305)地中海式ケトン食(Ketogenic Mediterranean Diet)

図:地中海地方では循環器疾患やがんが少ないと言われている。その理由として、この地域の人はオリーブオイルをふんだんに使い、野菜・果物・豆類・ナッツ類や魚介類の豊富な料理で、適量の赤ワインを飲むという食習慣が関連していると言われている。最近、地中海料理から糖質を減らしたケトン食(ケトジェニックな地中海料理:Ketogenic Mediterranean Diet)がメタボリック症候群の改善に顕著な効果があることが報告されている。メタボリック症候群はがんの危険因子でもあり、また地中海料理ががん予防に効果があることは古くから指摘されているので、地中海式ケトン食(糖質を減らした地中海料理)はさらに抗がん効果が期待できるかもしれない。

305)地中海式ケトン食(Ketogenic Mediterranean Diet)

【日本食はがんや心疾患の予防に効果的な食事か】
国によってがんの種類も心臓病の発症率も異なります。この違いは食生活にあることは多くの研究者が認めています。それでは、どのような食事が良いかということになります。一般的には、「精製度の低い穀物や大豆や野菜や果物を多く摂取する」、「肉と脂肪は少なくする」というのが健康的な食事のコンセンサスです。
現代栄養学では、3大栄養素の炭水化物、脂質、蛋白質の摂取カロリーの比率は、教科書的には3:1:1と言われています。カロリー比率で、糖質が60%、脂肪が20%,蛋白質が20%程度が健康的な食事だと言われています。
一般的な日本食というのは、この比率に近く、塩分を減らした伝統的日本食はがん予防の理想の食事だという意見も昔からあります。伝統的日本食は塩分が多いことが欠点ですが、他は理想的だと言われています。米国などで寿司や豆腐などの日本食がヘルシーだと言うことで人気なのは良く知られています。
肉や動物性脂肪の取り過ぎが肥満や動脈硬化を引き起こし、糖尿病や心臓病やメタボリック症候群を増やすことは良く知られています。
赤身の肉や動物性脂肪の摂取が、大腸がんや乳がんや前立腺がんなど欧米型のがんの発生リスクを高めると考えられており、近年の日本におけるこれら欧米型のがんの増加は食事が欧米化しているためだと言われています。
魚油に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)エイコサペンタエン酸(EPA)や大豆に含まれるイソフラボンのがん予防効果に関しては多くの研究があります。前述のように、日本食の場合は塩分が多いのが欠点ですが、欧米の食事に比べて魚や大豆製食品やキノコ類や海草類が多く、赤身の肉や動物性脂肪が少ないという点では健康的です。大豆製食品(豆腐や納豆など)や魚の油を多く摂取することは、がんや動脈硬化性疾患の予防に効果があります。
伝統的な日本食の場合、塩分が多い以外にも、主食のご飯は発がんリスクを高める要因として無視できません。糖質は血糖を高めてインスリンの分泌を高めるので、がんを促進する作用があります。
米は日本人の主食なので、ご飯が発がんリスクを高めるという意見は長い間タブーになっていたのですが、最近になって糖質制限の健康作用が注目されるようになって、がんの予防や治療においても米食の是非について賛否両論出ています。玄米であれば白米よりグリセミック指数(食後に血糖値を上昇させる程度による炭水化物のランキング)が低いので発がん促進作用は少ないと考えられ、玄米菜食ががんの予防や治療の分野では推奨されていますが、玄米でも糖質(グルコース)の摂取(ブドウ糖負荷:glycemic load)が増えることが問題であることには変わりがなく、白米よりかはマシですが、糖質制限には及びません。
つまり、がんの再発予防や治療の観点からは、「玄米を主食にした日本食」は「白米を主食にした日本食」より少しは良いのですが、米自体の摂取を減らした「糖質を減らした日本食」あるいは「ケトジェニックな日本食(Ketogenic Japanese Diet)」の方がより抗がん効果が高い可能性が示唆されます。ケトン食とはケトン体を増やす食事です。飢餓状態になればケトン体が出ますので、「低糖質+カロリー制限」か「低糖質+高脂肪食」を行えば実践できます。
このような食事はがんに関してはまだエビデンスが少ないのですが、肥満や糖尿病やメタボリック症候群の治療においてはエビデンスが蓄積してきているようです。肥満や糖尿病やメタボリック症候群はがんのリスク要因として重要なので、もしケトン食がこれらの疾患に有効であれば、がんにも有効と言えます。

