感染症診療の原則

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備忘録 2009年インフルエンザ騒動から学んだこと(H7N9・・でやらないように)

2013-04-14 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
公衆衛生ドクターのブログ ooyake 「上海帰りの肺炎」

冷静が何より。

ネットをみていると、ひとーり、ふたーりとかつての騒動時のように「把握されたヒト」を数えて。。なひともいます。
北京に飛び火!という表現も意味不明です・・。
調べれば患者は把握されると思いますし、先にやるべきは生きた鳥の調査や市場に対する介入ではないでしょうか。
4/14 香港の食品・健康部門の見解
SFH on human cases of Influenza A (H7N9) - http://www.info.gov.hk/gia/general/201304/14/P201304140380.htm
すでに鳥ではかなり広く侵淫しているのだろう、という見方

積極的疫学調査や臨床での検査導入などが以前よりも迅速対応になっているのかなという読みをできます。
このことは後述します。

ちなみに、H5N1でのヒトヒト感染は複数事例把握されています。直接の血縁関係(親子とか)など、状況からみるとリスクはとても限定されている、というのが目下の知見です。
もっとも、同じように病気の鳥のそばにいたのだという場合は、ヒトからなのか鳥からなのかはわかりにくいわけですが。
遺伝子検査の技術の進歩で、以前よりはいろいろなことが早く検討されています。


さて。

日本では過剰反応をしやすく、ヒステリーがヒートアップすると、人権侵害がおき、最悪、ウイルスではなく暴言によってヒトが死んだりします。必要なのはその時点でとりうる最善の策(その都度ちがう、状況依存)であって誹謗中傷ではありません。

失敗事例「知識データベース 鳥インフルエンザ」
2004年「鳥インフルエンザ?自殺でも逃れられぬ責任」

「新型インフルエンザに関する報道」

加害者にならないよう注意しましょう。

病気になった人たちを「悪者にする」ストーリー展開はやめましょう。感染症対策から遠のくだけです。
安心して療養できるようにすることが感染症対策の基本ですから。
個人情報が漏れるなんて言語道断。


2009年の語りから学びたいものです。

【新型インフル】感染者や家族へ中傷やめて 神戸市が呼び掛け

「中傷のメール・電話100件…授業再開の洗足学園校長明かす」

「感染者に申し訳ないと言わせる社会の異常」

「インフルエンザ騒ぎの中の日本滞在」

「豚インフルエンザ 深夜の緊急記者会見」

「舛添さんの会見を見て~残念なマスコミ記者たち」

「舛添厚労相の2年(番外編) 石岡荘十」

「集団ヒステリーとも言える新型インフルエンザ騒ぎは目立ちたがり大臣とマスコミが作り出したものだ」

「「インフルエンザ感染」は犯罪なの?最近のマスコミ報道に疑問を感じる」

「一貫性のないインフルエンザ報道」

「コンビニ受診OKですか?~27日の厚労相会見~」

「感染症の専門家4人が舛添大臣に苦言」

難しいウイルスの研究とか政策判断とかは専門家や行政の責任者の仕事ですが、いち市民としてできることもある、責任もあるということを次の世代にも語り継ぎたいと思います。

メディアは厚生労働省や大臣が真夜中に記者会見をしないからといって攻撃をしないようにお願いします。
そんな報道が流れてもいいことは何もありません。
感染しているかどうかを表現するときに「しろ」「くろ」というような言い回しはやめてください。


インフルエンザがはやってもはやらなくても、医療機関は通常業務をしています。
そこに「過剰に」負荷をかけるのもやめましょう。破綻しかねません。

病院入り口であっても患者さんたちにカメラを向けるのもやめてください。


そんなことより。

いずれ日本の鳥からH7N○が~とか(今までも把握されていますし!)、ヒトが感染していましたね、ということは把握されると思いますが、時間の余裕のある週末などに知識の整理などをすることをお勧めします。

ヒトと動物のインフルエンザについて復習します。
北海道大学の喜田先生のスライドで勉強させていただきます。

2010年 北海道獣医師会根室支部特別講演会 「鳥、ブタ、そしてパンデミックインフルエンザ」  

8枚目のスライドが重要。ヒトと動物のインフルエンザウイルスの違いとバラエティを学びます。わかりやすい絵です。

今回のように、もともと鳥のインフルエンザが、他の動物やヒトに感染拡大、、ということはありえることで、どれくらい感染しやすいか、どれくらい病原性が強いのかということが問題になります。

