感染症診療の原則

研修医&指導医、感染症loveコメディカルのための感染症情報交差点
(リンクはご自由にどうぞ)

ノロウイルス集団感染報道 

2012-12-24 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
2012年10月24日のJAMA
Hospitalizations and Mortality Associated With Norovirus Outbreaks in Nursing Homes, 2009-2010
JAMA. 2012;308(16):1668-1675

まあ、Noroですから。

この時期は英語の記事をみても、のろのろのろのろのろのろ、ときどきインフルエンザ、そして、のろのろのろのろ、であります。

英国NHS病院のように"嘔吐ウイルス"流行っぽかったら即刻 病棟閉鎖!をするところでは、入院予定だった人が延期になったり、ご家族に会えない人が増えたりとたいへんだろうなあと思いますが、閉鎖をしないとだらだらと連鎖して、スタッフも倒れて医療サービス自体が破綻しかねないことも。
症状消失から48時間は自宅にいなさいとなると、スタッフの数が減っていってしまいます。

何を最優先するか?ですが、ルールを最優先すると、症状消失から48時間以内のスタッフは自宅待機。
ナースが不足するとケアの安全性が損なわれるので、当然のことながら新規入院受け入れ中止。
これは拡大防止、流行抑止のために必要ですね。皆さんご了解ください。

でも、今病院にいる人のケアをどうしますか?
他の部署から応援に出せる大きな病院はいいですね。

もともとケアスタッフがギリギリのところはどうしましょうか。
食事と排泄、清潔など、最低限のケアはどうしても必要です。


各地の医療機関や施設内でノロは大ブレイク中です。ICNが対応におわれています。
記者会見したり報道されるのはそのごくごくごくごくごく一部です。

保健所への連絡は昨今早くなっていますが、連絡をしてもノロ拡大を抑制できるわけではありませんし、そもそも現実的ではない指導などをされても現場は困惑するだけです。


死亡例が複数報告された大阪と宮崎県の例はネットのニュースでも広く報じられていました。

まず1次情報をみてみましょう。
病院や自治体のHPに掲載されたものを最初にみます。

12月23日 宮崎県「医療機関におけるノロウイルスによる感染性胃腸炎の集団発生について」


12月17日 病院から保健所に感染性胃腸炎の集団発生と、有症状者のうち5名でノロウイルスへの感染確認の連絡
     ※保健所は当該医療機関の調査とともに、感染拡大防止の指導を行いました。

12月22日 病院から保健所へ新たな患者発生の連絡。同病院において再度感染防止対策の徹底について指導。
     誤嚥性肺炎による患者6名の死亡を確認。

あまり情報はありません。第一報レベルでしょうか。

12月21日の宮崎県による注意喚起


次に2次情報(誰かの解釈入り)をみます。どのあたりに記者の解釈が加わっているか注目し、できれば複数のものを見比ましょう。


------------------------------------------------------------------
12月23日毎日新聞 「宮崎・日南のノロウイルス集団感染:6人死亡 「ずさん衛生管理が原因」 県、報告遅れも批判」

宮崎県日南市の病院で6人が死亡していたことが23日明らかになったノロウイルスによる院内集団感染。県は「報告の遅れや汚物処理の不手際など病院の衛生管理が感染拡大の一因」と指摘した。病院側は「申し訳ない」としながらも「一医療機関では財政的に不可能」と開き直った

病院側と県は県庁で記者会見。同会の理事長は「当初はノロウイルスを疑わなかった。患者が爆発的に増え、対応で手いっぱいだった」と強調した。

理事長によると、病院は患者や職員のノロウイルスへの感染を受け、日南保健所に報告。18日に立ち入り調査を受けたが、14-17日に3人が死亡したことは「ノロウイルスと関係ない」と判断し、その場では報告しなかった。しかしその後も死者が相次ぎ、22日に同保健所が2度目の調査を実施した際に伝えた。

更に県や病院によると、看護師らが使う感染予防対策用の医療用エプロンについて、保健所は使う度に廃棄するよう指導していたが、病院は「品薄で入手が困難だった」として、汚れがひどいもの以外は一日中使っていた。県は「汚物処理に不手際があったのが一つの原因」とした。【百武信幸、門田陽介、中村清雅】
------------------------------------------------------------------

