ミーハーのクラシック音楽鑑賞

ライブ感を交えながら独断と偏見で綴るブログ

『鹿鳴館』@新国立劇場

2014-06-22 15:44:00 | オペラ
一昨日(20日)新国立劇場・中劇場でオペラ『鹿鳴館』(2日目)を観てきた。原作は三島由紀夫。上演台本および演出は鵜山仁。音楽は池辺晋一郎。指揮は飯森範親。管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団。主な出演者は下記の通り。

 影山悠敏伯爵:与那城敬
 同夫人朝子:腰越満美
 大徳寺侯爵夫人季子:谷口睦美
 その娘顕子:幸田浩子
 清原永之輔:宮本益光
 その息子久雄:鈴木 准
 女中頭草乃:与田朝子
 宮村陸軍大将夫人則子:鵜木絵里
 坂崎男爵夫人定子:池田香織
 飛田天骨:早坂直家
 合唱新国立劇場合唱団

オペラはよく総合芸術だと言われる。その単的な意味は「オペラ=演劇+音楽+α」ということだろう。しかしである、このオペラ『鹿鳴館』はその演劇も音楽も中途半端という感じでしかない。また表面的な+αである舞踊も物足りず、内包的な+αが何かも感じることができなかった。

『鹿鳴館』はもともと三島由紀夫が文学座のために書き下ろした戯曲であり、主人公二人(影山夫妻)の憎悪を政治絡みに書かれた傑作である。今回のオペラも三島のこうした意図は十二分に組みとってはいるものの、それをあまりに重視するためにオペラとしてのエンターテイメント性、つまり合唱による演劇的および音楽的な情景もしくは叙情がまったくない。また舞踊を入れての躍動感もしくは動的仕草が希薄で、映画『歴史は夜に作られる』ような舞踏シーンがうまく作品に組み込まれているわけでもない。

そして、なによりも不満だったのが、前半の第1幕と第2幕の説明的なダラダラとした展開である。ここだけで上演時間が90分あるのだが、もっとカットするなりスピードアップすれば、1階中央センターという特等席に座っているにもかかわらず、私の足も棒になることはなかっただろう。これはひとえに上演台本および演出を担当した鵜山仁の三島文学に対してへの躊躇によるものであろう。

さて、音楽の池辺晋一郎である。日本語に音楽をつける、ましてや三島の台詞に音楽をつけるということで、かなり苦労をしているようだったが、全体的に平坦でアリアや重唱にしても、これといって印象を受けた曲はなく、正直がっかりさせられた。

一方でこうした音楽にも関わらず、出演者の多くは大健闘だった。ヒロインの影山夫人・朝子を演じた腰越満美は艶のある歌声と美しい所作で好演だった。また、影山伯爵を演じた与那城敬の陰湿な悪を滲ませながら魅惑的な低音を披露してくれた。このほかでは、大徳寺侯爵夫人季子役の谷口睦美が舞台映えする容姿と美しく豊かな声がとても魅力的。彼女は先日の『カヴァレリア・ルスティカーナ』でも好演していたので、次はぜひとも主役を務めてもらいたい。

観客の多くは三島文学を愛好していたと思われる高齢者および音楽関係者で、一般客および学生の数は非常に少なかった。それゆえか、終演後家路につく観客たちの声は贔屓の引き倒しではないが、「歌が良かったね」「アンサンブルが良かったね」といった部分的解釈のみで芝居全体の面白さには触れずじまいである。

最後に、オペラは総合芸術である。お話がいくら悲劇とはいえ、観客の心を楽しませる(エンターテイメント性)と心を揺さぶる何か(メッセージ性)が伝わってこないようでは失敗である。三島文学という絶好の題材を得ているのだから、もし、今後もこの演目を上演するならば、新国立劇場は作品の細部まで再検討して、新制作として上演されることを望む。


最新の画像もっと見る