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HPVワクチン 接種後体調変化の報道 と その周辺 2016年3月

2016-03-17 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
2種類あるHPVワクチン接種「の後」におきた体調の変化について、各自治体が調査をしていますが、だいたい結果は同じような内容です。

情報の精度(正確さや質)を高めるためには、「ざっくりきいてみました!」「アンケートくばってみました」ではなくて1ランク上の調査が必要です。さらに、もっと分母の大きな集団を長期間観察する研究も必要です。実際には多数にヒアリングなんてできませんので、もともと予防接種や医療の国民あるいは保険加入者のデータベースにアクセスのある人(国)にしか出せなかったりします。

そもそも2種類あるのに、「子宮頸がんワクチン」といっしょくたに(存在しないワクチンを想定して)質問をしていいのか?というあたりに自治体も真実追求系の方も疑問がなさそうなのが不思議です。
このワクチンを抹殺したいひとたちのロジックにあえてのっているのか、そもそももう"ワクチンそのもの"を原因とは考えていないということでしょうか?

他の薬剤の問題では、その"薬剤"が問題になっているんですけれどね。
思春期に予防接種はやめたほうがいいという世界初の結論にもっていくのか、時間をかけている割には混乱しています。

いずれにしましても(基本的な話のおさらいですが)

個人的意見 < 1例症例報告 << 同じような症例を集めた報告 <<<< 症状有グループと無グループの比較 <<<<<<<< コホート(より大きな集団)での評価となります。1つ1つみてみましょう。


①【専門家の個人的意見】
あなた誰?(何もないよりマシか)から、この先生の言うことならば、という期待値の高い人の意見までいろいろです。インタビュー記事とか個人名で専門誌へ投稿など。
通常はその分野の専門家なのか、関連の研究や実績があるのか、最新の情報等の習熟度等から判断されます。


②【1例報告】
Aさんがね、なんとこんなふうになったんですよ!とか、今回こんな経験をしてびっくりしましたし、他であまりきかないでしょうから私が皆さんに報告しますよ!的なもの。

ここでAさんが●●でこうなたった、だからAさんのような症状の人はみーんな●●!というような雑な一般化はできません。でも、この気づきがないとはじまらないので重要なんです。 n=1(サンプルは1例だけ)


③【症例集積】
共通因子のある人を集めて、検査結果・症状の出方/治り方等のパターンを見いだし、発症につながる「危険因子」、「仕組み(機序)」、効果がありそうなものの仮説を考えるような情報。
集めることに熱心になると、バイアスがかかった症例ばかり集めて失敗することがあります。
例えば、えーい、この際、頭痛も腰痛も歯痛も全部いれちゃえ!とやると、当たり前ですが、いろいろな人がはいってきてしまいます。 情報の質や正確さがあやうくなります。

HPVワクチン接種後の症例群が「他の病気でもなりますけども?」な症状がたくさんならんでいるので、そもそも論として「ワクチン(だけ)のせいと考える理由は?」は、主観ですとか、周囲にそういわれましたという根拠がとても弱いわけです。

例えば、共通点として「痛み」がありますが、このワクチンの前から子供や思春期での痛みは存在します。

背景も原因もばらばらだったね〜仮説がそもそも間違っているんじゃ?と振り出しに戻されることにも。


④【症例対照研究】
上記で考えた(仮説の)因子や機序について、一定の数をもって比較する研究。
●●という症状がある。××をしたグループとしていないグループで比較してどうか、です。


⑤【コホート】
●●年にうまれた人全員(国民/保険加入者)を同じ期間観察。分母が大きい(大きくないと意味が薄れる)ので、簡単にはできない。

いろいろな調査研究があります。

なんと、国民全体の医療関連の数字を解析が出来る国がいくつかあります。
それは無理でも、特定のがんなどの病気についてはずっとモニタリングをしている国があります。


まとまったコホートをもっている、の代表が<a href="https://www.cancer.dk/research/virus-lifestyle-genes/vlgcohorts/">デンマーク。

