ミーハーのクラシック音楽鑑賞

ライブ感を交えながら独断と偏見で綴るブログ

タン・ドゥン&N響の世界初演

2013-05-25 23:01:01 | N響
一昨々日(22日)サントリーホールで開かれたNHK交響楽団第1755回定期演奏会に行ってきた。指揮はタン・ドゥン。マリンバは竹島悟史。ハープは早川りさこ。

【演目】
タン・ドゥン/「The Tears of Nature」~マリンバとオーケストラのための(日本の津波犠牲者の追憶に)(2012)[日本初演]
ストラヴィンスキー/バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
  ~休 憩~
タン・ドゥン/女書:The Secret Songs of Women ~13のマイクロフィルム、ハープ、オーケストラのための(2012/13)[世界初演]
《19時00分開演、21時00分終演》

1曲目のマリンバを主体にした曲だが、これがなんで「日本の津波犠牲者の追憶に」という副題というかコピーが入っているのかも解らない。なんか取ってつけたとような気もしてしまい、少し腹立たしかった。

2曲目になんでこの曲が来るのかと思ったが、「ああ、そうか。中国的メロディが入っているからだなあ」なんだと思った。ただし、タン・ドゥンの指揮はお世辞にも褒められたものではない。彼はやはり指揮者というよりは作曲家だろう。

3曲目。N響、コンセルトヘボウ管、フィラデルフィア管の3つのオケの共同委嘱による作品。今回がそのなかでももっとも早い演奏ということで、正真正銘の世界初演。これまでにも世界初演という曲に遭遇したことはあったと思うが、これほど長い曲は初めて。で、感想として世界初演の演奏としては成功したのではないだろうか。

舞台上には大小3枚スクリーンが吊るされて、そこにはタイトルである「女書」やそれに伴う中国の風景そして、女性の歌う姿が映し出される。つまり、映像と音楽を一体化させた試みなのである。

ステージ上のオケの上には大小3枚の高さを変えたスクリーンが吊るされ、そこに映像が写され、独特の節回しの歌が歌われ、N響が奏でる音楽と共に協奏曲を奏でる。音楽はハープ協奏曲の形態で、早川りさこが奏でるハープは、古琴、二胡、琵琶といった中国の弦楽器をモチーフにしたような音を奏でて、これまでのハープの領域を覆すような音色を醸し出し、この点に関しては大いに評価できるのではないだろうか。

ただ、音楽そのものは環境音楽的であり、中国紀行BGMの域を脱しておらず、いくら映像と音楽の一体化を試みていても、末代まで残る音楽かというと疑問がある。語弊があるかもしれないが、これならばN響は大河ドラマの『利家とまつ』『篤姫』などの音楽を交響曲化もしくは組曲化することを委嘱して独自のレパートリーを作った方がいいのではないだろうか。

最後に苦言を。この演奏会はサントリーホールでなくNHKホールでやるべきだと思う。1曲目のマリンバは妙にハウリングしていたように聴こえたし、3曲目も視覚的にもまた音響的にもNHKホール方が面白いように思える。

フェドセエーフ&N響のロシアン・プログラム

2013-05-20 23:19:19 | N響
一昨日(18日)NHKホールで開かれたNHK交響楽団第1754回定期演奏会に行ってきた。指揮はウラディーミル・フェドセーエフ。

【演目】
ショスタコーヴィチ/交響曲第1番ヘ短調
  ~休 憩~
チャイコフスキー/弦楽セレナードハ長調
ボロディン/歌劇「イーゴリ公」から「序曲」「ダッタン人の踊り」
《15時00分開演、17時00分終演》

80歳にしてN響初登場のフェドセーエフ。以前、東京フィルを指揮したときに聴いたことがあるが、艶のいい顔、軽快な動きで指揮台に上がる姿などとても80歳には思えない。

