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第10回 若セミ 山本舜悟先生の”かぜ”の講義 Q&A

2017-02-16 | Aoki Office
2017年2月10日 第10回 若手医師セミナー(山本舜悟先生)のQ&Aです。


質問者 : 医師 小児科 50代
質問内容 : よろしくお願いします。
感染症に対する多くの迅速検査診断キッドが使用できるようになりました。
今の時期ですと、A群β溶連菌検出迅速検査とインフルエンザ抗原検出迅速検査が両方陽性に出る場合があります。確かに咽頭所見は、溶蓮菌感染症を思わせる発赤が強い症例があります。咽頭痛も伴います。もちろん、インフルエンザでも咽頭痛はありますが。こういう場合は、両疾患の治療を行うのですが(インフルエンザに対する治療と、溶蓮菌感染症に対する抗菌療法)、間違っていますでしょうか? ありえない事でしょうか?ご教示お願い申し上げます。


解答:成人の場合,溶連菌による急性咽頭炎は咽頭痛が強く,咳や鼻汁は乏しいことが多いです。これに対してインフルエンザは気道症状の中では咳や鼻汁が目立ちやすく,咽頭痛はあっても主症状にはなりにくいと思います。小児の場合は紛らわしい場合もあるかもしれませんし,どちらも流行している状況では共感染も稀にはあるかもしれません。ただし,一般論としては溶連菌とインフルエンザが同時に感染して同時に発症することは確率的には稀だと思いますので,どちらかが保菌または偽陽性のことが多いのではないかと思います(ご承知の通り,溶連菌の迅速検査は保菌でも陽性に出てしまいます)。


質問者 : 小児科医 30代
質問内容 : 溶連菌感染症後のリウマチ熱は昔と比べるとかなり減ったと聞きます。抗菌薬のいわゆる乱用が影響している可能性はあるのでしょうか。

解答:その可能性はありますが,先進国ではリウマチ熱は抗菌薬が開発される以前から減少し始めており,抗菌薬だけで説明は困難のようです。リウマチ熱を起こしやすいA群溶連菌の株の流行が減った可能性や,リウマチ熱を発症するには何度もA群溶連菌咽頭炎にかかる必要があるのが衛生環境の改善により罹りにくくなって発症が減ったなど諸説ありますが,本当のところはなぜ減ったかはわからないようです。


質問者 : 医師 小児科 50代
質問内容 : 以前確か生後2か月位の発熱で入院した乳児に理学所見や検査所見から抗菌薬を投与せずに経過観察中に亡くなった症例の裁判で、抗菌薬を使用しなかったのは医師の問題があるという判例がありました。このような判決があると、医師は自己防衛の為に抗菌薬を使用せざるを得なくなると考えますが、如何でしょうか。

解答:小児科の先生には釈迦に説法ですが,生後2ヶ月で発熱するということは,感染症だった場合,母体からの移行免疫を乗り越えて発症しているので,単なるウイルス感染症よりも細菌感染症の可能性が高くなります。ですので,生後3ヶ月未満の発熱ではフルワークアップが推奨されていますし,培養結果が出そろうまで抗菌薬を開始しておくのはそれなりに妥当性があると思います。しかし,生後2ヶ月の例を学童や成人に外挿するのはかなり無理があるように感じます。講義でお話したように,副作用のない抗菌薬はありません。リスクヘッジつもりで処方した,必要性の低い抗菌薬のために,アナフィラキシーで患者さんが亡くなるという別のリスクを負うことになります。抗菌薬で投与することによるリスクとベネフィットを天秤にかけて適応を判断するのが大切です。


質問者 : 眼科 60代
質問内容 : 乳幼児でかぜで結膜炎を起こした場合、抗菌剤の点眼剤を処方するのは間違いでしょうか?

解答:細菌性結膜炎を疑わないような結膜炎に点眼の抗菌薬を処方する妥当性は低いと思います。
 最近,“choosing wisely”という,根拠が乏しいにもかかわらず行われている過剰な医療を見直そうというキャンペーンがあり,その中にも“Antibiotics for Pink Eye”という項目があり,眼が赤いだけでは抗菌薬は必要ないことが説明されています。
Antibiotics for Pink Eye
http://www.choosingwisely.org/patient-resources/antibiotics-for-pink-eye/


質問者 : 内科医師。60代
質問内容 : 白苔を伴う咽頭扁桃炎で、咽頭での溶連菌迅速検査で陰性の場合にウイルス性と判断して良い基準はどのようなものでしょうか。

解答:Centorの基準3点以上でも,迅速検査が陰性の場合,A群溶連菌の可能性はかなり低くなりますが,陰性例がすべてウイルス性かどうかは議論のあるところです。最近では,Fusobacterium属やC群溶連菌,G群溶連菌等も咽頭炎を起こす可能性が指摘されています。個人的には,迅速検査陰性でもこれは細菌性の可能性が捨てきれないなと思った場合は,培養も提出する場合はあります(保険審査上,同日検査は難しい場合があります)。


