この小説の冒頭は、与那国島のホテル業を営む実家の近くで、ダイビング・ショップを開いた男が、ダイビングのガイドとして周辺すべての海を知る目的で、島の東南端、新川鼻(あらかわばな)の沖合でアンカーを打ち、潜っていくシーンから始まる。彼はそこで、奇妙な違和感を感じさせる巨大な人工物が海底に沈んでいることを発見する。
だが、このストーリーの起点は東京である。刑事を辞めて個人営業の探偵事務所を開いている石神(いしがみ)達彦のところに、一人の少年がおどおどしながら現れ、仕事を依頼する。少年は園田圭介と名乗る高校生。友達の父親が自殺した。自殺じゃないかもしれないのでそれを調べてほしいという。「調べてどうするんだ?」という石神の質問に、「その人の、なんというか・・・・、無念を晴らしてあげたいんです」と少年は答える。
4ヶ月程前に新聞報道されていて、警察は自殺と判断して処理していた。
園田少年の話では、同級生の友達(自殺と判断された者の娘)が警察は本気で調べてくれなかったと言っているからだという。園田は石神が以前にピラミッドやUFOなどに関係があった殺人事件を解決した探偵であることをインターネットで見て、この件を調べてくれると思って依頼に来のだという。
石神は最初その依頼を断ろうとするが、石神の助手・明智大五郎が依頼を引きうける方に強引に誘導する。石神は結局引きうけてしまう。
自殺したとみなされているのは仲里博士。彼の調査結果が第2の捏造疑惑と取り沙汰される渦中で仲里博士が死亡する。仲里博士は沖縄あたりの海底遺跡や石板を調査していた。彼は、その海底遺跡が1万年以上前の文明のものであり、超古代遺跡なのだと主張しているという。仲里博士の遺体が発見されたのはその捏造疑惑の舞台となっている沖縄本島の北のほうにある宜名真海底鍾乳洞の近くだった。捏造疑惑が報じられている中でもその海底鍾乳洞の調査を続けていたのである。
仲里博士は、伝説といわれるムー大陸の遺跡が沖縄にあると考えていたと少年は語る。園田少年は、研究が妨害された結果なのかもしれないと考えていて、「仲里博士の無念を晴らしたい」と言う。
石神は当然の手順を踏む。まず背景情報の収集、園田の言う友達の周辺関係者から情報を収集、さらには、沖縄で調査をするにあたり、警視庁のかつての上司の伝手で沖縄県警の知り合いを紹介してもらうということなど。
事前調査の過程で、石神は仲里博士の娘・麻由美にも面談する。麻由美は東京の叔母の家に引きとられていた。
沖縄での現地調査には、石神の助手・明智とともに、仲里麻由美も同行するという。
この作品を興味深く読み進めることができる点を列挙してみる。
1.石神が助手・明智の意見を受け入れ、ダイビングのライセンスをとる。そして、沖縄での調査の一環として海に潜るのだが、ライセンスを取る体験や初めて海に潜る体験が臨場感のある筆致で描き出されていくこと。
2.地質学者である仲里博士が主張した説という形で、沖縄諸島の地形形成史が語られ、ムー大陸の伝説が結び付けられ、魏志倭人伝の解釈が織り込まれる。日本文化論にまで及ぶ壮大な古代歴史の時間軸での話が展開されること。私はこの仲里説として語られる仮説はロマンがあっておもしろいと感じた。
3.那覇空港に降り立った石神たちはその足で、琉央大学理学部を訪れる。仲里博士の助手をしていた知念朝章(ちねんともあき)から当時の事情を聞くためである。ここから、今までに見えなかった学者・研究者の人間関係や大学内の組織運営・政治的人間関係が絡んできて、東京では得られない新たな要素が加わるという展開が興味深い。仲里博士の学者としての人間的な側面が見え始める。地質学者の仲里教授に対し、その説を否定する考古学者の佐久川教授が登場して来る。学内での政治手腕を持つ人物でもある。
4.警視庁の伝手を得て、石神は沖縄県警刑事部の島袋基善捜査一課長に挨拶に行く。島袋が仲里博士の死を自殺と最終判断したのである。この挨拶に行ったことで、島袋は志喜屋巡査部長を案内役につけるという。つまり、車も手配してくれた訳だが、それは体の良い監視役を石神につけることになる。石神の調査行動に対して、志喜屋がどういう役割を果たしていくことになるのか。読者に興味を覚えさせる。最終ステージに入り、志喜屋巡査部長が意外な問題意識を持っていたということがわかりおもしろい展開となる。
5.沖縄と言えば、米軍基地問題を避けて通れない。軍用地地主の存在という視点から基地問題を絡めていくというのも、この小説に社会的色彩を加えている。どのようにかかわるのか・・・・と興味をそそらせる展開である。捏造疑惑問題と絡めて保守系御用紙を登場させてくる点は定石かもしれない。だが、そこを一捻りしていく展開に著者の巧みさがうかがえる。
6.石神の助手・明智がけっこうおもしろい役割を果たしていく。明智がどこまで石神のサポートとして手腕を見せるかも、興味を引くところである。
7.最後に、仲里麻由美という少女の心理が変化していくプロセスがストーリー展開とパラレルに進展し描き込まれていく。石神は常に仲里麻由美がどう思い、どう感じているかが気がかりだという立場に立たされる。仲里麻由美は沖縄の民俗的な分野で知られているユタの血を引いているという。それがこのストーリーに神秘性を織り交ぜる局面となりおもしろい。
