303)半枝蓮と高濃度ビタミンC点滴の相乗効果

図:半枝蓮はミトコンドリアに作用してミトコンドリアからの活性酸素の産生を高める。活性酸素によってDNAがダメージを受けるとポリADPリボース合成酵素(PARP)の活性が亢進し、NAD(酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が枯渇する。NADが枯渇すると解糖系は進まなくなる。活性酸素の産生増加はミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を阻害する。つまり、半枝蓮は解糖系と酸化的リン酸化の両方を阻害することによってATPの産生を低下させ、がん細胞を死滅させる。

303)半枝蓮と高濃度ビタミンC点滴の相乗効果

【ミトコンドリアにおける活性酸素の産生を増やすとがん細胞は死滅する】
酸素が不足した状態でもがん細胞が増殖できる理由は、嫌気性解糖系という酸素を使わない化学反応でエネルギー(ATP)を産生する活性が高くなっているからです。そして、酸素が十分に利用できる条件でも、がん細胞は酸素を使わない嫌気性解糖系を主体にしたエネルギー産生を行い、ミトコンドリアでの酸素を使ったエネルギー産生を低下させているのが特徴です。ミトコンドリアでのエネルギー産生系を抑制すると酸化ストレスを軽減でき、細胞死が起こりにくくなるというのが、がん細胞でミトコンドリアでの呼吸を抑制している理由の一つと考えられています。
つまり、がん細胞は酸化ストレスによるダメージを回避するため、活性酸素の発生源であるミトコンドリアでの呼吸を抑制し、そのために嫌気性解糖系でのエネルギー産生していると解釈できます(前回302話参照)
がん細胞で乳酸脱水素酵素を阻害すると、嫌気性解糖系でのエネルギー産生が低下し、がん細胞の酸化的ストレスが増大し、腫瘍の増大が抑えられること報告されています。乳酸脱水素酵素(Lactate Dehydrogenase: LDH)は嫌気性解糖系の最終段階であるピルビン酸 ⇔ 乳酸の反応を触媒する酵素です。
がん細胞で嫌気性解糖系が阻害されると、エネルギー産生をミトコンドリアでの酸化的リン酸化反応に移行せざるを得なくなります。元々がん細胞は抗酸化酵素の発現が低下しているので正常細胞よりも抗酸化力が低い特徴があります。したがって、ミトコンドリアにおける酸化的リン酸化が活性化して活性酸素の産生が高まるとがん細胞内で酸化ストレスが増大し、細胞がダメージを受けて細胞死が起こりやすくなるのです。
乳酸脱水素酵素はがん遺伝子のc-Mycと低酸素に反応して発現する低酸素誘導性因子-1(HIF-1)によって発現が誘導されます。つまり、がん細胞が低酸素になるとHIF-1の作用によって乳酸脱水素酵素の活性が高くなって嫌気性解糖系が亢進することになり、さらに多くのがん細胞でがん遺伝子のc-Mycの発現が亢進しているので、がん細胞では低酸素でなくても乳酸脱水素酵素の発現が常時亢進していることになります。この乳酸脱水素酵素を阻害すると、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化が亢進して活性酸素の発生が増大し、細胞が酸化ストレスによってダメージを受け死滅するということです。
乳酸脱水素酵素の阻害の代わりに、ピルビン酸からアセチルCoAの変換によってTCA回路へ代謝を進ませるピルビン酸脱水素酵素を活性化する場合も、同様にがん細胞の酸化ストレスが増大して細胞が死滅します。ジクロロ酢酸ナトリウムはピルビン酸脱水素酵素キナーゼを阻害することによってピルビン酸脱水素酵素の活性を高めます。R体αリポ酸はピルビン酸脱水素酵素の補酵素として働くので、酵素活性を高めます。すなわち、ジクロロ酢酸ナトリウムとR体αリポ酸は、がん細胞で活性が低下しているピルビン酸脱水素酵素を活性化して、ミトコンドリアでの呼吸を増やし、活性酸素の産生を高めて、がん細胞を死滅させる効果があります。