【地中海料理とケトジェニック地中海料理】
日本食以上に、循環器疾患やがんに対する予防効果が優れていると言われているのが地中海料理です。地中海料理とは、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインなどのヨーロッパや北アフリカ諸国の地中海沿岸の料理で、野菜や果物や豆類や魚介類が豊富で、オリーブオイルをふんだんに使うのが特徴です。適量の赤ワインを飲むことも心血管リスクの低減に関与していると言われています。地中海沿岸地域の人たちは、このような食生活のおかげで心臓病による死亡率が低いと言われています。地中海料理ががんやアルツハイマー病などの神経変性性疾患のリスクを減少させるという研究結果も出ています。
地中海料理は穀類も多いのですが、穀類(糖質)を極端に減らしたケトジェニックな地中海料理(ketogenic Mediterranean diet)が、さらに循環器疾患やメタボリック症候群のリスクを下げる結果が報告されています。以下のような論文があります。
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Effect of ketogenic Mediterranean diet with phytoextracts and low carbohydrates/high-protein meals on weight, cardiovascular risk factors, body composition and diet compliance in Italian council employees.(イタリア議会の従業員を対象にした、体重、心血管リスク因子、身体組成と食事療法のコンプライアンスに対する、植物エキスと低糖質・高蛋白質のケトジェニックな地中海料理の効果)Nutr J. 2011 Oct 12;10:112.
イタリアのパドヴァ大学(University of Padova)からの報告です。
【要旨】
研究の背景:超低糖質ケトン食(very low carbohydrate ketogenic diet)に関しては多くの議論があり反対する意見もあるが、少なくとも短期間あるいは中期間の試験では、肥満や高脂血症や幾つかの心血管リスク因子の改善において有効であることが証明され、超低糖質ケトン食は近年多くの注目を集めている。このため、ケトン食は興味深い治療法であるが、コンプライアンス(達成度)が低いという問題がある。この予備試験の目的は、見た目や味を通常の食事に似せるために低糖質の食材を利用し、健康に有益な成分を多く含む植物エキスを併用して修正されたケトン食療法の安全性と有効性を検証することである。
方法;BMIが25以上で、年齢が18から65歳の106人のローマ議会の従業員(男性19名、女性87名:平均年齢48.49 ± 10.3)を対象にした。緑色野菜とオリーブオイルと魚と肉をベースにして、高品質の蛋白質で糖質を含まないで普通の食事に味を似せた料理に、幾つかのハーブエキスを加えた修正ケトン食(KEMEPHY ketogenic Mediterranean with phytoextracts)の効果を検討した。食事のカロリーは制限しなかった。食事療法を開始する前と6週後に測定を行った。
結果:血液検査でBUN, ALT, AST, GGTと血清クレアチニン値には有意な変化は認めなかった。BMI (31.45 Kg/m2 → 29.01 Kg/m2)、 体重 (86.15 kg → 79.43 Kg) 、体脂肪率 (41.24%→ 34.99%)、 腹囲 (106.56 cm → 97.10 cm)、 総コレステロール (204 mg/dl → 181 mg/dl)、 LDLコレステロール(150 mg/dl → 136 mg/dl)、中性脂肪 (119 mg/dl → 93 mg/dl) 、血糖 (96 mg/dl → 91 mg/dl)において統計的有意な低下を認めた(p < 0.0001)。 一方、善玉コレステロールのHDL-コレステロールは有意な上昇(46 mg/dl → 52 mg/dl)を認めた(p < 0.0001)。