この小説は、沖縄に実在する古代関連遺跡、沖縄の歴史と社会の現状、捏造疑惑問題に端を発した学者の死、研究者の立場の相剋、海底遺跡の神秘性などを巧みに絡めていく。沖縄を知るための情報とダイビングというものを書き込んでいる点でも読ませどころのある作品に仕上がっている。
調査が終了した時点で、石神達は与那国島の海底遺跡ポイントでダイビングをすることがこの小説のエンディングである。海底遺跡に辿りついた石神は、その光景を人工の構造物と判断し、「太古にそこで何かを築き上げようとした人々の意志」を確信する。「海に消えた神々」というタイトルはここに由来するのだろう。
この作品、沖縄のダイビング・スポット案内にもなっていておもしろい。
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本書に関連する事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
伝説の超古代文明「ムー」 :「超常現象の謎解き」
【伝説は存在した!?伝説の3大陸】アトランティス大陸・ムー大陸・レムリア大陸:「NAVERまとめ」
ムー大陸はあった? いいえ。ありませんでした :「四万十帯に便利」
神秘の海底鍾乳洞!宜名真海底鍾乳洞にDIVE! :「4travel.jp」
辺戸岬海底洞窟 :YouTube
国頭村宜名真の海底洞窟に石器 1996.12.7 :「琉球新報」
与那国島海底地形 :ウィキペディア
海底遺跡写真集 新嵩喜八郎氏
歴史を覆すかも?与那国島付近の謎遺跡 :「NAVERまとめ」
海底遺跡 :「MARLIN」
線刻石板 2003.3.1 :「琉球新報」
線刻石板 主任:羽方 誠氏 :「沖縄県立博物館」
沖縄で発見された11枚の「線刻石板」++ 2015.3.4 :「KiL'ament」
古代史21世紀の研究課題:ムー大陸(海底遺跡等) :「古代史の画像・日本人のルーツ」
写真をクリックすると鮮明な拡大写真が見られます。
【画像付き】オーパーツの一覧 完全版 :「NAVERまとめ」
ユタ :ウィキペディア
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このブログを書き始めた以降に、徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『潮流 東京湾臨海署安積班』 角川春樹事務所
『豹変』 角川書店
『憑物 [祓師・鬼龍光一]』 中公文庫
『陰陽 [祓師・鬼龍光一]』 中公文庫
『鬼龍』 中公文庫
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新5版 (62冊)
だが、このストーリーの起点は東京である。刑事を辞めて個人営業の探偵事務所を開いている石神(いしがみ)達彦のところに、一人の少年がおどおどしながら現れ、仕事を依頼する。少年は園田圭介と名乗る高校生。友達の父親が自殺した。自殺じゃないかもしれないのでそれを調べてほしいという。「調べてどうするんだ?」という石神の質問に、「その人の、なんというか・・・・、無念を晴らしてあげたいんです」と少年は答える。
4ヶ月程前に新聞報道されていて、警察は自殺と判断して処理していた。
園田少年の話では、同級生の友達(自殺と判断された者の娘)が警察は本気で調べてくれなかったと言っているからだという。園田は石神が以前にピラミッドやUFOなどに関係があった殺人事件を解決した探偵であることをインターネットで見て、この件を調べてくれると思って依頼に来のだという。
石神は最初その依頼を断ろうとするが、石神の助手・明智大五郎が依頼を引きうける方に強引に誘導する。石神は結局引きうけてしまう。
自殺したとみなされているのは仲里博士。彼の調査結果が第2の捏造疑惑と取り沙汰される渦中で仲里博士が死亡する。仲里博士は沖縄あたりの海底遺跡や石板を調査していた。彼は、その海底遺跡が1万年以上前の文明のものであり、超古代遺跡なのだと主張しているという。仲里博士の遺体が発見されたのはその捏造疑惑の舞台となっている沖縄本島の北のほうにある宜名真海底鍾乳洞の近くだった。捏造疑惑が報じられている中でもその海底鍾乳洞の調査を続けていたのである。
仲里博士は、伝説といわれるムー大陸の遺跡が沖縄にあると考えていたと少年は語る。園田少年は、研究が妨害された結果なのかもしれないと考えていて、「仲里博士の無念を晴らしたい」と言う。
石神は当然の手順を踏む。まず背景情報の収集、園田の言う友達の周辺関係者から情報を収集、さらには、沖縄で調査をするにあたり、警視庁のかつての上司の伝手で沖縄県警の知り合いを紹介してもらうということなど。
事前調査の過程で、石神は仲里博士の娘・麻由美にも面談する。麻由美は東京の叔母の家に引きとられていた。
沖縄での現地調査には、石神の助手・明智とともに、仲里麻由美も同行するという。
この作品を興味深く読み進めることができる点を列挙してみる。
