ミーハーのクラシック音楽鑑賞

ライブ感を交えながら独断と偏見で綴るブログ

広上ダンス炸裂の京響

2017-09-21 13:44:29 | その他
先日(18日)サントリーホールで開かれた広上淳一と京都市交響楽団による「第46回サントリー音楽賞受賞記念コンサート」を聴いてきた。演目は下記の通り。

【演目】
武満徹/フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム
    〜5人の打楽器奏者とオーケストラのための〜
  〜 休 憩 〜
ラフマニノフ/交響曲第2番ホ短調
※チャイコフスキー/組曲第4番から 第三曲「祈り」
《18時00分開演、20時30分終演》

1曲目。実はこの曲は5年前にN響で聞いている。その時も指揮は広上淳一だったが、会場がNHKホールということで少し様相が違うし、音の聴こえ方も違っていた。また、前回の聴いた時はやたら祭儀的というか呪術的な音楽の印象を受けたが、今回はいわゆる現代音楽であり、副題にあるよう打楽器奏者だけでなくオーケストラのための演奏でもあった。

2曲目。先日ミューザ川崎で東響のこの「ラフマニノフ/交響曲第2番」の演奏を聴いた時に、知人に「今度京響がやりますよ」と聞かせれて、チケットを買った次第なので、さしたる期待感もなく行ったのである。しかし、深く反省。いや〜、痺れました。泣かされました。これまでにこの曲は何回いや十数回は聞いている。そのなかで文句なしに最高だったのは2010年のパーヴォ・ヤルヴィ&シンシナティ響だが、今回の演奏はそれに勝るとも劣らない素晴らしいもので、日本のオケが演奏したなかでは一番である。

京響を聴くのは久しぶり(4年ぶりぐらい?)だと思うが、弦楽器の懐の深い音色には驚いた。こんな奥行きのある弦の音を出せるオケはそうそうない。京響ということもあるかもしれないが京町屋のうなぎの寝床を連想してしまう涼しげにして爽やか、それでいて奥深い音色を発するのである。ラフマニノフというとどうしてもアンニュイであったりデカタンスな感じになりやすいのだが、広上淳一が弦パートに求める音色はアメリカ的というか開放感に満ちた音色だった。またそうした土壌の上を木管金管陣が素晴らしい演奏を重ねていく。なかでも目立ったのはクラリネットの小谷口直子だったが、私はその彼女を上手く支えたファゴット(中野陽一朗)に耳が点になってしまった。

いまや関西では飛ぶ鳥を落とす勢いでチケットも完売になることが多いという京響だが、意外にも東京での公演は少ない。札幌交響楽団や山形交響楽団は年1回の東京公演を行なっているのだから、京響も毎年1回は公演してはどうだろうか。サントリーもそれぐらい器量のある支援をするべきである。

ル・ポン国際音楽祭2016東京特別公演

2016-10-18 23:40:49 | その他
昨日(17日)はサントリーホールで開かれたル・ポン国際音楽祭2016東京特別公演を聴いてきた。チケットは完売。演目および演奏者は下記の通り。

【演目】
モーツァルト/オーボエ、クラリネット、バスーンのためのディヴェルティメント第5番K.439b
演奏:古部賢一、アンドレアス・オッテンザマー、ジルベール・オダン

ドヴォルザーク/夜想曲ロ長調
演奏:ナタリア・ロメイコ、樫本大進、アントワン・タメスティ、クラウディオ・ボルケス、ナビル・シェハタ

シェーンベルク(ウェーベルン編)/室内交響曲第1番
演奏:エマニュエル・パユ、ポール・メイエ、樫本大進、クラウディオ・ボルケス、エリック・ル・サージュ

〜 休 憩 〜

マルティヌー/マドリガル・ソナタ H.291
演奏:エリック・ル・サージュ、エマニュエル・パユ、ナタリア・ロメイコ

ブラームス/セレナーデ第1番
演奏:エマニュエル・パユ、アンドレアス・オッテンザマー、ポール・メイエ、ラデク・バボラーク、樫本大進、アントワン・タメスティ、堤剛、ナビル・シェハタ

《19時00分開演、21時05分終演》

ル・ポン国際音楽祭は音楽監督を務める樫本大進が母親の故郷が赤穂であるということで、10年前から赤穂および姫路で世界各地から一流音楽家をボランティアで集い、開催されている。今回はその10年目ということで東京でも特別公演が行われた。ちなみに、ル・ポン(Le Pont)とはフランス語で懸け橋という意味。

私は室内楽へ足を運ぶことがほとんどない。というのも、奏者が限られていたり、演目が似たような作曲家ばかりの音楽などということが多いためである。しかし、今回のコンサートは演目が多彩に富んでいる上に、一流奏者たちが入れ代わり演奏するということで、室内楽食わず嫌いの私でも十二分に楽しめた。

