碓井広義ブログ

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『らんまん』や『ブギウギ』とはひと味違う、『虎に翼』から「目が離せない」理由とは?

2024年05月20日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『らんまん』や『ブギウギ』とはひと味違う、

『虎に翼』から「目が離せない」理由とは?

 

NHK連続テレビ小説(朝ドラ)の主人公には二つのタイプがあります。

一つは架空の人物。もう一つが実在の人物をモデルにしたものです。

最近は後者が続いていますね。『らんまん』は植物学者の牧野富太郎。『ブギウギ』は歌手の笠置シヅ子でした。

放送中の『虎に翼』は、三淵嘉子(みぶち よしこ)がモデルです。

大正3年生まれの嘉子は、昭和13年に現在の「司法試験」に合格。

日本初の女性弁護士・判事であり、司法界の「ガラスの天井」を次々と打ち破ってきた女性です。その軌跡は戦前・戦後を貫く、試練の「女性史」でもあります。

実は放送開始前、朝ドラのヒロインとしては「堅苦しくないか」と懸念していたのですが、それは杞憂でした。

第一の功績は、主人公・猪爪寅子(いのつめ ともこ)を演じる伊藤沙莉さんです。

世間の常識が、まだ「女性の幸せは結婚にあり」だった時代。自己主張する女性が疎(うと)まれていた時代。寅子は自然体で自分の道を切り拓いていきます。

納得がいかない事態や言動に接したときに、寅子が発する「はて?」という疑問の声は、彼女の生き方の象徴でしょう。

芯は強いのですが、どこか大らかな寅子のキャラクターを、伊藤さんが全身で表現しています。

「社会性」と「共感性」の朝ドラ

次に、この作品がヒロインだけを追う朝ドラではなく、同時代を生きる人たちも丁寧に描く「群像劇」になっていることです。

これまで、寅子と共に学ぶ女性たちの人物像をきちんと造形してきました。

華族の令嬢である桜川涼子(桜井ユキ)。弁護士の夫がいる大庭梅子(平岩紙)。

朝鮮半島からの留学生、崔香淑(ハ・ヨンス)。そして、いつも何かに怒っている勤労学生の山田よね(土居志央梨)。

単なる「周囲の人」ではない彼女たちの存在が、物語に広がりと奥行きを与えています。

しかし、最終的に弁護士の資格を得たのは寅子だけでした。

大学が主催した祝賀会。新聞記者たちの前で、寅子は抑えてきた思いを口にします。

「高等試験に合格しただけで、女性の中で一番だなんて口が裂けても言えません」

続けて・・・

「志(こころざし)半ばで諦めた友。そもそも学ぶことができなかった、その選択肢があることすら知らなかった、ご婦人方がいることを私は知っているからです」

さらに・・・

「生い立ちや信念や格好で切り捨てられたりしない、男か女かでふるいにかけられない社会になることを、私は心から願います……いや、みんなでしませんか? しましょうよ!」

寅子は、そう呼びかけました。

ユニークな主人公“個人”が際立っていた『らんまん』や『ブギウギ』とはひと味違う、見る側を引き込むような「社会性」と「共感性」がこのドラマにはあるのです。

物語は中盤に差し掛かってきました。「女性の弁護士」というものが奇異な目で見られていた時代に、一人の「弁護士」として歩み始めた寅子から、やはり目が離せません。

 


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