鎌倉には、魯山人が窯をきずいていたこともあって、その名をよく耳にする。
北鎌倉に長く住む知人から、面白い話をきいたことがあった。
彼女の祖母の若い頃、年代は定かでないが、魯山人の名声が巷でささやかれ始め
たころの話だ。
あるとき、出入りのお米やさんが、彼女の家の米びつのなかの茶碗を目に留め
おそるおそる訊ねたのだという。
「それ、どうしたんですか?えらいもんですよ」
何十年も米びつのなかで、軽量カップ代わりにしていた茶碗。何のことかわからない
まま、差し出したそうだ。
「間違いない、魯山人先生のものだ!」とお米屋さんが言ったそうな。
先代が焼き物好きで、昔近くに住む陶芸家からもらったものだという。
祖母は、お米屋さんに勧められ、町の骨董店に持っていったそうな。
「帰って来た祖母の出で立ちが、笑えるの。確か着ていった黒の羽織にしっかり茶碗を
くるみ、もう誰にも渡たさないぞー、とそれはそれはおかしかった」と。
「他にもあったの、魯山人?」
「ぜんぜん、それだけ。」
茶碗は、後にどうしてもという方にこわれ手放したと聞いた。
魯山人は気難しい人だったとか、いろいろな本に書いてあるが、その話を聞いて
急に親しみを憶えました。