「ユーモアミステリ傑作選」と「スペイン幻想小説傑作集」

文庫本の短編集やアンソロジーの収録作品は、ネットで調べてもわからないことが多い。
なので、なにか世の中の役に立つかもしれないと思って、読んだらなるべく書くようにしている。
というわけで、今回はアンソロジーを2冊。

「ユーモアミステリ傑作選」(風見潤/編 講談社文庫 1980)
ユーモラスなカバー装画は、ナメ川コーイチ。
収録作は以下。

「殺人の条件」 ドナルド・E・ウェストレイク 風見潤訳
「クリスティーを読んだ少年」 ウィリアム・ブルテン 風見潤訳
「ソング・ライターの死」 フランク・グルーバー 各務三郎訳
「サム、シーザーを埋葬す」 ジョシュ・パークター 風見潤訳
「見えざる手によって」 ジョン・スラデック 風見潤訳
「エリート・タイプの怪事件」 ロバート・L・フィッシュ 深町眞理子訳
「イギリス寒村の謎」 アーサー・ポージス 風見潤訳
「ホン・コンおばさん、正義を行使す」 ジョイス・ポーター 風見潤訳
「ストリップ戦術」 リチャード・S・プラザー 山下諭一訳

面白かったのは、まず、妻殺しの殺人をくわだて実行したところ、思いもかけなかった困難にみまわれる男をえがいた「殺人の条件」
それから、あこがれの探偵に転進した哲学教授、サッカレイ・フィンが、密室殺人にでくわす「見えざる手によって」

「フィンは家に帰って密室のでてくる推理小説を読もうと、足をはやめた。フェル博士にこの悪魔のように手ごわい事件を解くことができなくっても、きっとブラウン神父が悪魔祓いをやってくれるだろう」

なんて語り口が楽しい。

ジョイス・ポーターが書く猛烈なシリーズ・キャラクターのひとり、ホン・コンおばさんの活躍をコミカルにえがいた、「ホン・コンおばさん、正義を行使す」も面白い。
ホン・コンおばさんが暴走をかさねたあげく、最後はうまくいくという、なんだか「くまのパディントン」(マイケル・ボンド 福音館書店)のおばさん版みたいな話だ。

再読したのもいくつか。
「クリスティーを読んだ少年」は、「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」に収録されている。

「エリート・タイプの怪事件」は、ホームズのパロディであるシュロック・ホームズものの一篇。
登場人物は最初から最後まで勘違いしっぱなしで、読者だけが真相を知るという書きかたが、すごぶる巧妙。

解説は編者である風見潤さん。
風見さんによれば、アントニー・バウチャーは、アラン・グリーンの「くたばれ健康法!」の面白さをこんな風に評したそう。

「はじめから、終わりまでばかさわぎに終始するようなユーモア小説でありながら、しかもそのばかさわぎのうちにちゃんとした伏線があり、脈絡があって、トリック推理小説としても十分の面白さをもつ作品を、たった二つだけ知っている。一つはカーの「盲目の理髪師」、もう一つはアラン・グリーンの「くたばれ健康法!」である」

でも、ユーモアミステリはほかにもあるよと、風見さんはいくつかの作品をならべている。
興味深いのでメモしておこう。

「のっぽのドロレス」「でぶのベティ」 マイクル・アヴァロン
「死体置場は花ざかり」など カーター・ブラウン
「ペテン師まかりとおる」 ヘンリ・セシル
「お楽しみの埋葬」「消えた玩具屋」 エドモンド・クリスピン
「死体をどうぞ」イモジェーヌ・シリーズ シャルル・エクスプライヤ
「死が議席にやつてきた」 フランシス・ホブスン
「怪盗ニック登場」怪盗ニック・シリーズ エドワード・D・ホック
「スカイジャック」「殺人はリビエラで」 トニー・ケンリック
「黒い霊気」 ジョン・スラデック
「料理長が多すぎる」 レックス・スタウト
そのほか、ジョイス・ポーターや、クレイグ・ライスの諸作品など。

(ちなみに、アントニー・バウチャーの文章は、アラン・グリーンの「道化者の死」にもつかわれている)


もう一冊。
「スペイン幻想小説傑作集」(東谷穎人(ひがしたに・ひでひと)/編 白水社 1992)
収録作は以下。

「義足」 ホセ・デ・エスプロンセダ 東谷穎人訳
「僧房からの手紙」 グスタボ・アドルフォ・ベッケル 坂田幸子訳
「サンチョ・ヒル」 ガスパール・ヌニェス・デ・アルセ 東谷穎人訳
「背の高い女」 ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン 堀内研二訳
「ぼくの葬儀」 クラリン 東谷穎人訳
「人形」 ファン・バレラ 東谷穎人訳
「お守り」 エミリア・パルド・バサン 坂田幸子訳
「魂の息子」 エミリア・パルド・バサン 坂田幸子訳
「ベアトリス」 ラモン・デル・バリュ=インクラン 堀内研二訳
「神秘について」 ラモン・デル・バリュ=インクラン 堀内研二訳
「ガラスの眼」 アルフォンソ・ロドリゲス・カステラオ 東谷穎人訳
「暗闇」 ベンセスラオ・フェルナンデス・フローレス 東谷穎人訳
「ポルトガルの雄鶏」 アルバロ・クンケイロ 東谷穎人訳
「島」 アナ・マリア・マトゥテ 原陽子訳

解説によれば、収録作は19世紀から20世紀にかけての作品にしぼったとのこと。
それを年代順に並べている。

この本を読了したのは、半年ほどまえ。
面白く読んだ記憶はあるのだけれど、いまおぼえている作品は、冒頭の「義足」だけだ。
足を切断するはめになった豪商が、義足づくりの名人に義足を注文。
出来上がった義足をつけてみると、義足がかってに走りだし、とまらなくなって…という話。

各作品の巻末には、作者の紹介がついている。
それによれば、ホセ・デ・エスプロンセダはスペイン・ロマン派を代表する詩人だという。

こういう、コントみたいな話しかおぼえていないというのは、けっきょく単純な話が記憶に残るということだろうか。
いや、たんに記憶力が悪いだけか。


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