MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

安楽死先進国の実状

2012-04-08 00:12:07 | 健康・病気

安楽死先進国として知られるオランダで
死の権利の強い要求がさらに進んでいる。
果たしてこれが正しい道なのだろうか?

4月2日付 New York Times 電子版

Push for the Right to Die Grows in the Netherlands 死ぬ権利の強い要求がオランダで高まる

Euthanasia
アムステルダムにて:安楽死権利擁護団体 Right to Die-NL の代表を務めている Petra de Jong 医師

By DAVID JOLLY
 アムステルダム発:1989年のことである。オランダの呼吸内科医 Petra de Jong 医師はある終末期の患者から協力を求められた。その男性は気管の大きな癌性の腫瘍でひどい疼痛に苦しんでいた。彼は自らの人生を終わらせたかったのである。
 彼女はその男性に対して強力なバルビツレートであるペントバルビタールを投与した。が、十分ではなかった。死亡までに9時間もかかってしまった。
 「不適切な対応をしたと今思っています」de Jong 医師(58)は彼女の診察室でのインタビューで述べた。「今ならグーグルでそれを調べることができるでしょうが、当時はわからなかったのです」
 彼女の温かく誠実な態度は彼女の強い思いにはそぐわないようでもあるが、恐らくむしろそれを実証しているのだろう。亡くなったその男性は、現在安楽死権利擁護団体 Right to Die-NL  の代表を務めている de Jong 医師が“尊厳死 dignified death”と呼ぶものを確保するために支援してきた16人の患者の最初の一人だった。
 1973年に設立された Right to Die-NL は、安楽死がオランダ国内で広く受け入れられるようにする運動の先頭に立ってきたが、オランダ以外の国ではいまだその実践には大いに議論の余地が残されている。世論調査によると、オランダ国民の圧倒的多数が、希望する患者には安楽死は認められるべきであると考えており、毎年数千人が公式に安楽死を要請している。
 12万4千人の会員を擁する Right to Die-NL によって患者が在宅で死ぬのを手伝う安楽死の移動チームが創設されたというニュースが3月初旬に世界的な見出しを飾った。さらに同団体は、疾病があろうとなかろうと70才以上の誰にでも安楽死が行えるようにする法制化を求めて議論を呼んだ。
 これまでに100以上の要請がこの移動サービスに寄せられたと de Jong 医師は言う。そのうち数例が評価の対象となり、1例に実際に安楽死が施行された。
 幇助自殺の支持者も批判者もこの組織の活動に注目している。2月、ペンシルベニア出身の共和党大統領候補 Rick Santorum 氏が、オランダでは安楽死が全死亡の5%を占めており、多くの高齢のオランダ人は『私を安楽死させないで』と書かられたリストバンドを身につけているという誤った発言をし、ちょっとした騒動を起こしている。オランダ当局はすぐさまこの発言に反論した。
 「国際的にオランダ人は、多大な苦痛にあるとき、いつどのように死ぬかを人が選べるようにするという知恵と、死を迎えることにおける思いやりの心性との両面から会話を推し進めてきました」と、Atlanta にある Emory University の Center for Ethics の所長 Paul Root Wolpe 氏は言う。
 オランダの2002年の Termination of Life on Request and Assisted Suicide Act(要請による生命の終結および自殺幇助法)の下では、医師たちは、一定のガイドラインを順守している限りにおいて刑事訴追を恐れることなく患者の死にたいという要請を聞き入れることができる。この要請は、耐えがたい持続的な苦痛に苦しんでいる理解力のある患者によって自発的に行われなければならない。また医師たちは、そのケースが必要な条件を満たしていることを、他の利害関係のない医師から書面による確認を得なければならず、また、そのようなすべての死は評価を受けるために当局に報告する義務がある。
 de Jong 医師によると、オランダの医師は一般にバルビツレートを注射し、続いてクラーレなどの強力な筋弛緩薬を投与して患者を安楽死させるのだという。幇助自殺の場合には、医師は嘔吐を予防する薬剤を処方し、続いて致死量のバルビツレートを投与する。
 Royal Dutch Medical Association(王立オランダ医師会)によると、そのような死亡のほぼ80%は患者の自宅で行われるという。最も新しいデータが入手できている 2010年には、『要請に基づく生命の終結』の届け出例として3,136件が医師から報告されている。重篤な疾病(一般には末期がん)が大多数例のベースにある。
 同医師会の政策顧問 Eric van Wijlick 氏によると、安楽死はオランダの年間死亡数の約2%を占めているという。
 通常、安楽死は同国の国民皆保険制度の基幹的役割を果たしている一般開業医によって行われる。彼らはしばしば患者と長い関係を築いており、患者の気持ちを良く理解している。『私たちが持つ穏やかで隠し事をしないオランダの風土と、異なる観点を尊重する気風』ゆえに安楽死法が実現可能となったと van Wijlick 氏は言い、他の地域では実施は難しかっただろうと考えている。というのも、オランダでは誰もが自由に医療、所得ならびに住居を手に入れることができるからである。
