遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『原発と隠謀 自分の頭で考えることこそ最高の危機管理』 池田整治  講談社

2015-03-12 12:21:18 | レビュー
 タイトルにある隠謀というキーワードと副題にまず関心を引かれ、次に著者の肩書きに興味を抱いた。著者は陸上自衛隊陸将補の地位にあって定年前に退官したという。本書での記述と奥書を重ねると、1970年に15歳で自衛官になり、防衛大学校国際関係論を卒業した自衛隊人生を過ごしてきた人。「わたしがオール自衛隊で10名の陸幕運用班1班勤務、すなわち、作戦幕僚だった」(p19)また「陸上自衛隊時代に原発の危機対応について調査・研究していたわたし」(p48)だという。「阪神・淡路大震災と有珠山噴火災害の発生時に、自衛隊の運用責任者として現地で活動」(p83)し、後者においては、「有珠山の麓の伊達市役所内に初めてこの(=災害対策基本法改正による規定の:付記)『非常災害現地対策本部(有珠山噴火非常災害現地対策本部)』を立ち上げて大成功を収めた」経験の持ち主。さらに奥書には、「オウム真理教が山梨県上九一色村につくったサティアンへの強制捜査に自衛官として唯一同行支援した体験」もあるという。

 自衛隊一筋の人生経験者が、サブタイトルにあるとおり、自分の頭で考えることを最高の危機管理と提唱し、その視点から本書を書いている。フクシマで起こった原発問題をベースとしながらも、いくつかの事象についても水平展開し、最後はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)にも言及していて、興味深い。
 数多くの原発関連本が出版されている中で、事実を深く知るためにかなりの本を読み続けてきたが、本書が原発爆発事故の起こった半年後つまり、2011年9月15日に出版されていたのは知らなかった。出版時期を前後しながら読み進めてきたので、著者が述べている内容については、他書で知り機知の内容もあったが、こういう経歴の著者がズバリと発言している点で、非常に関心を持ちつつ読了した。間接的に人物を表現されている箇所について、その対象者の同定をするまでには至らないので著者の記述を信頼するしかない部分もある。
 著者の主張を一言で言うと、フクシマをはじめ原発問題では、国民に対してマインドコントロールがなされてきたのに、それに気づいていない、ということだ。本書で著者はこの点を様々な観点からズバリ発言している。切れ味が良い。知らなかったエピソード・愚行もいくつかあった。
 巻末で著者は「ぜひ自分で信頼すべき情報を入手し、自分の頭で考えましょう。」と、強く提唱している。マインドコントロールされないための危機管理対策は自分の頭で考えることだという。大いに胆に銘じることとあらためて思う次第。

 まず、本書の構成にふれておこう。
序 章 日本を動かすマインドコントロール
第1章 「史上最悪の原発事故」はどうして起きたか?
第2章 いま、わたしたちにできること、すべきこと
第3章 日本列島はどこもかしこも危険地帯
第4章 原発はすべて止められるこれだけの理由
第5章 放射能汚染疑惑の水と食料の問題をどう解決するか
第6章 日本を騙し続けるアメリカ、騙されたふりをし続ける日本