セミナーに参加して学ぶことは、最終的な対策は2つしかないという結論です。

1つは、現実的な対応としては、日々、咳やくしゃみをヒトに向けない「エチケット」の普及(おじさんマナー改善講座をするとか)、もうひとつは「なるべくヒトと動物の距離を保つ」ことです。

なるほど(って毎回思う)。

1は小学校くらいから教えるとして(遠い道のり)、2つ目は開発や経済発展と絡んだ問題ですので、冷静に政治的に施策として決断をしないといけない案件もあります。
好きなだけ開発をとなったら、野生動物の住処が奪われ、ヒトと動物が近いところにいれば、媒介動物を介してあるいは直接的に動物の病気がヒトに広がる可能性があるからです。

上記の「生きた鳥市場」Live Bird Marketがヒトへの拡大ポイントのひとつであることは把握されています。
(また、国や地域によっては家の裏の庭に鳥と生活している/具合が悪くなった鳥から食べる生活があります)

現在のWHO事務局長のマーガレット・チャン医師は1997年、香港の保健省トップであった当時に、市場の鳥の皆殺し作戦に出ます。補償やその他の問題は生じますし、関係者からうらまれたりもしますが、国としての感染症危機管理としての決断に多くのヒトが感心した(おそれいった)のを思い出します。

2008年には、鳥インフルエンザに対してGlobal Responseとして何をすべきか という資料もまとまっています。(写真が多くて読みやすい資料です。英語ですが)

その後も基本的には鳥で高病原性のインフルエンザが見つかれば、殺処分、商品(鳥や豚)の移動の禁止、半径○KM以内の対策の実施などが行われています。

しかしまた、生きた鳥の市場は復活します。「もうなくそう」という話にはなりません。そこは科学とか政治とはまた別の理屈があるわけです(長くなるのでこの記事では省略)。


話を元に戻します。

スライド16枚目。
ヒトとブタのウイルスの「遺伝子再集合」によって、ヒトが感染しやすくなる、を説明する図です。
なんで「ヒトに感染!」が騒ぎになるかというと、今のワクチンや治療薬で対応できないような、免疫がなくて広がりやすいようなインフルエンザが流行するととてもやっかいだからです。

公衆衛生的にはそういうことです。
(そういったことを「初の発見、報告」する研究者の方はまた別の意味でエキサイティングだと思いますが)

臨床のヒトにとっては、「インフルエンザはインフルエンザ」で、具合が悪いヒトは入院、軽症のヒトは外来。もっと軽症のヒトは病院に来ない。そういう病気です。
できれば個室に入っていただきたく(広がると病院のせい!といわれる時代)、いまどきは差額料金が数万円だったりするので、個室にいれなさいという国や自治体が患者さんやご家族に代わってぜひその費用を負担していただければと思うしだいです。そうすれば病院も安心してたくさん受け入れることができそうです。


スライド23枚目。
余談ですが、、、なんど講演会でみてもどっきりする、チアノーゼのにわとり。

スライド25枚目
Live Bird Marketの写真。
なるべくヒトと動物の距離を適切なものにする、、、という対策の原則に一番反した行為です。
「なぜ、なぜ、パッキングされたお肉じゃだめなの?」
たしかに、見学につれていかれたらN95をつけてしまうかも・・・(心理的に)。

スライド32枚目
たくさんの種類のインフルエンザウイルスが把握されています。

スライド38枚目
インフルエンザ対策を誤らせる10の迷信
これはとても大事ですね。



さらにもっと読んでみたい、という方には、
北海道大学、農水省、動物衛生研究所が公開している資料があります。

中高生にわかるように説明された北海道大学獣医学講座の資料。 「動物とヒトを感染症からまもる」

農林水産省 高病原性鳥インフルエンザについて(16ページ)

2004年 鳥インフルエンザの予防・制圧に向けた戦略を北海道から発信する

2006年 MBCフォーラム2006 古くて新しい感染症 「高病原性鳥インフルエンザとヒトへの感染」

2009年 インフルエンザウイルスの解明

2009年 北海道大学 インフルエンザウイルスの生態解明と
ライブラリーの構築-高病原性鳥インフルエンザの診断と予防への応用-



2009年をちょっと思い出せましたか?(ええ。思い出したくない方もたくさんいますよね)
2003年の騒動のプレイバック(フラッシュバックじゃなくって)はまた別記事で。


ぶつぶつ言っているうちに「過去」になっちゃいましたが、ちゃんと振り返りをした人たちもいます。

リスコミWORKSHOP! ― 新型インフルエンザ・パンデミックを振り返る
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