語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】米国のキリスト教的価値観、サイバー戦争論、日本会議

2017年01月19日 | ●佐藤優
   
 ①木谷佳楠『アメリカ映画とキリスト教120年の関係史』(キリスト新聞社 1,600円)
 ②伊藤寛『サイバー戦争論 ナショナルセキュリティの現在』(原書房 2,500円)
 ③菅野完『日本会議をめぐる四つの対話』(K&Kプレス 1,500円)

 (1)①は、米国におけるキリスト教の性格について掘り下げた傑作だ。人工的な米国社会では、米国人という概念は自明ではない。米国人である(being)ということではなく、米国人になる(becoming)という生成過程が終わることなく続いている。その過程に米国型キリスト教が組み入れられていることを木谷氏(同志社大学神学部助教)は、この作品の中で見事に描いている。
 <アメリカ独自のキリスト教的価値観の影響を強く受けた映画を、これまで日本の観客も無批判に受け入れてきたという点である。2050年以内に終末が訪れることを、5人中ふたりが信じている国で作られた映画を、我々は単なる娯楽として消費し続けているのである。日本の観客が無自覚的にアメリカ的価値観と同調し、アメリカ映画によって繰り返し提示される善悪二元論や終末観、そしてアメリカン・ヒーローに代表されるメシア観を取り込んでいる可能性は否定できない>
 この指摘は、神学的な訓練を本格的に受けた人にしかできない。

 (2)②は、経済産業省のサイバー対策審議官を務める著者による優れた教科書だ。
 <サイバー技術は基本的に、どんな貧乏な国でも危険なサイバー技術を保有することは可能であるし、そもそもソフトウェア関連のものが多いので、その技術は隠そうと思えば隠せる。たとえ査察により疑わしいソフトウェアを見つけても民間技術との差異がほとんどないのだ>
 著者はこう指摘するが、サイバー攻撃の挙証はとても難しい。

 (3)③は、日本会議の実態を解明しようとする意欲的な作品だ。対談者の一人である魚住昭氏(日本会議を詳しく取材したことがある)の次のような発言が事柄の本質を突いている。
 <僕はみんなが日本会議に注目してくれるのは嬉しいんだけれども、嬉しい反面、危険だなとも思っているんです。日本会議がクローズアップされればされるほど、逆に実体より大きく見せちゃうんですよ。今までみんなが知らなかったことに光を当てることは大事なことなんだけれども、それをあまり強調しすぎると、彼らの思うつぼになっちゃうんですよね。菅野さんも、日本会議はフロント団体をたくさん作って、あたかも自分たちの勢力が巨大であるかのような演出をしているという意味のことを書いていますよね。その戦略に乗ってしまってはまずいなと思うんです>
 現在、マスメディアにおいて日本会議の安倍政権に与える影響が、実体よりもはるかに大きく映っている。

□佐藤優「米国のキリスト教的価値観 ~知を磨く読書 第182回~」(「週刊ダイヤモンド」2017年1月21日号)
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