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信頼のためのコミュニケーション

2012-11-08 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
メディアの論調は「厚労省の対応が遅い!」といったかんじになっていますが、今回の対応は早かったですね、というのが関係者の間での評価です。

そのように見える、ということはリスクコミュニケーションとしては課題なんですが。

一刻も早く公表しろ、というのは全うなようで、実は不安解消になるのかは疑問です。
そこにある情報判断はできないからです。
それでもなお、米国がしているように、医師以外(当事者、家族、友人でも)からも報告を受付、全部とりあえず「有害事象」としてリストを公開することは、透明度という別の信頼にはつながるのではないかと思います。

米国のこのシステムは結果として、「有害事象なのであって、因果関係のある副反応での問題なのかはこのリストでは分からないのだ」、ということを伝える有効なコミュニケーションとなっています。

その報告リストを見てデータを解釈する際の自己責任も生じます。

社説は大筋は正しく、しかし具体的なところでの視点がずれています。下記引用で太字にしましたが、

報告すべきかどうかは現場の判断以外に何があるのか、です。精度管理には専門家のフィルターは欠かせません。それを疑うようならその国の医療や教育そのものからの議論になります。
現在そのことまで論じないといけないほどの問題がおきているか? そうはおもいません。

それよりは有害事象、副反応、副作用の概念整理や定義の確認を厚労省だけでなく、メディアもするほうが精度が上がるように思います。

「解剖等の検査データ」が何を意味するのかです。
解剖でわかるのは、組織・細胞を肉眼的に/顕微鏡をつかって見るという作業でわかるもの、また細胞を染色液で染めたりして周囲との違いや特定の病原体の関与をうたがうというような事が出来る場合に限られます。

その他の検査も万能ではなく、不整脈など特定の瞬間の問題は、細胞や臓器にその痕跡が残りません。解剖や検査をしても分からない場合があるという前提をまず知るべきですね。

「予防接種制度の信頼性を高めるためには」メディアの報道の在り方をふりかえる社説等も期待したいところです。

今回、医療機関や医師の固有名称まで初期の段階で報道がありました。そういった事に問題はなかったのかというふりかえりは、信頼関係のために大切だと思います。

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東京新聞 11月5日<社説>「脳炎ワクチン 不安に応える説明早く」
(中略)
 ただ、接種を続ける判断だけ示されても親たちの不安が消えるわけではない。
 今回、十月の死亡例が判明後に七月の事例が公表された。子どもが亡くなっているのだ。親はその状況やワクチンの危険性などを具体的にすぐに知りたい。厚労省の対応は後手に回った。
 今後は情報をより早く集め、死亡例などはすぐに調べ、検証を行う専門家の検討会を年一回から三回に増やす改善を表明した。対応は遅すぎたくらいだ。同時に検証結果の丁寧な説明も欠かせない。
 情報の集め方にも課題がある。報告すべき副作用情報かどうかの判断は現場に任されている。確実な収集の仕組みにも知恵を絞るべきだ。解剖などの検査データも不十分な場合があり、検証の精度を上げる努力が要る。
 現場の医師も十分な問診を心掛け、受ける側も子どもの状態を説明する責任がある。接種時の注意点は母子健康手帳に記載がある。活用してほしい。
 予防接種制度の信頼性を高めるには、正確な情報を早く公表し国民と共有することが前提だ。
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10月30日の委員会では、有害事象と副反応の整理や、情報把握システムの改善について委員から提案があり、事務局としても検討するという回答でしたので、次の会議ではもう少し具体的な話が出てくるのだろうと期待しています。
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