1曲目。基本的にオーボエとバスーンが旋律を奏でていて、クラリネットはリズムを刻むぐらい。これではイケメンのアンドレス・オッテンザマーの女性ファンたちは納得がいかないかもしれない。(笑)

2曲目。ドヴォルザークには失礼だが、とても彼が作曲したとは思えないような漆黒の世界と哀愁を表している名曲。最後は「Good night」という子守唄のようでもあった。

3曲目。トンデモナイ曲である。ヴァイオリン、チェロ、フルート、クラリネット、ピアノの5人はおそらく真っ黒になるような音符の異なる旋律を弾きながら、時にそのうちの1人が飛び跳ねたベクトルの音を出したりしながら、アンサンブルするという超絶技巧室内楽。よくもまあ、シェーンベルクはこんな室内交響曲を書いたもんだと思うと同時に、よくもまあこんな曲を演奏するもんだ、と呆れながら聴いていた。しかし、滅多に聴くことのできない曲、満足。

4曲目。エマニュエル・パユの美しいフルートが際立った。

5曲目。9人による室内楽。ブラームス好きにはちょっとたまらない曲かもしれない。というのも、なんかブラームスの音楽史を聴いているようであった。この曲は交響曲第1番を作曲する前に作曲したものなのだが、前半の第1楽章から第2楽章まではモーツァルト色が濃い。そして、第3楽章から第5楽章まではベートーヴェンやシューマンに影響を受けている。しかしながら、最終の第6楽章になると独自色を打ち出していきいかにもブラームスらしい重厚にして力量溢れる音楽が展開される。そんな曲を9人の名手は清々しく演奏。

アンナ・ネトレプコ スペシャル・コンサート

2016-03-22 21:31:00 | その他
先日(18日)サントリーホールで行われた「アンナ・ネトレプコ スペシャル・コンサート in Japan」(1日目)を聴きに行ってきた。指揮はヤデル・ビニャミーニ。管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団。出演はアンナ・ネトレプコ、ユシフ・エイヴァゾフ。

【演目】(※はアンコール曲)
ヴェルディ/『運命の力』序曲
チレア/『アドリアーナ・ルクヴルール』から
  「私は神の卑しいしもべです」(ネトレプコ)
チレア/『アルルの女』から
  「ありふれた話」(エイヴァゾフ)
ヴェルディ/『イル・トロヴァトーレ』から
  「穏やかな夜・・・この恋を語るすべもなく」(ネトレプコ)
  「ああ、あなたこそ私の恋人・・・見よ、恐ろしい炎を」(エイヴァゾフ)
ヴェルディ/『アッティラ』序曲
ヴェルディ/『オテロ』から
  二重唱「すでに夜もふけた」(ネトレプコ、エイヴァゾフ)

  〜 休 憩 〜

プッチーニ/『蝶々婦人』から
  「ある晴れた日に」(ネトレプコ)
プッチーニ/『トスカ』から
  「星は光りぬ」(エイヴァゾフ)
ジョルダーノ/『アンドニア・シェニエ』から
  「亡くなった母を」(ネトレプコ)
  「5月のある晴れた日のように」(エイヴァゾフ)
プッチーニ/『マノン・レスコー』間奏曲
ジョルダーノ/『アンドレア・シェニエ』から
  「貴方のそばでは、僕の悩める魂も」(ネトレプコ、エイヴァゾフ、狩野賢一)

※カールマン/『チャールダーシュの女王』から
  「山こそ我が故郷」(ネトレプコ)
※プッチーニ/『トゥーランドット』から
  「誰も寝てはならぬ」(エイヴァゾフ)
※クルティス/忘れな草(ネトレプコ、エイヴァゾフ)
《19時00分開演、21時20分終演》

どういう意図があるのかよく解らないコンサートだった。本当にネトレプコのスペシャル・コンサートだったのか。それとも彼女の旦那のエイヴァゾフのプロモーションだったのか。とにかく焦点がはっきりしないコンサートだった。

ネトレプコの歌声は素晴らしい。ハリのある歌声だけでなく顔の表情、手足の動きなど表現力もしっかり添えている。彼女は単なるディーバ(歌姫)ではなく、エンターテイナーである。それゆえに、やはり素舞台よりオペラの舞台の方が似合う。その仕草を観ていると、できれば新国立劇場の舞台に立ってほしいと思う。

エイヴァゾフはネトレプコの添え物、もしくは単なる刺身のツマではなかった。かなりの美声の持ち主である。特にプッチーニは上手いと思う。それゆえに、新国立劇場はプッチーニを上演するときに彼を招聘するぐらいはしてもいいのではないだろうか。そうすれば、ひょっとしてネトレプコも一緒について来るかもしれない。(笑)