質問者 : 内科50代
質問内容 : 抗生剤を減らすためには、体温計やSpO2測定器の配布のほうが効果的であると思いますが、いかがでしょうか。
体温日記を毎日つけている方はつけていない方と比べて抗生剤の使用が少ない印象がありますがそのようなエビデンスはありますでしょうか。

解答:私の知る限りありません。


質問者 : 内科 30代
質問内容 : 大変面白い講義ありがとうございます。
扁桃は腺構造がありませんので、『扁桃腺炎』ではなく、『扁桃炎』が正しいと考えます。

解答:ご指摘ありがとうございました。


質問者 : 30代医師
質問内容 : 溶連菌もぐったりサインがある印象なのですがインフルエンザとの先生の中での違いは感覚的にありますでしょうか?

解答:はい。溶連菌咽頭炎も全身症状が目立つ場合があります。私自身が罹患したときも腰痛から始まりました。
 前述の通り,成人の場合,溶連菌による急性咽頭炎は咽頭痛が強く,咳や鼻汁は乏しいことが多いです。これに対してインフルエンザは気道症状の中では咳や鼻汁が目立ちやすく,咽頭痛はあっても主症状にはなりにくいと思います。成人の場合は,両者の臨床像はかなり異なると思います。


質問者 : 医師 放射線科 40代
質問内容 : 口腔内のろほうの所在の確認も近年注目されていますが、先生がインフルエンザの検査を行うタイミング、発熱してからの時間等の基準はありますか。

解答:発熱してからの時間はあまり気にしません。インフルエンザの検査を行うのは,インフルエンザかどうか迷った場合です。症状や診察所見,流行状況,暴露歴から十中八九インフルエンザだと思ったら,検査なしでインフルエンザと診断することがあります。流行初期や典型的ではないと思った場合は検査を行います。


質問者 : 医師 内科 50代
質問内容 : 体温の測定は頻回にしているとは限らないので、発熱がいつからか、わからないことが多いです。診療側としては熱よりも症状、理学所見が大事なのですが、インフルエンザの季節では体温を気にされる方が多いです。測定時期や回数など患者さんにはどうお勧めするのが良いでしょうか。

解答:インフルエンザの発熱はすぐには下がらないので,熱だけならあまり気にしないようにとお伝えします。熱以外に呼吸困難が強くなったり,別の症状が出てきたら要注意なので,再診してくださいとお伝えします。


質問者 : 小児科医 30代
質問内容 : 抗菌薬処方の多さやインフルエンザ診療への過剰とも言える対応は、現状の保険診療の制度によって変わりますでしょうか?
日本の保険制度は変わるべきでしょうか?

解答:申し訳ありませんが,質問のスケールが大きすぎて回答者の能力を超えています。


質問者 : 薬剤師
質問内容 : 局在化した症状のある細菌感染疑いで治療開始された患者の血液培養の有用性について質問です。
気道、呼吸器症状のあるインフルエンザ後肺炎疑いで抗菌薬pipc/taz治療開始された患者について、グラム染色を確認し貪食のあるGPC(モラキセラっぽい)で狭域化を推奨しましたが血液培養を待ちたいとの回答がありました。
このように局在している感染用で血液培養を取るのは良いことだと思いますがそれを待つあまり抗菌薬投与日数が伸びるのはどう考えますか?

解答:モラキセラっぽいということはGNCでよかったでしょうか。GPCなのであれば,インフルエンザ後肺炎ということで,講義でお話したように,MRSAのカバーが必要だと思います。グラム染色は,質の良い検体で,熟練した検査技師さんなどきちんと解釈できる人がそうだと判定した場合の信頼性は高いと思いますが,1年目の研修医だけが見た場合はあまり信頼しない方がよいと思います。
 インフルエンザ後肺炎で,喀痰のグラム染色の所見はとりあえず無視するけれどもピペラシリン/タゾバクタムだけで治療するというのは,重要な原因菌であるMRSAを無視して,この場合あまり重要でなさそうな緑膿菌をカバーするという,チグハグな印象を受けます。
 信頼できる人がみて,質の良い検体でモラキセラっぽいということがわかり,熱源は確かに肺炎でよいとなれば,私ならモラキセラ狙いの抗菌薬を選択すると思います。ただし,喀痰でモラキセラっぽく見えた時のピットフォールとして,実はアシネトバクターだったということがあります(アシネトバクターはグラム染色で色々な形を取りうり,モラキセラ様に見えることがあります)。市中のインフルエンザ後肺炎であれば,あまり考えなくてよいですが,人工呼吸器関連肺炎など,病院内で起こった肺炎や医療暴露が濃厚な方の肺炎であれば,アシネトバクターを念頭に抗菌薬を選択する場合もあると思います。
 また,ショック状態や呼吸不全で今にも患者さんが死にそうということであれば,広めのカバーで開始して,培養結果が出そろってから狭域化する方が安全だと思います。

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