「●●年生まれのデータ」といった出し方が可能。アンケート調査ではわからないこともわかります。

デンマーク 2013年 Autoimmune, neurological, and venous thromboembolic adverse events after immunisation of adolescent girls with quadrivalent human papillomavirus vaccine in Denmark and Sweden: cohort study

デンマーク 2014年Early Impact of Human Papillomavirus Vaccination on Cervical Neoplasia—Nationwide Follow-up of Young Danish Women


同じくデンマーク(2015年) The impact of HPV vaccination on future cervical screening: a simulation study of two birth cohorts in Denmark

こちらはスウェーデン(2016年)Quadrivalent HPV vaccine effectiveness against high-grade cervical lesions by age at vaccination: A population-based study


日本も自治体が接種後の体調の変化を質問紙調査で調べましたが、接種をした人だけを対象にした調査。

しかし、名古屋市 2016年3月 子宮頸がん予防接種調査が1つ上の検討をしています。疫学調査の意味が分かる人たちが調査チームに入っているんですね。
すでに速報が公開され、ニュースにもなりましたが、その詳細は今月HPでも公開されるそうです。

この方法では接種していない人にも同様の症状があり、それは接種した人としていない人でどう違うのか?を比較することができます。


②の症例集積では、具合の悪くなり方に似たようなパターンがないかをみますが、同時に、どのように治っていくのかも重要な情報です。

例えばA,B, Cと治療法(薬など)があって、全員がAで同じような時系列で治るなら診断も対応もおそらくあっているだろうとわかります。しかし、効く人と効かない人がいる。
効いている人は薬が本当にフィットしているのかプラシーボ効果か、あるいはたまたま治るタイミングで薬をのんだので「薬のおかげ」になっているだけか。全く効かない・・・となると「ズレている(副作用のリスクだけ)」という悲しい状況。それも「効かない」とわかるので前向きな情報ではありますが。

ところで、以前も書きましたが、メディアは治っていない「絶望的」「悲劇的」なヘッドライン記事は書きますが、快復している情報はとりあげていないですね。なぜですかね...面白くないでしょうか。体調不良者を「被害者」とラベリングし救済救済といっているのに。

メディアのいう救済は「国が悪い」「金を払え」の隠喩でしょうか?
若い人の健康や人生には関心がないのか記事をみているとおそろしく感じます。


この先も脅し呪い続けるのでしょうか。

2種類の情報をみましょう。報道と当事者(接種後に体調不良となった人たち)のナラティブです。


まずは、16日に開かれた研究班の発表会の後の記事は各社いろいろになっています。

牛田先生のグループと池田先生のグループ話があったのに、池田先生たちのグループのものばかりニュースになっているのも興味深いです。

メディアの「ご都合」がよくわかります。

会議の配布資料はリンク先にあります。わかりやすいので関心ある方は是非読みましょう。記事の混乱ぶりがわかります。どちらの報告も今ある医療の知見と、診察した症例の事実検討ベースで行われていますが、あくまで中間報告的なものです。
そこに記事に使用とした人の理解や整理に課題が生じているというところでしょうか。

まず、どのように接種した後、どれくらいの時期に症状が出るのか、、ですが、なぜか配布資料の症状のスライドは時系列がバラバラなので早い順に並べ替えてみました。

---------------------
初回接種から症状出現までの期間:9.1 ± 10.9ヶ月
掻痒感 1.5ヶ月
立ちくらみ 3.8ヶ月
発熱 4.6ヶ月
関節痛 4.7ヶ月
起床困難 7.5ヶ月
腹痛 10.0ヶ月
頭痛 10.1ヶ月
しびれ 11.0ヶ月
嘔気 11.2ヶ月
失神 11.3ヶ月
めまい 12.3ヶ月
全身倦怠感 12.3ヶ月
手足の疼痛 13.1ヶ月
不随意運動 13.3ヶ月
----------------------------