【解糖系と酸化的リン酸化を阻害する半枝蓮】
半枝蓮(はんしれん)は学名をScutellaria barbataと言う中国各地や台湾、韓国などに分布するシソ科の植物です。アルカロイドやフラボノイドなどを含み、抗炎症・抗菌・止血・解熱などの効果があり、中国の民間療法として外傷・化膿性疾患・各種感染症やがんなどの治療に使用されています。黄色ブドウ球菌・緑膿菌・赤痢菌・チフス菌など様々な細菌に対して抗菌作用を示し、さらに肺がんや胃がんなど種々のがんに対してある程度の効果があることが報告されています。
半枝蓮の抗がん作用に関しては、民間療法における臨床経験から得られたものが主体ですが、近年、半枝蓮の抗がん作用に関する基礎研究が多数発表されています。米国のベンチャー企業が半枝蓮の抽出エキスを使って乳がんなどに対する効果を検討しており、有効性が報告されています。基礎研究では、半枝蓮には、がん細胞の増殖抑制作用、アポトーシス(プログラム細胞死)誘導作用、抗変異原性作用、抗炎症作用、発がん過程を抑制する抗プロモーター作用などが報告されています。さらに、がん細胞の嫌気性解糖系と酸化的リン酸化の両方を阻害してエネルギー産生を低下させ、がん細胞を死滅させる作用が報告されています。以下のような論文があります。

Bezielle selectively targets mitochondria of cancer cells to inhibit glycolysis and OXPHOS.(半枝蓮抽出エキスのBezielleは解糖系と酸化的リン酸化を阻害してがん細胞のミトコンドリアを選択的にターゲットにする。)PLoS One 2012; 7(2):e30300. Epub 2012 Feb 3.
この論文は半枝蓮の抽出エキスをがん治療薬として開発しているBioNovo社の研究グループ(BioNovo, Inc., California, USA)からの報告です。
【要旨】Bezielle (BZL101)は、進行した乳がんを対象にした初期の臨床試験で有効性と安全性が認められた開発中の経口薬である。Bezielleは半枝蓮(Scutellaria barbata)というハーブの水抽出エキスである。我々は以前の研究で、Bezielleはがん細胞に選択的に毒性を示し、正常細胞には毒性を示さないことを報告している。
がん組織において、Bezielleは活性酸素を発生させ、DNAにダメージを与え、ポリ-ADP-リボース合成酵素(PARP)を過剰に活性化させ、細胞内のATP(アデノシン3リン酸)とNAD(ニコチンアミドジヌクレオチド)を枯渇させ、解糖系を阻害する。今回の研究では、がん細胞においてBezielleによって誘導される活性酸素の産生の発生源はがん細胞のミトコンドリアであることを明らかにした。
がん細胞の入った培養液にBezielleを添加すると、ミトコンドリア内でスーパーオキシドおよびペルオキシド型の活性酸素の産生が亢進した。ミトコンドリアでの呼吸を阻害すると、活性酸素の産生は阻止され、Bezielle添加で誘導される細胞死も阻止された。解糖系のみならず、Bezielleはがん細胞の酸化的リン酸化も阻害し、その結果、ミトコンドリアにおけるATP産生量を低下させた。
ミトコンドリアの働きを欠損しているがん細胞では、Bezielleの存在下でも解糖系の活性を維持した。これは、ミトコンドリアがBezielleの第一のターゲットであることを意味している。
Bezielle が正常細胞に対して与える酸化的ダメージは低く、正常細胞に対するBezielleの代謝的影響はほとんど認めなかった。
以上のことから、Bezielleはがん細胞のミトコンドリアを選択的にターゲットにする薬で、酸化的リン酸化と解糖系の両方を阻害する作用を持つという点において、他の医薬品には無い特徴を持っている。今回の研究結果は、Bezielleのがん細胞に対する選択的な細胞毒性の作用機序を明らかにしている。 