結論:この地中海料理をベースに植物エキスを加えた修正ケトン食(ketogenic Mediterranean with phytoextracts:KEMEPHY)は体重を減らし、心血管リスクを軽減し、腹囲を低下させ、良好なコンプライアンスを示した。
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食事からの3大栄養素のカロリー摂取比率として、簡単には糖質:脂肪:蛋白質=3:1:1が良いと言われています。つまり、糖質からの摂取カロリーを60%、脂肪と蛋白質からが20%づつくらいが妥当だというのが近代栄養学の常識です。肥満の食事療法でも、この比率を守りながら、総摂取カロリーを減らすカロリー制限が行われていますが、減量効果が弱く、カロリー制限があるので長続きしないという問題があります。近年、カロリーを制限しなくても糖質を制限すれば減量も高脂血症や糖尿病の改善にも効果があるという臨床試験の結果が多く報告されています。
この論文で使われた地中海料理をベースにした修正ケトン食では、摂取カロリーの比率は、糖質12%、脂肪52%、蛋白36%になっています。簡単には糖質:脂肪:蛋白=1:5:4という割合です。糖質は1日34g、脂肪は1日63g、蛋白質は1日99gが平均です。生の緑色野菜を1回の食事当たり200g、肉・魚・卵は1日2回、オリーブオイルは1日60gを使っています。カロリー制限は行っていませんが、糖質を制限しているので、結果的に1日の総摂取カロリーは1200キロカロリー程度に減っています。肥満した人が減量するためには、摂取カロリーを減らさない限りは減量はできないので、これは当然の数値かもしれません。(がんのケトン食療法とは異なり、減量が目的なので、脂肪摂取をさらに増やすということは行っていません)
さらに、ハーブエキスやハーブティーを、利尿や抗酸化や消化補助の目的で使っています。この研究で使われたハーブは以下のようなものがあります。
ミント(Mint):シソ科ハッカ属の植物で、ハーブや生薬として多くの民間療法で利用されています。清涼感や胃腸の状態を良くする効果があります。
黒大根(Black radish):西欧諸国における大根は黒がスタンダードで、この論文では抗酸化作用(antioxidant)があると記載されています。黒い色素はコーヒーと同じで抗酸化作用のある成分が含まれているようです。
牛蒡(Burdock):牛蒡(ゴボウ)の種はゴボウシ(牛蒡子)という生薬として解熱や抗炎症作用が利用され、これに含まれるアルクチゲニンは抗がん作用があることが知られています。(48話298話参照)
ヨーロッパではゴボウの新葉をサラダに用います。アメリカやヨーロッパではゴボウの種子を利尿薬として用いています。この論文では、胆汁分泌を促進して消化を助けると記載されています。ちなみに、ゴボウの根は日本独特の野菜で日本人以外ほとんど利用しません。(ゴボウの根は水分80%で、100g当たり炭水化物15gでそのうち食物繊維は5g程度で、糖質が10gも含まれるので、ケトン食ではあまり利用できませんが、ゴボウの種は多く摂取する価値はありそうです。)
セイヨウタンポポ(Taraxacum officinale):漢方薬でもタンポポは蒲公英(ホコウエイ)や蒲公英根(ホコウエイコン)という生薬名で抗炎症や解毒で使用されています。ヨーロッパではサラダ用の品種が栽培されています。
高麗人参(Ginseng):体力を高めるので、ケトーシスに移行する過程での倦怠感や脱力の改善に有効と記載されています。
ガラナ(Guarana):アマゾン川流域を原産地とするムクロジ科ガラナ属のつる植物で、その種子にはカフェインに似た物質が含まれ、中南米アマゾン付近の原住民が疲労回復や興奮作用を期待して茶やコーヒーのような飲料として利用しています。日本でもスポーツドリンクとして販売されています。
糖質制限やケトン食による減量効果の増強や脂質代謝を促進する目的で、薄荷(ハッカ)・牛蒡子(ゴウボウシ)・蒲公英根(ホコウエイコン)・高麗人参などを使った漢方薬の併用は有用かもしれません。
ケトン食というのは、糖質を極力減らし、脂肪を多く摂取する食事です。このような食事が健康に良いという考えは数年前までは極少数の意見で、医学の主流からは認められていませんでした。しかし、最近、ケトン体を増やすケトン食が健康的な食事という報告が増えています。

【スペイン風地中海式ケトン食】
