憶等の主観的なものを含む)の散逸が進行している
③本人申立て(弁護士が代理しないもの)の案件においては、申立人が個別の事情について説得的な主張をし、その主張を裏付ける的確な証拠を整理して提出しきれないことも少なくない




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和解事例、1638から1642まで

2020年05月20日 | 原子力損害

2020年4月17日、原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)から和解事例が公表されました(和解事例1633から和解事例1642まで)。今回は、1638から1642までの和解事例を紹介いたします。

1638=避難指示解除準備区域(浪江町)の日常生活阻害慰謝料に関するもの
1639=旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)の日常生活阻害慰謝料に関するもの
1640=会津地方の営農損害に関するもの
1641=避難指示解除準備区域(浪江町)の日常生活阻害慰謝料に関するもの
1642=自主的避難等対象区域(桑折町)の生活費増加費用等に関するもの

和解事例(1638)
避難指示解除準備区域(浪江町)から避難した申立人について、避難によりペットの猫を喪失したことについての慰謝料10万円のほか、日常生活阻害慰謝料(増額分)として、認知症の父及びうつ病の母を介護しながらの避難であったことを考慮し、平成23年3月分から平成30年3月分まで、仮設住居に入居する平成23年8月分までは月額8万円又は月額9万6000円、同年9月分以降は月額5万円で算定した金額(直接請求手続による既払金127万5000円とは別に318万7000円)が賠償された事例。

和解事例(1639)
旧緊急時避難準備区域(南相馬市原町区)から避難した申立人ら(母及び子2名)について、申立人母の日常生活阻害慰謝料(増額分)として、仕事のために申立人子らを避難先に残して申立人母のみが帰還した平成23年4月分から申立人子らも帰還した同年12月分まで、家族別離状態であったことを考慮し、月額3万円が、申立人子らのうち1名の日常生活阻害慰謝料(増額分)として、平成23年4月分から平成24年8月分まで、同人が広汎性発達障害により避難先での環境変化に十分適応できず、また、帰還後の生活環境に適応するにも時間を要したことを考慮し、月額3万円が、それぞれ賠償されたほか、診断書取得費用及び上記別離期間中に生じた家族間面会交通費が賠償された事例。

和解事例(1640)
会津地方でしいたけの植菌及び栽培事業を営む申立会社の平成31年2月から3月までの間に購入した原木に係る営業損害(追加的費用)について、原発事故により原木の価格が高騰したとして、原発事故前の原木の単価と上記購入した原木の単価との差額に、申立会社が原発事故前に保有していた原木の本数である2200本ではなく、事故当時に有していた事業計画等を考慮して、実際に上記平成31年に購入した原木の本数である6500本を乗じた額(ただし、原発事故の影響割合とした8割の限度)が賠償された事例。

和解事例(1641)
避難指示解除準備区域(浪江町)に居住していた申立人母の日常生活阻害慰謝料(増額分)につき、事故当時1歳の申立人長男及び事故後に出生した申立人二男の世話を恒常的に行ったこと等を考慮して、平成23年3月分から平成29年3月分まで月額3万円が賠償された事例。

和解事例(1642)
自主的避難等対象区域(桑折町)から母子のみが避難した申立人ら(父母及び子2名)について、生活費増加費用として、平成24年1月分から平成27年3月分まで、原発事故前は自家消費用の米及び野菜を栽培していたこと等を考慮した月額9500円の食費増加分、二重生活となったこと等を考慮した生活費増加分月額3万円並びに避難先で子らが入園した幼稚園の授業料と事故前に通園していた幼稚園の授業料との差額から自治体の補助費を控除した68万9700円が、上記同期間の避難雑費として子1名につき月額2万円が、それぞれ賠償されたほか、平成31年3月に自宅に帰還した際の帰宅関連費用が賠償された事例。


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自治体が任期付弁護士職員を採用するメリット

2020年05月16日 | 地方自治体と法律
 自治体が任期付弁護士職員を採用するメリットについて、森博幸鹿児島市長小論がまとまっていましたので、紹介します(森博幸「職員の政策法務能力向上と任期付弁護士職員の活用」自治体法務 研究・2019年夏号)。

