304)野菜と果物は本当にがん予防効果があるのか?

図:昔のケース・コントロール研究では、野菜や果物の摂取が多いほどがんが少ないという結果が得られている。しかし、野菜や果物の摂取量の多いグループは摂取量が少ないグループに比較して、喫煙率や飲酒量や摂取カロリーや肥満の程度が低く、運動量が多いというデータがある。野菜や果物ががんを予防する直接的効果をもつのではなく、がん予防に良い生活習慣(禁煙、禁酒、運動、標準体重維持、カロリー制限など)の指標に過ぎないという指摘もある。食事とがんに関する最近のコホート研究の多くで、野菜や果物の摂取ががんを減らす効果は確認されていない。

304)野菜と果物は本当にがん予防効果があるのか?

【最近のコホート研究では野菜や果物のがん予防効果が認められていない】
従来、野菜・果物の摂取はがんに対する予防効果があると考えられていました。ところが、最近の研究報告では関連性がないとするものが増えています。
野菜や果物ががんを予防する可能性が最初に報告されたのは1975年です。この年、ニンジンなどに含まれるビタミンAの摂取が少ない人は肺がんになるリスクが高いという研究結果が報告されています。その後、1990年代の初めまでに行われた疫学研究や臨床試験の多くで野菜や果物の摂取はがん予防に有効という結果が得られています。多くの動物実験で、野菜や果物に含まれる成分のがん予防効果が証明されています。野菜や果物に含まれるビタミンやミネラルやポリフェノールや食物繊維などのがん予防効果に関する基礎研究も多く報告され、野菜や果物は抗酸化作用や抗炎症作用やがん予防作用をもつ成分の宝庫であることが報告されています。
この当時の研究を総合すると、野菜や果物の摂取が多いほどがんの発生率が低下し、野菜や果物の摂取を増やせば、がんの発生リスクを半分以下に減らせるような印象を多くの研究者がもっていました。そのため、世界がん研究基金とアメリカがん研究所(World Cancer Research Fund / American Institute for Cancer Research)の1997年の専門家会議で「果物と野菜の摂取は、口腔・咽頭・食道・胃・結腸直腸・肺における発がんを減らす確信できる証拠(convincing evidence)がある」という表現でレポートしています。しかし、2007年に発表された同じ専門家会議の最新のレポートでは、1997年の「確信できる証拠(convincing evidence)」という表現が、「可能性がある(probable)」や「制限された示唆(limited-suggestive)」という弱い表現に変更になっています。その理由は、1997年以降に結果がでた大規模なコホート研究では、野菜や果物の摂取が多くてもがんの発生を予防する効果が証明できなかったからです。
1990年代までの疫学研究のほとんどはケース・コントロール研究で行われ、野菜や果物のがん予防効果が認められたため、大規模なコホート研究が計画され、その結果が2000年代に入ってから出てきましたが、コホート研究ではがん予防効果が証明できなかったのです。その理由を理解するために、まずケース・コントロール研究とコホート研究の違いを知る必要があります。

【ケース・コントロール研究とコホート研究の違い】
ケース・コントロール研究(Case-control study:患者対照研究)は、後ろ向き(retrospective)の研究とも言われ、がんが発症した人と発症しなかった人を、過去に向かって解析して、がんの発生に関連する要因を明らかにする研究のことです。胃がんになった患者グループと、年齢や性別などを同じ条件にそろえた胃がんでない人のグループ(健康人)の2つのグループの間で、過去にさかのぼって食事内容を調査し、野菜や果物が胃がんの発生率を減らすのかどうかを解析するような研究です。
一方、コホート研究(Cohort study)は前向き(prospective)な研究と言われ、ある危険因子にさらされた人々とそうでない人々で、将来どのような病気になるかを、現在から未来に向かって解析を行う研究のことです。ある地域住民に対して食事調査を行い、野菜や果物の多いグループと少ないグループの間で、調査後10年間の胃がんの発生率を比較するような研究です。
例えば、「喫煙と肺がんの関連性」を調べる場合、ケース・コントロール研究では、すでに肺がんになった患者群(症例群)と年齢や性をマッチさせた健康人(対象群)を比べて、どちらに喫煙者が多いかを調べます。肺がん患者群に喫煙者が多ければ、喫煙が肺がんの原因になっている可能性が示唆されます。一方、コホート研究の場合は、最初に健康人の大集団(コホート集団)の喫煙状況を調査し、その後長期間にわたって肺がんの発病や死亡の状況を調査します。喫煙しているグループから肺がんが多く発症すれば、喫煙が肺がんの原因になっている可能性があるということになります。
100人の肺がんと100人の健康人を比較するケース・コントロール研究では調査対象は200人ですみます。コホート研究では10000人を対象にスタートして10年間で発生した肺がん100人を解析するような研究です。コホート研究の方が費用も時間もかかりますが、信頼性は高くなります。ケースコントロール研究では、結果が早く判るという利点はありますが、過去の遡って調べなければならないので、様々な偏り(バイアス)が入り込む余地が多く、コホート研究より信頼性はかなり低いと言われています。