スペイン料理はイベリア半島の山の幸と地中海の海の幸をよく生かした料理で知られます。オリーブオイルやニンニクの使用が多く、新鮮な魚介類を使用した煮込み(パエリア)や豆料理(ファバーダ)などが有名です。これらの料理は赤ワインとともに提供されます。このようなスペイン料理でも糖質を極端に減らしたケトン食(スペイン風地中海式ケトン食)の有効性が検討されています。以下のような論文があります。
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A pilot study of the Spanish Ketogenic Mediterranean Diet: an effective therapy for the metabolic syndrome.(スペイン風ケトジェニック地中海料理の予備臨床試験:メタボリック症候群の有効な治療法)J Med Food. 14(7-8):681-687, 2011
スペインのコルドバ大学の研究者からの論文です。
【要旨】
ケトジェニックなスペイン風地中海料理(Spanish Ketogenic Mediterranean Diet:以下SKMDと略)はメタボリック症候群を改善する効果を有することが報告されている。この研究の目的は、メタボリック症候群の患者の自由な生活条件のもとでの12週間以上のSKMDの治療効果を評価するために行った。メタボリック症候群の肥満した22人(男性12名、女性10名)のBMIは36.58 ± 0.54 kg/m²で、年齢は41.18 ± 2.28歳であった。SKMDの前後(開始時と12週後)における検査結果の比較はスチューデントのペアt-検定(paired Student's t test)で行った。
SKMDの食事で12週後にはLDLコレステロールは126.25 mg/dL から103.87 mg/dLに統計的有意に改善した(P < .001)。メタボリック症候群に関連するその他の指標も、体重(106.41 kg →91.95 kgへ減少)、BMI(36.58 kg/m² → 31.69 kg/m²へ減少)、腹囲(111.97 cm → 94.70 cmへ減少)、空腹時血糖(118.81 mg/dL → 91.86 mg/dLへ低下)、中性脂肪(224.86 mg/dL → 109.59 mg/dLへ減少)、HDL-コレステロール(44.44 → 57.95 mg/dLへ上昇)、収縮期血圧(141.59 mm Hg → 123.64 mm Hgへ低下)、拡張期血圧(89.09 mm Hg →76.36 mm Hgへ低下)のいずれも改善した。
最も改善が顕著であったのは中性脂肪で51.26%の減少であった。12週後には、全ての参加者はメタボリック症候群の基準からはずれた。参加者の77.27%はまだBMIが30以上であったが、中性脂肪とHDL-コレステロールは全ての参加者において正常化した。
このSKMDはメタボリック症候群の患者を改善する有効で安全な方法であると結論することができた。さらに大規模で長期的な臨床試験や、他のケトン食との比較を行う研究が必要である。
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The effect of the Spanish Ketogenic Mediterranean Diet on nonalcoholic fatty liver disease: a pilot study.(非アルコール性脂肪肝に対するスペイン風ケトジェニック地中海料理の効果:予備臨床試験)J Med Food 14(7-8):677-680, 2011
前述の論文と同じ研究グループ(スペインのコルドバ大学)からの論文
【要旨】
スペイン地中海式ケトン食(ケトジェニックなスペイン風地中海料理:Spanish Ketogenic Mediterranean Diet:以下SKMDと略)はメタボリック症候群の治療法として安全性と有効性が確認されている。
非アルコール性脂肪肝はメタボリック症候群との関連が強いので、メタボリック症候群(国際糖尿病連合のガイドラインによる)と非アルコール性脂肪肝(ALTが40U/L以上で腹部エコー検査により診断)の患者に対する自由な生活条件下における12週間のSKMD(スペイン地中海式ケトン食)の治療効果を評価する目的で今回の研究を行った。