あと、目を引いたというか耳を立てさせられたのが東京フィルである。コンマス(三浦章宏)とチェロ首席(渡邉辰紀)の音色は奥ゆかしい響きがあり、加えてオケ全体でネトレプコ夫妻をうまく盛りたていた。指揮のヤデル・ビニャミーニもイタリア各地でオペラの指揮をしているだけあって、非常に手慣れている。彼は来月の新国立劇場で『アンドレア・シェニエ』を今回伴奏したト東京フィルと共にオケピに入る。これは大いに期待できる。

なお、この日はNHKがカメラを入れて録画していたが、放送日は未定とのことであった。

NHKホールは問題だらけ

2015-10-30 13:35:11 | その他
NHKホールには不備な点が多い。私が一番頭にくるのは傘立てがないことである。先日もNHK音楽祭で訪れたときに雨が降っていて、NHK職員らしき男に「傘立てを用意しようよ」と言ったり、アンケートに「傘立てを用意しろ」と思いっきり書いてきた。

この傘立てのことはこれまでに何度も書いてきたが、狭い客席に傘を持ち込むというのは非常識極まりない。今どき傘立てがないホールや劇場なんてあるのだろうか。地方のことはよく知らないが、サントリーホール、東京文化会館、オペラシティ、新国立劇場、東京芸術劇場、みんな傘立てはある。

次に椅子の音のうるささに閉口する。サントリーホールではほとんど聞くことがない椅子のギーギーいう音がNHKホールでは頻繁にある。お客さんも座り直したりするのだから、椅子は音がしないようにしなくてはならない。椅子はいつ直したのだろうかというぐらい古く思えてしまう。

そこでちょっと調べてみたら、2008年(平成20年)9〜10月にかけて改修している。7年前である。そろそろガタが来始めているのか、それともボルトなどのメンテナンスがしっかりしていないのだろうか。いずれにしろ、あの椅子の音はクラシック音楽を聴く環境にはない。

あと気になるのが、天井の汚さである。特にプロセニアム前の反響板の汚れが酷い。NHKの平成27年度事業計画を見ると、「NHKホール」「NHKふれあいホール」業務という項目に「夏季集中工事(8月9日から20日間)を中心に補修工事をきめ細かく行う。27年度はホール照明設備の更新を確実に行うとともに、天井の落下防止対策工事も、正面エントランス、2階北ロビー、客席大天井などで実施。」と書かれている。

なぜゆえに天井の落下防止対策と共に、天井の掃除を行わなかったのだろう。とにかくあの埃だらけの反響板は見苦しい。あの反響板は下へ降ろせるような作りではないので、高い移動式のイントレを組んで掃除するなり、仮設のキャットウォークで掃除するしかないのだろうが、できれば早々に行ってもらいたい。

劇場維持というのは大変である。しかし、お金を取って観客に楽しんでもらう場所なのだから心地よい場でなくてはならない。その点をNHKはホールは単なる録画施設もしくスタジオ程度にしか考えていないのだろうか。こうした考えは是非とも改めてもらいたい。

12人の金管スーパースターたち

2015-07-05 22:51:57 | その他
昨日(4日)サントリーホールで開かれたベルリンフィル12人の金管奏者たち(Berlin Philharmonic Brass Ensemble)を聴きに行ってきた。

【演目】(※はアンコール曲)
《良き仲間との気晴らし》/ヘンリー8世
《クリスチャン4世の時代の音楽》
  イントラーダ/A.オロロジオ
  流れよ我が涙/J.ダウランド/流れよ我が涙
  デンマーク王のガイヤルド/J.ダウランド
《3つのコラール前奏曲》/J.S.バッハ
  1. 優しくも愛らしき
  2. 御身は我が傍らに
  3. われらが神は堅き砦
トロンボーン四重奏/ドビュッシー
  1. 神よ、眺めるのはよいもの
  2. 太鼓の音が聞こえても
  3. 冬よ、お前はただのやくざ者
《小さな三文音楽》/K.ワイル
  1. 序曲
  2. 切り裂きマッキーの殺しの歌
  3. 代わりにのソング
  4. 快適な生活のバラード
  5. ポリーの歌
  6. タンゴ・バラード
  7. 大砲ソング

  〜 休憩 〜

《舞台管弦楽のための組曲》/ショスタコーヴィチ
メドレー
  ショウほど素敵な商売はない/バーリン
  "Sacred Concert"よりアリア/エリントン
  プティ・ワルツ/ガーナー
  祈り(合唱)/エリントン
  マイ・フェア・レディ/ロウ
《タンゴ組曲》
  コラレーラ・ミロンガ/アイエータ
  アディオス・ノニーノ/ピアソラ
  エル・チョクロ/ビジョルド
  タンゴ・ジェラシー/ゲーゼ