 「安楽死の要請には経済的な理由はありません」と彼は言う。営利目的の医療制度を持つ米国には当てはまらないようだ。
 移動チームが必要となるのは、道徳的な理由、あるいは恐らく法律に関する不確実性の理由から、時期が遅れてしまって新たな医師を見つけることができなくなった場合、多くの一般開業医は、苦しむ患者の死を手伝うことを拒否するからである、と de Jong 医師は言う。
 仮想の転移性前立腺がんの82才の男性が安楽死を行う資格のない主治医から予後不良であることを告げられた場合を考えてみよう。この男性が Right to Die-NL の新しい“人生を終わらせるクリニック”に連絡をとり、もし彼が基準を満たすようであれば、医師と看護師は評価するために彼の自宅に出向くことになる。もしすべての条件が合致すれば、理想的には彼の傍らに家族がいる場面で、安楽死を迎えることができる。
 ただし初回の訪問で患者に安楽死が行われることは決してないと de Jong 医師は強調する。なぜなら、同法では別の医師に意見を求めることを要件としているからである。
 オランダ国内でも、目下 Right to Die-NL が行き過ぎであると考える人もいる。同組織は、移動チームに加えて、70才以上のすべての人に対して、たとえ彼らが末期疾患に罹っていない場合でも死の幇助を受ける権利が与えられることを推し進める立場に立っている。(ただし Mark Rutte 首相の保守的な現政権は、任期中には法律の変更はないと述べている)
 「高齢者の中には人生に苦しんでいる人もいると考えています」と de Jong 医師は言う。「医療技術があまりにも進歩したため、人はどんどん長生きをするようになり、『十分なのはもうたくさんだ』と言う人もいるのです」
 王立オランダ医師会は例の移動チームには“懸念を持っている”と Wijlick 氏は言う。というのも、「安楽死の問題は患者のケアの隔絶と切り離すべきではない」からである。そもそも患者のケアは主介護者や一般開業医の管理下にあるべきものなのだ。
 たいていの場合、医師には安楽死を拒否する正当な理由があると、彼は付け加える。しばしば、患者の状況が法律に規定される基準を満たしていないと医師は考えるのである。
 同医師会はまた、『人生に苦しんでいる』人たちに対する安楽死にも反対している。「どんな場合にも医学的疾患が存在するべきです」と van Wijlick 氏は言う。それでも、そのようなケースでは患者に食事や飲み物をどのように拒絶すべきか医師は説明できるし、必然的に伴ってくるあらゆる苦痛に対して助力できる。
 6万6千人の会員を持つキリスト教徒の団体であるオランダの患者組織 N.P.V. は、現在のこの法の正当性を強く批判している。安楽死の適応範囲が拡大され、死の援助を要請する能力が本質的にないと思われる認知症やその他の疾患の患者までが包含されるようになってきたと指摘する。
 N.P.V. のスポークスマン Elise van Hoek-Burgerhart 氏は e-mail で、安楽死移動チームの考え方は“とんでもないこと”であり、移動チームの医師がわずか数日で患者のことを理解できるはずがないと述べている。さらに、高齢者からの安楽死の要請の10%は、もし緩和ケアが改善されていれば存在しないということが研究で示されていると、彼女は付け加えた。
 さらに彼女の指摘によると、同法は検証委員会に安楽死のすべての報告例の承認を求めているが、2010年以降の469例はいまだ検証を受けておらず、このことは医師たちによって公式のガイドラインがいかに適正に順守されているかが明らかになっていないという事実を示している。
 前出の Emory University の生命倫理学者である Wolpe 医師は、人々が自身の死を選択する権利を“概ね支持している”ものの、身体的に苦痛のない人たちにまで安楽死を拡大するなどオランダにおける最近の趨勢には懸念を示しているという。
 「純粋に生理的な基準から一連の心理的な基準に切り替えることは、乱用と誤用への扉を開くことになるのです」と彼は言う。

オランダは2002年4月、
スイスに次いで安楽死を合法化した。
安楽死が容認されるのは、がん末期の耐えがたい激痛に
苦しむ患者が大部分であるようだが、
認知症やうつ病などの患者の安楽死を希望する意思に
どう対処すべきかはいまだ議論の多いところである。
また現在のところ“自殺幇助法”は可決されていないようだ。
記事中最後にあるように、安楽死容認の基準を
身体的疾病から精神的疾病に拡大することは
相当に危険な要素をはらんでいると言えそうだ。
一方、我が国においては、安楽死問題の議論は
一向に進んでいないように思われる。
現状では、日本での安楽死の合法化など
夢のまた夢のような話である。
とはいえ、少なくともがん末期患者の安楽死については
早急に積極的な議論を進めていただきたいものである。
ただし、不十分な議論のままに合理主義が先行すれば、
超高齢化が進む日本、
今後若い人たちが高齢者を支えきれなくなったとき
高齢者が人生の(!)進退を自身で決断すべき局面が
訪れないとも限らない。
非常に恐ろしいことである。
高齢者をそんな気持ちにさせるような社会にならないことを
願うばかりである。

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