先に症状があった人もいるわけですが、なぜかなり遅くに出るのか?
"シャルコーの講義例にあるように「外傷後の(心因性)麻痺は打撲や受傷の直後に生じるのではなく、時間をおいて出現する"という説明は参考になるかもしれません。


2種類あるワクチンのどちらか不明です。
あえて書いていないのかわかりません。

HPVワクチンだけを要因として検討するには間がだいぶあいています。

そういうものなんだ、という説明もあるかもしれませんが、なぜHPVワクチンだけを理由として検討するのかの説明はありません。

例えば「4.7カ月後の発熱」はワクチンの副反応でしょうか?
(そもそも何度のことなのか)


TBS 子宮頸がんワクチン副反応「脳に障害」 国研究班発表

サーバリックス接種した人、、、ではなくマウスの脳の話。
ただのマウスではなく、NF-κBp50欠損マウス(自己免疫疾患を生じ易い個体)だそうです。

インフルとHBVを比較に接種していますが、ガーダシルは接種していないようですがなぜでしょう?

今後、論文が公表されれば検証が進むでしょう。

FNN 子宮頸がんワクチンの副作用訴えた患者の39%学習障害

こちらは「学習障害」という表現に。

"副作用を訴える98人を調査したところ、39%患者が「授業の内容を記憶できない」など、学習障害を訴えているほか、16%が「まぶしい」、「視界が暗い」"

<参考>
全国LD親の会 学習障害とは
文科省 主な発達障害の定義

池田先生の資料をみると主訴で4割
-----------------------------
学習障害の訴え:39%(41/98例)
 「授業の内容を記憶できない」
 「計算が遅くなった」
 「同時に二つ以上の課題を命じられると頭が混乱する」
 「課題を遂行するのに時間がかかる」
 「教科書を読んでいても、長い文章が理解できない」
 「自宅で学習していても勉強に集中できない」
 「子供がバカになった」
------------------------------



テレビ朝日 「子宮頸がんワクチン」接種 学習、睡眠障害も…

テレ朝は"睡眠障害を訴えた人が2割"
睡眠障害の定義はないようです。自己申告ベース?


日テレ 子宮頸がんワクチン副反応 白血球型影響か

毎日新聞 脳機能障害 患者8割が同じ遺伝子

こちらは"脳機能障害"という表現。

"信州大で14人中10人(71%)、鹿児島大で19人中16人(84%)を占めた。「0501」は一般の日本人の集団では4割程度とされ、患者の型に偏り"

ネットをみていたら、「これで解明」的なずれたコメントがありました。この分野での検討はいばらの道だと思います。
関心がある人は他の疾患でも検討されているので勉強しましょう。

HLA遺伝子多型からみた日本人集団の混合的起源

Frequencies of HLA-A*02, -DPB1*0501, -DPB1*0202 and CTLA4-CT60-G in the Japanese populationsのコントロール群では62.8%

(リウマチやサルコイドーシスで、日本人では頻度が高いが海外の同じHLA型では高くない、等の情報が混在)

アジア型多発性硬化症に特有なHLA DRB1遺伝子から見たT細胞エピトープの解析
HLA-dPB1*0501 is not uniquely associated with opticospinal multiple sclerosis in Japanese patients. Important role of DPB1*0301.
Association of the HLA-DPB1*0501 allele with anti-aquaporin-4 antibody positivity in Japanese patients with idiopathic central nervous system demyelinating disorders.