1曲目。前日にテミルカーノフ&読響で聴いたばかりの曲なので、どうしても比較してしまう。テミルカーノフがオケ全体にメリハリをつけて、エキサイトな演奏を聴かせてくれた。一方、フェドセーエフはあまり抑揚のない地に足を付かせるような演奏をさせたが、ティンパニー、スラムドラム、チェロ、コンマスなどのソロパートをうまく引き立ていた。

この演奏の違いを好むかは、人それぞれによって違うだろうが、私は打楽器陣を際出せたフェドセーエフの方に軍配を上げたいと思う。

2曲目。第1楽章、威厳と格調に満ちた出だしで、思わず天を仰ぎたくなる。第2楽章はしなやかにして流麗なワルツで、舞台の袖からバレエダンサーが登場しないかなあと思ってしまう。第3楽章はゆったりとしたテンポで、一音一音を確かめるようにエレジーを歌いあげていき鳥肌もの。そして、第4楽章ではフェドセーエフは弦の可能性を多角的に試みるかのように、これまでになく大きな指揮でN響からメランコリックにして艶やかやな音色をしっかりと紡ぎあげていった。ブラボー!

N響のシルキーな弦は世界トップレベルだ。この『弦楽セレナード』、芥川也寸志の『弦楽のための三楽章』、バーバーの『弦楽のためのアダージョ』、マーラーの交響曲第5番第4楽章などの弦楽合奏を何度も聴いてきたが、どれも美しく、聴いていて気持ちがいい。弦楽合奏には他にもエルガーやドヴォルザークなどがあるので、今後はそうした曲もプロミラミングしてほしいものである。

3曲目。2曲目の素晴らしい演奏をそのまま引き継ぐかのように、あまり馴染みのない「序曲」も馴染みのある「ダッタン人の踊り」も、どちらもフェドセーエフの流れるような指揮の下、N響は明るくそして自信に満ちた演奏を披露した。

話は少し脱線するが、この日の私の前の席に小学校低学年と思しき女の子が座っていた。彼女は前半のプログラムは始めこそその後姿を見ることができたが、途中からは背もたれに埋もれてしまったようでまったく見えなくなってしまった。おそらく心地よい夢でも見ていたのだろう。(笑)ところが後半のプログラムはずっと行儀よく静聴。「弦セレ」のあと隣のお母さんにいろいろ質問を浴びせていて、ちょっと興奮気味。そして、ボロディンが終わったあとはもう大拍手。よほど楽しかったのだろう。お母さんの情操教育、お見事である。w

テミルカーノフの読響定期

2013-05-18 23:55:32 | 読響
昨日(17日)サンントリーホールで開かれた読売日本交響楽団第526回定期演奏会に行ってきた。指揮はユーリ・テミルカーノフ。

【演目】
ショスタコーヴィチ/交響曲第1番ヘ短調
  ~休 憩~
ドヴォルザーク/交響曲第8番ト長調
※エルガー/愛の挨拶
《19時00分開演、20時35分終演》

1曲目。先日観たバレエ『シンフォニー・イン・C』はビゼーの交響曲第1番ハ長調を振り付けたものだが、その交響曲第1番はハイドンを模倣したようなものであり、いくら17歳で作曲したとはいえ、その後のビゼー音楽のカケラも聴きとることはできなかった。一方、今回のショスタコーヴィチの交響曲第1番ヘ短調は彼が19歳のときに作曲したとはいえ、なんというかアンバランスとバランスが入れ乱れるショスタコ節が全開で、彼は第1番で後に第15番まで書く交響曲のエキスをすでに作り上げられているという感じがした。

さて、演奏であるが、テミルカーノフは例によって手刀を振り下ろすような指揮で、曲全体に強弱、メリハリをつける。しかし、オケがそれにうまく反応していたかというと否である。普段あまり演奏しない曲なのせいかもしれないが、全体的にどうも自信なげだった。

