感染症診療の原則

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お母さんHIV陰性、赤ちゃんHIV陽性

2012-09-05 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
復習です。

HIVの感染源となりうるのは、血液、精液、膣分泌液、母乳。
その他の体液が問題になるのは、血液が混入しているような場合です。

リスクとして、これらが粘膜や傷口から入るようなことがあるか、が検討されます。

質問や相談対応の例
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まずは簡単なところから。

コンドームなしセックスでうつりますか?→うつります。体液→粘膜/傷ですから感染可能性ありです。

握手でうつりますか? →うつりません。あってもせいぜい汗でしょう。汗からはうつりません。血だらけだったら握手はしません。

ちょっと応用編。

フェラチオでうつりますか?:される場合は、相手の口にあるのは唾液ですのでうつりません。ただし、抜歯後等、血液があるかも状態など状況に応じたリスクは検討してください。相手の口から血がタラタラでていたら、通常はフェラチオをしてもらお!とか思いませんよね。
する側の場合、相手の精液が問題になります。飲み込んでも通常は感染しませんが(粘膜に病気はないとして)、口に口内炎があったり、歯茎から血が出やすくなってたりしませんか?を確認。

ちょっと難しいですよ編。

HIV陽性の男性と赤ちゃんを体外受精や人工授精でつくる場合、私(女性)は感染していませんが、赤ちゃんに感染させうるでしょうか?:いいえ、お父さんが感染していても、お母さんが感染していない場合は赤ちゃんには感染しません(受精の段階で)。

じゃあ、女性が感染していなければ、赤ちゃんは感染しませんね?:そのとおりです。感染しません。
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というのが前提で、「お母さんはHIV陰性、赤ちゃんがHIV感染」の場合。

どのような仮説がたつでしょうか?

Goedhals D et al. The tainted milk of human kindness. Lancet 2012;380(9842):702.

2009年9月に、生後74日の赤ちゃんが南アフリカBloemfonteinの病院を受診。
赤ちゃんは必要なワクチン派スケジュール通りにうけており、完全母乳で育っていました。

"bronchopneumonia related respiratory distress. She appeared pale, cyanosed, and had palpable axillary lymph nodes, hepatomegaly, and oropharyngeal candidosis"

検査をしたところ・・・・

"Cytomegalovirus was isolated from a respiratory sample by shell vial culture, and a paired blood sample showed a cytomegalovirus viral load of 12 600 copies per mL."

です。

お母さんの検査は陰性。
この赤ちゃんに時々母乳をあげていた母親の妹(breastfeeding surrogates)とその子ども(生後5か月)がHIV陽性と判明。
DNAシークエンスをしてこの女性からの感染だと確認。

「もらい乳」は昔は日本でも珍しくありませんでした。
(妹さんが感染をしっていたのかどうかはわかりません)

数年前に某大学病院のNICUで「うちではまだもらい乳をして未熟児に与えている。人間の母乳の方がよいとおもって」といわれたことがあります。
感染症の検査などは行われていませんでした(ぎょぎょ)。

こちらは2010年のMMWRに掲載された、子どもに食事を与える際に、先に大人が口の中で柔らかく噛み砕いたりすることでのHIV曝露リスクのレポート。

Premastication of Food by Caregivers of HIV-Exposed Children --- Nine U.S. Sites, 2009--2010
MMWR March 11, 2011 / 60(09);273-275

こちらは、2009年のPediatrics掲載、Practice of feeding premasticated food to infants: a potential risk factor for HIV transmission

3例関連リスクでの感染がある、という報告です。

"The reported cases provide compelling evidence linking premastication to HIV infection, a route of transmission not previously reported that has important global implications including being a possible explanation for some of the reported cases of "late" HIV transmission in infants, so far attributed to breastfeeding"

日本の感染症発生動向調査で、母子感染ではなく、生まれた後に生活の中で感染している子どもの事例は複数あります。

2011年5月のPediatricsでは、HIV陽性の女性が、このリスクをどれくらい認知しているのかを調査した報告がありました。

「お風呂や食事ではうつりませんよー」という日常生活の指導は日本の拠点病院でもしていますが、この口の中に一度入れて、、、の話は一般的ではないような。

Knowledge and practice of prechewing/prewarming food by HIV-infected women

温度をたしかめたり、やわらかくかみくだいたり。日常風景なのでありますが、ここで調べたHIVはもちろん、B型肝炎では当然問題になります。
歯科領域でも、ミュータンス菌mutans streptococciを親から子どもにうつさないように、、という情報も普及しているそうです。

(HIVなどのSTDの場合は子どもの年齢によっては性虐待も検討されます。0歳の被害者も実際にはいるんですが)
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