1.石神が助手・明智の意見を受け入れ、ダイビングのライセンスをとる。そして、沖縄での調査の一環として海に潜るのだが、ライセンスを取る体験や初めて海に潜る体験が臨場感のある筆致で描き出されていくこと。
2.地質学者である仲里博士が主張した説という形で、沖縄諸島の地形形成史が語られ、ムー大陸の伝説が結び付けられ、魏志倭人伝の解釈が織り込まれる。日本文化論にまで及ぶ壮大な古代歴史の時間軸での話が展開されること。私はこの仲里説として語られる仮説はロマンがあっておもしろいと感じた。
3.那覇空港に降り立った石神たちはその足で、琉央大学理学部を訪れる。仲里博士の助手をしていた知念朝章(ちねんともあき)から当時の事情を聞くためである。ここから、今までに見えなかった学者・研究者の人間関係や大学内の組織運営・政治的人間関係が絡んできて、東京では得られない新たな要素が加わるという展開が興味深い。仲里博士の学者としての人間的な側面が見え始める。地質学者の仲里教授に対し、その説を否定する考古学者の佐久川教授が登場して来る。学内での政治手腕を持つ人物でもある。
4.警視庁の伝手を得て、石神は沖縄県警刑事部の島袋基善捜査一課長に挨拶に行く。島袋が仲里博士の死を自殺と最終判断したのである。この挨拶に行ったことで、島袋は志喜屋巡査部長を案内役につけるという。つまり、車も手配してくれた訳だが、それは体の良い監視役を石神につけることになる。石神の調査行動に対して、志喜屋がどういう役割を果たしていくことになるのか。読者に興味を覚えさせる。最終ステージに入り、志喜屋巡査部長が意外な問題意識を持っていたということがわかりおもしろい展開となる。
5.沖縄と言えば、米軍基地問題を避けて通れない。軍用地地主の存在という視点から基地問題を絡めていくというのも、この小説に社会的色彩を加えている。どのようにかかわるのか・・・・と興味をそそらせる展開である。捏造疑惑問題と絡めて保守系御用紙を登場させてくる点は定石かもしれない。だが、そこを一捻りしていく展開に著者の巧みさがうかがえる。
6.石神の助手・明智がけっこうおもしろい役割を果たしていく。明智がどこまで石神のサポートとして手腕を見せるかも、興味を引くところである。
7.最後に、仲里麻由美という少女の心理が変化していくプロセスがストーリー展開とパラレルに進展し描き込まれていく。石神は常に仲里麻由美がどう思い、どう感じているかが気がかりだという立場に立たされる。仲里麻由美は沖縄の民俗的な分野で知られているユタの血を引いているという。それがこのストーリーに神秘性を織り交ぜる局面となりおもしろい。
この小説は、沖縄に実在する古代関連遺跡、沖縄の歴史と社会の現状、捏造疑惑問題に端を発した学者の死、研究者の立場の相剋、海底遺跡の神秘性などを巧みに絡めていく。沖縄を知るための情報とダイビングというものを書き込んでいる点でも読ませどころのある作品に仕上がっている。
調査が終了した時点で、石神達は与那国島の海底遺跡ポイントでダイビングをすることがこの小説のエンディングである。海底遺跡に辿りついた石神は、その光景を人工の構造物と判断し、「太古にそこで何かを築き上げようとした人々の意志」を確信する。「海に消えた神々」というタイトルはここに由来するのだろう。
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伝説の超古代文明「ムー」 :「超常現象の謎解き」
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ムー大陸はあった? いいえ。ありませんでした :「四万十帯に便利」
神秘の海底鍾乳洞!宜名真海底鍾乳洞にDIVE! :「4travel.jp」
辺戸岬海底洞窟 :YouTube
国頭村宜名真の海底洞窟に石器 1996.12.7 :「琉球新報」
与那国島海底地形 :ウィキペディア
海底遺跡写真集 新嵩喜八郎氏
歴史を覆すかも?与那国島付近の謎遺跡 :「NAVERまとめ」
海底遺跡 :「MARLIN」
線刻石板 2003.3.1 :「琉球新報」
線刻石板 主任:羽方 誠氏 :「沖縄県立博物館」
沖縄で発見された11枚の「線刻石板」++ 2015.3.4 :「KiL'ament」
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【画像付き】オーパーツの一覧 完全版 :「NAVERまとめ」
ユタ :ウィキペディア
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このブログを書き始めた以降に、徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『潮流 東京湾臨海署安積班』 角川春樹事務所
『豹変』 角川書店
『憑物 [祓師・鬼龍光一]』 中公文庫
『陰陽 [祓師・鬼龍光一]』 中公文庫
『鬼龍』 中公文庫
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新5版 (62冊)
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