【疫学研究の解釈に注意が必要な交絡因子】
野菜や果物の摂取と、がんの発生の両方に関連している因子があると、結果に影響する可能性があります。このような因子を交絡因子(confounding factor)と言います。その代表が喫煙と飲酒です。
喫煙や飲酒の多い人は野菜や果物の摂取が少ないというはっきりとしたデータがあります。例えば、米国のデータ(NIH-AARP Diet and Health Study)では、男性で果物の摂取の多い上位20%の集団では喫煙者は4.12%ですが、果物の摂取が最も低い下位20%の集団には喫煙者が21.8%います。男性で野菜の摂取の多い上位20%の集団には喫煙者は6.2%ですが、野菜の摂取が少ない下位20%の集団には喫煙者が16.9%もいます。女性でも同様です。アルコールの摂取の多い人が野菜や果物の摂取が少ないのも喫煙と同じ程度の差があります。(下の表を参照)

また、
野菜や果物の摂取が多いグループは摂取が少ないグループと比べて、総摂取カロリーが低い、肥満が少ない(BIMが25以下の人の割合で評価)、運動を良くしている、学歴が高い(大学や大学院を卒業した割合で評価)という違いにも差が出ています。つまり、野菜や果物を日頃から多く食べている人々は食事だけでなく、いろんな面で健康的な生活を実践している人が多い傾向にあります。タバコやアルコールに出費が多い人は、果物まで手がでにくいのかもしれませんし、果物を多く食べている人(多く食べれる人)は、経済的に裕福で、他の環境も良好である可能性もあります。このように、野菜や果物の摂取が多いグループでがんの発生率が低いという結果が出ても、発がんに関連する交絡因子の影響を除外しておかないと間違った解釈になる可能性があります。
喫煙は、がんの種類(肺がんや喉頭がん)によっては発がんリスクを50倍くらい高めます。一方、野菜や果物を多く摂取しても、がんの発生を10%減らす程度です。したがって、喫煙の発がん促進効果は野菜や果物の摂取による発がん予防効果の500倍くらいになるので、対象の中に喫煙者が混ざっていると、かなりの影響を受けることになります。(非喫煙者のみを対象にした研究であれば、喫煙の影響は除外できます)
1997年の専門家会議で「確信できる証拠」があると報告されている口腔・咽頭・食道・胃・結腸直腸・肺のがんは、いずれも喫煙や飲酒で発生率が上がることが知られています。野菜や果物の摂取の多い人は少ない人よりも喫煙率も飲酒量も低いので、その影響が十分に排除できなかった可能性があります。
1990年代までのケース・コントロール研究では、喫煙や飲酒といった交絡因子の影響を十分に除外できていないという指摘がかなりあります。その結果、多くのケース・コントロール研究では、野菜や果物の摂取ががん予防に効果があるという間違った結果が多数でていると言われています。そして、より信頼性の高いコホート研究では、野菜や果物の摂取によるがん予防効果が出ていないという状況にあるため、野菜や果物のがん予防効果の見直しが必要と考えられるようになっています。
このような疫学研究では、交絡因子の影響を排除するような統計処理がなされますが、排除が困難な場合も多くあります。例えば、「緑茶を多く飲む人はがんが少ない」ということも、緑茶を多く飲む人は生活にゆとりがあって、ストレスが少ない人が多いためかもしれません。ストレスはがんの原因として重要ですが、ストレスの過多を評価し、統計処理に反映させることは困難です。
同様に、「果物の摂取が多い人は循環器疾患の発症率が低い」という結果が出ていますが、喫煙の影響を排除できても、ストレスの違いを排除することは困難です。しかし、果物の摂取の多いひと(果物をたくさん食べれる人)は、経済的に裕福で、生活環境も良く、ストレスも少ない可能性は十分にあると思います。果物を多く食べられる経済的・精神的な余裕ががんや循環器疾患の発症を減らす効果はあります。ストレスはがんと循環器疾患のリスクとして重要です。