記事のタイトルにある「ずさん」、という言葉を県庁が使ったのかよくわかりませんが。
開き直った、は主観ですね。

インフルエンザにしてもノロにしても、同じように複数死亡での記者会見は毎年あるわけですが、現場がどう困っているかという背景の検討を自分で調べて書く記者さんはいないんですかね。

「一医療機関で財政的に不可能」
「対応でていっぱい」
「品薄で入手困難」
「汚染処理に不手際」

それはなぜなのか。どう解決すべきなのか。


----------------------------------------------

12月24日読売新聞 「ノロウイルス集団感染、宮崎の病院で6人死亡」

宮崎県は23日、病院で、入院患者や病院職員ら計44人が嘔吐や下痢などの症状を訴え、うち78~88歳の男性患者計6人が死亡、76~90歳の男女の患者計5人が重症と発表した。

 現在入院中の患者5人からノロウイルスが検出され、同県はノロウイルスによる感染性胃腸炎が原因とみて調べている。同県によると、ノロウイルスが原因とみられる集団感染による死者数としては、全国で今季最多という。

 発表によると、同病院では14日から22日までに6人が死亡。死因はいずれも吐いた物が誤って気管などに入ったことによる誤嚥性肺炎だった。
 この間、発症した44人の内訳は、入院患者30人、医師1人、看護師6人、介護士7人で、2階に入院、または勤務していた。
-----------------------------------------------


読売は事実をたんたんと、の記事。
読売にある誤嚥性肺炎についての情報は毎日にはありません。死亡に関連する情報ですのでクリティカルですが、意図的に落としたのでしょうか。


-----------------------------------------------
12月23日 NHK 「ノロウイルス集団感染で6人死亡 宮崎」

宮崎県日南市の病院で、入院患者と職員、合わせて44人がおう吐や発熱の症状を訴え、このうち70代から80代の入院患者6人が死亡しました。宮崎県はノロウイルスによる集団感染とみて調べています。

宮崎県などによりますと、日南市の病院で今月12日から22日にかけて入院患者30人と職員14人の合わせて44人がおう吐や発熱などの感染性胃腸炎の症状を訴えました。
このうち70代から80代の男性の入院患者6人が、22日までの9日間に相次いで死亡し、5人が重症だということです。
死亡した6人はいずれも吐いた物が気管に入るなどして、肺炎を起こしたということです。
病院が簡易検査を行ったところ症状を訴えた44人のうち、5人からノロウイルスの感染を示す陽性反応が出たということで、宮崎県は、ノロウイルスによる集団感染とみて調べています。
病院では、症状を訴えている人を隔離するとともに今月17日から1週間、外来の診療を休診しています。
宮崎県は県内の医療機関や福祉施設などに対して患者が吐いたものを素手で処理しないといった感染予防の対策を徹底するよう呼びかけています。
病院のホームページによりますと病院は、平成11年に開設され、内科、胃腸科などが専門の病院で、ベット数は64となっています。
病院では、ノロウイルスによる集団感染の発生と、当分の間、入院患者への面会ができないことを知らせる紙が正面玄関に貼り出されています。
病院には、時折、入院患者の家族が訪れ、インターホンで職員と話をしたり、着替えなどを渡したりしていました。
入院している夫の着替えを持ってきた女性は、「病院から夫は感染していないと説明を受けていますが、心配なので詳しく話を聞きたい」と話していました。

<病院側“患者増え報告きちんとできず”>
病院によりますと、亡くなった患者6人はいずれも高齢で体が不自由なため病院ではいつもベッドで寝ていたということです。
そして、今月14日に最初の1人が死亡したあと、22日までの9日間で6人が相次いで亡くなったということです。
最初に死亡した患者は亡くなる2日前の今月12日に発熱とおう吐の症状を示しましたが、病院側はノロウイルスの感染とは思わず、体調不良として対応したということで、その結果、ウイルスの感染を拡大したおそれがあるとしています。
また、患者が相次いで亡くなる事態について、県へ報告したのは22日が初めてだったということです。
理事長は「爆発的に患者が増えたので、対応に追われて死亡報告というのがきちんとできなかった。申し訳なかった」と話していました。
(続きはリンク先で。疫学情報も入っています)

