久間防衛大臣が辞任して、小池百合子新大臣が就任した。「歴史的失言」を受けての大臣就任に、小池氏のやや緊張した笑顔が目まぐるしく動く永田町絵物語の一コマとして印象に残る。「主張する外交」と言いつつ、安倍内閣の「核廃絶」へのメッセージなど聞いたことがない。逆に言えば、原爆症認定集団訴訟の前に立ちはだかる厚生労働省は、各地の訴訟で敗訴を繰り返しても、なおかつ被爆者・当事者の皆さんを「門前払い」をして会おうともしてこなかった。私が、一昨日に日本被団体協の皆さんと連絡を取り、野党幹部それぞれに連絡をとって「野党共同の罷免要求」の一致を見ることが出来たのも、この「被爆者団体の門前払い」問題を国会で二回にわたって問うてきたからだ。昨年、10月20日の法務委員会の議事録をここに再録したい。文意をそこなわない程度に省略している部分があり、文責は筆者にあります。
○保坂 社会民主党の保坂展人です。
十七の高裁、地裁に総計百九十人の方々が、被爆者として原爆症認定集団訴訟ということで闘っておられます。御承知のように、既に大阪、広島などで原告勝訴、国の敗訴の判決も出ております。そういうことで、きょうは、石田厚生労働副大臣にも宮坂審議官にも来ていただいています。また、傍聴席には、被爆をされた十一人の方がいらっしゃっております。ぜひ、この被爆の問題、今日北朝鮮の核実験、こういう事態の中で、唯一の被爆国たる日本がしっかりとこの問題に他の国から見て恥ずかしくない措置をとっていくということを求めていきたいというふうに思います。
では、まず審議官の方に伺いたいんですが、被爆者の方で現在生存されている方が一体何人いらっしゃるのか、被爆者健康手帳の交付をどのぐらいの方が受けているのか、そして皆さんの平均年齢はお幾つなのか、これについて。
○宮坂厚生労働審議官 お答え申し上げます。
まず、現在被爆者健康手帳の交付を受けておられる方々の数でございますが、平成十七年度末の数字でございますが、約二十六万人。それから、平均年齢は約七十四歳となっております。以上であります。
○保坂 期せずしてきょうの傍聴に来ていただいた皆さんも、平均すると七十五歳で、御高齢の方は八十歳ということでございます。
しかし、年々被爆をされた方が亡くなってしまうということはあると思うんですが、近年だと何人ぐらいの方が亡くなっていらっしゃるんでしょうか。
○宮坂厚生労働審議官 近年でございますが、毎年約八千人ぐらいの方がお亡くなりになっているという状況でございます。
○保坂 厚生労働副大臣に、ぜひこの問題、受けとめながら答弁をしていただきたいんですが、これも基本的な姿勢で、数字とかそういうことではございません。
先日、被団協、これが大変な苦難の中で五十年の歴史を刻んだ祝賀会がございました。私も党の代表として、また、与野党問わず、全党の代表が祝辞を述べる、被爆者援護のために私たちは力を尽くしていく、こういう各党からのあいさつもございました。そのとき、乾杯の際に、被爆者の私たちはとにかくこの闘いを進めていくために何より長生きしよう、こういう声が響き渡ったということで、私は胸が痛くなるものがございました。
つまり、このところ、今審議官からお答えがあったように、年がたつたびに幽界に入られる、そういう方たちもいる。他方で、二十六万人の中で認定を受けた被爆者の方は、わずか二千人ちょっとなんですね。非常に狭き門である。これに対して、しっかり被爆者の皆さんの声を受けとめていただきたい。政治家として答弁をお願いします。
○石田厚生労働副大臣 今、御質問、また御答弁もありましたけれども、おおよそ二十六万人の方が生存されて被爆者健康手帳をいただいている。そういう中で、原爆症の認定はおっしゃったように約二千三百名、二千二百八十名と承知しておりますけれども、それらの方が原爆症の認定を受けている。これにつきましては、入り口から制限をするとか割合を決めるとか、そういうことは一切ないことでありまして、科学的な見解に基づいて原爆症の認定をしている。その結果の数字についてはいろいろと御意見はあろうかと思いますけれども、初めに数字ありきでやっていることではない、このことは御了解をいただきたいと思います。
○保坂 副大臣に伺いますが、司法判断で、まさにこの認定基準のことが問題になっているわけですね。例えば爆心地からの距離、非常にそれが狭いんじゃないだろうか、あるいは原爆が落ちてから、その後救護に入った方々の被爆の問題等々がございます。これは国側と、そしてまさに当事者の皆さんの主張がぶつかり合って、司法の場で幾つか判断が重なっている、こういう状態ですね。
ぜひこれは、認定の基準をもう一度しっかり司法の場は見直すべきだ、見直してはどうかということを求めているんじゃないかと思うんです。この点について副大臣、どう考えますか。
○石田副大臣 先ほども答弁をさせていただきましたけれども、最初から認定の割合だとかそういうことを決めているわけではございませんので、科学的な知見に基づいてやっているということは今お答えをいたしました。