診断基準に合う14名の男性を対象に前向き試験を行った。SKMDの前後(開始時と12週後)における検査結果の比較はスチューデントのペアt-検定(paired Student's t test)とχ 検定で行った。
12週間のSKMD(スペイン地中海式ケトン食)の食事療法で、体重は109.79kg から95.86kgに減少, LDL-コレステロールは123.43mg/dL から100.35mg/dLへ減少, ALT(GPT)は 71.92 U/L から 37.07 U/Lへ低下, AST(GOT)は47.71 U/L から 29.57 U/Lに低下, 肝臓における脂肪沈着は21.4%の患者で完全に消滅し、92.86%の患者において脂肪沈着の程度の減少を認めた。メタボリック症候群に関連する指標であるBMI(36.99 kg/m²から32.42 kg/mへ低下)、腹囲(114.01cm から 98.59cmへ減少)、空腹時血糖(118.57 mg/dL から 90.14 mg/dLへ低下)、中性脂肪(232.64 mg/dL から 111.21 mg/dLへ低下)、HDL-コレステロール(42.81 mg/dL から58.71 mg/dLへ上昇)、収縮期血圧(142.86 mm Hg から 125.36 mm Hgへ低下)、拡張期血圧(89.64 mm Hg から 77.86 mm Hgへ低下)のいずれも改善を認めた。
この治療によって、全ての参加者はメタボリック症候群の診断基準(国際糖尿病連合のガイドライン)からはずれ、全ての参加者において、BMIが30以上であるにもかかわらず中性脂肪とHDLコレステロール値は正常化した。
以上の結果から、スペイン地中海式ケトン食(ケトジェニックなスペイン風地中海料理:Spanish Ketogenic Mediterranean Diet)はメタボリック症候群で非アルコール性脂肪肝の患者に対する有効で安全な治療法であると結論できる。
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メタボリック症候群というのは、内臓脂肪型肥満(内臓肥満・腹部肥満)に高血糖・高血圧・脂質異常症のうち2つ以上を合併した状態を言います。国際糖尿病連合(IDF)の基準では、腹囲男性90cm、女性80cm以上が必須で、かつ1)血圧130/85mmHg以上、2)中性脂肪150mg/dL以上、3)HDLコレステロールが男性40mg/dL、女性50mg/dL未満、4)血糖100mg/dL以上、の4項目のうち2項目以上がある場合にメタボリック症候群と診断されます(日本の診断基準は少し違います)。メタボリック症候群はインスリン抵抗性を基礎とした病態であるため、がんの発生と密接に関連しています。
ケトン食がメタボリック症候群の改善に安全で有効な食事療法であれば、がんの予防や治療にも効果が期待できると言えます。

【がん治療中は蛋白質を多く摂取すべき】
がんの予防や治療のための食事療法として、動物性食品を厳しく制限する玄米菜食やゲルソン療法を推奨する意見が多くあります。がんの再発予防の段階であれば、植物性食品を主体にして動物性食品を減らすことは有用だと思います。しかし、抗がん剤や放射線治療などの浸襲的治療を行っているときは、ダメージを受けた正常細胞の回復を促進するためにも蛋白質は通常の1.5倍くらいは必要と言われています。また、脂肪酸が燃焼するときに必要なL-カルニチンは穀類や野菜にはほとんど含まれず、肉や乳製品にしか含まれていません。L-カルニチンは体内で合成されますが、カルニチンの合成には2つの必須アミノ酸(リジン、メチオニン)、3つのビタミン(ビタミンC、ナイアシン、ビタミンB6)、還元型鉄イオンが必要で、これらの栄養素の一つでも不足すればカルニチンは不足することになります。
末期がんや抗がん剤治療中の倦怠感や抑うつの原因としてL-カルニチンの不足が指摘されています
抗がん剤治療中でも厳密な玄米菜食やゲルソン療法を行っている患者さんを多くみますが、体力や栄養状態の悪化によって治療を中断したり、副作用が強くでている方が多くいます。
多くの研究から、動物性食品でも、赤身の肉以外の肉(鶏肉など)や卵や低脂肪の牛乳ががんを促進するという証拠はありません。がん治療中は、大豆製食品やナッツや魚介類に加えて、鳥肉や卵や牛乳も適量を摂取して良質の蛋白質を多めに摂取する方が、回復力や免疫力を高める効果があります。また、糖質は主にがん細胞のエネルギー源になるので、糖質を減らして、減ったカロリーをオリーブオイルや亜麻仁油(フラックスシードオイル)や紫蘇油(エゴマ油)や魚油で補う方が、がんの悪化を防ぎ、悪液質の改善にも有効というエビデンスがあります。