【メタ解析の論文にも注意が必要】
メタ解析(メタアナリシス:meta-analysis)とは、過去に行われた複数の研究結果を統合し、統計的に総合評価を行う方法です。一つ一つの研究では症例数が少なくて統計的に差がでなくても、そのような研究データをまとめて統計的に処理すれば、より信頼性の高い結果が得られます。一般的に、メタ解析で有効性が示されれば、かなりエビデンスが高いという評価になります。しかし、食事とがんとの関連を検討したメタ解析では、前述のケース・コントロール研究とコホート研究が混じっていて、まだケース・コントロール研究の方が多いので、コホート研究の結果が過小評価される傾向にあります。つまり、メタ解析の論文を読むときは、この点を注意しておく必要があります。例えば、以下のような論文があります。
Cruciferous vegetables intake and risk of prostate cancer: a meta-analysis.(アブラナ科野菜の摂取と前立腺がんの発症リスク:メタ解析)Int J Urol. 219(2):134-141. 2012年
アブラナ科野菜の摂取と前立腺がんのリスクを検討したコホート研究7つとケース・コントロール研究(population-based case-control studie)6つを合わせたメタ解析では、アブラナ科野菜を多く摂取するグループでは前立腺がんの発生率が統計的有意に低下していました。全部を合わせると相対リスクは0.90(95%信頼区間は0.85-0.96)でした。これをケース・コントロール研究だけで解析すると、相対リスクは0.79(95%信頼区間は0.69-0.89)で、アブラナ科野菜の前立腺がん予防効果がさらに強く出ています。しかし、コホート研究だけに絞ると、相対リスクは0.95(95%信頼区間は0.88-1.02)で95%信頼区間が1をまたいでいるので、統計的な有意差は認めていません。つまり、ケース・コントロール研究では、アブラナ科野菜が前立腺がんを予防する効果が明らかに示されていますが、コホート研究では予防効果は認めないという結果です。全ての研究を合わせれば、効果があるという評価になりますが、コホート研究の方がケース・コントロール研究より信頼性が高いので、「アブラナ科野菜には前立腺がんを予防する効果はない」というのが科学的には正しいかもしれません。そこで、この論文の結論は「研究の数が少ないのでまだ結論は出せない。アブラナ科野菜の前立腺がん細胞に対する予防効果を明らかにするためにはより大規模な前向き研究が必要である。」というような内容です。
同じような論文は最近になってよく目にします。コホート研究の結果が出て来たからだと思います。以下のような論文もあります。
The association of cruciferous vegetables intake and risk of bladder cancer: a meta-analysis.(アブラナ科野菜と膀胱がんの発症リスクの関係:メタ解析) World J Urol. 2012 Mar 6. [Epub ahead of print]
アブラナ科の野菜の摂取量の多いグループと少ないグループを比較して、膀胱がんの発症に対するアブラナ科野菜の予防効果を検討した10の疫学研究(コホート研究が5つでケース・コントロール研究が5つ)をメタ解析しています。この10個の研究を全部合わせると、アブラナ科野菜の多いグループは少ないグループに比較して膀胱がんを発症する相対リスクは0.80(95%信頼区間は0.69-0.92)と、2割も発症率が減るという結果が得られてます。
ケース・コントロール研究だけに絞ると相対リスクは0.78(95%信頼区間は0.67-0.89)とさらに予防効果が強くでます。しかし、コホート研究だけに絞ると、相対リスク0.86で(95%信頼区間は0.61-1.11)となり、95%信頼区間が1をまたいでいるので、統計的に有意差はないという結論です。
アブラナ科野菜というのは、ブロッコリーやキャベツやケールなどがん予防効果が最も期待されている野菜です。今までの研究で、ケース・コントロール研究ではいろんながんを予防する結果が出ているのですが、コホート研究では、明らかな予防効果が得られないということから、本当にアブラナ科野菜ががん予防に有効かどうかを再検討すべきかもしれません。数年前までは、アブラナ科野菜を多く摂取するとがんを予防する効果があると信じられてきましたが、現時点ではその常識はあやふやになっているようです。
以下のような論文もあります。
Main dietary compounds and pancreatic cancer risk. The quantitative analysis of case-control and cohort studies.(主な食品成分と膵臓がんのリスク:ケース・コントロール研究とコホート研究の定量的解析)Cancer Epidemiol. 36(1):60-67.2012年
この論文では、2010年までに発表された論文を解析しています。膵臓がんの発症リスクと、赤身の肉、ミンチした肉、ハム、ベーコン、ソーセージ、白身の肉、鶏肉、野菜、魚、卵、果物、生活習慣などとの関連を検討しています。11のケース・コントロール研究のメタ解析では、赤身の肉が膵臓がんの発症率を48%上昇させ、野菜と果物の摂取は膵臓がんの発症率をそれぞれ38%と29%低下させるという結果が得られています。
しかし、10のコホート研究のメタ解析では、いずれの食品成分の摂取も膵臓がんの発症率と関連は認められなかったという結果になっています。
ケース・コントロール研究もコホート研究も、魚や鳥や卵の摂取と膵臓がんの発症リスクには関連がないという結果です。
以下の論文では野菜と果物の摂取と膵臓がんの関連を検討した14のコホート研究のみを解析しています。
Intake of fruits and vegetables and risk of pancreatic cancer in a pooled analysis of 14 cohoot studies. (14のコホート研究の総合的解析においける果物と野菜の摂取と膵臓がんのリスク) Am J Epidemiol. 176(5):373-386, 2012年
この論文で解析した14のコホート研究では、男女計862,584人を対象に7~20年間追跡し、2,212人の膵臓がんが発生しています。そしてこの解析の結果は、野菜や果物の摂取は膵臓がんの発症率を減らす効果は全く無いという結論になっています。
以上の4つの論文はいずれも2012年に発表されています。つい最近まで、野菜や果物が多くのがんの予防や進展抑制に効果があると考えるのが常識でしたが、この常識は崩れつつあるような感じです。