それについて具体的に裁判の方で、見直すべきだという裁判長の御意見はあったかもしれませんけれども、では、具体的に変わるものについて何かあるか、これについては、今までやはり科学的知見に基づいて、一つの申請者がどのくらいの放射線を浴びたとか、そしてその量と疾病との関係、こういうものについては今までも科学的な知見に基づいて決めてきておりますので、これをにわかに今認定を変えるとかそういうことは考えておらない、こういうことでございます。
○保坂 私、社民党の九六年に国会に入った議員ですが、我が党の先輩あるいは超党派で、議員立法として被爆者援護法というのが村山内閣のときにでき上がったわけですね。そして、この道を開いたという点では評価はできても、認定はやはり厳しい、狭い門であるという叫びが皆さん方の中にあるわけです。
副大臣、厚生労働省は時間を稼いで当事者の方たちが亡くなっていくのを待っているというような、そういうふうには思いませんけれども、しかし、そういうことじゃないかという声は上がっているんですよ。もう時間との闘い、時間との闘いです。あらゆる裁判でこれからどんどん国側の敗訴が続いても一切変えるつもりはないということなのか。耳を傾けていただきたいんです。いかがですか。
○石田副大臣 何度も御答弁申し上げましたけれども、この認定につきましては、頭から数字等を決めているわけではないわけでして、あくまでも科学的な知見に基づいて結論を出している、こういうことであります。
今、保坂先生がおっしゃるように、広く意見を聞いて、そして認定を変えていったらどうか、こういう御意見でありますけれども、これは係争中のこと以外については広く御意見をお伺いして、援護政策等については充実をさせていかなきゃいけないと思いますけれども、今、原爆症の認定基準を変えろと。これについては、現在のところ、そういう状況にはまだない、こういうふうに思っております。
○保坂 実は尾辻元厚生労働大臣が、東さんの訴訟ですね、C型肝炎、この件でお会いしているんですね。昨年だったと思います。それ以降、またいろいろ判決はあるんですが、私、耳を疑ったんですが、厚生労働省へ行っても、お役人も会ってくれない。まして、大臣も副大臣も政務官もいらっしゃる。だれも会ってくれないと言うんですね。いやまさか、それは何かの間違いじゃないですかと。だって、皆さん被爆をされて、こういった非常にぎりぎりの中で、不自由な体を押して厚労省の前に来て、ドアが閉まってガードマンがこうやって何かこんな姿勢で、帰りなさい、こういう対応はやはりないだろうと思うんですね。
では、ちょっと法務大臣に聞きますけれども、こんなことはないと思って聞くんですが、どうでしょう。例えば、その東さんの訴訟の判決の後、そうやって厚労大臣がお会いになった。それを、ある報道の中で、法定外協議という見出しが出たらしいんですね。法務省から当事者には会うな、係争中なんだから、そんなことは言いませんよね。
○長勢法務大臣 私は事実関係を存じ上げませんので、どういう状況だったのか、ちょっと申し上げかねます。
○保坂 では、今聞かれていたと思うんですが、もう平均年齢七十五歳。広島、長崎のあの被爆という体験を持たれて、そして、認定されている方はその二十六万人の中のわずか二千人です。いろいろな症状があったり不自由があったり、やはり認定してほしいという声があり、そして訴訟はずっと続くわけですね。これは延々続けられないじゃないですか。
私は、人間として、政治家として、法務大臣にもその立場を受けとめていただきたい。つまり、この被爆をされた皆さんの集団認定訴訟というのが起きていることについて、その中身に踏み込むことができないのは重々承知ですが、被爆者の方の叫びがあるということについて、法務大臣、どう受けとめていらっしゃいますか。
○長勢法務大臣 被爆ということは、御本人はもちろんのこと、我が国にとっても大変悲惨な経験でございます。まして、当事者の方々は長い間お苦しみになっておられるわけでありましょうから、できることはしてあげるのがいいんだろうと思いますけれども、当然、政府全体というか国全体としての基準というものも必要な部分でありますので、担当行政庁において、今までそれに御苦労されてきたのだろうと思います。気持ちとしては、そういう気持ちを大事にしながらやっておられるものと思っております。
○保坂 もう一度副大臣に本当に本音ベースで答えていただきたいんですが、長い訴訟、しかも相当高齢になってから原告という道を選ばれる。まさに刻々時間はたつわけですね。体の調子も悪くなってくるかもしれない。平均年齢は七十四歳、七十五歳でございます。あと十年、この状態を引きずることは許されないと私は思うんですね。