【ブドウ糖負荷ががんの発生率を増やす】
地中海料理の本場のイタリアのコホート研究で、グリセミック負荷の高い食事(インスリン分泌量を増やす糖質の多い食事)は乳がんの発生率を高めることが最近の論文で報告されています。
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High glycemic diet and breast cancer occurrence in the Italian EPIC cohort.(イタリアEPICコホート研究における高ブドウ糖負荷食事と乳がんの発生率)Nutr Metab Cardiovasc Dis.2012 Apr 10. [Epub ahead of print]
この論文のEPICというのはthe European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition の略で、ヨーロッパで行われているがんと食事に関する大規模コホート研究です。この論文では、11年間の追跡調査で発生した879例の乳がんを解析しています。ブドウ糖負荷(glycemic load)の多い上位20%のグループは、ブドウ糖負荷が少ない下位20%に比べて、乳がんの発生率が1.45倍であったと報告されています。食品のグリセミック指数や糖質の量には関係せず、glycemic load(ブドウ糖負荷)が関連するということです。つまり、グリセミック指数が高くでも摂取量が少なければ良く、糖質の量が多くでもグリセミック指数の低いものであれば良いということです。すなわち、(グリセミック指数 X 糖質)÷100で示されるブドウ糖負荷が乳がんの発生に相関するという結果です。
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また、同じコホート研究から、糖質摂取量が多いと閉経後のホルモン非依存性の乳がんの発生が多いという結果も得られています。
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Dietary glycemic index and glycemic load and breast cancer risk in the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition (EPIC).(がんと栄養に関する欧州前向きコホート研究における食事のグルセミック指数とブドウ糖負荷と乳がん発生リスク)Am J Clin Nutr 96(2): 345-355, 2012
ブドウ糖負荷(glycemic load)の大きい糖質の多い食事はインスリン分泌を増やし、インスリン様成長因子-1(IGF-1)のシグナル伝達系を活性化して乳がんを含め多くのがんの発生を高める可能性が示唆されています。この大規模な前向きコホート研究では、乳がん全体としては相関を認めなかったが、閉経後のエストロゲン-受容体陰性の乳がんに限定すると、ブドウ糖負荷や糖質摂取の多い上位20%グループは、下位20%のグループに比較してホルモン非依存性乳がんの発生率が4割くらい増加することが報告されています。ホルモン依存性乳がんの発生率には差を認めていません。 
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まだ、いろんな議論があり、賛否両論はありますが、がんの治療においては、ご飯を主食にするという常識から離れた方が良い時期にきているように思います。欧米では糖質が主食という概念はありません。メインディッシュは肉や魚料理で、パンやイモや豆は付け合わせのような位置づけです。
また、ニンジンジュースの大量飲用も、ニンジンには100g当たり糖質が5g程度含まれ、しかもグリセミック指数は白米と同じレベルなので、カロテノイドが多くてもブドウ糖負荷を高める点が気になります。糖質が少ない葉っぱものの野菜を多く摂取する方が良いように思います。

 

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