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復習 B型肝炎ワクチン & B型肝炎訴訟

2011-01-13 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)

B型肝炎訴訟は、発症していないキャリアに50万円を支払うという和解案が出てまたニュースになっています。
そもそも理屈に無理のある訴訟ですが、現時点ではあとはお金の話になっています。

国として重要なのは、B型肝炎という、感染力はHIVの100倍、医療機関内で院内感染がおきても感染ルートを解明しきれないほどの伝播遮断の難しさのあるウイルスについての根本的な対策です。

現在感染していて気づいていない人たちの検査アクセス、治療へのアクセス、安心して治療できる制度の整備も重要ですが、予防としてのユニバーサルワクチンは導入されていません。

日本にはキャリアが多いといわれていますが、となりの中国には1億人近いキャリアもいますし、その他のアジアの国も流行地域です。地方の空港からアジア各地への直行便が飛んでいる状況で、具体的な対策をうっていないというのは問題でしょう(その意味では狂犬病ワクチンの在庫管理とかも気になりますが)。

突然健診で「B型肝炎ですね」といわれる事例

Blog ニュースのある日々「B型肝炎になってしまいました」
ここにある医師の説明は・・・・・ですが。

また、

Blog 病は知ることから始まった~B型肝炎キャリアの日記 
実際、この方のように、「通常の血液検査で分かる肝機能の数値には一切異常がない」「自覚症状といえるものが一切ない」人が、急性肝炎になったひとからの連絡ではじめて感染を知ったというようなパターンは若い人では多い印象です。

誰かのせいではなく、B型肝炎が流行しているこの国で、ユニバーサルワクチンが導入されていないことがまずあり、歯科を含めた医療機関での感染管理のレベル、個人では性感染症予防(コンドームの継続使用)などもリスクに影響しています。

肝臓がご専門の先生方の間では、ごく最近までSTDとしての肝炎の話はタブーな空気があったそうです。

予防に熱心にとりくんでこられたのは小児科の先生たち。母子感染から子どもを守るためです。

小児科領域の先生はなんといっているか。
B型肝炎ワクチンと母子感染防止 白木和夫(モダンメディア 2004年)

「わが国では20年前の第一世代HBワクチン開発当初,ワクチン供給量が少なかったためと高価であったためにhigh risk groupのみを対象としたが,そのままの状態が現在まで続いている。」

この国では、誰かが責任をもって対策を評価していないのかも?と思うことがしばしばあります。
お役所では「結核感染症課」が責任部署でしょうか?

現在、増加傾向のgenotypeAは成人でのキャリア化率が10%以上と高くなっており、性感染での拡大が懸念されているわけですが、この新しい状況にあわせた国の対策というものが動いていません。

ハイリスクグループとは?

「第1群:HBs抗原陽性妊婦からの出生児に対する母子感染防止目的
第2群:1)HBVキャリアの家族,2)血液製剤による頻回治療を受ける者,血液透析を受けている患者,3)HBs抗原陽性血による汚染事故,第3群:1)医療従事者,5)HBV高浸淫地域への海外渡航者」

海外ではハイリスクグループにはさらに、性的にactiveな人(若い人と同義語です)、性交相手の多い人(具体的に何人とはありません)、性産業従事者、男性と性交をする男性などがあげられています。

「HBV感染防止戦略は,①急性肝炎,劇症肝炎の予防と②HBVキャリア発生防止による慢性肝障害予防という2つの目的に明確に分けて考えるべきである。」

母子感染対策としてのB型肝炎予防は国の事業として展開されているのですが、問題はこの方法では母子感染はゼロにはならず、受診先の変更(里帰り)や未受診妊婦などで、把握されないまま出産にいたり児がキャリア化するという例を完全には防げていません。

Ⅸ.わが国におけるHBV感染の将来予測とuniversal vaccination

「HBワクチンは副反応も少なく,極めて有用なワクチンであり,これを使った厚生省「B型肝炎母子感染防止事業」の結果,新たなHBVキャリア発生は10分の1に減少し,将来的にはHBVによる肝硬変,肝がんはほとんどみられなくなる可能性がある。しかしながら近年わが国においても諸外国からの移住民が増え,これらの中のHBs抗原陽性者はかなり多い。したがって将来的には米国と同じ状況になる可能性もあり,これまでのhigh risk児に対する感染防止対策に加えて,思春期前までにuniversal vaccinationを行う方向で今から検討を始めるべきではないかと考える。」

赤ちゃんで接種できていないこの国では、HPVワクチンで騒ぐならば、唯一がんを予防できるという大ボラをふかないで、HBVワクチンも同時に推奨すべきだ、といわなくてはいけないのです。

公明党本部にも、副代表オフィスにも電話してそのことをいいましたが、興味ないみたいですね。
子宮頸がんとB型肝炎で苦しむ人の分母の数とか興味ないのかもしれませんね。

ぜひ地元の自治体のホームページの予防接種コーナーをぜひみてください。
B型肝炎ワクチンの話は一切かいていないところもたくさんあります。
知っている人だけが接種できる国なんですね。
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