(※アンコール)
Paso doble-Gypsy Dance/PascualMarquinaNarro
ベルリンの風/パウル・リンケベルリンの風
浜辺の歌/成田為三/
《19時00分開演、21時10分終演》

まず驚いたのが、客層が実に若かったことだ。通常のクラシック演奏会なら私は壮年層か若年層(ちと無理があるか)に入るが、今回は明白に老年層。ロビーには制服姿の女子高生や楽器ケース(もちろん金管楽器)を背負った学生がいっぱいなのである。

そんな彼らにとっては、今回のメンバーは憧れのスーパースターであり、サッカーでいえばメッシでありC.ロナウドなのかもしれない。ということで、開演前、休憩中、終演後の彼らの目の輝きは星とハートのキラキラマークだった。チケットはもちろん完売。

さて、演奏であるが、これはもう素晴らしいの一言に尽きる。演奏者たちに対する形容語には名手、達人、スペシャリスト、エキスパート、匠などという言葉が使われるが、彼らはそれらの言葉を超越していて、もう神の使い手というしかないだろう。その安定した音色、アクセント、呼吸間、アンサンブル、個々の表現力など文句のつけようがない。非の打ち所がない。

そして、選曲のセンスの良さにも感心した。前半は厳かな曲を、後半はリラックスした曲で構成。そして、アンコール曲のセンスも抜群だった。1曲目はよく知らないが、2曲目はリンケの「ベルリンの風」で、客席からも関係者かもしれないが指笛を鳴らす人を入れていて盛り上げる。また、日本の曲を1曲は演奏するだろうなあ、と思っていたら、それが「浜辺の歌」であったことだ。今の若い人は知らないかもしれないが、この歌は木下恵介の名作『二十四の瞳』(主演:高峰秀子)のなかで印象的に使われている名曲である。これを選んだ彼らに敬意を表したい。

最後に、日本の吹奏楽人口は約100万人(経験者は500万人とも)いると言われる。この人口はおそらく吹奏楽大国アメリカに次ぐものではないだろうか。そして、その吹奏楽の半分とは言わないが3分の1は金管(トランペット、トロンボーン、チューバ、ホルンなど)を演奏している。そして、いつの日かこのなかから一人でもベルリンフィルの金管メンバーになってもらいたい。

小曽根真&アルトゥーロ・サンドヴァル with 都響

2014-10-26 21:53:22 | その他
一昨日(24日)東京芸術劇場大ホールで開かれた「小曽根真&アルトゥーロ・サンドヴァル “Jazz meets Classic” with 東京都交響楽団」を聴きに行ってきた。指揮はジョシュア・タン。チケットは完売。

【演目】
《第1部》
バーンスタイン/キャンディード序曲
ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第1番ハ短調
          (ピアノとトランペット、弦楽合奏のための協奏曲)
ラヴェル/ボレロ(小曽根スペシャル)
  〜休 憩〜
《第2部》
ジャズ・セッション 小曽根真 × アルトゥーロ・サンドヴァル
《19時00分開演、21時30分終演》

1曲目。元気溌剌としたジョシュア・タンの指揮の下、バーンスタインの曲で都響はしっかりとジャズのウォーミングアップ。都響のメンバーはコンマス四方恭子、ヴィオラ首席鈴木学と普段と変わらないメンバーだが、フルート首席は読響の一戸敦だった。

2曲目。ピアノと弦楽、そしてトランペットだけの協奏曲。そのために正式名称は「ピアノとトランペット、弦楽合奏のための協奏曲」という。最近は日本でも演奏される機会が多いそうだが、私は初めて聴く。この曲は1933年ショスタコーヴィチが26歳の時に書いたものだが、ピアニストとしても才能があった彼らしく、第1楽章(アレグレット)は超絶技巧を取り入れた軽快なテンポは素晴らしく、いきなりショスタ節全開である。第2楽章(レント)はショパンやシューベルトに敬意を表しているのか、それとも風刺しているのか判らないが、メランコリーな旋律を情感たっぷりに聴かせる。第3楽章(モデラート)は最終楽章への序章のようで、第4楽章(アレグロ・コン・ブリオ)は第1楽章と同じようにショスタコ節が炸裂して、最後はクラシックというようりジャズ的な展開で大団円を迎える。

この曲は協奏曲としては佳作だと思う。小曽根真はこの曲を何度も弾いているそうだが、他に日本人ピアニストでこの曲を得意とする人はいるのだろうか。ロシアものが得意な上原彩子や小菅優あたりでいつか聴いたみたい気になった。