いろいろな分野で研究されています。将来に発症リスク告知など倫理的に問題が大きい分野のお話。
(「調べてからワクチンうてばいい」というのは早計です)


ところで、アジア人は欧米人と違うのだ!という人が時々いますが、米国、カナダ、オーストラリア、英国などで接種している日系や中国系の女子で他のグループと比べて異なる有害事象パターンがおきていないことは確認されています。
となると、特定の症状の人をグループ化し、その人たちだけに特徴的なのかという検討のほうがまだ説明がつきます。
(今年から韓国でHPVワクチンが公費接種可能となりますので、そこでのデータも参考になるかもしれません)


日テレ “子宮頸がんワクチンで異常”3割改善せず

分母に約330万の接種があります。 HPVワクチン導入のときに、これまでとは別の、新しい仕組みで有害事象の報告を受け始めましたので、昔のインフルエンザデータと「副反応にこんなに差がある!」は昭和と平成を比べるようなことをしてどうするのか問題なのですが(比べられない)

重篤の規定は個々の医師の判断で行われており、重篤例にしても副反応例にしてもかなり個別性が高いということがわかっています。接種された子が「ひどく泣いた」も重篤に報告している医師がいます。

池田先生たちの調査で、HPVワクチン関与が否定できない98名のうち、3割が症状が回復していないということです。

スライドをみてみましょう。

----------------------------
98例の主症状の詳細(重複あり)

頭痛 69%
全身倦怠感 60%
起床困難 45%
筋力低下 43%
手足の疼痛 42%
下肢の冷感 40%
嘔気 40%
学習障害 39%
立ちくらみ 37%
不随意運動 34%
関節痛 34%
腹痛 31%
めまい 30%
手足の振え 30%
-----------------------------

激烈な胸背部痛 救急外来受診
(しばしば呼吸困難を伴う)

-----------------------------

上記の6割は回復しているとのことなので、希望につながる情報も公開が進むといいのですが。

メディアはとりあげていません。

池田先生の配布資料にも、症例がいろいろならんでいるので経過を知るためにぜひご覧ください。

さて2つ目です。

困っていた症状から快復した人たちが、他の方の参考になれば、と情報提供をしています。
医療機関で精査をし、医療機関を定期受診しながらとりくんだプロセスが公開されています。

「治り方」もまた問題の理解や対策にとても役立ちますのでぜひご覧ください。

「子宮頸癌予防ワクチン副反応から快復へ〜子どもたちの未来のために」

最新の情報としてAさんの受けた治療についてが解説と親御さんからの報告とともに掲載されています。

ガーダシル接種
2012.7月 2012.9月、 2013.2月
2013年11月 接種後 9ヶ月に発症。

移動性疼痛、微熱、強い倦怠感、気候の影響による体調不良、睡眠障害、頭痛、耳鳴り、手の痙攣、吐き気、全身脱力発作、訳もなく泣く(不安発作)、過呼吸、化学物質過敏、音過敏、距離感がわかり辛くなる、楽譜や長文が理解しにくい、言葉や名前が出てこない、軽度の計算障害、

このあと2015年12月に快復(詳細はリンク先でお読み下さい)。

「被害者」とラベリングしてひとくくりにするのではなく、個々のお子さんやご家庭の事情をていねいにフォローしながら、より副作用の少ない取り組みやすい方法で対応することが選択肢となる方たちもいるのだろうと思える情報です。

こちらの快復者の皆さんの情報も多様ですし、また、今回の池田先生の資料にあるように、検査で別の疾患の確定診断が行われている例もあるので、「ひとくくり」や「決めつけ」は危険だとあらためて思いました。

快復を支援している人たちのサイトや情報には、治っている人たちの情報を希望としてほしいという願いが語られています。
特殊なマウスの結果で「脳機能障害」で言い切っている人たちのスタンスがそもそも違います。

もっとも、快復したとしてもこのワクチンを接種することには賛成できないという意見も書かれています。
それほどに苦しいつらい症状、快復のプロセスで医療の中で悲しい経験をされたことは医療者や支援者は学ぶべきであるともおもいます。


※神経内科的な検討は、専門の先生の解説がとても分かりやすいので、今後も期待しているところです。


村中さんがまた新しい記事を書かれたそうなので、そちらもまた確認したいと思います。
■WEDGE_REPORT .4
暴走する大人と沈黙する子供たち 子宮頸がんワクチン「被害」からの解放 村中璃子(医師・ジャーナリスト)

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