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恐怖喚起ビジネスと感染症

2010-07-17 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
一般の方からの質問に、日常生活でアルコール消毒などはどの程度必要なのか? というものがあり、これは病棟や外来で実際に聞かれる質問なので、お題にしてみようとおもいました。

結論から言うと「いらない」です。

買わなきゃいけない、使わなきゃいけないようなメッセージを社会にだしているのは、医師や専門家ではなく、それを売りたい人たちではないか?と気づくことは重要だとおもいます。

これは「恐怖ビジネス」の一つです。

リスクにあなたは騙される―「恐怖」を操る論理
ダン・ガードナー,Dan Gardner
早川書房

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販売促進を考える人たちの研修にはちゃんと入っています。
「説得的コミュニケーションと恐怖喚起コミュニケーション」
http://www.marken.co.jp/training/promotion/consumer.shtml

TVコマーシャルには部屋のカーテンやカーペットにシュシュっとやるための製品もありますね。
それがなかった時代と、今で、何か健康問題がかわっているでしょうか?
(その前にマメに掃除・洗濯しろよ、無料だぜ、などとはいいません。儲かりませんから)

そういったものを使っているご家庭と、使わないご家庭で家族や子どもが1年間に健康問題を起こすようなイベントがおきているかということを考えてみるとわかりやすいです。

そういったことに無頓着、いえ、おおらかそうなお母さんのお子さんたちが病院に駆け込む率が高いというような調査報告も見たことがありません。

(逆に、免疫は精神状態の影響をとても受けますので、いつもピリピリ、あれだめこれだめ、きーーーっ!となるような状況に保護者や子どもがなってしまうほうが健康管理上はよくないのではないかと思います)

実は。感染症の知識の豊富な医療者を見渡してみると、私生活で一般の人と異なるような対策をとっているわけではありません。日常生活にそこまでリスク、そして「根拠」がありません。
食事の前も「あれ、先生、手洗わないの?」と思ったり、ポケットから出てくるくちゃくちゃのハンカチは「いつかえたんだろう」と疑念さえわきます。
(←編集長がそうです。手とハンカチを洗うことは無料ですから、努力しましょう)

もちろん職場(病院)では念入りな手洗い、刷り込みアルコール製剤も使っていますよ。

そこには最初から薬が効かないかもしれない病原体がいる確率が高く、感染したら重症化しそうな病気の人がいて、日常的にはしないような接触・体液等に接するリスクがあるからです。


一般の人で、他の人より熱心に感染対策を考えているひとたちがいます。病気について自己管理するうえで、重要なこととして感染症のことを学んだひとたちですね。
(本当はカテゴリー別に書くべきなのですが、ここではざっと書き並べます)

◆先天性免疫不全(うまれつき)
◆後天性免疫不全(ウイルス感染でなる)
◆臓器移植をして免疫抑制剤を使い続けなくてはならない
◆抗がん剤を使用しており、感染注意
◆持病の治療で、ステロイド剤を使い続けている
◆糖尿病がある
◆人工透析をしている など
でも、アルコール製剤を持ち歩いてマメに使いなさいなどという指導を聞いたことはありません。
(何かを買っていただく場合にはそれなりの根拠がいります)


ところで。アルコール製剤だけでなく、抗菌ボールペン、抗菌まな板、抗菌●●という商売も盛んです。 

インフルエンザのマスク騒動のとき、外国のメディアは「パラノイア(偏執狂)」と表現していました。

マスクにキーーッとなる割には、コンドームを使えてない(感染症にもなるし、何があってもおかしくない妊娠を予定外でするなんて怖い)。
効果のない(使っても使わなくても結果はかわらない)抗菌グッズを買うのに、生魚、生肉、生卵を食べ、予防接種も終わっていない0-1歳児を東●ディズニーランドやデパートなどに連れ歩くリスクはあまり重視されていない。
ほぼすべての「がん」のリスクにつながる喫煙には寛容的。

これを海外の社会学者や人類学者は面白がり、感染症の専門家は苦笑しています。
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1 コメント

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有難うございました (のあのあ)
2010-07-19 01:26:58
早速ご回答頂き有難うございました。
ああ、所謂恐怖ビジネスにハマった口なんですね。お陰で、押し入れには昨年のマスクやアルコール消毒薬や備蓄品の数々が大量に・・。(二週間は篭城できますよV(^-^)V)
なんだか、肩の荷が下りてきました。でも マスコミや販売側としては、秋口からまた意味のない煽りの体制になるんでしょうね。憂鬱です。咳エチケットやくしゃみエチケットなど ウイルスをなるだけ他人へ拡げない努力を徹底周知して欲しいです。ウイルスを拡げない為に必要な肝心な 衛生知識が 浸透していない(年齢が高くなるほど)と 感じた昨年の冬でした。話は逸れましたが、素早いご回答に感謝いたしております。有難うございました。
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