【最近のコホート研究の多くで、野菜や果物のがん予防効果が認められていない】
前述のように、1990年代までに行われた研究では、野菜や果物の摂取ががんを予防する効果を示していますが、その多くがケースコントロール研究であり、対象人数が少なかったり、喫煙や飲酒の要因が十分に排除されていない可能性があり、その結果に疑問が投げかけられています。
喫煙と飲酒は発がん率を高める最も大きな要因で、一般に喫煙や飲酒の多い人は野菜や果物の摂取が少ないので、喫煙や飲酒の要因を調整しないで単に野菜や果物の摂取量だけで比較すると、見かけ上、野菜や果物の摂取が多い人(喫煙や飲酒をしない人が多い)の発がん率が低下することになります。たとえば、果物の摂取が多いグループは裕福な人や健康に関心のある人が多い可能性があるので、そのような他の発がん要因を排除ないし調整しないと間違った結果が得られることになります。摂取カロリーが低いとがんの発生が低下することも知られていますが、野菜や果物を多く摂取すると食事のボリュームが増えるので、一般的に摂取カロリーは少なくなります。実際にそのような結果が報告されています。
厚生労働省研究班「多目的コホート研究(JPHC研究)」が男女77,891人を対象にした研究では、果物では最多摂取群が最少群に比べて循環器疾患リスクは19%低減しましたが(特にかんきつ類)、野菜と循環器疾患、野菜・果物とがんについては、どの品目でも関連性は認められませんでした。
アメリカなどで2000年以降に発表された複数の大規模な疫学研究でも、野菜や果物の摂取ががん全体の発生率を減らす効果は認められていません。例えば、米国のNIH-AARP(National Institute of Health-American Association of Retired Persons) Diet and Health Studyというコホート研究では、50歳以上の約48万人の男女を1995年から2003年まで追跡し、約5万人のがん患者が確認され、野菜や果物の摂取量と発がん率を検討しています。女性では、野菜や果物の摂取を増やしてもがんを予防する効果は認めらていません男性では、野菜の摂取量が多いとがんが少ないという結果が得られていますが、非喫煙者に限定すると野菜の摂取が増えてもがんを予防する効果は認められていません。つまり、男性で野菜の摂取が多いとがんが少ないという結果は、喫煙者は野菜の摂取が少ない(野菜の摂取の少ないグループに喫煙者が多い)ということが関連していると推測しています。男性は女性より喫煙率が多いので、このような差が出やすいということです。女性や非喫煙男性に限れば、野菜も果物もがんの発生率を下げる効果は無いという結論です。(Am J Clin Nutr 89: 347-53, 2009)
ヨーロッパで行われたコホート研究では、野菜や果物の摂取でがんが数%程度減るような結果がでています。個別のがんに対する研究は未だ十分に行われてはいませんので、全てを否定するものではありません。がんの種類によっては多少の効果がある可能性はあります。しかし、最近の研究から判断すると、野菜や果物を多く摂取しても、せいぜい10%くらい(実際はもっと少ない可能性が高い)がんの発生率を減らすくらいの効果しか無いような印象です。
野菜や果物の摂取と発がん率に関する最近の総説では、「
野菜や果物は通常量摂取すれば十分で、それ以上摂取してもがんを減らす効果は確認できない」という結論になっています。(British J Cancer 104:6-11, 2011)
つまり、栄養不足になるような集団では、野菜や果物の摂取は健康にプラスになりますが、日頃からある程度の野菜や果物を摂取して栄養状態が良い集団においては、それ以上に野菜や果物を多く摂取してもさらにがんを減らす上乗せ効果は期待できないといのが、最近のがん予防の研究者のコンセンサスになっています。ニンジンジュースなど野菜ジュースを大量に飲用する食事療法は、一昔前までは正しかったのですが、現在ではあまり根拠が無いと言わざるを得ません。したがって、ニンジンジュースなどで糖質を多く摂取するデメリットも多少は考慮すべきかもしれません。
1990年代までは、野菜や果物を増やすと、がんの発生率が半分以下になるようなデータが多かったのですが。最近は、ほとんど効果が無い、あってもせいぜい数%程度の低下くらいということになっています。
米国からのある報告によると、国民の半分が野菜や果物の摂取を1日1皿分増やすと1年間に2万人のがんを予防できるという推定があります。2万人も予防できるということは大変な効果のように思いますが、米国では年間のがんの発症数は160万人を超えていますので、たった1.2%減らせる計算です。野菜や果物を1日5皿増やしても6%の低下です。
世界保険機構(WHO)は1日400gの野菜・果物の摂取を推奨しています。米国は「5 a day」キャンペーンで1日5皿の野菜・果物の摂取を勧めています。このような食生活は健康的で循環器疾患の予防にはある程度の効果は期待できそうですが、がんに関しては、本当に予防効果があるのか、非常に疑問になっているというのが最近の研究状況のようです。
以上のように、がん予防に対する貢献度は思ったほど高くないのですが、野菜や果物を多く摂取する食事は摂取カロリーが低くなり、肥満の防止になり、野菜や果物の多く食生活ががん予防に間接的に役立つことは確かです。一部のがんに効果が期待できる可能性もまだ残っています。循環器疾患を予防する効果は期待できそうですので、野菜や果物の多い食事を推奨することは間違いではありません
ただ、巷では、野菜や果物のジュースの大量飲用でがんが治るというような本が多く出ていますが、最近のがんの研究結果からは、その真偽は怪しくなっています。野菜や果物を多く摂取するより、適度な運動や標準体重の維持や禁煙やストレスをためない生活が重要で、そのような生活習慣と野菜や果物の摂取が相関しているだけかも知れません。


