たった15分の質疑のために15時間以上を費やして調査を行った結果、多くの問題点が密告義務法(犯罪収益移転防止法案)に浮かび上がってきた。金融庁は、組織的犯罪処罰法の施行後に、特定金融情報室を設けて「特定金融情報システム」を富士通に依頼して開発してきた。その開発費は99年からの9年間で開発費3億6900万円・維持経費1億9400万円で計5億6300万円である。開発費を入れても年間6255万円の費用を要してきた同システムは、警察庁に移管されるや否やたった1年間で今年度予算で8億円(開発費7億円)を要求している。いったい何に使うのか。
現在、金融機関から金融庁に寄せられた『疑わしい取引』は平成18年度で11万3860件で、うち捜査機関に提供されたのは7万1241件。そして、犯罪と認められ事件化したのが50件という実態となっている。さて、『疑わしい取引』とはどのような取引なのか。金融庁の特定金融情報室のホームページにその実例が書かれている。少し引用してみよう。
疑わしい取引の参考事例(預金取扱い金融機関)
・住所と異なる連絡先にキャッシュカード等の送付を希望する顧客又は通知を不要とする顧客に係る口座を使用した入出金。
・多数の口座を保有していることが判明した顧客に係る口座を使用した入出金。屋号付名義等を利用して異なる名義で多数の口座を保有している顧客の場合を含む。
(筆者コメント→住民票上の住所ではなく事業所にカードを送ってくれと依頼する自営業者。また、屋号を使用して事業別・仕入れ別に通帳を保持している小売業者などが該当するのではないか。
・多額の入出金が頻繁に行われる口座に係る取引。
・多数の者から頻繁に送金を受ける口座に係る取引。特に、送金を受けた直後に当該口座から多額の送金又は出金を行う場合。
・通常は資金の動きがないにもかかわらず、突如多額の入出金が行われる口座に係る取引。
(筆者コメント→政治家や閣僚の政治団体が開設した通帳も該当するものがあるのではないか。また、自然災害に緊急支援カンパを集めるようNGOが開設した口座や、 オーケストラ公演を企画して呼びかけ人で賛同金を募る実行委員会の開設した口座も該当すると思われる。
問題は、『疑わしい取引』の届け出件数が平成15年から急上昇(平成14年18,768件→15年43,768件→16年95,315件→17年98,935件→18年113,860件)していることになる。おそらく急上昇した理由は、アンチ・マネーロンダリング・ソフトの開発と関係があるのではないかと推測している。金融庁の求めるところに従って、金融機関は一定の条件を掛け合わせて、膨大な口座取引の中から『疑わしい取引』を抽出していることと思われる。早い話、コンピュータが金融機関の口座を自動的にフィルタリングしますよという仕組みの導入だ。(これから詳しく調査するが、正確な情報を持っている人は教えてほしい)
金融庁のデータは15年消さないと答弁した。今回、警察庁へのデータベース移管にあたって、『疑わしい取引』として届けられたが、捜査機関には提供されなかったデータも含めて丸ごと監視対象になる。しかも、今回の法案では第12条で「外国の捜査機関」から照会がある時には、「政治犯でない」「国際約束で例外化されるもの」「国内法で処罰されないもの」「相手国が同様の要請に応じないこと」を除外事項にしてて、法務・外務両大臣との協議の下に提出するとの規定がある。これは、入管法にも同様の規定があり、昨年の春に杉浦法務大臣が「自動化ゲート」と採取している日本人の指紋や顔写真も原則提供すると明言している通りの扱いとなるようだ。
犯罪とは何の関係もない口座取引のデータは、警察庁の構築するデータベースで、「犯歴」「薬物」「暴力団」「銃器」「運転者リスト」などのブラックリストデータと照合される予定だ。多くの人々は問題なしとなるが、外国の捜査機関が求める時には原則的に提出されるというのだから穏やかでない。マネロン・テロ対策の名目の下で、私たちは知らない間に被疑者となり、シロであっても長期間にわたって監視され、海外に情報提供されるかもしれないという時代を迎えている。しかも、そのデータが漏洩したり、間違ったものであったとしても、国民や事業者の側からは確認のしようがない。
今日の質疑で、法務委員会からの質問者は厳しく追及したが、明日の採決で民主党は賛成することに決まっていると聞いた。明らかに審議不十分である。8億円の予算の使い道ももっと問わなければならない。しかし、15分の質問時間は終わってしまった。民主党そして、今回は除外された日弁連もしっかりと態度表明をしてほしい。超特急でこんな法案を通してしまうなら、野党の存在価値はない。

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