Bezielle (BZL101, FDA IND#59.521)というのは、現在米国で臨床試験が行われている開発中の抗がん剤の治験名ですが、その本体はハーブの半枝蓮の熱水抽出エキスです。乳がんや膵臓がんを対象にした臨床試験で有効性と安全性が確かめられています。副作用が少なく効果がある経口の抗がん剤という点でメリットの多い薬ですが、中国や台湾などでは経験的にがんに有効であることが古くから知られており、民間療法や漢方治療としてがんの治療に良く使われている植物です。正常細胞に対する毒性は少なく、がん細胞に選択的に細胞毒性を示すので、その作用機序が注目されています。
この論文では、Bezielleの第一のターゲットががん細胞のミトコンドリアであり、がん細胞のミトコンドリアにおける活性酸素の発生を高めることによってがん細胞にダメージを与えることを示しています。
活性酸素によってDNAがダメージを受けると、それを修復するためにポリADPリボース合成酵素(PARP)の活性が亢進します。PARPは、DNA損傷に伴い活性化され、NADを基質として様々な核タンパク質にADP一リボース残基を付加重合する翻訳後修飾反応を触媒する酵素で、DNA修復や細胞死および分化制御に関与しています。
つまり、PARPが活性化するとNAD+が枯渇し、解糖系が阻害されます。解糖系ではNADが必要だからです。解糖系でNADが必要なことは第302話で解説しています。ATPとNADが枯渇することによって、がん細胞が死滅するというストーリーです。
ただ、どのようにしてミトコンドリアの活性酸素の産生を増やすのかはこの論文では言及していません。以前の論文では、半枝蓮が嫌気性解糖系を阻害するという結果が報告されていますので、嫌気性解糖系が阻害され、ミトコンドリアでの酸素呼吸が増えるためにミトコンドリアでの活性酸素の産生が増えるのかもしれません。
いずれにしても、半枝蓮はがん細胞のミトコンドリアでの活性酸素の発生を増やし、DNAのダメージが起こり、それを修復するためにポリADPリボース合成酵素(PARP)の活性が亢進し、PARPによってNADが消耗するので、解糖系が停止し、TCA回路も回らなくなります。TCA回路もNADが必要です。解糖系もTCA回路も進まなくなれば、そのうちATPが枯渇してがん細胞は死滅することになるのです

【高濃度ビタミンC点滴もPARPの活性化とNADの枯渇が関与する】
1回に25~100グラムという大量のビタミンCを1~3時間かけて点滴すると治療法があります。がん細胞に取込まれたビタミンCが過酸化水素を発生することでDNAやミトコンドリアにダメージを与え、解糖系を阻害してATP産生を阻害することによって抗がん作用を発揮します。ビタミンCはブドウ糖を構造が似ており、同じ糖輸送担体(グルコーストランスポーター)によって細胞内に取込まれます。がん細胞はブドウ糖の取込みが亢進し抗酸化酵素(カタラーゼなど)の活性が低下しているので、大量のビタミンCががん細胞に取込まれ、がん細胞が選択的に死滅させることができるという治療法です。
提唱されている作用機序として、ビタミンCによって発生した過酸化水素がDNAにダメージを与えると、PARPが活性化されNADが枯渇し、解糖系もTCA回路も進まなくなります。活性酸素はミトコンドリアもダメージを与えます。これらの作用で、エネルギーが枯渇して細胞が死滅することになります。この作用機序をまとめたのが以下の図ですが、半枝蓮と似たようなメカニズムです。半枝蓮はミトコンドリアでの活性酸素の産生を増やし、高濃度ビタミンCは過酸化水素を発生させ、いずれもDNAの酸化障害からPARPの活性化→NADの枯渇→解糖系の阻害→ATPの産生低下というストーリーです。したがって、半枝蓮と高濃度ビタミンC点滴は理論的に相乗効果が期待できると思います。