 序章と第1章から著者がズバリと述べていることのいくつかを引用させていただく。
*御上が公式に発表するまでは絶対に書かない(書けない)というのが、記者クラブ体質にどっぷり浸かったメディアの正体です。大本営発表を信じていちばん被害を受けるのは被災地の人々です。 p22
 1号機の燃料棒が崩壊していることは、3月下旬には判明していました。にもかかわらずメディアが報道しなかったのは、大本営発表=東京電力の公式発表を待っていたからにほかなりません。 p23
*大手メディアは膨大な広告宣伝費を握っている電気事業連合会(東京電力など電力会社の集まり)には頭が上がらないからです。この団体は、年間1000億円以上の宣伝費を湯水のように使う日本最大の広告主です。彼らに都合の悪いことを書いたり、放送したりしたら、広告費をもらえなくなってしまいます。まして、記者や幹部が日常茶飯に饗応や接待を受けていれば、つい批判も甘くなるのもわかります。 p24
*日本政府にも電力会社にも、デモ程度のトラブル対処法は用意されていても、外敵による攻撃やテロに対しては無防備であったばかりか、そもそも、はなから想像もしていなかったことです。  p26
*東京電力首脳の頭の中にあったのは、とにかく廃炉にしたくないということでした。フクシマをこのまま使えるようにしたかった。これのみです。廃炉にしたら大損です。なにより自分たちの責任問題になってしまいますから、マニュアル通りに淡淡と対処できなかったのです。  p48
*そもそも、フクシマの現場では地震で計器が壊れていたのです。「計器破壊=電源喪失=冷却資すテク機能不全=メルトダウン」と考えるのが常識です。 p50
*GEという会社は、アメリカ国内でも評判が悪く、・・・・合法的脱税技術を駆使して、国家にも事業所のある地域社会にもなにひとつ貢献していない会社なのです。・・・日本にしても、GEとアメリカ政府相手に喧嘩できる政治家などいません。  p58
*原子炉内の核計算に使っているソフトウエアは原子力専用のものですが、日本のメーカーのソフトはひとつもありません。ソフトをつくるには膨大なデータを蓄積しなければなりませんが、日本のメーカーにはそのための十分なデータがないのです。また、アメリカは国家機密として日本に公開してくれません。・・・フクシマをコントロールする最重要部分がいまもなおブラックボックスのままなのです。  p60
  → これは現存する他の原子炉にも当てはまることと言えるのだろう。
*危機管理において、普通Aという原発で事故があったなら、ほかのBやCの原発でも同じようなトラブルが発生しないかどうかチェックするはずです。また、原子力安全・保安院がすべての原発に指導するはずです。ところが、こういう「水平の情報伝達」がありません。・・・そんなことをしたら、「この原発は危ないから避難訓練をしているんだ」と周囲に誤解されると真剣に思っているのです.  p62
*マグニチュード9.0の地震が起こったのは東北電力の女川原子力発電所(宮城県)のそばであって、フクシマではありません。津波の規模もそうです。
  → この文のある節の見出し:初めからウソだった「想定外」  p63
*安全、安心をうたいながら、すべては未来の人類の叡智に依存し、「あとは野となれ、山となれ」とばかりに見切り発車したのが原子力発電の正体だ・・・。 p72
*瓦礫をあちこちに移送すれば、それだけ放射性物質が拡散してしまいます。もはやチェルノブイリ同様、立ち入り禁止にして「第二の処分場」にするしかないのではないでしょか。 p73

 当時の状況の背景に関わるエピソード、愚行についてもいくつか触れておこう。

*内閣府の原子力安全委員会の斑目春樹委員長(東京大学教授)は、当初から1号機、2号機、3号機すべてがメルトダウンしている可能性を認識していたそうです。 p20
*この細野補佐官は・・・・4月27日に、外国特派員協会で講演した際、なぜ最初からフクシマの放射線測定値を公表しなかったのか問われました。これに対し、「検知車を派遣したが、途中のガソリンスタンドが閉じていて(ガス欠により)行けなかった」と堂々と答えたのです。  p43
*5月12日の東京電力の発表まで、一国の首相が「メルトダウンすら知らなかった」という事実は、信じられないことです。  p44
*「低濃度」という言葉自体が東京電力の造語で、その濃度は通常の環境基準の100倍以上。すなわち、普通に考えれば高濃度だと上杉(隆:フリージャーナリスト)さんは指摘しています。この点を東京電力に問うと、「それは相対的なもので、高濃度と比べて低濃度であるということです」と木で鼻をくくったような回答が返ってきたそうです。 p75

 こんな調子で、爆発事故後、半年時点という時点でのズバリとした発言が連ねられていく。著者は前面に見える行動や事象の背景に、何か意図・隠謀が隠されていないかを考える必要があることを、様々な事例を取り上げて分析する。表面的な説明や事象の動きでマインドコントロールされていることがないか、警告発言を繰り返す。信頼すべき情報を自分で入手し、自分の頭で考えるための事例を提示しているともいえる。
 「信頼すべき情報」がどこにあり、どこから入手できるか・・・それが問題となるのだが。そのノウハウについては言及されていない。たぶん、その多くは適切・的確な公開情報の見分け方、信頼性評価ということに繋がっていくことなのだろう。情報源、情報内容のクロスチェックも含めて。
 
 本書もそういう意味で、情報のクロスチェックのための1冊になる。第2章以下にも興味深いことがいくつも出てくる。著者は、「原子力発電所はやっぱりいらない」と断言し、数々の例証を上げていく。新たに知った事実もいくつかあった。参考になる。
 著者の視点からみた、アメリカの本質についての発言も、学べることがあり興味深い見解である。後は、本書を開いてみてほしい。

 ご一読ありがとうございます。

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原子力規制委員会 :ウィキペディア

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今までに以下の原発事故関連書籍の読後印象を掲載しています。
読んでいただけると、うれしいです。

『ビデオは語る 福島原発 緊迫の3日間』 東京新聞原発取材班編  東京新聞
『原発利権を追う』 朝日新聞特別報道部  朝日新聞出版
原発事故及び被曝に関連した著作の読書印象記掲載一覧 (更新3版 : 48冊)



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