【医学研究は流行に流されやすい】
食事ががんの発生率に関連することは多くの研究者が認めています。世界中で地域によって発がん率が何倍も違うのは、食事の内容が関連しているというのは常識になっています。ただ、医学研究においては、流行に流され、間違った考えが主流になることが多いことも確かです。
ニンジンなどの含まれるβカロテンの摂取が少ないとがんが多いという疫学研究からβカロテンのがん予防効果を検討する臨床試験が行われました。しかし、予想に反してβカロテンの摂取が喫煙者で肺がんの発生が増えるという事実が明らかになりました。βカロテンが喫煙者に肺がんの発生を促進するというのがはっきりしたのは1996年です。米国国立がん研究所は1996年初頭に「ベータカロテンの栄養補助剤は、がん予防効果がないだけでなく、肺がんのリスクを高めるおそれがある」と発表しています。1996年は私は国立がんセンター(現在は国立がん研究センター)のがん予防研究部の第一次予防研究部の室長をしていましたので、その当時のショックは今でも覚えています。その当時、がん予防の研究者は全て、βカロテンはがんを予防する魔法のサプリメントだと考えて誰一人疑う人はいなかったからです。それが、がんを促進する作用があるという結果に驚いたわけです。
それまで、動物実験でもβカロテンががんを促進するというデータは報告されていなかったのですが、臨床試験のデータが出てから、βカロテンががんを促進するという研究が短期間に数多く報告されました。これらは、この臨床試験の結果が出る前から得られていた研究も多く含まれていました。
つまり、ほとんどの研究者が、「βカロテンはがんを予防する」と信じていたとき、実験で「βカロテンはがんを促進する」という結果が得られても、研究者自身がこの結果はおかしい、実験に間違いがあると思ってボツにしていたのです。あるいは論文として提出したのですが、レフリーがそんなはずは無いということで論文掲載をリジェクト(reject)していたのです。しかし、臨床試験でβカロテンが喫煙者で肺がんを促進するという結果が明らかになって、そのような論文が表にでるようになったという次第です。つまり、研究者の思い込みで、事実がねじ伏せられることもあるということです。
野菜と果物のがん予防効果は過大評価されていたように思います。むしろ、禁煙や節酒や適度な運動やストレスをためない生活の方ががんの予防には重要であるようです。そのような生活習慣を実践するために、野菜は果物の多い食生活が役立つことは確かです

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