感染症診療の原則

研修医&指導医、感染症loveコメディカルのための感染症情報交差点
(リンクはご自由にどうぞ)

MERS-CoV 日本のシナリオ(どのような備えがいるか考えるために)

2015-06-02 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
昨日は日本語のMERS情報をみていたら、いくつもの自治体でMARSと書いてあることに気づきました。
SARSと似たようなもの?と思うと、ついAをタイプしてしまいそうですね。

複数あったので連絡していませんが、皆さんの地域の行政や保健所のHPの記事が古かったら教えてあげてください(^^)。

お問い合わせ情報で多いのは
 
報道関係「変異した恐怖のウイルスになったんでしょうか?」 →あとからわかることです

    「日本でちゃんと診断できるんですかねえ」     
           →診断はできますが、検査を出すためにうたがえるか
            そもそも鼻水とのどが痛いだけ(軽症者)の人は病院にきませんから把握できません


医療関係者「で?私たちは今なにすればいいんですか?」
           →渡航歴、症状(症候群)情報をもとに初期対応のactivationができるのか
            皆で再確認。「MERS対応」「エボラ対応」と固有名詞でやると抜けが生じます。


一般の方「韓国旅行はやめたほうがいいでしょうか?」
           →韓国全土で流行しているわけではないのでやめる理由はないとおもいます。心配で、今急いでいかなくてもいいなら時期をずらすとか工夫はあります。

です。

また、このような怖い怖いフェーズニュースを見た一部の人が

「となりに韓国語をしゃべる人がいて、その人のしぶきがかかったかもしれないのですが、2メートルの距離でしたけどだいじょうぶでしょうか。その人は咳もしていました。今朝私の体温は37.2℃です。MERSの検査してもらえますか?」

といった相談をしてくる時期でもあります。

(エボラのときも、となりにいたアフリカの人のおしっこが跳ねてズボンについたんですけれども、、という
相談はありましたし、エイズのときも、痩せたブツブツのある人がさわったつり革にうっかりさわってしまったんですけれども、、という相談がありました)


必要な感染対策と、コミュニケーション部門での介入と両方しなくてはいけないですね。

速報レポートは韓国語なので、英語、日本語、その他自分が知っている言語に機械翻訳をかけて、さらにその逆をやり、キーワードがあっているか単語の確認を個別にする、、というような作業をして情報を得ることが必要です。
日本で起きた場合も、日本語だけで情報を出していくと世界が困りますので英語発信が課題であると痛感します。


さて。今回のメディア情報の中から、韓国ではなく日本だったらどうなるかシミュレーションをし、必要な対策を考えたいと思います。


【以下はもちろんフィクションです】

Aさんが中東にいきます。

中東にいる間にラクダとキスしたりはしてほしくないですが、病院にいったり、症状が軽いMERS-CoV感染者と接触してウイルスに感染してしまうことはあります。
サウジアラビアは1000例を超え、毎日数人報告があり、また、オマーンなど日本人の多くにはなじみのない(それがどこにあるか地図ですぐうかばない)国名でもぽつぽつ報告があります。

感染流行があるから報告される、というのと、検査体制が整っているから把握される、受診バリアが低いか高いかが影響するので実際の流行規模は不明です。この先もわからないとおもいます。

体調が悪くない人は受診しませんので。

さて。Aさん、帰国することになりました。飛行機に乗る時は元気。まだ感染したてほやほや。

帰国してから体調が悪くなり、家でがんばっていましたが、家族につきそわれ近所のクリニックを受診。
そこでは薬をもらって帰ります。
このとき渡航歴は聞かれていません。


しかしなかなかよくならないので少し大きな病院の救急外来受診、肺炎だから入院ねといわれます。

入院するときに、スタッフに「個室にしますか?」ときかれましたが、部屋代が1万円余計にかかるといわれたので大部屋を希望しました。この病院では肺炎の患者さんは必ずしも個室ではありません。

Aさんは4人部屋に入ることになりました。最初は元気だったので、病棟内フリー歩行でした。
トイレや浴室、食事ルームなどで入院している人や家族と話しをしていました。

そうこうするうちに体調が悪化し、上級医が救急外来受診時の「B国訪問」に気づきます。
「中東から帰ってきたのか、、、Bってどんな国だろう?でもでもラクダ観光もしているとはかぎらないし医療従事者でもないし。こういうときはどうするのがいいのかな。そのうち保健所の知り合いに聞いてみよう」

ここで週末がはいったので、その日から3日後に保健所に電話をしました。

大学時代の友人の医師はMERSを含め再度検査を検討してはどうかとすすめます。

この病院には感染管理の訓練を受けた人がおらず、いわゆる標準予防策的なことも徹底がされていないことに上級医は問題を感じていました。
近くの感染管理看護師に来てもらい、病棟での対応をとりいそぎ整備しました。


発症から9日目にMERSが陽性となり、保健所が接触者調査を開始します。

しかし、前の日のことは覚えていても数日前にさかのぼって誰が何時にどこにいたかということを思い出せる人は限られていました。入院している人は高齢だったり記憶があいまいです。


最近の病院は入り口で面会者チェックをし、連絡先も記録していますが、この病院はバッチを渡しますが、誰がいつどの病棟に出入りしているか、来たのは誰かを把握していませんでした。

「困った・・・」

そうこうしているうちに報道発表されることがわかりスタッフに緊張が走ります。

接触したスタッフから、明日も仕事をしていいのか?と質問が出たので看護部長と相談をはじめました。

(数日後)

この病院で複数の感染者が出たため、病院は一時閉鎖を決めました。

再開の日のために、何をすればいいのかを考え始めました。


「帰国する際の機内で、体調不良時は病院にまず電話をして渡航歴を告げるよう画面表示やアナウンスをしてみてはどうか」国際線の飛行機会社にもメールしてみました。

保健所と相談し、医師会と一緒に「渡航歴のある症例への初期対応」という勉強会を企画しました。

病院の問診票と電子カルテのアセスメント項目に渡航歴を追加しました。

海外渡航歴がある感染症(うたがい)が入院する場合の初期対応を決め、ICTに連絡をしてもらうような仕組みを導入しました。

外来には「最近海外にでかけた人はスタッフにお伝えください」とポスターを張りました。

年に2回の院内の感染症対策の勉強会に、海外で流行する感染症への備えを企画することにしました。

(つづく)

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 韓国のMERSと米国のラッサ熱 | トップ | 2015年度 若セミ 第1回5月29... »
最新の画像もっと見る

毎日いんふぇくしょん(編集部)」カテゴリの最新記事