今日のうた

思いつくままに書いています

時間

2016-06-09 16:57:55 | ⑤エッセーと物語
堀田善衛『時間』2015年11月17日 第1刷発行 岩波書店を読む。
本文と辺見庸さんの解説の中から、心に残る言葉を引用させて頂きます。

本文より
「戦争は人間を(判断力の未熟な、あるいは欠けた)こどもに還すのかもしれない。
 ひょっとすると、あらんかぎりの獣性を発揮してみせてくれた日兵たちも、
 一人前の判断力の役に立たぬ組織のなかに繰りこまれて、こどもに
 還されていたのかもしれぬ。
 あの、無意味に蛙や魚や蛇をなぶり殺しにして楽しむこどもの残酷さに。

 青年の堕落を鞭うつ声が上がりはじめたら、若者よ、大人たちは戦争の準備を
 はじめているのだ、と思って間違いはない」

解説より
「歴史認識という、おそらく人智のみがなしうるすぐれて高度な思考作業は、げんざい、
 国家間の利害を反映する政治的な行為にすりかえられ、政治利用されることが
 しばしばであり、南京大虐殺にかんしてもまたその例外ではない。
 過去をどうふりかえるのかは、ほんらい政治に統制、左右されるものではない
 にもかかわらず、である。
 それは人間個体それぞれの記憶、回想、想起、記憶、解析、伝承といった潜在力と営為に
 ゆだねられるべきものなのに、げんざいは人間個体をおしのけた国家による国家のための、
 「過去の確定」作業がかつてなくさかんである。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)は2015年10月、中国が申請していた旧日本軍に
 よる南京大虐殺にかんする資料を世界記憶遺産に登録したと発表した。
 中国が「旧日本軍の犯罪」の記録とする歴史資料がユネスコによって「世界的に重要」と
 認定されたことになり、中国指導部は今後、歴史認識をめぐる対日攻勢を
 いっそうつよめそうだという。

 これにたいし日本側は「一方的な主張にもとづき申請されたもので、中立公平であるべき
 国際機関の行動として問題であり、きわめて遺憾だ」「(資料の)真正性に問題がある
 ことはあきらかだ」とする外務省報道官談話を発表した。
 中国側は南京大虐殺の世界記憶遺産入りを対日政治攻勢のテコとし、他方、
 ニッポン側は史実を過小評価して、できごとの真相解明に意欲をしめすのではなく、
 もっぱら中国側の政治姿勢への反発に終始しているようにみえる。
 人智のみがなしうるすぐれて高度な思考作業=歴史認識は、
 いまや政治によってもみくちゃにされている。
 わたしの言う「記憶の危機」とはこのことである」

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 選挙行こうよ!! (106) | トップ | 選挙行こうよ!! (107) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

⑤エッセーと物語」カテゴリの最新記事