3曲目。舞台上の照明が落とされ、オケの譜面台ライトが灯される。そして、スネアドラムが静かにリズムを奏でていく。そして、フルート、クラリネット、ファゴット、小クラリネット、オーボエと旋律が奏でられるたびに、天井からスポットライトが移り変わっていく。小曽根真のピアノはトロンボーンあたりから、緩やかに即興的な伴奏を繰り広げるものの、最後まで裏方に徹する。面白かったのは弦セクションが統一された音色を奏でるのというのではなく、ちょっとテンポをずらしてジャズ感覚に奏でられていたこと。これまで数多くの「ボレロ」を聴いてきたが、これほどカッコいい「ボレロ」は初めてであった。

後半は小曽根真とアルトゥーロ・サンドヴァルの二人によるデュオ・プログラム。正式な演目は後で主催者である東京文化会館のホームページに発表されるということだが、2日経ってもまだ掲載されていない。いくら週末で休みとはいえ、お役所仕事だなあと思わざるえない・・・。

最初はジャズのスタンタードを3曲ほど演奏。小曽根とサンドヴァルのセッションはいかにもジャズマン同士の心が通いあったアンサンブル。サンドヴァルは2本のトランペットを操り、その音色は多種多彩。特にミュートを使ったときの音色は通常のクラシック音楽会ではまず聴くことができない繊細にして情感的であった。そして、驚いたのがその後のサンドヴァルだ。まず彼はマイク握りしめて「Smail」を熱唱。ジャズマンの歌声というと、どうしてサッチモ(ルイ・アームストロング)のダミ声を連想してしまうが、サンドヴァルの声質は、少し褒めすぎかもしれないがビング・クロスビーのような甘さで驚き。加えて音程もしっかりしていて、天は二物を与えるんだなあ、と思っていたら、今度はピアノを弾きはじめる。これには小曽根も「It’s unfair!」(ずるい!)と言わせるほどの多芸ぶりを発揮する。こうなると、二人のセッションというよりサンドヴァルのワンマンショーという感じで、小曽根もそれを楽しんでいるようであった。

音楽とは音を楽しむと書くが、小曽根真のコンサートへ行くと、音楽は音で楽しむのだけではなく、音と遊ぶと思わざるをえない。そして、この日のコンサートではアルトゥーロ・サンドヴァルとの演奏を聴くと、単に音と遊ぶどころでなく、音と戯れるという感じざるをえなかった。素晴らしい。

それにしても、失敗したのは休憩時間に酒を飲まなかったことである。シラフでジャズを聴くというのは正直シンドイ。おかげでというかその反動で、帰りは地元の行きつけの店でウィスキー(白州12年)を何杯も飲んでしまった。(笑)

ムーティ&東京春祭特別オーケストラ1日目

2013-10-31 14:28:02 | その他
昨日(30日)すみだトリフォニーホールで開かれたヴェルディ生誕200年記念「ムーティ conducts ヴェルディ」を聴いてきた。指揮はリッカルド・ムーティ。演奏は東京春祭特別オーケストラ。ソプラノは安藤赴美子*、バス・バリトンは加藤宏隆**、合唱は東京オペラシンガーズ***。

【演目】
ヴェルディ/歌劇《運命の力》序曲
      歌劇《シチリア島の夕べの祈り》第3幕よりバレエ「四季」
  ~休 憩~
ヴェルディ/歌劇《運命の力》第2幕より「天使の中の聖処女」* **
      歌劇《マクベス》第4幕より「虐げられた祖国」***
      歌劇《ナブッコ》第3幕より「行け、わが想いよ、黄金の翼にのって」***
      歌劇《ナブッコ》序曲
《19時00分開演、21時00分終演》

今回の公演は来年5月に来日するローマ歌劇場のための一大プロモーションイベント。それでもめったにムーティの指揮を受けられない日本の音楽家にとっては嬉しいイベントであり、都響とN響を主体に在京オケの主力メンバーおよびフリーのソリスト(長原幸太、松田理奈など)が集まった編成になっている。

1曲目。ムーティ指揮のもとタイトで引き締った演奏で開始されるものの、途中からヴァイオリン陣がムーティに少し煽らされたのか、それとも気負いすぎたのか、少し上ずった音色に聴こえてしまったのが残念。あと、私がトリフォニーホールの音響に不慣れなせいもあるが、音色が妙に遠くから聴こえてくるような感じがした。トリフォニーのホームページには残響時間約2秒(満席時)と書いてあるが、個人的にサントリーホールやミューザ川崎の半分ぐらいにしか思えない。

2曲目。初めて聴く曲。季節は冬、春、夏、秋の順で演奏されていき、クラリネット、フルート、オーボエ、チェロがそれぞれの季節をリードしていくようだが、木管陣は1曲目のヴァイオリン陣と同じように少し上ずりすぎて落ち着きに欠けていた。一方でチェロ陣は終始穏やかな音色で、約30分にもおよぶバレエ音楽をまとめる牽引車ぶりを発揮した。

