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このブログで警鐘を鳴らしてきた『児童買春・児童ポルノ禁止法』の行方だが、社民党が慎重姿勢を取ってきたこともあって、先の臨時国会では「議論なしの成立」は回避された。しかし、このテーマで掘り下げなければいけない論点はまだあると思う。誰が見ても明確な「児童ポルノ」であれば、厳しい規制をするのは仕方がないと思うが、何度も指摘しているように「どこまでが児童ポルノなのか」という境界線が現在でも、そして自民・民主の改正案でも曖昧だ。6月から7月にかけて、私は『どこどこ日記』で当時の与党提出者の葉梨議員との議論に率直な驚きを記述した。少し長いが、紹介しておきたい。

『Santa Fe』を1年間で処分すべしとする与党案に驚く (2009年06月26日)

児童ポルノ禁止法案の審議が始まった。率直に言って、予想以上にスゴイ内容が与党から提案されていることを、あらためて思い知った。篠山紀信さんが宮沢りえさんを撮影した「Santa Fe」(1991年朝日出版社)が午前中の審議から例として出された。与党提案者の葉梨議員は、「内容を見ていないからわからないが」と前置きしながら、児童ポルノの要件を満たしているのであれば、「1年以内に処分された方がいいと思う」と述べた。すなわち、今回の与党案で児童ポルノの「単純所持」を犯罪化することで、1年の猶予を与えるからその間に該当するものは大手出版社から出た著名な写真家の写真集だろうが、廃棄するなり処分するのがよい……という見解を述べたのだ。与党案が通過すれば、出版社は「児童ポルノと疑われる過去の出版物」の在庫を大量に廃棄し、古本屋さんは過去に出版された『平凡パンチ』『プレイボーイ』『GORO』などの雑誌のバックナンバーが陳列されていれば、さっさと廃棄処分しなければならない。また、一般人も与党案成立後、1年をかけて「違法な児童ポルノと疑われる写真集の類は廃棄するなど処分を急いでください」との呼びかけを受け、古くなった本棚を点検しなければならないという事態が起きないとも限らない。

 これこそ、本末転倒の話である。マスコミの注目を集めていたアグネス・チャンさんは、タイのチェンマイでビルマ(ミャンマー)から売られてきた子どもたちが、いかに酷い扱いを受けているのか、また、いかに買春をされて写真を撮られているのか、その苦痛に満ちた訴えを情感を持って語った。マスコミでは、そのシーンが映し出されるだろう。「私(保坂)も、チェンマイ・チェンライに行って児童売春の影の組織に誘拐されたり、売られてしまった子どもたちを救出している施設に行き、子どものたちのインタビューをジャーナリスト時代にしたことがある」と言った上で、「今、議論しているのは、そうした性的搾取の被害にあった児童を救出するという法律の目的をさらに徹底しようということには同意・賛成するが、あまりに『児童ポルノ』の概念が拡張されるのはよくない。『Santa Fe』は児童ポルノではないと私は考えるがどう考えるか」と聞いてみた。それでも、彼女は「18歳以下の少女ヌードは認められない」という立場のようだった。

(引用終了)

もし時間のある人は、次の議論を動画で見て、聞いてほしい。








実は、ずっと気になっていたのが先日の写真家の篠山紀信さん宅への家宅捜索のニュースだった。12月15日、日本ペンクラブが次のような声明を出している。若い読者の方には、ピンとこないかもしれないが、日本ペンクラブが声明を出すというのはよほどの事態であり、社会的な影響を持つものだ。

●日本ペンクラブ声明

「屋外での写真撮影への公権力介入を憂慮する」

さる11月10日、今年1月に刊行された写真集『20XX TOKYO』の撮影が公然わいせつに当たるとして、写真家・篠山紀信氏の自宅や事務所が家宅捜索を受け、関係者への事情聴取はいまだに続いていると伝えられる。篠山氏は以前から同じように屋外で撮影した写真を発表してきたのに、今回突然、昨年夏に行われた撮影が問題とされ、しかもいきなり家宅捜索が行われるという事態となった。

写真家にとって表現活動の一環である撮影行為に対して、公権力の介入が恣意的に行われるのはあってはならないことだが、今回の場合も、いきなり家宅捜索を行うといった乱暴なやり方を含め、警察の対応には疑問を禁じえない。

 表現の自由は、発表行為の前段である撮影や情報収集行為も含め、意見発表・表現行為とまったく同等に保障されるべきものであることは当然である。今回のような取り締まりが恣意的に行われることは、表現活動への萎縮をもたらし、公権力による事前抑制行為となりかねない。

[引用終了]

公共事業の調査やルポで忙しくてそこまで見ていなかったが、この出版物は朝日出版社が版元である。つまり、『Santa-Fe』の版元でもあったのだ。何かイヤな予感がする。そこに、信頼できる筋から、こんな情報が入ってきた。児童ポルノ禁止法改正に関わる人物から「捜査も世論の動向を見ているので、今回の事件も児童ポルノ禁止法をめぐる国会の議論も踏まえてのことだ」との本音が漏れてきたという話だった。

そもそも私は『Santa-Fe』に興味があったわけでもなく、宮沢りえさんのファンでもない。ただ、ミリオンセラーにまでなった写真集を「禁制本」にして、その所持自体を「犯罪」にしようという感覚は、まったく理解出来ない。自民・民主の間でまとまりつつあった「修正案」は、「何人も児童買春をし、又はみだりに児童ポルノの所持し、もしくは2号第3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することが出来る方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管することその他児童に対する性的搾取又は性的虐待に係わる行為をしてはならない」という訓示規定を総則で定めて、「自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められた者に限る)」は、1年以下の懲役・百万以下の罰金に処する」と「単純所持」を犯罪行為としている。ただし、「当面の間、罰則は適用しない。この場合、該当者は遅滞なく当該児童ポルノを廃棄、または削除すること」と付則で縛っている。

そして、児童ポルノの肝心の定義は「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等もしくはその周辺部、臀部又は胸部を言う)が露出され又は、強調されているものであり、かつ性欲を興奮させ刺激するもの」という範囲となっている。

法律用語は分かりにくいが、かつてミリオンセラーとなった『Santa Fe』は、宮沢りえさんが17歳で撮影していたのであれば、該当する。ここで17歳だったか、18歳だったかについては、本質的な事柄ではない。どのような写真集だったかうっすらと記憶にある人も多い内容の写真集は、「18歳以下であれば児童ポルノである」と疑われる危険性があるということだ。その判定は、「所持目的」は自己の性欲を興奮させ刺激するかどうかで分かれていくというのであれば、ずいぶんと捜査機関の裁量権に委ねるということになる。

日本ペンクラブが、さらにこの点も「表現の自由」との関係で議論してほしいと思う。「児童ポルノ禁止」と言えば、一切の議論を封じ込めて「思考停止」になるというのが、この国のジャーナリズムの悲しい現実だ。野坂昭如や大島渚が丁々発止していた頃は、「出版物を禁制品にする」という提案に国家が乗り出してくるようであれば、激しい議論が噴出していたことだろう。来年の通常国会の前に、しっかりした公開の議論をしていきたいと思う。







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