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風疹流行の「後」のケア:助産師・保健師に期待される役割

2013-10-19 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
風疹の流行はまだ終わっていませんが(厚労省や感染研は終息したという宣言をしていませんね・・・)、今、課題となっているのは妊娠中に風疹ウイルスに感染した/したけどそのことに気づいていない母子のケアであります。

2004年の緊急提言の対策をとっていればこどもたちが音や光を失わずにすんだのに、と思うと、今やれることは何か(それは地域ごとに優先順位が違ってきますが)考え実行しないといけません。

東京や大阪とその周囲のように大流行をした地域では、新生児訪問や乳児健診に関わる助産師・保健師を対象に、早期ケアにつなげるための啓発や情報提供をすることが必要です。
イニシアチブをとるひと/とれる人は地域によって違うでしょう。

まず、今回なぜ成人で風疹が流行したのかをあらためて考えてもらうことが大切です。
このケアをしないと再び流行がおきるからです。



こちらは東京都の図です。左が年齢軸、右が時間の経過です。
はじめは症例の約8割を占める20-40代で流行、その後女性に拡大していきます。女性は20代が約半数となっています。


免疫のない人がウイルスに感染するおとほぼ100%発症する麻疹と異なり、風疹では症状を自覚しにくい(ない)「不顕性感染」(ふけんせいかんせん)の人が一定数おり、それは15%~30%近くいるといわれています。
このため感染が分かった人だけの対応(隔離)をしても対策は不十分であり、地域で流行させないようにするのが対策のゴールです。


受診した妊婦の風疹の抗体を測定している都内のクリニックによりますと、妊婦の3人に1人~4人に1人で免疫が不足しているという結果でした。このような状況のなかで風疹が流行したわけです。


風疹ウイルスに感染したことがわかって、出産に備えた妊婦と、感染に気づかずに、赤ちゃんの健康問題からはじめて自分が感染していたことに気づくケースがあります。
必ずしも赤ちゃんに健康問題が生じるわけではありません。


赤ちゃんの健康問題を左右するのは感染した時期です。初期では先天性心疾患や目の異常、比較的長い期間に問題になるのは聴力の障害です。いずれにしても、その犠牲となるのは子ども。当事者である岡山県の川井さん(患者会 hand in handの共同代表)はお子さんをつれて都内のワクチンパレードに参加し、風疹対策の推進をうったえました。


共同代表のひとり可児さんは、CRSの娘さんを18歳で亡くし、それ以後ホームページで細々と風疹の根絶をよびかけてきました。その願いはかなわず、2013年の今も苦しむ人がいることに胸を痛めています。そして無料のワクチン接種をと署名をよびかけています。


同じく共同代表の西村さん。彼女も小さな子どもを二人連れて上京し、厚生労働大臣要望書を結核感染症課に手渡し、会見にのぞみました。通常、自分や家族の病気のことは伏せて話をする人が多いなか、「あの人みたいになりたくないと思われてもいいから、自分たちの事例を知って風疹の予防を考えてほしい」と声をあげた1人です。


※可児さんと西村さんがどのような経験をしたかは『助産雑誌』11月号の記事『先天性風疹症候群の子を授かった母親に聞く:妊娠中の体験と医療者に期待したいこと」に対談形式で掲載されていますのでぜひお読みいただければと思います。

風疹の流行が拡大するにつれ、妊娠中に風疹のような症状を経験した女性の相談が増えていきました。
妊婦さんやまだワクチンを接種できない赤ちゃんが安心して町を歩けるような社会であってほしい、と患者団体の皆さんが願っています。


そして、今まで以上に風疹流行の影響を受けた赤ちゃんが誕生するのはこれからです。


そこで、新生児訪問や乳児健診に関わる助産師や保健師に協力をよびかけたいのが早期のアセスメントです。


「赤ちゃんの目がおかしい」「音がきこえていないようだ」といったサインを保護者がキャッチしている場合、今回の風疹流行の影響もぜひ考えてみてください。
通常1000人に1人~2人といわれている難聴の赤ちゃんも、この影響を受けて増えるかもしれないからです。


育児支援で保護者をサポートする専門職ならではの早期ケアです。


このような対応を地域でいち早くはじめたのがNHKでも紹介されていた東京都の墨田区です。
保健所の松本医師や保健師らが取り組んでいるのは,従来の母子保健プログラムの中でできる工夫です。
「ポピュレーションアプローチ」として早産や低体重の子ども、母子手帳の記録を活用しての保護者とのアセスメントを提案しています。




これを保健所だけでなく、地域の医師会との連携、児童センターなど子育て支援に関わるスタッフ啓発を行うながら展開しています(研修会を開催)。


母子手帳にはこんな記載もあります。ぜひ活用してみてください。


そして、サポートにつなげることを提案しています。


最後に。風疹の大きな流行を経験しなかった地域にもできることがあります。
それは、今後まだ風疹ウイルスが流行しないように落ち着いている今だからこそ取り組みたいワクチン接種です。
理想通りにはいかないとしても、3期や4期の接種機会を逃してしまった人に、公費での接種を延長して行うなど、数年後に妊娠出産をする時期を迎える人たちを守る取り組みです。


品川区、墨田区のように、公費接種の期間を延長した自治体もあります(途中、ワクチン不足などで接種できなかった人たちがいるためです)。この時期を逃さないよう、対象者にはたらきかけることも身近にできることの一つだと思います。


というような講習会を地域でぜひ。
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