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 先日の「密告義務法」をめぐる採決では民主党の対応に落胆した(『民主党は本気で密告義務法に賛成なのか』)が、多少の意地と悔しさをバネにして調べてみるとアンチ・マネーロンダリング・システムを開発している多国籍企業の姿も見えてきて、私たちも単なる「反監視社会」的な言説だけでは、事態の本質を見失う場合もあるかと思うようになってきた。古典的な権力とは、軍人や官僚であり、また財閥の有力者などの複合体であった。ところが、「9・11」事件以後、反テロ・反マネーロンダリングの旗印のもとに続いている密告監視社会化のグローバルな動きは、ITコンサルタントやエンジニアたちの開発した万人監視型テクノロジーの技術水準がビジネスゾーンを牽引し、市場で販売される商品を待ち受けるような立法環境が整備されるという傾向がある。

より、噛み砕いて言えば、政府や官僚の政策判断の背後には、多国籍企業のITコンサルタントがお膳立てをして商売を始めるためにスタンバイしているという構造だ。たとえば、金融庁が「金融機関における疑わしい取り引き」の事例を挙げているが、あまりにありふれた形態であることに、いささか驚く。もう一度、復習してみよう。

金融庁HPより
疑わしい取引の参考事例(預金取扱い金融機関)

・住所と異なる連絡先にキャッシュカード等の送付を希望する顧客又は通知を不要とする顧客に係る口座を使用した入出金。
・多数の口座を保有していることが判明した顧客に係る口座を使用した入出金。屋号付名義等を利用して異なる名義で多数の口座を保有している顧客の場合を含む。

(筆者コメント→住民票上の住所ではなく事業所にカードを送ってくれと依頼する自営業者。また、屋号を使用して事業別・仕入れ別に通帳を保持している小売業者などが該当するのではないか。

・多額の入出金が頻繁に行われる口座に係る取引。
・多数の者から頻繁に送金を受ける口座に係る取引。特に、送金を受けた直後に当該口座から多額の送金又は出金を行う場合。
・通常は資金の動きがないにもかかわらず、突如多額の入出金が行われる口座に係る取引。

(筆者コメント→政治家や閣僚の政治団体が開設した通帳も該当するものがあるのではないか。また、自然災害に緊急支援カンパを集めるようNGOが開設した口座や、 オーケストラ公演を企画して呼びかけ人で賛同金を募る実行委員会の開設した口座も該当すると思われる。

 これは、コンピューターで自動的にフィルタリング(抽出)するための条件ではないかと想像して調べてみると、やはり「アンチ・マネーロンダリング・システム」なるものが開発されていた。4年前の業界紙にはこんな記事がある。オランダのシステム会社の日本法人ジェトロニクス(東京・目黒)は不正な送金など資金洗浄(マネーロンダリング)取引を自動検知する新システムを金融機関向けに販売する。日本語の要注意リストにも初めて対応するのが特徴で、日本の金融機関の需要も大きいとみている」(03年7月15日『日経金融』)

 ジェトロニクスのHPをみると、『総合アンチ・マネーロンダリング・ソリューション戦略』プランが3月23日付で公表されている。以下の3点を盛り込んだものだ。

1. フィルタリング:当局や金融機関で定める「ブラックリスト」と取引明細を照合し、疑わしい取引先の監視を行う
2. プロファイリング:過去の取引の履歴を蓄積し、その傾向分析から通常と異なる「疑わしい取引」を検知する
3. KYC:顧客の本人確認を含めた身元確認に必要な情報の管理と、マネーロンダリングのリスク値を分析・評価する

この国会で成立した犯罪収益移転防止法で金融庁から警察庁に移管される日本版FIUの要求する「疑わしい取引」の届け出義務に対応するように、すでに準備が始まっていることがわかる。

 ネット上で興味深い記事を発見した。『導入進むマネーロンダリング対策ソフト・一般人も監視対象に』というものだ。この記事によれば、「2005年から2008年までの間に、米国の各銀行ではマネーロンダリング対策用のソフトウェアやハードウェア、及びメンテナンスなどの法律遵守関連分野に約147億ドルを費やす見込みだという。同じ時期に、ヨーロッパやアジアの金融機関も116億ドル以上を投じると予想されている。セレント社によれば、06年までに米国の大手金融機関の94%がマネーロンダリング対策技術を導入しているはずだという」

 さらに引用を続ける。「今後は、世界中の政府が銀行の顧客を監視する。このソフトによって監視可能な口座や取引は膨大な数にのぼり、たとえ一般人としか思えない場合でも、あらゆる人が監視の対象になる。当然ながらマネーロンダリングだけでなく、脱税をはじめとしたすべての違法行為について、隠すのは難しくなるだろう」(引用終わり)

 マネーロンダリング防止のために、金融機関に米国並のAMLソフトを導入すると、疑わしい取引だけが抽出され監視されるのではない。全国民の金融取引が政府によって把握され、副次的に脱税なども摘発されうるとする。問題は、こうした監視網がどのように使われているかをチェックする機関が不在だということにある。

国会で議論が尽くされたとは言い難い。衆議院を超特急で通過した犯罪収益移転防止法は、参議院でわずか2日間、5・5時間の審議の後に3月29日の参議院本会議で成立をしている。金融機関以外にも、宅建業者をはじめとした他業種に規制が及んでいるが、「アンチ・マネーロンダリング・シテスム」の網に引っかかった口座は、今後15年は継続して監視されることになり、法的に何の問題もない口座であっても、外国の捜査機関からの照会で提出されてしまうことになる。(続く)






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