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外務省の国連分担金に何らかの「問題」が巣くっていようとは、予想もしない問題だった。おそらく、日本政府が国連に支払う巨額の分担金に不透明さや、グレーゾーンが入り込む隙もなかろうと考えるのが常識だと思う。私もその常識にとらわれていたひとりだ。しかし、国連広報センター(UNIC東京)の不正経理問題を1年がかりで追及してきて、その誤りに気がついた。長文なので、上下に分割して『世界』6月号(岩波書店)に掲載した原稿をここに再録することにする。

外務省の巨額『裏金』を追及する--国連分担金の闇

(『世界』6月号・岩波書店)

 国連はこれまでの国会審議で、ある種の「聖域」だったように思える。
 イラクや北朝鮮に対する安保理決議は議論しても、国連に拠出している金の使いみちについて検証することはほとんどなかった。検察や国税のように仕返しが怖いという存在ではないが、国連は遠く離れて富士山のように美しいものだという固定観念から、症状が見えても病巣に切り込むことを控えてしまうような空気があった。

 しかし、いつまでもそのようなタブー視が許されるはずもない。日本から国連関連機関に毎年送られる分担金・拠出金は米国についで世界第二位で、約二十五億ドル(二〇〇五年、当時の換算率で約三千億円)にのぼる。そのすべてが税金でまかなわれる以上、適正に使われているかどうかを問うのは、国会議員の責務である。

 昨年五月に国連広報センター(UNIC)の不正経理疑惑が表面化した。それをきっかけに、私は巨額の分担金・拠出金の流れを一年がかりで追究してきた。その結果、これまでベールで覆われていた新たな事実が見えてきた。

 外務省が国会の予算審議に付さずに、国連信託基金のカネを裏金のように融通無碍に使っていたのだ。それだけでなく、国連分担金で外国為替の運用を行い、その差益を流用していた時期があったことも判明した。その為替運用に銀行やUNICも関わっていたようだ。
 
 こうした不透明な国連資金の管理が、不正経理の温床になっていたのではないだろうか。新聞やテレビでは断片的にしか報道されていない国会の表・裏舞台での攻防をまとめて報告し、問題の核心を解き明かしたい。

国連広報センターの不正経理

 まず発端となったUNICの不正経理疑惑から、話を始めよう。UNICとは、ニューヨークにある国連広報局の直属機関だ。事務所は東京・神宮前の国連大学ビ
ルにあり、職員八人(現在は所長と職員一人が欠員)が、国連の広報活動を行っている。

 不正経理発覚の経緯については、昨年六月まで二年余り所長を務めていた幸田シャーミン氏の「告発手記 国連で私が受けたハラスメント」(文藝春秋〇八年七月号)などに詳しく書かれている。

 彼女が所長に就任して間もない〇六年九月に、UNICの取引業者が倒産し、職員らが前年末に余った予算をこの業者に「前払い」していたことが発覚した。その実態は、虚偽の請求書を出させて金を払うというもので、いわゆる業者への「預け」である。

 職員らはこうした慣習を長年繰り返していたことも明かした。「二重帳簿」の存在を懸念した幸田所長は専門家による監査を求めたが、広報局はなかなか応じない。曲折の末、発覚から一年後になって、ようやく国連の内部監査部(OIOS)による監査が実現した、という。

 その監査報告のさわりの部分が昨年八月に、OIOSから国連総会に提出された年間活動記録で公表された。

「OIOSは、UNICの監査により、認証担当官と承認担当官が承知の上で虚偽の請求書を用いて支出として記録し前払いを認めていたこと――二〇〇〇年から二〇〇五年の間によく行われた慣行――を発見した。職員らは年末に資金を十分に使い切るために取引業者に前払いをしていたことを認めた。これは国連の財政規則違反である。また、前払いした業者が破産申告したことから、国連にとって損失になり得るものである。OIOS監査報告の勧告は、管理局と広報局が協議して前払いのために虚偽の請求書を準備、認証、承認した職員らに対して適切な措置をとることを含めて、すべて受け入れられた」(注 「認証担当官」とは幸田氏の前任の所長、「承認担当官」とは経理担当職員を意味する)