後半については簡略に書かせてもらうが、3曲目に登場した2人の歌手は声質は綺麗だが声量不足は否めない。4曲目は初めて聴いた曲だが、合唱そのものは無難だったが、オケと一体化しているようには聴こえなかった。5曲目は前曲とはうって代わり合唱団はうまくオケとマッチしていては素晴らしかった。6曲目、ムーティの真骨頂が発揮され、万来の拍手喝采を受けたが、本人はさほど満足しているようには見えなかった。

全体を通して一番印象が良かったのはトロンボーン陣。次いでチェロ陣、ハープとティンパニーという感じだった。他はやはりムーティの気迫に押されたのか、それとも気負いすぎたきらいが現れていた。2日目は緊張がほぐれて良くなるかもしれないが、1日目は結局のところオケのメンバーたちが生真面目で少し興奮しすぎていたのではないだろうか。

最後に、ムーティはヴェルディを振らせたら世界一の指揮者かもしれない。彼はそれだけヴェエルディを熟知しているし、自信をもって揺るぎない指揮をしていた。別に来年のローマ歌劇場の演奏会を宣伝するつもりはないが、来年は手慣れたオケの指揮となるので充実したオペラ公演になるのではないだろうか。私としてはオペラ公演はちょっと値がはるので行けるかどうか解らないが、もしオケだけのいわゆる特別演奏会があれば必ず行くつもりでいる。

PMF2013@サントリーホール

2013-07-31 23:37:30 | その他
昨日(30日)サントリーホールで開かれたPMFオーケストラによる演奏会を聴きに行ってきた。指揮は準・メルクル。ヴァイオリンはワディム・レービン。

【演目】(※はアンコール曲)
ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調
※パガニーニ/ヴェニスの謝肉祭
  ~休 憩~
ベルリオーズ/幻想交響曲
※ホルスト/田中カレン編/組曲『惑星』から「ジュピター」(PMF讃歌)
《19時00分開演、21時00分終演》

世界中の有能な若手音楽家110人が夏の札幌に集まり、世界トップクラスの音楽家たちから約4週間の指導をうけて、いろいろな演奏会を行うPMF。その最後のお披露目となる東京での演奏会の1日目。それは10年後20年後の音楽界に繋がる、若さと躍動感に満ちた清々しいものだった。

1曲目。これまでに何度もワディム・レービンの演奏を聴いているが、いつも気難しそうな彼が実に楽しく若々しくブルッフの名曲を精巧に弾いていく。12型のオケは札幌でも共演しているにもかかわらず、伴奏しているというより、ちょっとレービン先生の音色に聴き惚れてしまい、ついて行くのがやっという感じ。だが、それも若手音楽家たちにはいい経験だろう。

2曲目。コントラバスが10本の18型という大編成。そのせいかどうか解らないが、第1楽章は弦が微妙にズレていて聴いている方がハラハラドキドキ。だが、第2楽章からは次第に揃うようになってひと安心。

『幻想』というと第3楽章のイングリッシュホルンと舞台袖のオーボエの掛け合いが1つのハイライトだが、今回はオーボエは舞台袖ではなく2階後方下手LC扉前という配置。私はその近くに座っていたので、イングリッシュホルンよりオーボエの音の方が大きく聴こえ、これまでと違った感じを楽しむことができた。

今回の演奏では『幻想交響曲』がもつドラマチック性はあまり上手く表現されたとは思わなかった。しかし、逆に普段のオケでは感じ取ることができない、失恋した若きベルリオーズの音楽に対する姿勢というか感性、そして音へのこだわりというものを表現しているようで新鮮であった。それはつまるところ若さと団結力の賜物があるからではないだろうか。なんか舞台に110人のベルリオーズがいるようであった。

今年のPMFは荒削りだがレベルは高いと思う。『幻想』の演奏後にイングリッシュホルン&オーボエに続いて、準・メルクルに立たされた打楽器陣、チューバ&トロンボーン陣はお見事。彼らはいずれ何処かの有名オケに参加して、いつの日にか東京に戻ってくるに違いない。そう願う。

初体験づくしのタカラヅカ

2013-06-26 00:00:32 | その他
先日(22日)、Mixi仲間の「バレエファンをヅカに誘うぞ」なる企画のお誘いを受けて、宝塚歌劇団を初体験してきました。場所は東京宝塚劇場ではなく、渋谷のシアターオープ。実はこちらの劇場も初体験で、加えて午前11時開演の舞台観劇も初体験。(笑)

演目は花組による『戦国BASARA 真田幸村編』。ストーリーはカプコンのゲームと連携しているのでかなり荒唐無稽。真田幸村が武田信玄の家臣となり、上杉謙信と戦うという時代考証などお構いなしの展開。これでは日本が歴史認識を問われるのは無理もない。(苦笑)