【がん細胞内の鉄と反応してフリーラジカルを産生するアルテスネイト】
アルテスネイト(Artesunate)は中国で古くからマラリアなどの感染症の治療に使われていた青蒿(セイコウ:Artemisia annua)というキク科の薬草から分離された成分で、現在ではマラリアの特効薬として使用されています。アルテスネイトは分子の中に鉄イオンと反応してフリーラジカルを産生するendoperoxide bridge を持っています。がん細胞は鉄を多く取り込んでいるので、その鉄と反応してフリーラジカルを産生してがん細胞を死滅させるという作用機序が提唱されています。(図)

がん遺伝子のc-Mycや低酸素状態によって発現が誘導される低酸素誘導性因子1という転写因子はトランスフェリンレセプターの発現を高めています。鉄は細胞増殖に必要なため、がん細胞はトランスフェリンレセプターを多く発現して鉄を多く取り込んでいます。細胞分裂の早いがん細胞ほど鉄を多く取り込んでいると言われています。
一方、がん細胞はスーパーオキシド・ディスムターゼ(SOD)やカタラーゼやグルタチオンペルオキシダーゼなどの抗酸化酵素の発現が少なく、酸化ストレスに対する抵抗力(抗酸化力)が低下していると言われています。したがって、がん細胞内の鉄と反応してフリーラジカルを発生するアルテスネイトは、正常細胞を傷つけずにがん細胞に選択的に障害を与えることができるのです。
アルテスネイトによってがんや肉腫が縮小した臨床報告があり、人間における腫瘍にたいしても有効であることが証明されています。進行した非小細胞性肺がんの抗がん剤治療にアルテスネイトを併用すると抗腫瘍効果が高まることが、中国で行われたランダム化比較試験で報告されています。
最近の研究では、アルテスネイトは多彩な作用メカニズムで抗腫瘍効果を発揮することが報告されています。がん細胞内でフリーラジカルを産生して酸化ストレスを高める以外に、血管新生阻害作用、DNAトポイソメラーゼIIa阻害作用、細胞増殖や細胞死のシグナル伝達系に影響する作用などが報告されています。

【ミトコンドリアをターゲットとする抗がん剤をMitocansという】
がん細胞でミトコンドリアを活性化させ、ミトコンドリアでの活性酸素の産生を増やして酸化ストレスを増大させてがん細胞を死滅させようとするのがジクロロ酢酸ナトリウムです。
一方、高濃度ビタミンC点滴は、細胞の内外で過酸化水素を発生し、DNAを損傷してPARPを活性化させ、NADが枯渇して解糖系が進まなくなるという作用機序が提唱されています。
半枝蓮のBezielleの実験では、ミトコンドリアの活性が低下しているがん細胞では、活性酸素の発生も細胞死も起こらないことが示されています。薬でミトコンドリアの活性を低下させると、Bezielleを添加しても活性酸素の産生が起こらず細胞死も起こりません。多くのがん細胞はもともとミトコンドリアの活性が低いという特徴があります。したがって、ジクロロ酢酸ナトリウムでミトコンドリアを活性化する治療と半枝蓮は相乗効果が期待できます。さらに、DNAダメージとPARPの活性化とNADの枯渇を来す高濃度ビタミンC点滴も相乗効果が期待できます。さらに、細胞内に多く含まれる鉄と反応してフリーラジカルを発生させるアルテスネイトもがん細胞に酸化ストレスを高めることによって抗がん作用を示します。
すなわち、半枝蓮、ジクロロ酢酸ナトリウム、高濃度ビタミンC点滴、アルテスネイトの組合せが相乗的に抗がん作用を強めることが示唆されます。
最近はミトコンドリアをターゲットにしたがん治療薬の開発が注目されています。ミトコンドリアをターゲットとする抗がん剤を「Mitocans」と呼ばれています。天然成分にもミトコンドリアが作用して抗がん作用を発揮するものが多くありますが、半枝蓮はMitocansの一つと言えます。ジクロロ酢酸ナトリウムもMitocansの一つです。これらを併用するとがん細胞を死滅させる効果を高めることができます。漢方薬やサプリメントを使ったがんの代替医療において、ミトコンドリアをターゲットにした治療は極めて有望だと思います

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