ですから、厚生労働副大臣として、厚生労働大臣にももちろん求めたいんですけれども、ぜひこの皆さんの声を、実は尾辻元厚生労働大臣はお会いになっているわけですから、要するに、国が上告するかどうかの境目の時期に皆さんの話をしっかり聞く。その際にはルールもあるでしょう。時間はこのくらいですよということはあるでしょう。ぜひ聞いていただきたい。これからは面会謝絶なんということはなしにしていただきたい。
○石田副大臣 係争中ではなかなか、裁判にかかわるものについては、お会いをしていろいろお話しするのは難しいのではないか。しかし、それ以外のことについては、先ほど申し上げましたように、援護施策の充実とかそういうことについては、これはもう一切耳をかさないとか、そういうことではないと私は思っております。
○保坂 今の副大臣の答弁、前向きに受けとめさせていただきました。
そこでなんですが、きょうは時間が限られていますので、ちょっと五点ほど要望だけ、答弁はいいですから、要望だけ出させていただきたいと思います。
一番目は、原爆症認定が発足してから現在に至るまで、境界領域といいますか、認定と不認定の境目のケース、ここは認定で、ここは認定じゃない、そこについて事例を明らかにしていただきたい。実は、最高裁判決で一回確定をしているんですが、それ以降、むしろ認定基準が緩和じゃなくて縮まっているという被団協の皆さんの指摘もあるんですね。ここを聞かせていただきたいというのが一点。
二点目は、C型肝炎について却下処分が取り消されたんですが、その後、C型肝炎の皆さんに対する扱いはどうなっているのか、これが二点目です。
三点目は、認定の審査方針は、だれがどのように作成されているんだろうか。まさにこれは重大なところですね。これは最高の科学的知見を反映してというふうに今副大臣もおっしゃったんですが、どのように反映をされているのか。その最高の科学的知見は、多分日ごとに更新されていくものだと思いますね、科学的知見ですから。そういうことがどうなっているのか。
四番目に、審査委員に厚生労働省は大阪や広島判決を配付し、説明をしたのかどうか。その際、その審査委員が、何か質問とか意見とか、ここはどうなっているんだ、そういうやりとりがどうあったのか。
それから五番目に、被爆者援護予算について、認定者の医療特別手当の予算はどのくらいあるんだろうか。先ほど副大臣は、最初に数があって決めているわけじゃないというふうに何回もおっしゃっていると思うんですけれども、ただ、予算の制約と認定数、つまり、予算はこれしかないから、厚生労働省としては認定したいんだけれども、この二千三百どまりですという関係になっているのかどうかなんですね。
以上五点などについて、ぜひ私も一緒に当事者の皆さんとお聞きをしたい。これについて、副大臣、どうでしょうか。今、中身じゃないです、中身はもう時間がかかりますから。
○石田副大臣 今先生が五点にわたって要望ということでお話をいただきましたが、これは今ここで初めてお聞きをする話でもございますので、これは持ち帰って検討したい、こういうふうに思います。
それと、最後に五点目で、予算の制約があるんじゃないか、こういうお話でしたけれども、これは私は、原爆症の認定に関して、最初に数ありきではない、こういうことを申し上げましたが、同じく予算上の制約ありきで原爆症の認定が左右されることはない、このことは申し上げておきたいと思います。
○保坂 ぜひ持ち帰って検討していただきたいんですが、最後に副大臣にもう一度お聞きします。我々は、与党と野党に分かれていますけれども、重要な問題、これは、今、この日本で被爆をしたという歴史的事実、それを現在お元気でいらっしゃって語ることもできるし、また、残りの人生をどういう心情で過ごすのかというところで、これはやはり政治決着が私は必要だ、政治解決というふうに言えばいいんでしょうか。つまり、そういう方面について副大臣はどうお考えですか。
○石田副大臣 最初に審議官から、被爆者健康手帳の交付を受けた方の平均年齢は何歳か、こういう問いに対して、約七十四歳です、こういうお答えを申し上げたと思います。ですから、この七十四歳という年齢はそんなにもう若くはない年齢である、こういうことはしっかりと承知をして、いろいろと考えていきたいと思います。(2006年10月20日衆議院法務委員会)
公明党の石田副大臣とのやりとりだった。この後、被爆者団体と厚生労働省の話し合いを再開することが出来た。春の予算委員会で柳沢厚生労働大臣に「被爆者団体の生の声を聞くように」と30分要請したが、のらりくらりだった。被爆者援護法の認定を受けている人は、2千数百人とほんのわずかである。認定基準は、年々狭くなっていて、爆心地から2キロ以内で認定をかつて受けていた人たちも厳しくなってしまっている。「久間発言」を反省するなら、政府は原爆症認定訴訟への対応を根本から改めるべきだ。
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