感染症診療の原則

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「梅ちゃん」の増加

2013-12-05 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
梅毒は、ある世界では「梅ちゃん」とか「梅吉」という言い方で親しまれている(?)ことは臨床で学んだことのひとつです。

机の上で医学書だけで勉強しているとそういったことはわかりません。

治療法もあるし、周囲に経験者も多数いる。別にショックを受けるほどのことでもないこの病気は、予防の動機付けも難しいのかもしれませんし、予防をしようと心に決めたとしてもその方法が困難、という問題もあります。


ですが、風疹でも痛感しましたが・・・・感染が広がるとたいへんなことになる感染症は初動が大事ですよ。
最終的に一番弱いところにつけがまわってきます。

梅毒も同じ。

「先天梅毒の一例」2012年の症例は、31週で母体の緊急搬送。31週と5日で帝王切開となりました。
いろいろ調べて胎盤からスピロヘーターを確認して、梅毒感染、赤ちゃんは先天性梅毒とわかった症例です。

IASR 2013年4月「本邦における先天梅毒発生予防に向けて―感染症発生動向調査報告症例におけるリスク因子の検討―

赤ちゃんの症例は2013年も報告されています。


女性でのピークは20代。妊娠出産世代です。


異性間性行為をする女性で流行をしているということは、異性間の男性にも拡大しているということです。

1回のコンタクトあたりの感染力もだいぶちがう。梅毒はコンドームでは面積の限界から完全には予防できないし、オーラルセックスだけでもうつる。

コンドームを使えば予防できる、オーラルではほぼうつらない(ゼロリスクではないですが)HIVより対策がやっかいです。



日本のデータを見ると、HIVほどではないですが、流行はMSMのところでおきていることもわかります。

東京都感染症情報センターがまとめた梅毒の最新トレンド情報


当事者のブログに、梅毒やB型肝炎を診断された時の経緯が紹介されていて、とても参考になります。
医学生や看護学生には教科書的なことを教えるより、患者さんがどのようなプロセスで曝露するリスクがあるのか、またどのように早期ケアにむすびつけることができるのか、を考えるヒントになるのではないかとおもいます。

「梅毒とB型肝炎」

性器の症状があったので受診。
検査で梅毒と判明。
このときに肝機能も検査。
後日、病院から呼び出しがあり緊急入院・・・・です。

日本ではほとんどの人は乳幼児期にも思春期にもB型肝炎ワクチンをしていませんし、男性同性間で流行しているサブタイプAはキャリア化率も高いので、これは個人の健康を守るためにも、パブリックヘルスとしても何らかのケアがいる課題であります。

カナダでは、ハッテン場に保健センターの人たちがでかけていって(アウトリーチ)コンドームを配るだけでなく、肝炎ワクチンを無料で提供したり、梅毒やHIVの迅速検査を提供していました。
これらは健康管理支援という視点であって、結果的には感染予防にもつながるのですが、
日本ではこうしたことに予算をつけるという話は会議でなかなかでません。どうしたらその"望ましくない行為をやめさせられるのか"という軸での話になりがちです。
"困ったひとたち"という話です。



米国CDCのサイトには「梅毒とMSM」という独立した啓発ページがあり、健康管理をよびかけています。

日本の厚労省や感染研にはないわけですがー、東京都や新宿区などその大流行地のサイトにも、レポートはあっても、どうやって介入や健康支援をするのか、したのかという情報がありません。。。。。

まさか「研究班におまかせ」で終わるつもりではないですよね・・・・ぼそぼそ



ワクチンがありませんし、風疹とは違って先進国でも困っている話題のひとつであります。

ECDCのレポート
STI and HIV prevention in men who have sex with men in Europe

オーストラリアの団体がまとめた他の国の梅毒の取り組みのサマリー
Responses to syphilis outbreaks among gay and other men who have sex with men: Case studies from the United Kingdom and the United States

当事者とパートナーをどうケアしよう・・・
Examining self and partners for syphilis among men who havesex with men: five US cities, 2009–2011

ですが、米国には、Disease Intervention Specialistがいます。梅毒やHIVとわかった症例について、パートナーの検査などをサポートする専門職となっています。




今年のICAACで発表されたカリフォルニアのHIVクリニックでは10%が梅毒だったよ、、、な発表は日本にもあります。

問題意識をもって、戦略もたっています。
Syphilis Elimination Effort Strategic Plan, 2011-2015


できることは、一般的な啓発以外に、早期検査治療→パートナーの治療、です。
そして医師がOKというまでは性行為は控えること(マスターベーションは問題ありません)


パートナーの検査と治療を丁寧に行うことが、個人と地域の梅毒のリスクを最小限にするただ一つの方法。

Management of Sex Partners 

Sexual transmission of Treponema pallidum is thought to occur only when syphilitic lesions are present. Although such manifestations are uncommon after the first year of infection, persons exposed sexually to a patient who has syphilis in any stage should be evaluated clinically and serologically and treated with a recommended regimen,
according to the following recommendations:

• Persons who were exposed within the 90 days preceding the diagnosis of primary, secondary, or early latent syphilis in a sex partner might be infected even if seronegative; therefore, such persons should be treated presumptively.
• Persons who were exposed >90 days before the diagnosis of primary, secondary, or early latent syphilis in a sex partner should be treated presumptively if serologic test results are not available immediately and the opportunity for follow-up is uncertain.
• For purposes of partner notification and presumptive treatment of exposed sex partners, patients with syphilis of unknown duration who have high nontreponemal serologic test titers (i.e., >1:32) can be assumed to have early syphilis. For the purpose of determining a treatment regimen, however, serologic titers should not be used to differentiate early from late latent syphilis.

Sexual partners of infected patients should be considered at risk and provided treatment if they have had sexual contact with the patient within 3 months plus the duration of symptoms for patients diagnosed with primary syphilis, 6 months plus duration of symptoms for those with secondary syphilis, and 1 year for patients with early latent syphilis.


基本的なことから学びたい人は 味澤先生、柳沢先生による 「現代の梅毒」をお読みください。


漫画などでもとりあげていただいています。

JIN―仁― 3 (ジャンプ・コミックスデラックス)
集英社
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