2曲目。テンポは快速なのはいいが、なんかサバサバしている。ホルンをはじめとした金管のノリが悪く、弦にしても先週のラフマニノフやチャイコフスキーのときのような繊細さがまったく感じ取れない。途中からはテミルカーノフにボヘミアンは向いていないのだろうかと思ってしまうほど。そして、エンディングでは明らかに指揮とオケの連携が悪く、尻切れトンボという終わり方で、これまで聴いたテミルカーノフ指揮の演奏では最悪だった。

それでも、場内のあちこちからブラボー!の声が上がる。ブラボーは指揮者やオケに対して掛けられるものなのに、どうやら観客のストレス発散のために掛けられているようだ。これではオケが可哀想である。

テミルカーノフ&読響の「悲愴」

2013-05-12 00:18:22 | 読響
一昨日(10日)サントリーホールで読売日本交響楽団第560回名曲シリーズ公演を聴いてきた。指揮はユーリ・テミルカーノフ。ピアノは河村尚子。

【演目】(※はアンコール曲)
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番ハ短調
※J.S.バッハ(ベトリ編曲)/羊はやわらかに草を食み
  ~休 憩~
チャイコフスキー/交響曲第6番ロ短調「悲愴」
※エルガー/『エニグマ』変奏曲から第9変奏「ニムロッド」
《19時00分開演、21時05分終演》

1曲目。河村尚子のピアノは素晴らしかった。ミスタッチもほとんどなくほぼ完璧と言っていい演奏だった。耽美にして少しエロチシズムの加わった音色は十分に聴衆を酔わせた。しかし、もっと完璧だったのはテミルカーノフの指揮と読響の伴奏だ。松坂隼率いるホルン陣や、木管陣それも首席奏者ではなく2番奏者たちがいかにピアノを引き立ているかのをよく理解できた。なかでもクラリネットの柴欣也のいぶし銀のような仕事っぷりに感心させられた。

2曲目。指揮台前の譜面台に置かれていた譜面の色は白くなく少し黄色っぽい。どことなく1970年代のソビエトという年代物という感じで、あの中にはロシア音楽の歴史がいっぱい詰まっているに違いないと思う。

第1楽章。ゆったりとしたテンポで始まり、長いボーイングの弦が重厚にして凛々しい音を奏でていく。テミルカーノフはいつものように手刀を振るかのような指揮だが、その様は威風堂々としていて、手刀からはオーラが四方八方に放たれているようで、聴衆も息を飲み込むように聴き入り、会場全体に侭ならぬ緊張感が漂う。

第2楽章。弦主体の舞曲だが、コンマス(小森谷巧)やヴィオラ首席(鈴木康浩)はまるで立ち上がって踊るかのように、軽やかな振る舞いでオケを盛り上げていく。テミルカーノフもそれを暖かく見守るようであったが、ティンパニー(岡田全弘)には細かな指示を立て続けに送り、メリハリを強調しているかのようだった。

第3楽章。行進曲風の楽章。ここではテミルカーノフは黄色い譜面を細かにめくり、自分のこれまで作り上げた音を再現させようと努力する。そして、読響もそれに見事に応え、特にトランペット、トロンボーン、チューバ、そして打楽器陣が決して仰々しくなく、端正にしてリズミカルな音色を歌い上げていった。

第4楽章。第3楽章の終了と共に、絶妙の間を入れて重々しく暗い旋律に入っていく。あとはテミルカーノフの手の動きのままに曲がながれていき、エンディングに近づくと共にヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバス、チェロが緩やかにフェイドアウトしていった。ただ、残念なことにこの最後の最後に2階席後方でゴホンゴホンという咳が鳴り止まず、「名演」という言葉が打ち消されてしまった。

なお、この日は日本テレビがテレビ収録を行っていたので、いずれ(放送日未定)日テレ(およびBS日テレ)の「読響シンフォニックライブ」で放送されるだろう。

新国立劇場バレエ団の『ペンギン・カフェ2013』

2013-05-04 00:07:04 | バレエ
昨日(3日)新国立劇場オペラ劇場で公演されている新国立劇場バレエ団の『ペンギン・カフェ2013』を観てきた。指揮はポール・マーフィー。管弦楽は東京フィルハーモー交響楽団。演目および出演者は下記の通り。

