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日・米・英のHPVワクチン騒動

2011-09-29 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
いろいろ話題のHPVワクチンです~。

日本のHPVワクチンなう;

公費接種対象の人は、明日までに接種しないと3回すべてが無料にはなりません(1回分、あるいは2回分が自費になる)。無料重視、自己負担絶対イヤ!というご家庭には、明日までに来て~情報の広報が必要です。(といっても実際に広報するのは難しい)

・・・「広報が不親切だった。うちが自己負担になったのは広報の悪さのせい!」というクレームは出てくると思います。

今日は国会でHPVワクチンの公費の継続や検診について公明党の松議員が質問。
日本では「緊急」という名のもとに公費予算がついた経緯があります。
2010年1月頃の話題や、裏に何かあるんじゃないの論含めて今でも引き続き話題になっています。

なぜ緊急なのか?はよくわかりません。(不活化ポリオの方がよほど緊急だと思いますが)


<加筆>
各自治体での接種率の数字がではじめていますので、またこれからも話題になっていくでしょう。

イギリスやオーストラリアでは7-8割接種されているようです。
米国は3-4割にとどまっています。
かなりなボリュームの宣伝活動をした割には低い。宣伝活動がかなりだったゆえに、低いという見方もあるかもしれませんが。

HPVワクチンとマーケティング 
Marketing HPV Vaccine JAMA 2009
この記事を日本語で解説をしてくださっている先生のブログ 海螢の昼行燈 -To be determined-


米国のHPVワクチンなう;

カリフォルニア州が12歳以上は保護者の同意がなくても本人の同意で接種可能となり、宗教団体や保守派の団体がクレーム中。
プロチョイス派は、他のことも12歳でOKのものがあるんだから同様に認めていいじゃないかというスタンス(もっとも、副反応がたいしたことない、というデータがあるからでしょうが)。
「なんですと!」と思うなら、これを機に保護者が子どもとよく話し合うようになるんじゃないかと思います。そもそもワクチンへのアクセスはもともと当事者の権利なので、保護者も専門家も、当事者の利益になるような支援・話ができないといけません。

それとは別に、選挙にも絡んだ大きな話題になっています。

CNN Perry on Bachmann's vaccine gaffe: 'No basis in fact'

簡単にいいますと、大統領選にむけた共和党内候補者選び(内部抗争)で、いろいろな罵り合い(?)があるわけですが、HPVワクチンがその話題になっている、という状況です。

バックマン下院議員(右側の女性)は「子宮頸がん予防のためのワクチンは危険」発言をし、まず医師の団体等から「科学的根拠がない」と猛反発を受けてます。

なぜHPVワクチンが話題になったかというと、ライバルのペリー・テキサス州知事(左側の男性)がかつてテキサス州でHPVを必須ワクチンにすることを検討する際に、メルク社から利益供与があったんじゃない?ということで持ち出したのが最初。テキサス州では必須ワクチンにはなってません。(DCとバージニアで必須になりましたが、辞退可能なので「強制接種」というのはデマです)。

実際、ブレーンにはメルク社関係出身の人もいたり、5000ドルの寄付?などもあったと報じられています。全てを検証はできませんが、バックマン議員のほうにはメルク社以外の製薬会社の同様の供与があったという指摘もあります(このあたりは関心ある人は詳細をご確認ください)。

それはさておき。

バックマン議員が(本当にそう思っているのか、吹き込まれただけかわかりませんが)攻撃のプロセスにおいて、HPVワクチンそのものにいろいろケチをつけ、「HPVワクチンで知的発達障害になった症例がある」と発言しました(してしまいました)。

すぐさまAMERICAN ACADEMY OF PEDIATRICS STATEMENT ON HPV VACCINE から、なにいってんだステイトメントが出て、

さらに

生命倫理の専門家らが「そんな症例があるなら提示して。どこのどの症例?本当にいたら1000ドル払おうじゃないか」と挑戦をしかけました。「もし実在したら私がバックマン議員に同額を払いましょう」です。

生命倫理とワクチンはきってもきれない関係があり、根拠のない「デマ」でワクチンや制度そのものを脅かしたりabuseすることは、まさに倫理に反するからですね。
Bioethicist bets against Bachmann's vaccine claims

バックマン議員は、自分のところに寄ってきた女性がそう私にうったえていたので・・・と答えています。が、この症例という情報はあがってきていないそうです。(そう誰かがいってた!こわっ!・・レベルだと議員の発言が匿名twitterなみになってしまいます)


・・・まだこの泥試合は続いています。



英国のHPVワクチンなう;

British Medical Journalに9月27日掲載された、下記の研究は、サーバリックスよりガーダシルのほうが費用対効果がいいじゃないの?です。

Comparing bivalent and quadrivalent human papillomavirus vaccines: economic evaluation based on transmission model BMJ 2011; 343:d5775 2011年9月27日

医学誌の情報からすぐにニュースになるあたりもすごいんですが、もともとサーバリックスが国のワクチンプログラムとして選ばれたのは「安い」という理由でありました(当時価格は非公開)。

Cervical cancer vaccine: NHS choice questioned
BBC 9月28日

すごいな、と思うのは、グラクソスミスクラインが英国に本社のある、つまり自国の産業であるのに、費用対効果は他の国のワクチンの方がすぐれているという話を、国の機関であるHPA(Health Protect Agency)が検討しているところです。

実直に生きる皆様には「あたりまえじゃないですか?」と思われるかもしれませんが、日本のように国内ワクチンメーカーを保護する流れの中で、外国のワクチンはなかなか入れない状況などをみると、「誰のための行政システムか?」が疑問になり、結果として疑心暗鬼の陰謀論などにもつながっていくわけです(この場合、そういう人たちはデマを流しているつもりは毛頭なく、信じているところを語っているだけです)。

NHS(英国の医療システム)によると、サーバリックスはガーダシルより19-35ポンド安いそうです。
実際のNHSの価格リストによると、1回あたり80.50ポンド。
メルクのガーダシルは88.50ポンドとなっています。

今後どうなるのか。感染症関連の話題として注目をし続けたいと思います。
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