・鹿児島市の基本目標の一つは、「市民と行政が拓く協働と連携のまちづくり」であるが、そのために必要不可欠なものが職員の政策法務能力の向上である。
・地方自治体には、職員全体の立法、解釈運用、争訟の法務の能力を向上させ、それぞれの業務が適正に行われるだけの素地を固める必要がある。前例と同じというのは理由としては適切ではない。
・例えば、災害対策では、まちの再建過程で用地買収などの法的処理が課題となる。児童虐待への対応についても、様々な場面で専門的な知識や対応が必要になる。
・職員の政策法務能力の向上のための一つの方策として、鹿児島市では、平成26年度より弁護士資格を有する任期付職員を採用している。担当する業務は、法的課題への相談対応、行政不服審査制度の審理員審査、職員向け政策法務能力向上にかかる研修である。
・メリットは、①組織内に実務に通じた弁護士がいることにより、問題が生じた場合に、すぐに専門家としての意見を聴くことができること、②担当職員が、結論に至る検討過程も聴くことで当該業務を行うために必要な法的根拠や思考方法を習得することができ、職員の意識改革にもつながること、③組織の内部事情を把握した任期付職員が行うことで、現場のニーズに適合した研修が可能となったことである。

 キーワードは、「職員の政策法務能力の向上」です。地方分権により権限と責任をもった自治体はこの課題に取り組む必要があるでしょう。
 この目標を達成するためには、弁護士資格を有する任期付職員の採用は必須とはいえないかもしれませんが、上記小論で掲載されているメリットからすれば、当該職員の採用は職員の政策法務能力の向上の早道ではあるでしょう。

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和解事例、1643から1646

2020年05月15日 | 原子力損害

2020年5月1日、原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)から和解事例が公表されました(和解事例1643から和解事例1650まで)。今回は、1643から1646までの和解事例を紹介いたします。

1643=避難指示解除準備区域(浪江町)の日常生活阻害慰謝料に関するもの
1644=避難指示解除準備区域(浪江町)の日常生活阻害慰謝料に関するもの
1645=避難指示解除準備区域(浪江町)の日常生活阻害慰謝料に関するもの
1646=居住制限区域(浪江町)の日常生活阻害慰謝料に関するもの

和解事例(1643)
避難指示解除準備区域(浪江町)から避難した申立人について、避難によりペットの猫を喪失したことについての慰謝料10万円のほか、日常生活阻害慰謝料(増額分)として、認知症の父及びうつ病の母を介護しながらの避難であったことを考慮し、平成23年3月分から平成30年3月分まで、仮設住居に入居する平成23年8月分までは月額8万円又は月額9万6000円、同年9月分以降は月額5万円で算定した金額(直接請求手続による既払金127万5000円とは別に318万7000円)が賠償された事例。

和解事例(1644)
避難指示解除準備区域(浪江町)から避難した申立人の日常生活阻害慰謝料(増額分)について、妻との別離を余儀なくされたこと、同居していた母の介護を恒常的に行ったこと等を考慮して、平成23年3月分から平成30年3月分まで月額3万円が賠償された事例。

和解事例(1645)
避難指示解除準備区域(浪江町)から関東地方に避難を余儀なくされた申立人ら(父母、子2名)の日常生活阻害慰謝料(増額分)として、①申立人父について、上肢機能の著しい障害等の事由により身体障害等級3級(後に2級)であったことを考慮し、平成23年3月分から平成30年3月分まで月額3万円(ただし、既払金137万円を除く。)が、②申立人父の上記障害等のために、高校入学等を機に福島県に帰還した申立人子らと共に申立人父母は帰還することができず、家族別離状態となったことを考慮し、別離状態が生じた平成23年4月分から平成25年3月分まで及び平成26年4月分から平成29年3月分まで月額3万円が、③申立人母について、申立人父を介護しながらの避難であったことを考慮し、平成23年3
月分から平成30年3月分まで月額3
万円(ただし、既払金19万円を除く。)が、それぞれ賠償された事例。

和解事例(1646)
居住制限区域(浪江町)から避難した申立人夫婦の平成23年4月分から平成30年3月分までの日常生活阻害慰謝料(増額分)について、申立人夫が平成23年4月にアルツハイマー型認知症を発症し、その後要介護1の認定を受けたこと、その間申立人妻が申立人夫の介護を恒常的に行ったことを考慮して、申立人夫婦それぞれにつき月額3万円(ただし、申立人夫については、既払金84万円を除く。)が賠償された事例。


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