-----------------------------------------------------------

ノロとは思わず、、、のとこrはノロとわかっていたら減ったのに、と考えている人も、非専門家にはいるかなあ、です。
(例えば吐物処理に、ノロ用とか、それ以外ってこの時期ないですよ。検査しようがないですから)

NHKは分母情報が入っています。記者の主観は伝わらず、たんたんと述べている記事。
しかし包括的に書いているNHKでもなお、問題の背景には切り込んではいません。

クローズアップ現代とかでやってほしいですね。「疲弊する高齢者医療は今」とか。


さて。今後どうすればいいのでしょうか。

感染予防に必要な個人防御具をふんだんにつかえ、ということでしたらそれを可能にする物流やコストをどうするかという話になります。例えば、医療機関がこのような物品を買う際の消費税は免除とかいいアイデアだと思いますよ。
また、現在は医療機関が負担しているこのような防御具のコストを、入院患者や家族に必要経費として負担してもらうというアイデアを出す人もいるかもしれません。(これは避けたいですね)

今回の事例では、職員と患者を含めて44人が症例としてカウントされているようですが、職員が勤務できなくなるなかで、ケアの前後の手洗い等に困難が生じていたであろうことは想像に難くありません。

アウトブレイク対応相談にのる際に、そもそも手洗い場がない、認知症や全介助比率が高くて、日勤帯でもギリギリのケアであるというようなところで、頻回のおむつ交換などに必要な複数の手について想像がおよばないのかもしれませんね。

また、高齢者は「ノロが原因で死亡」するのではありません。毎日の記事では病院を批判する立場でその因果関係を書きたいようですが、重症化するのはノロだからじゃないです。高齢だからです。
高齢でしかも、自分で動けない食べれない飲めない、吐き出せない、伝えられないからです。

高齢者が多い病棟や施設では、動ける場合でも、認知症があったりして、手洗いや清潔の指示を守ることが難しかったり徘徊してあちこちさわったりとたいへんです。環境汚染は医療者の努力だけでは解決できません保てません
おむつをはずしてコネコネしたりするひともいます。

そういった、家ではみきれない、急性期病院では長期に受け入れができない高齢者を看ているのは、待遇もよくない、心身ともにきつい介護の現場です。人手もたりてません。

ゼロリスク信仰はかえってシステムを崩壊させるので、病院が「悪い」んじゃね?という議論にもっていくのは逆効果。
もうやめよう、となって廃院になったら困るのは地域の人たちです。

仮に、絶対に感染させるなというなら、「24時間観察・お世話する人」を特定患者限定で準備するしかありません。
そうご提案ください。そして言うからにはその費用も責任をもって確保できるよう動いてください。
それなりの投資が必要ということです。


大阪の病院の場合は、殺人ウイルスと非科学的なタイトルがついています。(スポーツ新聞かとおもいました)
記事を書く記者は、そういったミスリードによって、より弱い立場の人たちが受け入れられなくなる社会的なリスクにも責任をとってくださいね。

韓国の病院みたいに、家族が病院にきて基本的なお世話を24時間しなさい的になったら困る人たくさんいるでしょうね。

[特別寄稿] 平成18年診療報酬改定の中小病院への影響と対策 "明確なビジョン"と"具体的戦略"が不可欠となった中小病院
(2012年7月)

資料;看護職の夜勤の変遷

看護職の人数によって異なる病院の収入

厚生労働省の説明資料:病院の種類と看護職の数と病院の収入

5ページに藤田直久先生による手指衛生チェックの表があります

具体的な対策については、次の記事で図解します。

図はWHOが「このようなときに手指を清潔にしなさい」と提案している内容。
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 1/26 岩手に集合!(東北若... | トップ | 自分や家族が入院(所)する... »
最新の画像もっと見る

毎日いんふぇくしょん(編集部)」カテゴリの最新記事