 これを読むと、会計検査院が十二道府県の国庫補助事業について昨年検査して明らかにした業者への「預け」とそっくりの構造を持っていることが分かる。こちらは新聞の一面トップで扱われたから、読者の印象も深いだろう。

 「12道府県、不正経理15億円 検査院指摘 余った予算プール」(二〇〇八年十月十八日付朝日新聞夕刊)、「愛知、岩手裏金計7600万円 不正経理 02~06年度末に架空発注」(同月十九日付読売新聞朝刊)。

 UNICの場合は〇五年末に三百十三万円が業者に預けられていた。地方自治体の不正額に比べて小さく見えるかもしれないが、広報活動費の年間予算の約一六%に達しているのだから、無視できない数字だ。「虚偽の請求書」を出させることが、業者との癒着を象徴している。

 このUNICの経理では、他にも深刻な問題が発生していた。広報活動費による定期預金の運用が一九九〇年代から始まるのだ。広報活動費は毎年の予算で使い
切ることを前提としているのだから、定期預金は本来あってはならないのだが、広報活動費の大半が使われないまま定期預金で運用されていた時期すらあった。(グラフ2=このグラフの見方は後で詳しく説明する)



 しかも、定期預金通帳が一九九五年から九六年にかけて二度も「紛失」し「再発行」されている。九九年から二〇〇五年の間には、定期預金通帳が「証書」に換えられ、「喪失届け」が出されて、即日通帳に換えるようなことが起きている。なぜこうしたことが繰り返されるのかは、まったく不明だ。単なる「ずさんな管理」では説明できない異様な事態である。

 私は政府に対する質問主意書で、この定期預金の存在についての見解を何度かただした。だが、政府答弁書は「承知していない」との言葉を繰り返すばかりだった。外務省がその存在を「承知」しているはずの具体的な証拠を示して追及すると、無視できなくなったのか、中曽根弘文外相は「遺憾なこと」(今年一月十三日の衆議院予算委員会)と表明し、次年度のUNIC広報活動費への拠出を一千万円減額するにいたった。

 しかし、度重なる通帳の「紛失」や、「証書化」とその「喪失」については、納得のいく説明をしていない。外務省がUNICの広報活動資金を出しているにもかかわらず、資金の取り扱いについての調査がまったく不十分なのである。

 国連の監査も甘い。幸田所長は五百万円の定期預金も調査すべきだと監査官に指摘したが、報告書では触れられなかった。「前払い」の問題にしても、「二〇〇〇年から二〇〇五年の間によく行われた慣行」としながら、肝心の二〇〇〇年―二〇〇四年の五年間を監査対象から外してしまった。幸田所長が監査対象に含めるよう強く主張したが、監査官は「時間がない」と取り合わなかったという。

 外務省も国連本部もこぞって、臭いものにフタをするかのような、防衛的な姿勢なのである。その裏に一体何があるのだろうか?

 この疑問を解く重要なヒントを、会計検査院が提供してくれた。昨年の検査で「国連信託基金の残余金」に初めてメスを入れたのだ。

会計検査院の挑戦

 国連のカネには二種類ある。国連総会が決める各国の負担比率に基づいて義務的に支払われる「分担金」(通常予算とPKO予算など)と、各国政府から自主的に提供される国連信託基金などの「拠出金」だ。

 会計検査院が検査したのは、この後者であった。すでに使命が終わって閉鎖状態にある十個の国連信託基金の残余金を調べた。その結果、日本の拠出残余金が検査当時に判明した分だけで約四億円あり、国連本部から返還通知が出ているのに、外務省が何年間も放置している、という事実をつかんだのだ。

