雲の上には宇宙(そら)

 雪国越後にて、30年ぶりに天体写真に再チャレンジ!

VC200Lガイド検証(その2 ブレの犯人探し)

2015年02月09日 | それでも星は流れる
前回の記事 では
機材の”タワみ”による ゆるやかな流れについて検証を行いました。
思い起こせば30数年ぶりに天体写真を再開し、
ガイド撮影による長時間露光を行うようになってから、いつも付きまとっていた問題でした。
それが機材の搭載方法を試行錯誤する中で、長焦点(f=1800mm)の
VC200L反射鏡筒のガイドもあと一歩というところまできました。
これは現在の搭載方法で、タワみによる流れが少なかったガイド結果です
上図のガイド結果ではVC200L+60Dカメラの撮影では1時間で約10画素流れています。
これは15分露光なら1枚あたり2.5 画素というガイド精度になります。
実際の星像が 画素程度の事を考えると十分な精度です。

それなのに「中央部の星像」を見ると丸い円では無く、東西方向に流れたような細長い楕円になっています。

その原因は上図の右側にあるガイドソフトPHGガイデイング2のガイドグラフでわかります。
グラフを見ると基準になる位置(ガイド星の元の位置)を中心に短時間のブレが連続しています。
そのブレ巾は平均で赤経RA(東西方向)±4.6 画素、赤緯Dec(南北方向)±2.6 画素もあります。
両方向にブレている事を考慮するとにタワみによる流れの4倍ほどにもなり、
これでは星が楕円になるのも無理はありません。

そこで、今回は
Ⅱ.ブレによる短時間の流れ
について
これまでの検証データからその原因を探ってみます。

最初にまず前回の検証結果を元にタワみによる流れとの関係を調べてみました。
サンプル数が少ない上に、PHDガイディングの設定値も異なっていますが、
タワみブレは別物と考えた方が良さそうです。
(むしろタワみとは逆の相関関係があるようにも見えます。)

ほかにもブレ巾の平均(RMS)をみるといつも赤経RA(東西方向)の方が
赤緯Dec(南北方向)2倍から3倍と大きいのも気になります。

先入観なしにブレを起こしそうな容疑者を挙げてみました。
(A) 大気のゆらぎ(シンチレーション)
(B) ガイド信号による過剰な制御(ハンチング)
(C) 赤道儀のギヤ・潤滑油の劣化による回転ムラ
(D) PHDソフトの設定値が不適正 (B)にも関連
(E) 風による鏡筒のゆれ
(F) 姿勢変化の遅れ(タイムラグ)
(G) その他、未知の原因
はブレの原因になると思うのですが、撮影時に風のあった記憶が無かったので今回は除外しました。

これより、検証結果による状況証拠でどの容疑者が怪しいか調べてみます。
(状況証拠.1) ガイド制御の有無によるブレの変化
先日4日、満月の夜に50mmガイド鏡だけを搭載して検証。
( 軽量のためバランスウエイトが合わず省略しました。結果 ガイド鏡側が重くなっています。 )

PHDガイドスタート時のグラフです。(タテ軸スケール 4”
PHDガイド中に赤道儀に制御信号を送るコードを抜いてみました。(タテ軸スケール 
コードを抜いている間、RAの波にウォームギヤによるピリオディックモーション(周期8分の進み遅れ)のようなものが見れます。
再びコードを差して制御を再開しました。(タテ軸スケール 

わかったこと
制御信号がなくてもブレは発生している。
制御信号がない時もRAの方がDecの何倍もブレている。
つまり
ブレの原因は
(B)ガイド信号による過剰な制御(ハンチング) ではないようだ。

これは まずい!
ハンチングが原因ならPHDガイディングの設定値の適正化で改善の余地があったのに・・
* もともとハンチングが起きにくいよう、RA: Agr(どの程度忠実に制御するか)を50%程度と控えめにしています。


(状況証拠.2) 搭載荷重の違いによるブレの変化
( ウェイト10㎏でバランスがとれています。)
同じ夜にO軸ガイドシステムでサンニッパレンズを搭載したガイドグラフです。
PHDの制御間隔でもある露光時間はガイド鏡だけのときの半分の1secとなっています。
わかったこと
搭載荷重が大きくてもバランスがとれた方がブレは小さくなっている。
PHDの露光時間が短い方がブレが小さくなる?

