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日本のHIV検査施策はどこへいく・・

2011-07-09 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
HIV感染症の薬じゃなくてクスリ(“ドラッグ”)の話です。

「エイズ予防指針、検査・相談体制を強化へ- 厚科審作業班」CBニュース 7月8日

エイズと性感染症の国の「予防指針」は5年ごとに見直しがあります。

Evidenceに基づいて話し合われるはずですが、感染症で重要な疫学関連のデータが不足しています。

発生動向調査では、新規患者の9割が男性で、うち同性間性交での感染が多い(つまり、「誰でも感染しますっ!」というようなアプローチはまちがっている)

都会と他の地域では発症してわかる“いきなりエイズ”症例の多さ、感染パターンが違う(つまり、都会で考えるやり方を全国的にやれというのは大間違い)

ということは今までにも言われていることです。
(その検証のためには受け身サーベイの動向調査ではなく、積極的な疫学調査をデザインして行う必要があります。例「本当に女性には感染拡大していないのか?」)

保健所の検査相談体制の強化や位置づけ・・とか、別に新しくもなんともありません。
一般市民の検査を強化するのはとても難しいことはこれまでの知見でわかっています。

日本のように低プレバレンス国で、保健所での検査のお尻をたたくのは間違いです。
すでに先進国が検査施策をシフトされているように

■ハイリスク層としてのMSM(男性とセックスをする男性)への定期検査の推奨(半年~1年に1回)
■医療機関受診群(体調不良群)へのルチン検査の拡大
■地道なContact Tracing(接触者検診)

が重要です。つまり、曝露をした人への検査勧奨です。

HIV感染症の低流行の先進国ではこの3つが費用対効果の検証を含め根拠に基づいた施策となっています。

日本はこの3つのどれひとつも仕組みとして位置づけられていないのに、「HIV検査はあなたにも必要」というような根拠のない(誤解につながる)キャンペーンをやっています。

つまり、九九もやっていないのに、因数分解やろうぜ的なチグハグさがあります。

・・・そうこういっているうちに、新たに問題になりつつあるのが薬物使用者でのHIV感染です。
あるいは、HIV陽性人口での薬物の広がりです。

今回のCBニュースで一番重要なのは、
「静注薬物使用者にHIV感染者が出てきた場合、保健医療の問題として扱うべきか、法的な問題か、医療機関だけでは対応し切れない」という指摘が会議で出たことです。

日本には、リハビリプログラムがほとんどありません。
もっともエイズ関連予算は他の領域に比べて予算が潤沢についていますので、HIV/ドラッグ関連のプログラムの充実をはかるなどの対策を急いで行うこともできるのだとおもいます。

医師はどうすればいいか?

自分の受け持ち患者がドラッグ歴があるかどうか、現在ドラッグを使用しているかどうかを知るのは、セクシュアリティについての問診・アセスメントよりハードルが高いと思われる方も多いと思います。

この問題に気づく主なパターンは2つ。

自分の受け持ち患者が外来予約日に現れない。
中断したのだろうか?と確認している途中で、警察にいるらしいと知る場合(警察から連絡がきます)。

また、逮捕後のプロセスのなかでその人がHIV陽性だとわかり、「診察と処方を」と警察から依頼をうける場合。(費用は全部国費でカバーされます)

特に病院で何かをするわけではなく検査と治療、なのですが、電子カルテにどう記載するのか、等、困ったときは、症例経験の多い信頼できる医師にご相談を。
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2 コメント

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あれから20年 (名も無き内科医)
2011-07-09 11:31:06
学生の頃にHIV/AIDSシンポジウムを企画してはや20年が経ちます・・・今は一介の老年内科医ですが、若い頃必死でHIV/AIDSを勉強し患者をマネジメントしてた頃のスピリッツが現場で活かされ(空回りという説もwww)ています。大阪のミナミには本当に検査サテライトが出来たのですね。しかしそれでいいのかと考えます。
HIV検査施策の行く末を考えるとき、検査陽性者に対するマネジメントが果たして有効に機能しているのか、その前提があっての議論であることを希望します。戦線を離脱した者が言うことではないですが、臨床感染症学はおろか、未だにマネジメントの概念のない医療現場をじっと見つめていると悲しくなります。いわんや、HIV/AIDS医療です。
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あっというまでしたね (編集部)
2011-07-20 12:00:46
今年はHIV/AIDSの30周年でした。四半世紀なんてあっというまなんだなあと感じますね。検査のところでのケアや情報提供は今も課題ですが、医療者が過剰反応をすることは減りました。医療者の過剰反応じたいが社会に偏見メッセージを伝えてしまうので、若い医療者のサクサク感はありがたいです。
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