 最近の会計検査院には注目すべき変化がある。これまで「聖域」とされてきた領域に切り込む姿勢を見せている。〇七年には最高裁による裁判員制度広報費を取り上げ、契約書のない発注(会計法=最高裁判例違反)などの「不適切な契約」を指摘した。これは私が衆議院予算委員会及び法務委員会で何度か追及した問題で、国会法第一〇五条による会計検査院の検査を求めた。予算委員会決議にまでは至らなかったが、会計検査院はこの議論を踏まえて独自に検査したのだ。今回の信託基金では、私が会計検査院の報告をフォローした。

 昨年十一月二十八日、衆議院外務委員会でこの問題を質問すると、外務省は残余金を放置していた非を認めただけでなく、その額が二倍の約八億円に膨れ上がったことを明かした。

中曽根外相「事務当局に対しまして、このような事態が発生したことは大変遺憾である、再発防止を徹底するよう注意喚起を行ったところでございます」
保坂「なぜこれだけの基金が国連から照会があってもすべてが棚上げになってきたのか、この経過をしっかり委員会あてに出していただきたい。どうもお金の感覚が非常にずさんきわまりない」

 これは外務省の単なる怠慢によるものなのだろうか。国連本部が「返す」といっているのに、会計検査院が調べるまで三年も四年もほったらかしにしている。そんな信託基金が軒並みある。どうも不自然だと思っていたら、「裏」があった。

 その真相が明らかになったのは、年が明けた一月十三日の衆議院予算委員会だ。
 中曽根外相「約八億円の残余金が存在した信託基金につきましては、国庫返納あるいは他の基金への振替に関する手続きをほぼ完了したところでございます」
 
 国庫への「返納」は分かる。だが、他の基金への「振替」とは、どういうことか。その意味が、外務省の出した「我が国が拠出した国連信託基金の現状」と題する一覧表(表1=下表)で判明した。



 この表を見てみよう。会計検査院が指摘した問題の信託基金は、10番までの計十件だ。その処理状況には、三件が「返納」、六件が「振替」とある。

 外務省の説明によると、「振替」とは別の国連信託基金に回すことなのだ。例えば、カンボジア信託基金、複合緊急事態における人道的挑戦基金、中東湾岸基金の三件、計約百十七万ドルは、私が質問した後の昨年十二月に、中央緊急対応基金(CERF)に移した、という。

 「返納」と「振替」とでは、大きな違いがある。「返納」されれば、新たな予算に組み入れられ、その内容が国会で審議される。だが、「振替」の場合は、国会の予算審議に付されない。つまり、国民のチェックなしに、外務省の意のままにカネを使えることになる。

 残余金が放置されてきた裏には、「国連本部から残余金を受け取ってしまえば、国庫返納の手続きをしなければならなくなる。他に移管できる基金がなければ、しばらく国連に棚上げにしておこう」というような思惑があったのではないか。

 これも一種の「預け」である。業者が国連に変わっただけのことだ。

 しかも、同省は会計検査院による検査のさなかの昨年九月に、「国連の信託基金における拠出残余金の取扱ガイドライン」を作っていた。「原則として我が国への返納を求める」としつつ、趣旨・目的の整合性などを条件に「他基金への振替を求めることができる」としているのだ。

 このようなことがまかり通れば、国会の予算審議権を堂々と侵すことになる。

 憲法八三条は「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない」と定めている。

 「振替」は憲法違反ではないか。少なくとも、憲法の精神を侵していると言える。これは党を超えた問題である。法制局の見解もただして、国会で徹底的に議論する必要があるだろう。

二つの信託基金

 UNICに話を戻そう。

 この広報活動費も信託基金である。

 八七年に国連日本政府代表部公使と国連財務官の間で書簡が交換され、日本が一〇〇%負担する信託基金として設立が合意された。名称は「United Nations Trust Fund for Expanding Public Information Activities in Japan」(日本における広報活動拡大のための国連信託基金)。

 交換書簡によると、UNICは広報局に翌年度の業務計画、企画説明書、予算見積もりを提出し、広報局は日本政府と相談の上で承認することになっている。年間の業務実施報告や財務報告も、広報局を通じて日本政府に提出される。つまり、UNICは広報活動費の運用に関して、日本政府と広報局の共同管理下にあるような組織なのである