バランスについては数値化しにくいので、2つめのPHDの露光時間とブレの関係を調べてみました。
このグラフからは
PHDの露光時間が短い方が、ブレが少ない傾向がある。
赤経RA(東西方向)のブレは、赤緯Dec(南北方向)のブレの2倍ほど大きい。

これは何を意味するのか推理してみました。
推理1 赤緯Decのブレはシンチレーションによるもの (注)
ふだんは静止している赤緯Decの変化はシンチレーション大気のゆらぎ)と、
その補正のための制御信号によるものしか考えられない。

(注) シンチレーションの継続時間は1/1000秒から約1秒と言われており、
グラフはPHD露光時間内(数秒)に何十回、何百回も変化するガイド星の平均位置を表している。

推理2 赤経RAのブレはシンチレーションと回転ムラが合成されたもの
赤経RAのシンチレーション(赤緯Decと同程度)(注) に、常に回転している
赤経モータの伝達ギヤの回転ムラ(わずかな進み遅れ)が加わる。

(注) シンチレーションは大気の密度のわずかな差で発生し、RA(東西方向)がDec(南北方向)より常に大きいとは考えにくい。

推理3 赤経モータの伝達ギヤの回転ムラは、
ピリオディックモーションほどではないが、比較的ゆるやかに変化する。 (注)
シンチレーションと違い、その変化が制御可能な継続時間であれば、
露光時間(=制御間隔)を短くすれば回転ムラによる進み遅れは補正が可能。

(注) 数個のギヤで回転を伝達する際に、その形状から必ずわずかな回転ムラが発生する。

もしこの推理が正しければ
特に星像へのダメージが大きい赤経RAのブレを起こしている犯人は
主 犯
(C) 赤道儀のギヤ・潤滑油の劣化による回転ムラ
(2015/06/05 追記 )タカハシのHPより第一世代のTemma赤道儀まではステッピングモータの回転ムラがあることが判明
 
共犯者
(A) 大気のゆらぎ(シンチレーション)

になります。
ただし、大気のゆらぎ(シンチレーション)の補正については
はじめからPHDガイディングでは補正対象外としています。

結局 状況証拠しかないので、推理というより推測で終わらざるを得ないのですが、
実際の運用にあたっては
1.できるだけ強固な固定方法を撮る事により、タワみによる流れを”0”に近づける。
2.PHD露光時間を短くしてギヤの回転ムラによるブレも抑制する。
大気のゆらぎ(シンチレーション)が大きい時はしかたないとあきらめる。
といったところでしょうか。

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連載までした記事なのに、尻切れトンボのような
終わり方ですみません。
タワみ対策で購入した中古のプレートは届いています。
結局追加注文してしまった片割れが届いたら
ブログにて報告させてもらいます。
雪はほとんど消えていたのですが、真冬に逆戻りしました。
また星空が遠くなりました。

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6 コメント

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意外な真犯人 (さすけ)
2015-02-10 21:27:58
意外な真犯人(赤道儀の回転むら)がでてきましたね~。
そこで速効性が期待されるタワミ対策ですね。
それにしてもさらっと書かれた「結局追加注文してしまった片割れ」については財務省はご存じなのでしょうか(^。^)。

明日の夜はひょっとして・・ではないでしょうか。

返信する
片割れも届きました。 (雲上(くもがみ))
2015-02-10 21:45:14
さすけさん こんばんは。
本日片割れの鏡筒バンドが届きましたので、さっそく組み立ててみました。
やはり極端な尻重で、悩んだ末 見た目はデンキホーテ(改)に似た形で
クランプフリーでどこでも静止できる状態になりました。
ただ、鏡筒内部の副鏡が傾きにより動くという情報もあり、検証してみるまでわかりません。
家内には安い中古が見つかったということで・・

それにしても今回の雪、久々の降りっぷりでしたね。
返信する
焦点距離の差 (さすけ)
2015-02-11 08:58:47
そもそもが焦点距離が800mmから1800mmになった苦労、と言う事になりますかね。
補正予算を組んだシステムの様子も形としてはR200SSに近くなるんでしょうか。
まぁ始めからそこに行くんじゃなくて「本当にそうなの違う方法があるんじゃない?」が雲上研究所ですから。

ちなみに、こんなものが。
http://urx2.nu/hdcq

追伸:さすけ宅、二晩で積雪70Cm追加。
返信する
見かけは「ドンキホーテ」 (雲上(くもがみ))
2015-02-11 14:10:24
さすけさん こちら二晩で50センチまでは無かったと思います。

昨日から届いたプレートと鏡筒バンドの調整をやってました。
出来上がりのイメージは「ドンキホーテ」方式に近いかな。
R200SSもこれでいけるのが確認できました。
このあとブログにて報告いたします。

機材のメンテナンスは知ってました。(今もやってるか不明ですが)
もし出すとしても来年の冬ですか。
返信する
実際の星像 (さすけ)
2015-02-14 07:24:05
いまさらコメント、ですみません。
記事中に「実際の星像が8 画素程度の事を考える」とありますが、VC200Lは3画素になりませんか?
返信する
主犯は大気のゆれ (雲上(くもがみ))
2015-02-14 10:01:57
さすけさん 晴れるどころか真冬に逆戻りですね。

たしかにVC200Lの星像は設計理論上は3画素程度と、
手持ちの「天体望遠鏡ガイドブック」には書いてあったのですが、
実際に撮影した画像で調べたら良い時で8画素程度でした。
原因は製造過程の問題の他に、大気のゆらぎ(シーイング)の影響だと思います。
本州での平均的な大気の揺れは2~3秒程度だそうですので、
これはVC200L+60Dに換算すると4~6画素にもなります。
(冬の日本海側はもっとひどいと思います。)
やはりこれだけ長焦点になるとシーングの良否が大きな問題になってくるようです。
返信する

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