ちなみに、真田幸村は武田信玄の家臣であった真田幸隆の孫にあたり、真田昌幸の次男。というわけで、幸村は信玄に直接仕えたことはない。またストーリーのなかで父・昌幸は自害しているが実際は病死である。そして、幸村が活躍したのは、信玄と謙信の川中島の戦いではなく、それから35年の関ヶ原の前哨戦の植田城の攻防と50年後の大阪冬の陣・夏の陣である。宝塚ファンの皆様、この点だけはお間違いのないように。

さて、舞台であるがゲームと連携させるために映像を多用する。まあ、それはいいが、そのスクリーン設置のためにどうしても舞台がシンメトリーになってしまい、舞台装置としてはかなり稚拙面白味に欠ける。せめて、平舞台に斜線を入れるとか、屋台崩しがあるとか奇抜な展開があっても良かったのではないだろうか。

次に演出だが、これは正直面白くない。踊りや殺陣にしても常に舞台美術同様にシンメトリーで様式美にこだわりすぎている。また、役者たちの立ち振る舞いにしても常に正面切りばかりで変化に乏しい。踊りや殺陣にしても単に流麗に流れるだけでなく、大胆なメリハリが欲しいと思わざるをえなかった。そのためかどうか解らないが、途中からこれなら演出をいのうえひでのり、ラサール石井、野村萬斎など外部に委託させた方が面白いのではないのかと思うようになってしまった。

千住明の音楽はメロディは悪くはないものの、編曲および演奏が少しやっつけ気味で、言葉は悪いが安っぽい。これでは歌っているタカラジェンヌたちもうまく感情移入ができないのではないだろうか。もう少し時間をかけて作ってあげるべきではなかろうか。

最後に出演者であるが、主演の幸村を演じた蘭寿とむは1人で舞台を背負うだけの魅力と力量を十二分に備えている。歌、滑舌、演技のキレ、表現力、どれをとっても一級品であり、その存在感は他をよせつけない。もし宝塚でシェイクスピアを演じるようなことがあれば、彼女にはマクベスかリチャード三世を演じてもらいたい。他の役者では伊達政宗を演じた春風弥里が良かった。彼女はアンサンブルというか人との呼吸合わせがいい。加えて三の線も持っている。こういう人は役者としていい味を出せると思うので、もし引退したら他の演劇界から引く手あまたではないだろうか。

ということで、私の初タカラヅカはなかなか興味深いものだった。

小曽根真&ゲイリー・バートン@サントリーホール

2013-06-25 11:36:04 | その他
ジャズは詳しくない。というよりほとんど知らない。そんななかでも、昔から好きだったのがゲイリー・バートン。その理由は小学生のときに音楽会でよくマリンバを担当していたことがあり、その影響のせいかヴィブラフォンには親しみがあった。

そして、アメリカで過ごした1970年代にラジオから聞こえてきたのがゲイリー・バートンの心地良い音楽。当時はちょっと気分をハイにしたいときには彼のレコードをよく聞いたものである。後に知ったことだが、彼の超絶技巧な4本バチによる演奏は、現代のヴィブラフォン奏者に多大な影響を与えた。

あれから40年近くになる。70歳になったバートンだがその音色はまったく衰えず、逆に若々しくすら感じる。透明感あふれる音色はもはや神の領域にあるような演奏だった。そして、小曽根真は常に師匠であるバートンを立て、2人で美しいハーモニーを2時間余聴かせてくれた。

前半は主にバートンの作品を取り上げ、後半はすべて小曽根の作品をだったが、なかでも組曲『フランスの長い一日』はフランス・ツアーでのちょっとした出来事を描いたもので、爽快にして少し滑稽でもあり、聴いていてその光景が浮かぶようで楽しかった。また、アンコールの『ポップコーン・エクスプロージョン』も小曽根がバートンがポップコーンをうまく作れなかったときの様子を描いていて、これをバートン自身が洒脱に演奏。2人の強い信頼関係を物語っているようであった。

【演目】(※はアンコール曲)
アフロ・ブルー Aflo Blue
アイ・ヒア・ア・ラプソディー I hear a Rhapsody
リメンバリング・タノ Remembering Tano
クープランの墓 Le Tombeau de Couperin
ソル・アステカ Solo Azteca
  ~休 憩~
ファット・キャット Fat Cat
イタル・パーク Ital Park
ストンピン・アット・BPC Stompin at BPC
タイム・スレッド Time Thread
組曲「フランスの長い一日」 Suite“One long day in France”
※ポップコーン・エクスプロージョン Popcorn Explosion
《18時00分開演、20時10分終演》

