万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

裏目に出たNHKの”平和憲法日本人発案論”ーむしろ改憲の根拠となるのでは?

2017年05月03日 15時13分10秒 | 国際政治
憲法草案に「いいじゃないか」 昭和天皇の発言、メモに
 ここ数年、現行日本国憲法はアメリカから押し付けられた憲法とする批判を封じるために、憲法制定過程における日本人の関与が強調されるようになりました。4月30日の晩にNHKが放送した「憲法70年”平和国家”はこうした生まれた」も、その一環であるようです。

 ”平和憲法日本人発案論”が取り沙汰されている背景には、中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイル問題等があることは容易に推測されます。”軍靴の音”は周辺諸国から聞こえてきており、日本国は、真剣に自国の防衛を強化するために、憲法第9条の改正も視野に入っているからです。そこで、NHK等の憲法改正に反対する左派勢力は、右派が主張してきた”押し付けられた憲法論”を論駁することで、憲法改正を阻止しようとしているのでしょう。しかしながら、近年に発見された憲法制定過程に関する新資料等を読みますと、”平和憲法日本人発案論”は、むしろ、改憲の根拠となるのではないかと思うのです。

 第1に、昭和26(1951)年2月下旬に憲法制定過程にあって首相を務めた幣原喜重郎氏から聴取したとする元衆議院議員平野三郎氏の手記によると、戦争放棄のアイディアは、全く以って幣原氏個人の頭の中に浮かんだものであって、それをGHQのマッカーサー元帥に伝え、両者が共鳴したことで実現したとされています。しかしながら、幣原氏が説明した論理的根拠は、今日、既に崩壊している部分が少なくありません。否、当時でさえ、幣原氏は、世界平和の為に敗戦国である日本国が、敢えて”素晴らしい狂人”となる役割を買って出るべきと述べているのです。しかしながら、北朝鮮という”凶暴な狂人”が出現している今日、”素晴らしい狂人”という理想は、現実の’凶暴な狂人’の暴力で踏みつぶされる可能性があります。

 第2に、幣原氏の戦争法規に至る論理構成は概略化すれば、原子爆弾による人類滅亡の危機、軍事力の無意味化、世界のすべての諸国による軍事力の放棄、世界政府の設立、非武装化された日本国の安全というものです。一方、今日、北朝鮮は、核戦争を仕掛けることで人類を道連れにしかねず、核兵器の存在は、必ずしも、全世界の軍事力の放棄へと向かっていないのが現実です。また、国連安保理の常任理事国5か国においても分裂が見られ、世界政府とは程遠い現状にあっては、自国の兵士の命を以ってして日本国を防衛してくれるような親切な組織も国もありません。

 第3に、幣原氏自身は、たとえ世界政府が実現したとしても、警察力は必要であると述べています。中国や北朝鮮といった無法国家の存在を鑑みれば、今日ほど、警察力としての武力の行使が必要とされている時代はありません。NHKの番組では、改正過程において外務省が国際秩序や国際法の遵守に関する加筆を求めたされていますが、憲法第9条は、国連が機能し、国際法が順守される状態の実現を前提としているのです。

 そして第4に、NHKは、日本社会党の鈴木義男議員を平和憲法の立役者として紹介していましたが、同議員の思想的背景を考慮しますと、憲法制定のプロセスにはソ連邦等の共産主義勢力の影響も伺えます。同議員の孫にあたる油井大三郎氏も番組内に登場していますが、同氏は、朝戦争における北朝鮮寄りの発言でも知られており、アメリカから”押し付けられた憲法”を否定しようとして、逆に、日本国憲法の内容をめぐる共産主義勢力の介在を浮かび上がらせております。

 以上に述べてきましたように、”奴隷の平和”を実現したい左派勢力が喧伝する”平和憲法日本人発案論”は、むしろ、日本国憲法の改正に根拠を与えております。幣原氏は、天皇制の維持とセットで戦争の放棄をマッカーサー元帥に進言したそうですが、どちらにつきましても、今後のあり方について原点に帰って真剣に考えるべき時期に差し掛かっているのかもしれません。

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