 この合意に基づいて、日本政府は基本的に年一回、翌年分の広報活動費を一括してUNICに拠出してきた。UNICが取引している銀行支店の普通預金口座に円で送金し、UNICはこの口座で広報活動費を管理してきた。

 この広報活動費の出入りを分析するために、グラフを作成した。(九六頁グラフ1、グラフ2)

 グラフ1は、毎年の広報活動費の「入金」を示している。グラフ2は、毎月末に口座(普通預金と定期預金)に残っている広報活動費の「残高」を示している。
 
 まず、このグラフ2から説明しよう。基本的に政府からの入金は年一回で、あとは支出するばかりだから、グラフの形は一年周期のノコギリ歯のようになる。

 九〇年代に入ると、定期預金を運用し始める。その定期預金残高を見れば、九三年~九五年にかけて激しく運用され、一千万円前後の定期預金が一年以上にわたって存在し、その後五百万円の定期が塩漬けになったように十年以上も存在していたことがよく分かるだろう。

 このグラフ2で注目すべきなのは、普通預金口座の動きが〇三年~〇四年の間「凍結」されたことである。通帳には入金も出金もなく、わずかな利息が記録されているだけなのだ。

 そこでグラフ1を見てみよう。薄い色の棒グラフと濃い色の棒グラフの二種類が描かれている。この薄い色の棒グラフが、日本政府から毎年UNICの普通預金口座に入る「広報活動費」だ(注 同じ薄い色の棒グラフでも、八七年~〇二年の網のかかっている棒と、〇五年~〇八年の網のない棒があり、この二つには重要な違いがあるのだが、その説明はあとに回す)。

 普通預金口座に入る「広報活動費」は、当初は一年に一〇万ドル相当の円だったが、九六年からは一五万ドル相当の円、さらに〇一年からは二〇万ドル相当の円に増えた。そして、二年間の中断を経て、〇五年からはドル建ての計算ではなくなり、二千万円前後が入金されている。

 では、濃い色の棒グラフは何か? これは全く別の国連信託基金からの入金であることが明らかになった。

「Trust Fund for International Cooperation for Development」(開発協力信託基金)で、これまた日本政府が一〇〇%負担する信託基金なのである。

 この設立は広報活動信託基金よりも四年早い一九八三年だった。当時、国連日本政府代表部大使と国連財務官の書簡交換で合意された。その目的は「国連の政治、経済、社会、その他の分野における国際開発協力を強化する様々な活動を促進すること」と、書簡に明記されている。この基金の口座はニューヨークにあり、国連管理局で管理されている。

 だが、その実態は明記された目的とはかなり違う。西村康稔・外務政務官は今年三月十三日の衆議院外務委員会で「主として、国連諸機関に勤務する日本人の職員を支援するというために活用されてきております」と答弁した。

 早い話が、国連の事務次長などに就任した日本人幹部が、部下を引き連れて外国で国際会議を主宰するときの費用などにも充てられてきたらしい。
 
 この開発協力信託基金からUNICにカネが流れてきた。〇〇年~〇二年は、政府から直接入る通常の広報活動費に上乗せされた。UNICは五八年の設立以来、外国人の所長が続いたが、〇〇年~〇二年は高島肇久氏、〇三年~〇五年は野村彰男氏、〇六年~〇八年は幸田氏というように、日本人所長が就くようになった。上乗せは、「日本人所長の活躍」を演出する狙いだったのだろう。

 しかし、〇三年~〇四年には、政府から直接送られる「広報活動費」がゼロになり、すべて国連本部の口座から送られてくる開発協力信託基金で賄われた。このカネは本来の「広報活動費」ではないので、普通預金口座は「凍結」され、UNIC職員らの人件費を扱う円建ての当座預金口座で管理されたのだ。

 一体なぜ、こんなことが起きるのか?

(下に続く)



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