『シンフォニー・イン・C』
音楽:ジョルジュ・ビゼー
振付:ジョージ・バランシン
 第1楽章 長田佳世、福岡雄大
 第2楽章 川村真樹、貝川鐵夫
 第3楽章 厚木三杏、輪島拓也
 第4楽章 細田千晶、古川和則

ビゼーが17歳のときに作曲した交響曲第1番ハ長調を、1947年にバランシンが振付した作品。各楽章とも白いチュチュを着た女性と上下黒タイツ姿の男性がペアに、アンサンブルが付くというクラシックバレエ。

音楽は疑似モーツァルトか疑似ハイドンといった感じで、全然ビゼーっぽくない。また、振付も極めてオーソドックスで正直面白味に欠ける。加えて、バレエ団の踊りも技術的には申し分ないのだが、なんか額縁に入ったような踊りでパッションが感じられず、なんかゲネプロを見ているようであったり、2演目3演目のためのウォーミングアップのようにすら思えて「ブラボー!」という声が虚しかった。

『E=mc²』
音楽:マシュー・ハインドソン
振付:デヴィッド・ビントレー
 エネルギー(ENERGY):本島美和、奥村康祐
 質量(MASS):小野絢子、長田佳世、寺田亜沙子
 マンハッタン計画:厚木三杏
 光速の二乗(Celeritas²):八幡顕光、竹田仁美

アインシュタインの相対性理論を主題にしたデヴィッド・ボダニスの著作「E=mc²」をもとに振付られた作品。2009年に発表され、英国のサウスバンク・ショー・アワードを受賞したほかローレンス・オリヴィエ賞にもノミネートされたという。

1演目と同じように4つのパートに分かれているが、どのパートもとても興味深く面白い。「エネルギー」はおそらく火力、水力、風力という自然エネルギーを表すかのようであり、「質量」は無限のエネルギーとは何かを問うようであり、「マンハッタン計画」は原子力という恐ろしい物質ができたことを表すようであり、最後の「光速の二乗」は光の速さを表現していたのではないだろうか、と勝手に解釈した。

踊り手のなかでは「光速の二乗」で軽快に踊った八幡顕光と竹田仁美が輝いていた。特に竹田は元ヒューストン・バレエ団ということで、どことなくバーンスタイン風の音楽にも上手くスイングしていて目を見張らされた。

『ペンギン・カフェ』
音楽:サイモン・ジェフス
振付:デヴィッド・ビントレー
 ペンギン:井倉真未
 ユタのオオツノヒツジ:米沢 唯
 オオヒツジのパートナー:江本 拓
 テキサスのカンガルーネズミ:福田圭吾
 豚鼻スカンクにつくノミ:竹田仁美
 ケープヤマシマウマ:古川和則
 熱帯雨林の家族:小野絢子・山本隆之
 ブラジルのウーリーモンキー:厚地康雄

「ペンギン・カフェ・オーケストラ」の音楽に触発され創作したという作品。ペンギンが活躍するのかと思ったら、ペンギンは最初とラストだけで、あとはヒツジ、ネズミ(てっきりリスだと思った)、ノミ(てんとう虫のようにも見えた)、シマウマ、熱帯雨林の家族、モンキーが登場するという動物&昆虫物語。ただし、ラストは環境問題・環境保護などかなりメッセージ性が強い。

振付はどれもがその動物 or 昆虫の特徴を捉えていて、コケティッシュで楽しい。ここでも目を見張ったのがノミを演じた竹田仁美。あのチャーミングな踊りは新国立劇場バレエではほとんど見られなかったので今後の彼女に大いに注目したい。ということで、竹田仁美という新しい逸材がいるということを知っただけでも、私にとって収穫のあった公演である。

《14時00分開演、17時05分終演》(途中休憩2回)