小曽根真の世界デビュー30周年とゲイリー・バートンの70歳を記念して行われた今回の演奏会(全国ツアー)だったが、今度はバートンの一番弟子とも言えるパット・メソニーを加えて3人で夢の共演をしてもらいたい。

チャリティーコンサート「音楽と触れ合う町 岩手県大槌町へ」

2012-12-01 16:36:13 | その他
昨日(30日)文京区本郷にある求道会館で開かれた大槌町に音楽ホールを作ろうという趣旨のチャリティーコンサートに行ってきた。

昨年の東日本大震災で大槌町は市街地の8割以上が津波の被害をうけ、死者・行方不明者は1300人近くにもなってしまった。私は昨年大槌町を2回訪れたが、その痛々しい姿は今でも瞼に焼きついていてとても忘れることはできない。だが、そんなどん底のような光景のなかからも元気に立ち上がろうとしている人々の姿にお会いすることができ、逆に勇気づけられたりもした。

大槌町は以前より吹奏楽、民謡、踊りなどが盛んな町である。そこで、今回のコンサートの主催者であるNPO法人「日本の道」代表者である建築家の丸谷博男さんと大槌町の臺隆明さんが中心となって、町にいろいろな人々が集まれる音楽ホール「槌音」を作る計画を立てた。

今回の出演は大槌町になんらかの縁のある音楽関係者であったが、その顔ぶれと演奏は素晴らしかった。まず最初にN響トロンボーン奏者の吉川武典さんが「A Song for Japan」をしっとりと演奏して開幕。

その後はN響ヴァイオリン奏者の大鹿由希さん、都響ヴァイオリン奏者の田口美里さん、都響首席チェロ奏者の田中雅弘さん、合唱団コーロまざーぐうすのみなさん、東響首席ホルン奏者の大野雄太さん、元N響トランペット奏者の栃本浩規さん、東響ソロコンサートマスターの大谷康子さんらが見事な演奏と歌を披露して集まった観客の暖かい拍手を受けていた。

途中来賓として出席した碇川豊町長が、みなさんの善意で「槌音」というコンサートホールが灰色のキャンパスと化した所に町民の心のよりどころになることを願っています、と挨拶。

そして、コンサートの終幕には大槌町の防災無線のピアノ演奏をしているジャズピアニストの小曽根真さんが、飛び入りのジャズクラリネットの大御所である北村英治さんと『Shine』を、また俳優の井上芳雄さんが現在稽古中の井上ひさしの芝居の歌を披露。最後は大槌高校の生徒たちも加わって『ひょっこりひょうたん島』を演奏(写真)して、ハートフルな演奏会は終了した。

いつ日にかこの日演奏した人たちが音楽ホール「槌音」で演奏できることを願っている。そのためにも、多くの人がこの計画に賛同して支援の輪が広がっていってもらいたい。私も微力ながら協力したいと思う。

「音楽と触れ合う町岩手県大槌町へ」チャリティー
http://www.town.otsuchi.iwate.jp/docs/2012110600092/

大槌町に音楽ホールを!
http://maruya.exblog.jp/16663356/

PMFチャリティコンサート

2012-08-01 21:35:42 | その他
昨日(31日)サントリーホールで開かれたPMFオーケストラによるチャリティコンサートを聴きに行ってきた。指揮はファビオ・ルイージ。

【演目】
ストラヴィンスキー/ペトルーシュカ(1947年版)演奏会用バージョン
  ~休 憩~
チャイコフスキー/交響曲第6番ロ短調「悲愴」
《19時00分開演、21時00分終演》

1曲目。PMFオーケストラといえば、世界中の有能な若手音楽家が集まって構成されているだけに、躍動感に満ちたこの曲はピッタリだと思っていたが、その出来は予想以上で「玉石混淆」ではなく「玉玉混淆」。100人以上の大編成オケのベクトルが見事に意志統一されていて、その頭上を可愛いバレリーナたちが踊っているのが見えるような素晴らしい演奏だった。

終曲後に指揮のルイージにから立たされたトランペット、フルート、チューバの3人はいますぐに何処のオケに行ってもおかしくないレベルの演奏を披露。彼らはいずれは世界の有名オケで活躍するに違いない。

2曲目。弦のメンバーはあまり変わらなかったが、木管金管打楽器のメンバーは1曲目からほぼ総入れ替え。この曲では1曲目ではさほど目立たなかった弦が健闘。特にヴィオラがいい音色を奏でていた。しかしながら、『悲愴』を奏でるにはあまりにも若さが漲り過ぎているようで、まださほど人生の艱難辛苦を味わったことのない彼らには若々しくかつ清々しい『悲愴』であり、終曲後の会場内の余りに酷い「ブラボー!」の声も相まってか、残念ながらレクイエムとしての演奏を感じえることはできなかった。