万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米軍による対北空爆を中国が承認する論理

2017年04月24日 15時04分24秒 | 国際政治
中国主席「緊張回避」呼び掛け=北朝鮮めぐり米大統領と協議
 朝鮮半島では、各国とも、相手国に対して自制を呼びかける一触即発の状態が続いております。さながら何れもが銃に手をかけている決闘場面のような緊迫した状況ですが、明日25日には、朝鮮人民軍創設から85年を迎える記念日に当たるため、北朝鮮が核実験を敢行するのではないかとする憶測も流れています。

 あくまでも北朝鮮を擁護すると見られてきた中国でも、いささか風向きが変わってきており、アメリカの対北空爆を容認する見解も聞かれるそうです。米軍が北朝鮮の核施設等を標的としたピンポイント式の空爆を実施した場合には中国は介入しないが、仮に、米軍が、38度線を越えて北朝鮮領内に進軍した場合には、中国は北朝鮮の同盟国として闘う、というものです。この主張の論理構成を分析してみますと、中国の認識の変化について興味深い点が見えてきます。

 中国と北朝鮮との間には、1961年以来、中朝友好協力相互援助条約が締結されており、参戦条項と称される第2条では、「第二条  両締約国は,共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥つたときは他方の締約国は,直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える。」とあります。この条項に従えば、アメリカが北朝鮮を先制攻撃した場合、中国は、集団的自衛権を発動して北朝鮮側で闘う義務を負うのです。

 同条文を読む限り、中国の参戦条項が発動されない条件とは、北朝鮮側が侵略する、即ち、先制攻撃を行うケースに限られますが、もう一つ、中国が参戦義務を負わないケースがあります。それは、国連憲章やNPTといった国際法に違反する行為に対する”制裁”の場合です。武力の行使という意味では表面的には同じでも、その根拠は国際法に求められるのであり、この場合におけるアメリカの軍事行動は、休戦協定違反による朝鮮戦争の再開とは別次元となるのです。

 以上に述べたように、この説では、中国は、国際法違反行為に対する”制裁”と朝鮮戦争の延長としての”戦争”とを区別しています。即ち、中国は、南シナ海問題では仲裁裁定を無視したものの、北朝鮮問題に直面するに及んで、対米全面戦争を回避する論法として国際法秩序の維持を持ち出さざるを得なくなっているのです。尤も、中国の認識の変化は当面の危機を脱するための方便に過ぎず、危機が去った後には、再び以前の状態に戻るかもしれません。とは言うものの、中国の対北空爆容認論によって、北朝鮮は、中国の参戦を期待できなくなりますので、何れにしても、”制裁”と”戦争”の区別は、北朝鮮に”投降”、あるいは、”降伏”を迫る強力な圧力となると思うのです。

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